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加奈の1ヶ月

2019年6月21日。


私は栗山加奈(くりやまかな)

見えない人歴1ヶ月とちょっと。


それは両親の姿が見えなくなった期間でもある。

通知を受け取った日、お母さんが錯乱状態になった。


「加奈、加奈、嘘でしょ。返事をして!!」

二階に向かってお母さんが叫ぶ。


「君!眠らせて!」

1人のスーツの人が叫び

「はい!」

違うスーツの人が慣れた手つきで対応する。


小さく、何をするのやめて、と母の声が聞こえた様な気がした。

その後、どさ、と音がする。

そして乱暴に玄関のドアを開く音。

閉める音。


家には私以外、誰もいなくなった。


---

朝のニュースで私の名前が出たとほぼ同時にスーツ姿の男の人達がぞろぞろと入ってきた。


「時間がないぞ!!」

「奥さん、これを読んでください」

1人の人がお母さんに一通、そしてその人の恐怖が分かるほどの震える手で私に通知の束を渡してきた。


「部屋に行って!!早く!!」

私は訳がわからないまま、その封筒を持って部屋に戻った。

そして二階の部屋に入り通知を読む。


「そんな事ない。何かの間違いでは!?」

ほぼ同時にお母さんが叫んだ。


後から考えてみれば、国の人も必死だったろう。

私に通知を渡した時に、もう私が発症していれば、彼は"あの死に方"をしたのだから。


そしてお母さん。

ありがとう。でも、とっさに私も返事をしなくてよかった。

あの時は血が出るほど唇を噛み締めて、声に出す事を我慢した。


本当によかった。

眠らせてくれなかったら、きっと返事をしてしまう。

そんなに私、強くない。


そしてこの1ヶ月、私は徐々に弱くなっている。

毎日わざと声を出す。

毎日ぬいぐるみに話しかける。

これも全て、これ以上気持ちが落ちないようにするためだ。


3日に一回の外出、すれ違いの為に、伸ばしていた髪を切った。

今の私には不要な(もの)

なるべく女性に見えないように。

なるべく目立たないように。


弟のジャージを着込んで、ウオーキングのような、ジョギングのような事をして、なんとか100人とすれ違う。

心の中で数えながら。

話しかけないでと祈りながら。


しばらくすると、近所で人と会うことはなくなった。


みんな、私の外出時間を避けるために測っている。

私も、この時間に出なければならない。

ここで私を生かしてもらってる、小さな罪滅ぼし。


外出のコースは毎回変えていた。

話しかけてこられそうな事が、何回かあったが走って逃げた。

今の所、大丈夫だ。


帰って来ると目に飛び込むあの赤黒のマーク。

まるで私が拒絶しているかのように見える。

そんなは事ない。

早く、早く終わって欲しい。


それと最近よく思う事がある。


「いつまで続ければいいんだろうか」

私はまだ、大学生だ。

本気になれば多分、40代くらいまではできるだろう。

だけど、その後は、いったい、いつまで。


・・・ずっと1人で。


誰とも話せない事が、これほど自分をダメにしてしまうなんて想像もできなかった。

もう、何もかもが怖い。


そんな時、放り出してあった通知書に目がいった。

みんないなくなった後にリビングの床に投げつけたもの。

ゆっくり開くと、ホームページのアドレスが書いてある。

なにか新しい事がわかるかも。

使わなくなっていたスマホを充電しながら、ブラウザを開いた。

https://・・・

久しぶりに使うとこんなに扱いづらかったものだったのかな。

メッセンジャーアプリも、メールもすべて使ってはいけない。

はじめはゲームもしていたが、飽きてしまった。


何度も失敗を繰り返し、サイトを開いた。


「こんな事、書いてあったんだ」

改めて読んで思った。

通知書には簡単に書いてはあったが、全部自分で考えて行動してた。

今日までたまたま合ってたけど、間違えてたら。

これを読んで身体が震えた。


先日、外出先で帽子を落としてしまい、取りに行こうと戻った。

しかし、通りすがりの人が帽子を拾い、周りを見渡し、近づいている私に渡そうとする仕草を見せた。

黙って受け取ればいいのではと考えて進んだが、思いとどまって切り返して逃げた。

あれは、落としましたよ、という投げかけに、一礼でもしてしまえば、その人は終わってたはずだ。


親切が人を殺してしまう。

考えただけで、私は耐えられない、と涙する。

気がつけば日付を越えていた。


そして今、メニューに見つけた掲示板。

これもかなり危険に思えたし、躊躇ったが、結局は開いた。


他の投稿は見ない。

何が書いてあるか怖くて開けない。

だけど、自分が書く事はできる。


新規投稿のボタンを押して、入力し始めた。

誰も読まなくてもいい。

なにか、なにか誰かと繋がりが欲しい。


彼女は入力し始める。

もう、何が何だかわからなかった。

"誰か、私を覚えていてくれませんか"

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