第7章 発覚
「明…明!ちょっと起きてっ」
騒がしい中美樹の声が響く。ぼやーっとした景色が目の前に広がった。寝過ぎた。
「もーっ!何回起こしても起きないんだもんっもう授業全部終わったよ?ショートも!」
「ん…なんか、すっご眠い」
目頭を押さえながら答えると美樹からため息が漏れた。
「土日寝なかったの?今日はまだ週の最初だってのに…ちゃんとしようよ」
私の顔を覗き込む表情は心配そのもの。
私がきっと美樹以外の人にこの言葉を言われたらきっとイラつくんだろうな。
お節介。口出ししないでよ。なんて思ったり。でも、美樹は嫌じゃない。
てか、美樹って本当に私のこと考えてくれてんだなぁって思うから。大体は自分のしっかり者をアピールしたい人がお節介ってやくものなんだと思うけど。昔から美樹は嫌、じゃない。
「うんごめん。大丈夫だよ。ありがと」
そう言うと美樹は安堵の表情を見せた。
可愛い。
「美樹帰んないの?」
出し抜けに聞くと美樹が一瞬びくっとしてすぐに落ち着いた。
「うん。今日ちょっと友達待ってるんだ。」
どんどん声が小さくなり最後の方はよく聞こえなかった。
「ふぅん…こないだ隣のクラスで話してた子?」
これまた軽い調子で聞くと美樹は完全に動揺したようだった。
「へ?あ、うん。」
そっか、と私は言いカバンを手に取った。
…なにか忘れてる
月曜日。なにがあったんだっけ。
美樹が私に別れを言い隣のクラスに向かうと私はすぐに思い出した。
「美化委員…」
そういえば、金沢君が仕事の説明をしてくれたとき言ってたっけ。
『月曜日はウチのクラス当番だから、放課後ここに来てね。』
金沢君はもう教室にいない。私はとりあえずカバンを置いてゴミ捨て場に向かった。
階段から覗くと金沢君の姿が見えた。一生懸命にゴミを運んでいる。
ずっとここから見ていたい…
金沢君の姿をこんなにまじまじと見たのは初めてだった。
でも、こんな所を見つかっても大分気まずいのでそのまま階段を降りた。
「あ、来た。」
金沢君の目が私を見た。私はなぜか目を合わせられず居心地悪そうに周りをキョロキョロ見渡した。
「ごめん。遅くなった。」
「別にいいけど、今日こっちはもういいらしいからこれ、運ぶの手伝ってくれる?」
やら重たそうな棚を指差しながら金沢君が言った。
持ち上げるとそれはずしりと重たく、立っているだけで汗が吹き出た。
「これ、カートみたいなものとか…っ」
「ない。」
キッパリ言うと私が持っているものよりはるかに重そうな棚を持って歩きだした。
学校を半周くらいしたのだろうか。
とうとう腕が限界まで来た。とりあえず金沢君を追ってここまで来たが一体ここはどこだろう?
今まで学校にいて見たこともない場所だった。
3年間この学校に通い続けて、この場所に足を踏み入れず卒業した人も少なくないんじゃないかと思った。ちょっとした中庭だ。人気は少なく、遠くから野球部のかけ声が小さく聞こえる。
その奥にある小さな建物に金沢君は近づいていった。大分古そうだ。私が、ここ?と聞くと首を前に傾けた。
中に入ると薄暗く、天井までありそうな棚に必要なくなった教材などが無造作に置かれていた。
私がそこに持っているものを置こうとすると
「違う。こっち」
と、もう一つの扉を顎でさした。
扉を開くと真っ暗な部屋がそこにはあった。
めちゃくちゃカビ臭い…棚持ってるから鼻つまめない!ダッシュで部屋のすみに置くと、勢いよく振り返って出口を目指した。
私は学習能力のないアホだ。足元にあった何かにこの間同様、足をぶつけて前のめりになった。
思わず、目の前にいる金沢君の背中に手をついた。踏みとどまった私は、よかった、金沢君を押し倒すようなヘマはしなかった。
しなかったのに、ひどくビクついた金沢君は瞬時に私の腕をつかんだ。
「なに…っ
ビックリした…」
目を見開いてそう言った金沢君は今まで見たことのない顔だった。
「ご、めん」
手を引っ込めると ふぅと安心したかのような表情を私に見せた。私が出ていこうとすると金沢君が邪魔した。
「先生に…そっちにあるラインカー持ってきてって言われてんだけど。」
もう一つの奥の扉を金沢君が指さした。早く出たいのにっ
私がゆっくりと扉をあけるとこちらもごちゃごちゃした部屋があった。
この部屋は涼しい…なんて思うと、すぐ中の異変に気づいた。私は金沢君にあっち行けという風に手をはらった。
「なに?」
金沢君が聞く。
「私持ってくから先戻って…」顔だけ覗きながら言った。
「は?なんで」
金沢君が入ってこようとするので私はイライラと声を出した。
「いいから戻ってよ…こっち来ないで。はい、じゃあね」
金沢君は首を傾げて行ってしまった。
私は見つからないようにゆっくり部屋に入っていった。
そう、『見つからないように』
この部屋には誰かいた。この小さい隙間から1人は見えている。
美樹だ。なにしてるんだろ?
話し声からして誰かといることは確かだ。私は目を凝らした。
覗き見は趣味じゃない。けど、今日の動揺といい美樹は最近変だ。ずっと仲のいい友達に何が起きてるか知りたかった。
ううん、知らない方がよかった。
好奇心旺盛で浅はかな私は、人がそれぞれの秘密を持っていることに気がついていなかった。
私はしばらくその穴を覗いていた。声がしなくなった。私の心臓の鼓動だけが聞こえる…
もう一人の後ろ姿が見えた。
キスしてた。
私の視線は2人の足元にいった。
美樹とキスしてるその子は、髪の長い、スカートをはいた
女の子 だった。