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第6章 眠れない夜

ここから少しシリアスになってきます。


こんなのを『シリアス』と呼べるかはわかりませんが…

プールの授業が終わるとクラスのみんなが教室に戻っていった。


教室に入ると湿っぽい空気がクラス中に溢れていた。美樹を見ると腕をダランとたらして椅子に座っている。


「大丈夫?」

声をかけると火照った顔を私に向けた。


「うん…ちょっと私、トイレ」

そう言うとフラフラと教室から姿を消した。


廊下の方を眺めていると後ろから人の気配がした。真理がへの字に結んだ口を開けると

「さっき何話してたの?」

と言った。




「さっき…?」

何話した


「あ、金沢君と?」


真理の表情が呆れ顔になる。


「他に誰かと話してました?」


嫌な雰囲気になると分かってても嘘はつかない。


「日常会話。」


この漠然とした答が真理をイラつかせると分かっていても。真理は小さい声で笑った。


「『日常会話』するほど仲よかったんだ?

いやぁ、明、男子と話すなんてなかったから」



なんでもないように言ったようでも、違う。わかるよ。

真理は私が男と話すのを快く思っていない。たまに私が目立つ行動をしても、そう。そうゆう性格なんだろうけどいつも自分が優位でいたいんだ。

だから私が男子と話すのも気に入らない。ムカつくまではいかないんだろうけど『なんで明が?』くらいにはきっと思ってる。そうゆうとこが、嫌なんだよ。



私の勝手じゃない


あんた中心の世界じゃないじゃない


自分が特別な存在だとでも思ってるんだろうけど何もできないじゃない




水泳の後の猛烈に眠くなる授業が続き、やっと下校時刻になった。

カバンを持って廊下を渡ると横目に美樹を見た。なにやら他のクラスの女の子と仲よさそうに話している。そっか…美樹



『何が言いたいのか言ってみろよ。』


心の中から声がした。



そっか美樹…他のクラスにも友達いたんだ。



…また声がする…


『それは真理とはどう違うの?「他にも友達がいたんだ」

これは見下してる言い方なんじゃないの?

あんたと真理は何が違うって言うの?』



…違う声が響く。


『真理みたいに本人の前でそれを言わないこと。

真理みたいに別に不愉快に思ってる訳じゃないってこと。』



こうなったら私の中での争い。


『いいねぇ、自分のことはいいように考えられるもんね。』



そう。自分には甘い、私。





夢を見た。

今日美樹と一緒にいた女の子が目の前にいる。どうやら私はこの子が好きらしい…私の気を引こうと私にひつこくつきまとう美樹。

誰かが遠くからこっちを見てる。


目を凝らすと金沢君だった。


ねぇ、助けてよ。美樹がひつこくてもう嫌なの。私はもう終わりにしたいのに。そんな遠くにいないで、こっちへ来てよ。


そんなことを思うと、金沢君が口を開いた。



『じゃあその女の子の手を離せば?』



私はもう1人の女の子を見た。イヤ。この手はなぜか離したくないの。それは無理だよ。見かねた金沢君は再び口を開いた。



『はい。仕事終わったよ。じゃあ俺帰るから』



金沢君は行ってしまった。




待ってよ、ちょっと待って。ねぇ。ねえ…私の話ちゃんと聞いて。




ねえ!!!!!







目を開くと薄暗い天井が目に入った。…もう夜か…クーラーをつけっぱなしにしていたので体中が冷たい。


「さむ…」


電気をつけようと立ち上がると何かにつまづいて前に倒れた。予想外の音がしてとりあえず何かが壊れた。と瞬時に思った。


勘弁してよ…打った足をさすりながら電気をつけると辺りに本が散乱していた。

壊れたのは本棚らしい。棚から落ちて部品がかけていた。

…もう。イライラして時計を見ると12時を指していた。


そんなに寝ちゃったの!?あ〜…もう!


部屋片づけて

本整理して

化粧落として

お風呂入って

歯磨いて



髪を乾かすところまで終わると時計は2時に近づいていた。

なんかやってないかな。テレビをつけると面白くなさそうなバラエティー番組がやっていた。

しばらく笑ったりあくびをしていたりした。


すると、一気に首筋に悪寒が走る。



いつものが、来た。


テレビの音量はそこまで小さいわけじゃない。でも私の耳はここまで敏感に反応するようになった。

私は音量を少しずつ大きくしていった。そうだ、ここは笑うところ。笑え。私の脳に命令する。

しかし生理的反応はこれだけじゃ収まらない。あっという間に私の全身を恐怖で包み込む。汗ばむ手で消音のボタンを押した。



ふすまを何回も何かを叩きつける音、子供の泣き声、母親のわめき声。

これが始まったのは引っ越してから1ヶ月くらいしてから。つまりもう一年以上は続いてる。


私の勘違いかもしれない。これも教育のひとつなのかもしれない。みんなこれ位するのかもしれない。いつもそう思ってはこの時がくると怖くてたまらなくなってしまう。



やめて…

泣き声は止まらない。


もうぶたないで

ふすまが響く音が大きくなる


うるさい…

母親の金きり声が耳をつんざく。


うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!


思い切り壁をけっとばすとさっきぶつけた所が当たって涙が出るほど激痛を感じた。布団の中に潜り込む。


いつもそうだ。もう嫌だ。明日こそ手紙を入れてやろう。『虐待はやめてください』って書いてポストに入れとくんだ。

もしくは児童相談所に電話をしよう。なんとかしてあの子を助けるんだ。


でも、次の日は決まってなにもなし。私の生ぬるい決心は夜が明けるとともに消え去っていく。

そして今日も、惨めに布団に潜って恐怖が静まるのを待つだけだ。



声が響く…



『自分が特別な存在だとでも思ってるんだろうけど何もできないじゃない』




それは他でもない、



『私』なんだ。








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