表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

山奥の村の悲劇

 2019年6月21日。


 川島ミヨは一通の封書を受け取った。

 小難しい活字に眉をひそめる。


「またなんか、どこかに来いってやつか」


 文句を言う独り言の声が大きい。

 封書をテレビの横にある郵便入れのカゴに放り込み、玄関に向かう。

 交通費も出ないのにやれ確認だ、やれ説明だと。

 お前たちがこっちに来いって。

 面倒だけど、ほっとくこともできない。夜にでもテレビを観ながら読もうか・・・。

 ぶつぶつとつぶやきながら畑に向かう支度をし始めた。


 ミヨはこのB県上吉塚谷村(かみよつやむら)に生まれ、育ち、結婚してこの歳になるまで暮らしていた。

 既に旦那は他界し、2人いた子供も、隣の県や東京で生活をしていた。



 もともと利便性の高い地域ではなかったため、村は過疎化が進み、現在6世帯程。

 もう廃村の危機というより、確定していた。


 残っている村民のほとんどが遠縁筋にあたり、お互いに助け合って暮らしていた。

 それに、ほぼ全員70代以上で、歳も近い。

 幸いなことに、みんなあまり病気らしい病気もなく、気楽だった。


 月一回、市の中心にある病院に定期検診、そしてその帰りに年金の引き落としの為に銀行まで行っている。

 あとは村に定期的にくるスーパーのワゴンでの買い物と、畑との自給自足で、生活は賄えていた。


 今夜のお笑い番組は、集まって観る事になっている。

 川田んとこの倅が、プロデューサーだかディレクターだかで、仕事したやつだと。


 ミヨは長年続けている手慣れた仕草で、簡単な農具を持って歩き出す。

 自分の畑に向かう途中に隣の家、川西家の畑がある。

 他にも畑のを待っているのに、近いという理由なだけで自分の庭を畑にしてしまった。

 ミヨは、なんだか自分の畑が遠くにあるように思えて、少し嫌だった。


「よう、ミヨさん、いつもより早くないか?」

 隣の川西の旦那がひょっこり顔を出し、声をかけてきた。


「ちょっと早めに出て、今日は止めようかと思って。ほら今日、夜は川田んとこ、集まるから」



 親戚筋ということで、苗字にすべて”川”の字がついていた。

 昔、落ち武者がこの辺に移り住み、この村ができたとの伝説だ。


 川西の旦那はミヨが前を通ると、必ず話しかけられるので、、気にせず進む方向に顔を向けたまま歩き続けていた。



 ああ、そうか。

 川西の旦那は飲んべえだから、今夜は長いな。

 今のうちに釘さしておかないと、後々面倒になりそうだ。


「あんまり今日は飲まないで帰ろうな。川田にも迷惑が・・・」


 そういいながら振り向くと、いなかった。


「もうどっか行ったのか」

 膝が痛い、歩くのも大変だってこの前言ってたのに。

 まあ、元気なのはいい。


 ミヨは鼻歌を歌いながら畑に行った。

 そこで、野菜の手入れをし、休憩をし、昼食を取りらそしてまた手入れをし、最後に収穫する。

 毎年この時期になるとやっている、本当にいつもの作業をして帰った。


 そして夕方前。

 ミヨは家に戻り、今夜の支度していた。

 酒のつまみになる食べ物、お茶請け。

 雑誌と・・・そうだった、そうだった、とカゴにある何枚かの封筒をぞんざいに掴む。


 実際テレビなんてものは口実で、みんなと集まる事がミヨは好きだった。

 他愛もない事、昔の事。

 たまに昔話から出てくる忘れてた思い出に花を咲かせて。


 微笑みながら、鏡に向かって簡単に身だしなみを整えると、今日の集合場所である川田家に向かう。


 今日の煮物は川向うの川本の旦那が好きなナスの煮物だ。

 酒に合う、と言ってくれるだろうか。


「こんにちは」

 一応、声をかけて入る。

 こんな田舎、勝手知ったる家だと、ずかずかと入って居間で集合、と言うのも珍しくない。

 引き戸のすりガラスの向こうで何人か座っている。


「もう、始まってんのかい」

 そう言ってミヨは扉を開いた。

 みんなの笑顔が嬉しい。


「おや、川西さんは?」

「おお、ミヨさん、こんばんは」

「川西さん、まだきてないわ」

「座りなさいな、ほら、ここ」


 今夜も楽しく話せるかしら、ミヨは微笑んだ。


「今日、ナスのな・・・」

 そう言った途端、全員の体が硬直した。


「どうした?」

 ミヨが驚いてそう言った瞬間、"それ"は起こった。


 目の前で3人の顔が一斉に膨れ上がった。

 目や鼻から血を吹き出してる人もいる。


「ヒッ!!」

 その場に立ちすくんだまま、ミヨは小さく声を上げた。

 持っていた煮物の鍋や、雑誌、袋を落とす。


 3人は呻くような、絞り出されたようなうめき声をあげ始めた。


「ぶ、ぶぶぶぶば」

「ぎ、ぎ、ぎ」

 手足は異常に膨れ上がり、小刻みに震えている。


 ミヨは状況が理解できない。


「大丈夫か?!い、医者、救急車!!」

 慌てて電話を探し、電話を掛けようとすると、後ろで、どさ、どさ・・・と音が聞こえた。


 恐る恐る振り返ると、皆元に戻った形で倒れていた。

 畳には大量の血だまりが出来ていた。


「ひ」


 ここにはいたくない。

 そうだ、本家に行こう、一緒に見てもらって、相談しよう。


 そう思って、逃げるように走り出した。

 血だまりには、ミヨの未開封の封筒が血に馴染み始めていた。

村の名前が実在しないようにする事が1番難しかったです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