第13話 宝探しゲーム「くじら組編その七」
木下は今まで会った中で一番ひどい奴だ。
さっきも教室から園庭に出る際に、オレと弟さまとが、みんなが上履きから靴に履き替えるのを待ってる間に話してると、なぜか絡んできた。
「やりにくくしやがって」
「?」
「隠し場所をあからさまにしてんじゃねぇよ。まだ俺たちのグループの隠す番が残ってるんだぞ」
「悪いけど、キミ、だれ?」
弟さまが間に入って、木下に言った。
あれ?
さっき弟さまは木下とやりあってたじゃないか。
何を言ってるんだ?
そう言えばこの台詞どっかで聞いたな。
あ、赤樫くんにも言ってた。
(あっちはほら、赤樫くんがあまりに面白かったから、とぼけたくなっちゃった)
(マジで?)
(おかげで面白いことになったでしょ)
(確かに面白かった。てか、わざとだったのかよ? オレも騙されてたわ)
(なんで? クラスメイトの名前はダブルで覚えたって、オレ言ったじゃん)
(…………言ってたな)
(ノリで言ってるもんだと思ってた。兄さま本気にしてたのか。ごめんごめん)
(…………)
もはや言葉にならない。
オレは弟さまの言うことなら、何でも無条件に信じてしまう口のようだ。疑いもしないでお目出度いというか何と言うか、だが弟さまの悪戯は、クスッと笑っちゃうような悪戯ばっかなんで、今後も疑ってかかる気に全くならないんだよなぁ。
う~ん。やられたら、やられたことを楽しみ、気づいたら、気づいたことを楽しむか。
よし、それでいいや。
「おい。聞いてんのかよ」
「いや、訊いたのはオレだから。キミ、だれ?」
「木下だ。木下悟」
「ああ、そう」
「俺はやりにくくしやがってと文句言ったんだが」
「オレに甘えられてもな。オレはグリクラグループじゃないし」
「あ」
木下がようやく気づいたようだ。
オレたち兄弟ならどっちに噛み付いてもいいと思ってるんだろう。
寛司が冷たい目で木下を見てる。
「人のせいにしてないで、ちゃんと自分で知恵を絞ってやれよ。やる前から泣き言なんて、ださいぞ」
木下が言葉に詰まって動きが止まる。
と言うか、なんか周りの女の子の動きも異様に遅いぞ。もう靴を履いてるのに、お外に出ようとしないで踊り場に溜まってる。
おかげでオレたちもお外に出られない。
これはあれか? 弟さま目当てか? 弟さまの言葉に聞き耳を立ててるのか?
いやいや、他にも木下は馬場ちゃんに喧嘩売ってたし、睨まれてたし、相当女の子たちから嫌われたかもな。
うん。思い当たる節が多すぎる。
(しょうがないよ。こいつ、節目ふしめに選ぶ行動が最悪だもん)
(おう。木下は放置か?)
(いいでしょ、それで。さっきのカップ・シャッフルのことをなかったことにして話しかけて来てんだぜ、コイツ。厚かましいだろ)
(ああ。そういうことね。だから、キミだれ? って、なかったことで話したわけか)
(そういうこと)
オレは二回手を打って、みんなの耳目を集める。
「おっけ~。さあみんな、お外に出ようぜ~。待ってる間、みんなで遊ばない?」
弟さまとガシッと肩を組むと、
「「「「「賛成」」」」」
と何かいっぱい女の子たちの返事がした。
増えてないか?
これ、みんな弟さま目当てか。すげぇな、寛司。
「鬼ごっこしようよ」
言ったのは知美ちゃんだ。
「そんでもって鬼は……」
「ジャンケン」
と赤樫くんが提案すると、知美ちゃんが、
「寛司くん」
と赤樫くんの案を一切考慮せず、弟さまを名指しした。
「オレ?」
「いいでしょ?」
「おっけ~。じゃあ十数えたら追うからね。い~ち」
木下に係ってるよりマシかと思ったか、これまでは各グループに分かれてたが、弟さまも作戦も立てずに遊ぶことに反対しない。でもっていきなりの鬼の役を引き受けてるし。
それを受けて男子は逃げる態勢をとるし、オレも弟さまから距離を取る。
だがしかし、なぜか女子は逃げようとしない。素振りもない。むしろワクワクしてる感じがする。
てか、寛司くんと触れ合えるチャンスっ、てなこと思ってないか?
