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エンドポイントと掲示板

2019年6月22日また変わらず。


弘明はサイトの別のメニューに進んだ。


「掲示板、か」


疑問に思う事と、違和感があった。

コミニュケーションはとってはいけない、インターネットも手紙や会話と同類で禁止だ、と。

なのに掲示板《こういうもの》が用意されている。


クリックするべきか。

危険だ。

しかし何が書いてあるか、知りたい。

読んでしまえば、しまった、と思う間も無く死ぬ。


・・・死ぬ事を考えてばかりだ。

もう、いっそ見てしまえば、楽になるのでは。


弘明は一度深呼吸した。

今日全部見なければならないという事はない。

しかし、気にならないというのは嘘だ。


視線をメニューに戻した。

ふと一覧を見続けると、ログアウトの前に一行開いている。

メニューの区切りだと思っていたが、違った。


5、とある。ただし、文字が表示されていない。

なんだろうか。

軽い気持ちでクリックしてみた。


---

5.生きる事が辛いと考えられた時


日常の生活、すれ違いのストレスなどに疲れた場合、国としては推奨できませんが、最後のお手伝いが可能です。

物資の提供などはできませんが、下記地図のポイントに来てください。


一般の人が入る事は許されていませんので、誰もいません。

入り口は一箇所です。警告の看板がありますが、無視して入って下さい。

案内板に従って歩きますと、小屋があります。

蚊帳の中には、手紙を書く便箋一式と、薬が置いてあります。

手紙(遺書など)を届けたい人に書いてください。

また、その薬は苦しむようにはできていません。

1日かけて、呼吸を止めるように処方されています。

また、ご遺体、ご遺志などは、丁重に管理いたします。


できれば、選択する事なく、過ごして頂きたいのですが、該当者の方々の生活は、相当な状態になる事も想定されます。

このような形での援助もある事を覚えておいてください。

---


結局こういう選択肢は用意されていて、国も想定しているのか。

確かに、大量殺人を憂さ晴らしにやられても困るもんな。


ポイントと書いてあった場所をクリックして地図を見た。

C県の山の中だな。

それほど遠くはない。

自転車があればいけない事はないか。


ここはいわゆる最後の場所(エンドポイント)ということか。

安楽死も1つの選択。


しかし、と弘明は考える。

ここに向かう時、俺はどうなっているんだろう。

ここに向かう時、まともで入られてるのだろうか。

とても不安になる。


自分が該当者(こんなこと)になるとは思ってなかった。今もそう思う。

逆に言えば、この場所に向かう事なんてない、と思っている自分も、信じられるのは今だけだ。


結局、今も向かっている間もずっとひとりだ。

逆にいつでもいいんだ、と思ったら、少し気持ちが楽になった気がした。

さて、掲示板を見てやるか。


そう思ったとき、ドアの前に物を置く音が聞こえた。


誰だ。

時計を見る。23時5分。

・・・ああ、そうか、今日は配達日か。


ドアに近づき、そっと耳を当てる。

遠くに走った音が聞こえた。

なるほど、急いで離れる事で、リスクを避けているのか。

ゆっくり、ドアを開ける。

四角い箱が置いてある。


箱と同じ幅まで開くと、慌てるように引き入れた。


「ふう」


思わずため息をついた。

自分の部屋の前で、こんなに気を使うとは。

これからは、こんな思いを沢山するのかと思うと疲れがドッとでてきた。


よろよろと立ち上がり、箱を持つ。

以外に重い。


部屋に戻り、中を開くと、紙も何もない。

水、固形食、フルーツの缶詰。

タオル、トイレットペーパー、雑誌など。

おおよそ1週間分。


「俺は避難民か」


ただ、買い物にいけないのだから、これは助かる。


そう思った時に、気がついた。

病気になった時、どうなるんだ、どうすればいい。

薬は。

そう思って箱の中を物色していくと、下の方に薬箱があった。

鎮痛剤、抗生物質の錠剤。


少しホッとする。

まあ、ないよりマシだし、薬の説明はネットで拾えるだろう。


少し気分が軽くなったせいか、独り言が出た。


「あ、そう言えば」

掲示板を見るつもりだったんだ。


弘明はパソコンの前に座りなおし、マウスを持った。

もう片方には今貰った水のペットボトルを片手に。


さあ、押すぞ。

人差し指に力をいれ、カチ、と押した。


---

掲示板閲覧の前に警告します。


掲示板の利用は実験的な要素が大きく占めます。

件名などに不審な表現の場合は、開かない事を推奨します。

また、投稿する際にも、特定の人物、または自身の個人情報を無闇に提供しないように、ご注意願います。


なお、上記に該当する記事を読んだ場合の支援は、できません。

また、この掲示板は危険防止の為、職員が閲覧する事はありません。この掲示板を利用して連絡を期待する事はできません。悪しからずご了承ください。


クリック

---


「やっぱり、怖いな」

そう言いながらも、ここまで読んでしまうと、止まらない。

次に進むつもりだった。


クリックする。


---

スレッドが6件あります。


1.お母さんへ 2018-08-02 23:21

2.お腹が痛いんです。助けてください。2018-09-01 05:22

3.遺言 2018-10-10 20:18

4. 行き詰まったら、読んでほしい。私からのプレゼント 2018-12-24 19:04

5.みんな、騙されるな 2019-02-21 12:28

6.(new)どうしたらいいんでしょうか 2019-06-22 07:52

---


意外に少ない、と思った。

まあ、今67人"いない人"がいて、このサイトに来るのが3割だから20人くらい。

開こうと思う人が半分、だったらこんな数字か。


ただ、中身を読むかどうか、だな。

考えがまとまらなくなってきた。

一覧を見た瞬間、何もなかった事に安堵してか、思わず欠伸が出てしまった。


こんな状態でも、眠気は来るか。

色々あったし、精神的に・・・疲れた。

まだ、日はある。

少しでも、考えない時間が・・・欲し・・い。


弘明は吸い込まれるように眠りに落ちた、

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