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第5章 プールと金沢君

今日もまた同じ時間が始まる。


けだるい暑さの中そんな事を考えながら教室のドアを開いた。




嗚呼。ありえない…

以前までは見ようともしなかった金沢君の席を真っ先に見た私は自己嫌悪の念に襲われた。

気にしたことなんてなかったじゃないか。


今まで気にしなかった人を気にしだすと、どうしてこうもしつこく私の心をちらつかせるんだ。金沢君はこっちを見ない。私は昨日の言葉をふと思い出した


『俺とそんな話がしたかったの?』


そんな話…私があれだけ悩んでることを『そんな』で片づけた金沢君を見てると怒りが込み上げてきた。

もちろん、そんな話をした私の方がもっと苛立たしい存在なのだが。



辺りを見渡さず真っ直ぐに机につくと先生がショートホームルームを始めた。

先生が教室から出て辺りが騒がしくなってもじっと机を睨んでいると真理の顔が視界に入った。


「ハヨ。余裕だねぇ?」


鋭い目で真理の顔を見ると真理は一瞬ひるんですぐ気を取り直した。


「あ…もしかして忘れた?」



「ワスレタ?」


話の流れに合っていないその言葉に私はすぐ反応した。


「うん。次体育だよ?」



体育…


「前に間違えて持ってきた体育着あるから大、丈夫」


真理の顔と他の女子を見ればわかる。今日は


「プールだよ。始まるって言ってたの忘れた?」


「ワスレタ」


さっきと同じ調子で繰り返すと真理はこいつ大丈夫かぁ?みたいな目で私を見た。


「まぁ別にあれですとか言えば平気じゃない?」


「あれってなにがー?」


透き通った水色の可愛らしいビニールの手提げを持った美樹が近づきながら言った。


「何。プール行かないの?急がないと着替えらんなくなるよ」



「2人先行っててくんない?」


そのまま2人が行ってしまうと教室には誰もいなくなった。

金沢君はいつ教室を出たんだろ?朝見たとき水着の用意なんか持ってた?



また。自分が嫌になり大急ぎで体育着に着替えプールに走った。

息を切らしてプールにたどり着くと何人かの女子男子が水着に着替えてプールサイドにいた。


高2にもなってスクール水着…私の学校は2年までプールの授業がある。ハッキリ言って私は卑猥な物があると思う。男子にとって自分が気になってる女の子の水着を見れるなんてめったにない機会だ。あまり先まで想像したくない…


そんなアホな妄想をかき消そうとすると先生の姿が目に入った。私が近づくと先生が私に気づいて名簿を見ながら言った。


「早坂はー…何組だったかな」


「4組です」


「おっ。あったあったーそれで?どうした」


体育着姿の私を厳しく見てボールペンを手にした。私は迷わず


「生理です」


言うと反応は早かった。

「わかった。全員集合!!」


大声でそう放つと恥ずかしがっている人人がぱらぱらと集まりだした。

見学者のたまり場と思われる屋根付きのベンチを見つけると足早に近寄っていった。

私の他にも見学者はいるらしく、他のクラスの女子2人が品定めをするようにキャアキャア騒ぎながらプールサイドを見ていた。


もう1人男の子がいる。目があうと無表情で私に言葉をかけた。


「早坂も見学?」

金沢君が私の足下を見て言った。


「ウン。金沢君も?」


早坂も見学?って言われたんだから見学に決まってんだろ。と自分にツッコミをいれると金沢君もそう思ったのか、無視された。


金沢君と1人分のスペースを開けてベンチに腰掛けた。地面が太陽に照らされて熱い。

足を水たまりに引っ込めると生ぬるい水がピチャリと音をたてた。


その瞬間、自分は何を嬉しがってるんだ?と我に返った。外は暑いのに私の感情も一気に覚める。いや冷める。

昨日のことを思い出せ…


「なんで見学?」


先に口を開いたのは金沢君だった。ツンと前を向いた私は素っ気なく


「水着忘れたの」


とだけ言った。

ゆっくり目を金沢君の方に向けると、金沢君は下を向いてほのかに微笑んだ。


「そっかぁ…」


のどの奥が変な音をたてて鳴った。

だから、なんで私この人


惹かれるんだろ…



きっと理解はしてもらえない。この人の空気が好き。

好き…もう違う感情なのかもしれないけど。



「金沢君はどうして見学なの?」

思わず嬉しい声が出た。


「あー…早坂と同じ」

面倒臭そうに返事を返した。


何その言い方。


「そ。あ、でもさでもさ、男子って水着忘れると外周3周じゃないの?いいの?バレない内に行った方がいいよー」

言い終わって金沢君の顔を見ると、自分の周りにブンブン飛び回るハエを見るような顔で私を見た。


「走んなくていいの」


「なんで?走ってる子いるよ?ほら帰ってきた。」


1人の男子を指さすと金沢君はなぜか悲しそうな顔をした


「いいんだよ、俺は」



顔を伏せたまま起き上がらない金沢君を見て私はなぜか優越感を感じ、光が反射するプールの水を細い目で眺めていた。





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