横目で知美ちゃんを捜しやると、よくやったと女の子達から褒められてる。
「やっぱ弟さまが狙いか」
しかし頭がいい。
追いかければ寛司に触れることは、まず間違いなく出来ないだろうが、追いかけられるなら、向こうから触りに来てくれるのだ。いくらでも寛司と触れ合える。
キャッキャウフフなのだ。それも合法的にだ。この差は大きい。
(おい弟さまよ)
(なんだい兄さま)
(おまえ、ずっと女の子たちを追いかけてやれ)
(え? なんで?)
(おまえ、オレが疲れ切るまでシャッフルさせたろうが)
(あー、それ)
(それだ)
(男子もいるんだぜ?)
(男子にタッチ出来そうになったら女の子に標的を変えろよ。そんぐらいやっとこうか)
(了解りょーかい)
山本先生に呼ばれるまでの間、園庭には女子の楽しそうな声がずっと響いていた。
いい汗をかいてさっぱりした男子と女子が教室に入ると、山本先生がこれまで通りに言った。
「さあ皆さん。お宝を探して下さいね」
この合図で、みんなの気持も切り替わり、最後のお宝探しがはじまった。
するとグリクラグループで集まろうとするオレに、木下がやって来た。
「話の途中で逃げるな、バカ」
「お前は隠すのが仕事だったろうが、何言ってんだ? バカに負けた負け犬が」
「負け犬じゃねー。俺は戦士だ」
木下が憤慨すると、弟さまがオレの袖を引っ張った。
「いやいや、兄さま。コイツはもういいよ。あっち行こうぜ」
そう言って寛司はオレを木下から引き離すと、そのまま手を振ってイチゴグループに合流する。
オレもオレでグリクラグループに合流した。
だが会話は続ける。こういうとき魂の回廊は便利だ。
(しかし、いいのか?)
(いいんだよ。相手にするのも馬鹿らしいでしょ)
(まあ面倒くさくはあるが)
(あいつ、カップ・シャッフルの時も、化けの皮を剥がすとか、みんなに向かって言ってたけどさ。あいつの立ち回りは、基本みんなから誉められること目当ての立ち回り方なんだよ)
(ふむ)
(自分のことも戦士とか言ってたけどさ。わざわざ文句言いに来るなんて、あれは戦士のやることじゃないだろ。傭兵か? いや、傭兵にしても傭兵たり得ないほど意思は惰弱だし)
(惰弱って。親が海援財閥グループとか言ってたから、それなりなんじゃないの?)
(いやいや。企業勤めの人がいきなり相手に喧嘩ふっかけるか? アルバイトじゃアルバイトの人に失礼だし、あの立ち居振る舞いは、あれは粗忽者のやることだよね)
(厳しいな)
(そりゃそうだろ。あんなの、天下の海援財閥とかほざいてるのが烏滸がましいでしょ。どう考えても大財閥のやることじゃないもん)
「ね、真理ちゃん?」
「はい?」
寛司にいきなり話しかけられて、金沢財閥直系の真理ちゃんが戸惑ってる。
「いやいや。面倒くさいのに絡まれたなって話」
「はあ。なんかよくわからないけど、寛司くんもここに目を付けたのね」
真理ちゃんが普段通りに返事をした。
そう、オレたちは今、教卓の周りを探していた。
そこへやって来たのが弟さまだった。
「弟さまもグループ名で丸わかりって感じか?」
寛司がこくりと肯いた。
「だって、天才グループだって」
「うふっ」
「兄さま、笑っちゃ可愛そうだって」
言ってる寛司も唇の端が微妙に動いてて、笑うのを堪えてるのが丸わかりだった。
実際、自分たちを天才と名付けちゃうなんて、いくら子供でも感覚がなさすぎだろ、とそう思う。
どこまでが恥をかかないラインかぐらい空気読めよって話だ。
一線を越えちゃってるだろ。
「そういう奴だってことだよな」
弟さまが悪い顔でニヤリとした。
ちょっと向こうで女の子がキャーキャー言ってる。梅子ちゃんと秋穂ちゃんじゃないか。
それはまあいいや。
とにかく、ここへ来るということは、弟さまもこのゲームの趣旨を理解して、なかなかに楽しんでるようだ。
この宝探しゲームは本当に良くできている。
その人の個性が、よく表れるのだ。
