第4章 告白
「とりあえずここ片づけよ。」
金沢君の言葉で我にかえった私は足元の膨大なゴミを見た。暑さと臭いでやられそう…
しゃがんでゴミを集めようとした。が、
「ゴミ袋破けたしどうしようか?そこのゴミ置き場に余ったゴミ袋ある?」
すると金沢君は私の手を指した。
「さっきから持ってるそれ、ゴミ袋じゃないの?」
自分の左手を見ると、しっかりとゴミ袋を握りしめていた。
「あはは、うん。」
金沢君と無言のゴミ拾いが始まった。どうしたら1日でこんなにゴミを出せるのか考えながら拾っていると、金沢君の顔が目に入ってきた。
何この沈黙…
どうしたらいいかわからない私は息が詰まった。暑さと、ゴミの臭いと、この沈黙の息苦しさ。この場から走って逃げ出せたら…なんて考えていても仕方がない。
私は一番簡単に解消できそうな問題に取り掛かろうとした。
「金沢君」
金沢君が目を上げた。
「何」
…金沢君…語尾に『?』が付いてないよ
「金沢君は女の子嫌いなの?」
何言ってんだ。
言葉が出た瞬間思った。金沢君は私から目を離さないで言った。
「別に?」
…別に。その毒の無い表情と言葉の調子になぜか私は気が軽くなった。
「私は、
私はずっと金沢君と話たいと思ってた。」
私の中ではこの告白同様の言葉を金沢君は顔色一つ変えないで聞き終えた。
言葉の後に追いついてきた感情が心地よく私の心臓を鳴らす。
金沢君は一瞬下を向いて顔を上げた。
「で?」
予想もしなかった答えかたに私は硬直した。
『で?』
私が困惑した顔で金沢君を見ると
「え?なんか話あるんでしょ?何?」
この人は友達とかいるんだろうか。私はそんなことを思ったがなかなか金沢君は目を離してくれないので口を開いた。
「今ちょっと…悩みがあって」
何を口走ってるんだろう。
自分で自分がわからない。悩みってまさか…
『あの事』を言う訳じゃないでしょ?
金沢君の顔は見なかった。
無言ってことは続けていいんだよね
「最近…寝不足で」
金沢君とは違って拙い言葉しか出てこない自分に腹が立った。
「寝不足?なんで」
金沢君は私の言葉を返しただけ。なのに、どうしてこうも嬉しくなるんだろう。
「上に住んでる人が…声が、気になって」
まだ金沢君の顔は見れない。金沢君は少し動揺したようだった。
「え、夜に…」
間が空く。
「声?」
私はすぐに動揺の原因に気づいて付け足した。
「あ、いや…子供の声が」
私は言うつもりだろうか
「子供の泣く声が…夜中に聞こえてくるの。毎日」
こんな言い方じゃ足りない。
「泣き叫ぶ声…女の人の怒鳴り声が…」
冷や汗が流れそうになり思わず顔を上げた。
え…っ?
金沢君の顔を見た私は声を出しそうになった。明らかにウンザリした顔をしている。
自分の手についたベタベタした液体をティッシュで拭きながら は…っ と失笑した。
「俺にそんな話がしたかったの?」
ティッシュをゴミ袋の中に押し入れると私の目を見た。
「ね。」
口を開けっぱなしにしていた私は思わずよだれが出そうになった。
よだれを引っ込めると同時になんでこんなこと言ったんだろう?という後悔の念が洪水並に押し寄せてきた。
そんな私の気持ちなどお構いなしに金沢君は話を進める。
「俺さ、なんか早坂さんのイメージって結構よかったんだよね。
他の女子みたいに無駄にうるさくないし、ちゃんと考えてるって感じで。」
今の話を言う前の私が聞いていたらきっと物凄く嬉しいんだろう。けど今は違う。続きは聞きたくない
「なんかよく掴めない人なんだね。てゆうか、最初からそんな話されても引くよ。
なんかよくわかんないんだけど。えっと…なんだっけ? 虐待?」
自分が何を言われてるのか理解するまでに少し時間がかかった。
私…クラスで不思議君と思われてる人に引かれてるの?
持っていた菓子パンのゴミを手から離すと金沢君は自分の方にゴミ袋を引き寄せて力強く口を縛った。
「はい。仕事終わったよ。じゃあ俺帰るから」
そばに置いてあったカバンを手に取り金沢君は立ち上がって行ってしまった。
これが私と金沢君の最初。