救世主の残したもの
2017年。
"彼"は動いた。
これから世界に起こることを案じながら、しかし痛みを伴うものを。
ある日、警視庁入口前にノート型のパソコンが置かれる事態が発生する。
それは事態と呼ぶ状況だった。
何故なら警視庁といえば警察組織の本丸。
当然ながら警戒は厳重である。それなのにこのパソコンが置かれた事に、だれも説明が出来なかった。
正門立番の職員も警戒を怠っていた訳ではない。
正門、入口の両方の監視カメラに映る職員におかしな行動もない。しかし、その入口のカメラには瞬間的にパソコンが出現した事を証明していただけだった。
さすがにこの状況に対して、警察側も楽観視はしない。そのノートパソコンは徹底的に調べられ、爆発の危険性がない事がわかったのち、起動が試みられた。
未知のコンピュータウィルスの可能性もある為、外部との接続は厳重に遮断措置がされた上での実施だ。
そしてこのパソコンの調査を担当したのが、木村浩介だった。
起動音が鳴り、デスクトップ画面が出るまで、何の問題もなかった。木村が今回の問題の焦点をパソコンから出現方法に切り替えようとした時、プログラムが起動した。
そのプログラムはとてもシンプルなものだった。
画面の真ん中、しかし画面全体を使わず7割くらいのサイズ。
その中に表示行が10行ほど用意されているだけだ。
そしてその上部に一行だけ赤字の場所がある。
『本稼動まで182日。現在はこの者たちを監視せよ』
そして先ほどの表示行には番号の羅列があった。
黒い番号が1つ、とグレーになった番号か3つ。
その時一緒にいた職員が、気がついた。
「これは・・・マイナンバーですね」
木村も頷く。
「そうだな。直感的に言うなら、黒はまだ、グレーは処理済み。またはその逆だな」
「この人達を調べてみます」
そう言って出て行ったがわずか2日後、パソコンが置かれている部屋に再招集がかかる。
調査した職員が話し始めた。
「わかりました」
「そうか。やっぱりか? で、どっちだ?」
「黒は生きてます。グレーはもう」
「関連性は?」
「今の所、わかりません。全員、年齢、職業、性別、一貫性がありません。ただ、何らかの突然死を」
「突然死」
「はい。死因は、心臓麻痺、病死、交通事故死。しかし、全員、一昨日亡くなってます」
「間違いでは?」
「ありません。全て届出から確認しています」
木村は違う指示を出した。
「もう一件、調べくれ。さっき、グレーになった」
翌日、結果がわかった。やはり死んでいた。
最後の1人は、駅のホームで倒れてそれっきりだった。死因は脳梗塞だ。
「もう一回調べよう。関連性がないかどうかを」
1ヶ月調べたが、やはり関連性はなかった。
ただ関連性を挙げるなら、このパソコンが出した数字とマイナンバーが一致し、該当者が死んでいるという結果だけだった。
パソコンを睨みながら木村は考えた。
しかし、その間にパソコンの画面が変わった。
まるで新しく起動したかのような短くてオルゴールのような音を立てながら。
驚きながら木村が叫んだ。
「また新しい番号だ!!」
木村は唸った。
今度はまだ全員黒かった。今度は5人。
画面のタイトルが変わっている。
『本稼動まであと151日。結果が全てである』
木村は呟く。
「おちょくりやがって」
しかし結果は変わらず、何も分からないまま2回続いたが、誰も解明できなかった。
「犠牲者?・・・いや死亡予定者15人、そして確定者も15人か」
そしてまた変わった事が起きた。
そろそろ3回目の表示が出る頃だという時、その内容が変わったのだ。
『本稼動まであと90日。彼に話しかけてはならない』
番号の表示は1つのみ。
そしてこれが"いない人"の始まりだった。