楽しく遊べて、人物理解にもつながる、薫風幼稚園の由緒あるお約束の遊びなのだ。断言しちゃったけど、オレの勝手な予想なんだけどね。ゲホンゲホンっ。
さて、で、どうしてこの教卓周りにオレたちグリクラグループが集まったかというと、それはこの教室で一番頭がいいのは誰か、ということにある。
簡単だ。それは先生の二人だ。子供と大人では知識、経験ともに、比較にもならない。しかも先生なのだ。天才にふさわしい称号は先生にこそふさわしいと、そして自分のお宝もそこにあるべきだと、天才なら考えてしまうのも致し方ないだろう。
天才だから。
だから教卓の陰に隠してるはずと、オレたちグリクラグループは推理し、弟さまもそう推理したわけだが、さて。
「あるかな、あるかな~」
知美ちゃんが歌ってる。
天才と自らを名付けてしまうような謎の人物は、間違いなくここらへんに隠すはず。
天才だから。
天才にふさわしい席に天才はあるような、ないような。
そう思って探していると、
「「あった」」
と緑川くんと真理ちゃんが言った。
オレたちが会話にかまけてる間に、緑川くんと真理ちゃんが先生のカバンの陰に、おもちゃを発見する。腕につけて変身するおもちゃみたいだが、ヒーロー物はいっぱいあるから詳しい名称は知らない。
「真理ちゃんは残って、緑川くんだけで行きなよ」
オレが言うと、緑川くんが不思議そうな顔をした。
「いや、グリクラグループの名付け親の緑川くんがやるべきことだよ」
「そうね」
知美ちゃんが同意してるので、もう察しているのだろう。
「緑川くん行ってきなよ。名誉挽回だよ」
「お、おう。そういうことか。済まないね」
「いいからいいから」「行ってらっしゃーーい」「よろしくお願いします」
そうして緑川くんがカップの内側に書いてある名前を見て、先生への報告と、天才へとお宝を返却しに行った。
「はい、木下くん。お宝見つけたよ」
知美ちゃんにも声大きすぎと怒られた、緑川くんの大きな声が、ここまで届いた。
しかしここに隠したのは木下くんでしたか。ニヤリ。
まったく気がつかなかったーーー。
(誰がグループ名を、名付けたんだろうね?)
(それもまったくわからないーーー)
思わず棒読みになってしまった。
まあいい。
木下もさすがに緑川くんには絡まないだろう。緑川くんは木下と話したことあるって言ってたし、体格も緑川くんの方がずっと大きい。
というか、緑川くんはくじら組で一番の恵まれた体格だ。
「はい。よく見つけました。一番乗りですね」
山本先生に誉められて、緑川くんが大きくハイと返事した。そのまま木下に手渡してる。うん、無事、返却も済ませたようだ。ひと安心ひと安心。
「あっ、見つけたー」「あったあった」「お宝はっけん」「いえ~い」
教室の奥から発見の一報がとどいた。
一報を発信したのは、お祭りグループの面々だった。
相変わらず組織で動いて、統制が取れている。
見事です。お祭りグループ。
見つかったお宝は豪傑、中沢絵里ちゃんのお宝だった。
山本先生に肩車してもらってカップを取り外したら、中からは十円玉が出て来た。
天才グループの誰かがお金をお宝にしてたのは知ってたけど、中沢絵里ちゃん、キミでしたか。豪傑にしてお金がお宝とは、将来は大商人か、国盗りか。
そんなくだらないことを、楽しく妄想しながら、報告と返却を眺めていたのだが、その経過が終わって、みんなが最後の宝探しに戻って、天才グループだけになると、木下が豪傑に皮肉を言っていた。
「だから言ったんだよ。あんな奴らの真似するからすぐ見つかるって」
「でも私、木下くんよりは、見つかるの遅かったけどね」
「ぐぬっ」
と、あっさり返り討ちにしていた。
豪傑だ。
その見事なしっぺ返しに、おお~、とオレとグリクラグループの面々と、ついでに弟さまも感心していた。
「もひとつおまけに言うと、隠し場所も見事だったね」
と弟さまが言った。
そうなのだ。
彼女が自分のお宝を隠してたのは、オレたちグリクラグループ所縁の隠し場所だったのだ。
オレたちグリクラグループは左側のカーテンに隠れるように梁にくっつけて隠したが、くじら組の豪傑は、オレたちの使った梁の左右反対の右側に、堂々と画鋲で留めていたのだ。
カーテンレールもなければ、遮蔽物も何もない。そんなところに威風堂々と隠してたのだ。つまり──。
「豪傑だ」
オレも一度は梁の下を通ったが、豪快すぎて気づきもしなかった。
しかもオレたちと反対側にくっつけると言うことが、また何とも言えない。いい隠し場所だったと認められた感じもあって、くすぐったくもある。
木下の弁からも、木下が反対しただろうことは明らかなのに、それを押し通したことも確定してる。つまり中沢絵里ちゃんは、やはり豪傑なのだ。
「それ、あだ名にしちゃ駄目だよ」
「?」
「絵里ちゃんはね、わたしの最初のお友達なの」
「「マジで?」」
オレと弟さまは驚いた。今日いちばん驚いた。
「わたしのお母さんが絵里ちゃんのパパと幼馴染みなの」
「そうなんだ」
「うん。だから一緒に遊んだことだって何回もあるのよ」
「「そうなんだ」」
いや、驚いた。
真理ちゃんのお友達で、真理ちゃんがそう言うなら、豪傑と呼びたいけれどそこは我慢しないといけないな。
「本当は豪傑さんと呼びたいけれど、我慢するよ。中沢絵里ちゃんのこと、真理ちゃんは何て呼んでるの?」
「そのまま絵里ちゃんだよ。真理と絵里って似てるよね~って、最初に会った時お話ししたんだ」
「そ、そうなんだ」
「じゃあ彼女のことは絵里ちゃんって呼ぶよ」
「うん。そう呼んで上げて」
「「りょうか~い」」
しかし思わぬダメージを食らってしまった。
弟さまもそそくさとイチゴグループに帰ってる。
まさか真理ちゃんと絵里ちゃんがお友達だったとは。
豪傑って呼んでもいい? といつ訊こうかとタイミングを計ってたのだが、いや、よかった。ぎりぎりセ~フ。
だがこれでお宝は二つまで見つかった。
残り二つも、今のくじら組の手際なら、すぐ見つかると思う。
そう思ってる間に三つ目が見つかったようだ。
もうみんな完全に探すのに手慣れて、何処を探せばいいのかわかってるのだ。
見つけたのは田中くんのようだ。
すると向こうで、
「ああっ」
と、悲痛な声がした。
土井垣桜ちゃんの声だ。
彼女の声には、オレ、ちょっと敏感なのだ。だからすぐにわかった。
オレはすぐ現場に急行した。
「壊れそうになってる」
確かに外国製のブローチにピンと土台の接合部分が壊れかけてる。
「これ、お父さんが外国にお仕事に行った時にお土産で買ってきてくれた宝物なの」
「なるほど、そりゃ宝物だ」
オレがつぶやくと土井垣桜ちゃんがこっちを見た。
「…………」
でも何も言わない。珍しいな。なら──。
「あのさ、ちょっと見せてもらってもいい?」
「やめとけ土井垣」
木下が脇から口を挟んできた。だがオレは無視する。
土井垣桜ちゃんに手を差し出し、オレは半ば強引にブローチを受け取った。
「それの裏」
さっき見たから知ってるが、言われたので、改めてひっくり返して観る。
なるほど。まじまじと見ても、作り込みが甘い。
表は立派だが、土台が軟弱だ。
「でもこれ、溶接部分が甘いからこうなったんじゃない」
「え?」
「土井垣桜ちゃん、これ、田中くんがやったんじゃなくて、元からこうなりやすかったのかもよ」
「でもこうなったのは今なのよ。私がお宝を隠す時は何ともなかったんだもん」
気の毒とは思うけど、その責め方はちょっと意地悪だな、土井垣桜ちゃん。
このブローチは、お土産用だからか子供用だからか、わからんけれど、土台とピン留めの接合部分が明らかに薄くして手を抜いている。けちってると言ってもいい。だから耐久性がなく、強度も足りずに本体の重みで徐々に壊れていったのだろう。
はっきり言ってしまえば、客を舐めて作ってるような感じだ。
こんなに元の作り込みが甘かったのだから、ちょっとしたことで壊れてしまうのは、それはもう致し方ないと思うのだ。許してあげればいいのに。
亀裂が入ってるから、もっと壊れてくのも時間の問題だぞ。
みんなが見てなきゃダブルで一発なんだが。
作り手の怠慢が見えて、あんまり直して上げようという気にもならない。
「あ、紙コップに欠片が落ちてる」
寛司だ。
こっちで問答してる間に、確認をしていたらしい。
その紙コップに入ってる欠片を持ってくる。
何の金属だろうか。本体も鉛にメッキ加工したような感じだから、この土台も鉛のようだが、さて。
「いいよ、真司くん寛司くん。俺が直すよ。うちに持って帰って直したいから、桜ちゃん、この宝物を預かってもいい?」
豪気だなぁ、田中くん。
普通、なかなか言えないよ、そんなこと。さすが職人さんの息子。
だが土井垣桜ちゃんは心配そうだ。
「大丈夫なの?」
と不安げに訊いている。
「平気だよ。取引先のアクセサリー職人の人に、お願いしてみるから」
「え? でも田中くんのお父さん、靴の職人さんでしょ?」
オレがそう訊ねると、
「革のベルトとかカバンとか、向こうの職人さんから頼まれるんだよ」
と、事も無げに田中くんが言った。
「「ああっ」」
それって、それってつまり、金属加工の職人さんから依頼があるってことじゃないのか?
アクセサリーの職人さんってそういうことなのか?
「銀細工の職人さんだからね。こういうのにも詳しいんだ。むしろリングやブローチは本業中の本業でしょ」
「「田中くん。頼みに行くとき一緒に連れてって」」
オレは弟さまと一緒に頭を下げた。
何てすごいんだ、田中くん。
靴だけでなく、銀細工が出来る人とも知り合いだなんて。
もしかしたら一分計を作った時に、かっこいい細工の蓋とか付けられるかもしれない。いや、そんなことより作業を見せてもらえるだけでも勉強になる。
金属の細やかな加工だぞ。しかも銀だぞ。銀じゃない素材の場合もあるかも知れないけど。それでも本職の人のお仕事だ。
叔父ちゃんの車作りは機械化されてて、工場見学で終わってしまったが、こちらは職人さんの手仕事だ。人の手による創造だ。
勉強になる? いやそれどころか、むしろ見たい。ぜひ見たい。
「それは向こうの職人さんの都合によるけど。もしかしたら土日は忙しいから平日にやっちゃうかもしれないし」
「……そうか」
田中くんの懸念がわかった。
「オレたちはその時間には薫風幼稚園にいる、か」
「うん」
それから田中くんは土井垣桜ちゃんを見た。
「だから、預けてもらえると何とか出来るんだけど、どうかな?」
「お願いしても良いの?」
「もちろんだよ」
冷静になって事態を把握してきたのかな?
さっきと言葉のトーンが違う。
しおらしいところもあるんだね、土井垣桜ちゃん。
普段どれだけ取り繕おうとも、開催されれば必ず人となりが露見してしまう、それが宝探しゲーム。恐るべし。
こうしてひと段落して、オレがグリクラグループに戻ると、知美ちゃんと真理ちゃんが困っていた。
「どうしたの?」
「緑川くんが探しに行こうとしてるんだけど、それを内田くんが邪魔するのよね」
オレは周りを見渡してみた。
他のグループも遠巻きに緑川くんを注視している。
「それ緑川くんだけじゃなくない?」
「うん。女子はみんな内田くんに近づかない。近づくとぶたれるから」
「おいおい。そりゃひどいな」
隣で知美ちゃんも頷いてる。
「先生に言った?」
「緑川くんが頑張ってるから……」
「でもみんなに被害が出てるなら、それはもう黙ってる次元じゃないよね。いいよ。オレが行ってくるから、先生呼んできて」
「うん」「はい」
知美ちゃんが真理ちゃんの手を引いて、山本先生のところに向かった。
「さて」
オレは緑川くんと内田くんの元へ向かう。
「だからここを探させてくれって言ってるんだ」
「だからそれは出来ないと言ってるんだ」
「言ってるんじゃないじゃないか。ぶつし。参ったな」
「どうしたの?」
一応訊ねる。それが物事をスムースに進めるための礼儀だ。いきなり介入されたらそれだけで怒らせちゃうからね。
知ってることの摺り合わせは大事だ。
すると内田くんが勇んで言った。
「俺がロボットになってお宝を守る」
何だそれ、と思ってると、山本先生の声がした。
「内田くん。探すのを邪魔してはいけません」
「ええっ? でも守っちゃダメだって言ってなかったじゃん」
「では今言います。ダメです」
「ええ~~~っ」
何て言うか、内田くんは、面倒くさいマイ・ルールで世間の空気悪くするような奴だな。くじら組の各グループは、隠し終えたら必ず先生の脇で、みんなのお宝探しを見守ってたじゃないか。それなのに、それをしないというのはどういう了見なんだろう。
オレたちが上に隠すという新しい前例を作ったことで、敵を排除する選択をするのもアリとでも考えたのだろうか。でももしそうなら、その思考はやばいだろ。
「イナリマンだってお宝を狙う敵をやっつけるのに」
「イナリマン?」
「いっつも敵に囲まれるけど、最後に必ず大事な物は守るんだ」
「敵を痛めつけるアニメが好きなんだろうが、それ、前提で主人公も痛めつけられてるよね。オレたちがみんなで内田くんを攻撃したら、どうするの?」
「もちろん、お宝を守るよ」
「いやいや、そこは即答しないで少しは困ろうよ」
「困らないよ。イナリマンは決めたことは必ず守る」
「すんごい敵が出て来たらどうするの?」
「だいじょうぶ。最後にはイナリマンロボが登場するんだ。そうしたら、すぐにやっつけちゃうさ」
なるほど。それで最初ロボと言ってたのか。
「でもテレビのヒーローと違って、我慢して勉強して、適度に遊んで、欲を耐えて学んで、時々発散して、痛めつけるよりも決断の連続が、現実の人生みたいだけどね」
「う~ん。難しいことはわからないけれど、現実で、人のお宝を探し出そうとするほうが悪くないか?」
「だからロボになって守ってるって感じなのかな?」
「うん、そう。まだ自分ではロボ、作れないんだけどね」
「まぁ、自分でロボを作れたらいいよね」
内田くんがバッとこちらを見た。
なんだなんだ。食いつきがいいぞ。
「ロボ、いいよね」
と同意を求められたので、
「うん」
と肯いた。同調を求められて同調に乗るのは、物事をスムースに進める基本だ。
「そうか。木下は嫌ってるけど、見所あるじゃん、真司くん」
「いや。見所あるかどうかは知らんけど、いいの? 木下、怒ってるよ」
内田くんが顔を輝かせた瞬間、木下が敵意むきだしの目で睨みつけて来た。
内田くんが木下に目をやる。
「でも、睨まれたって、ロボはたじろがないだろ」
「うん、そりゃそうだ。ロボだもんな」
「おおっ。良い奴だな、真司くん。真司と呼んでいいかい」
「いやいや。木下にも配慮してあげなよ。オレはキミを内田くんと呼ぶから、内田くんはオレを真司くんと呼んでくれ」
「なるほど。わかった。天才グループの仲間も大事にしないとな」
「くじら組もね」
言われて内田くんがキョトンとした。
「ダメだよ。クラスメイトを攻撃しちゃ。仲間だろ。守る対象じゃないか」
「なるほど。それもそうだな」
「仲間が探すぶんには、お宝を一緒に守ってくれるんだから、攻撃しちゃだめだろ」
「おおっ。そういうことか」
「そういうこと」
この子、扱いやすいな。でも扱いやすいけど、子供すぎる。
いや、こうして覚えてくものだろうか。普通の三歳児は。
まあいい。
山本先生もニッコリしてるし、これはこれでおっけ~、と言うことで。
ちなみにお宝は緑川くんがしっかり見つけた。
専守防衛を標榜しつつ、傍若無人を振るっていた内田くん。彼にはみんな困って遠巻きにしていたのだ。だがそんなところを緑川くんは身体を張って、ずっと止めてたのだ。これで少しは尊敬も集めたようだから、これをきっかけに、緑川くんの汚名も返上できればいいんだけれど。




