政府のサイト
2019年6月22日変わらず。
弘明は現状を分析する。
まず、俺は一人暮らしだ。
電気、ガス、水道は問題ないだろうか。
会社は・・・行くだけで迷惑か。
親族がいる場合、同時に写しの通知が回るらしい。
実家には、父、母、弟の3人がいる。
父さんがなんとかしてくれるか期待するしかない。
後は、1週間に100人のすれ違う課題か。
やり方の加減がわからない。
胸と背中に「私に話しかけないで下さい」とでも貼ろうか。
恥ずかしいが、仕方がない。
すぐ気がつく。
くそ、駄目だ。手紙などの読ませる形式も読んだ時点で意思の疎通になるかもしれない。
検索サイトで対応の仕方が載ってないか調べる。
見つからないな、そう言えばインターネットへ書き込みなどもするな、と書いてあったっけ。
おかしいなと弘明は思う。
期間が終わった奴なら書けるはず。
一度に何人通知が来るのかわからないが、これまでブログ1つ書けない奴ばかりしかいなかった、という事はないだろう。俺だって書ける。
つまりは・・・まだ、誰も終わっていない可能性、か。まさか。考えたくない結論。
現に1人いたって言うじゃないか。
検索サイトから辿った政府のサイトを改めて覗くと、該当者の方へ、とリンクがあった。
マウスを合わせ、リンクをクリックする。
パソコンのモニターには、専用のログイン画面が表示された。
ーーー
名前:
生年月日:
通知書番号:
ーーー
入力か促される。
通知書番号?あ、これか。テーブルの上にあった通知書の文面末尾に記載があった。
と、同時に裏面にも記載があった。
簡単にまとめた注意事項と、サイトのURL。詳しくはそちらを参照との事。高齢者のケアはいいのか。
インターネットに疎い人はフィルターに引っかかる。
そこまで詳しくはないのかも、しれない。
URLが、今アクセスしている所と同じだったので、内容は読み飛ばす。
名前、生年月日、番号と順番に押す。
ログインボタンを押すと、白い背景色のシンプルな画面が表示された。
携帯用も兼ねているのかな。
---
該当者の方へ。
下記のメニューをクリックして下さい。
1.初めての方へ(必読)
2.注意事項
3.把握している情報
4.掲示板
5.
9.ログアウト
---
一応、色々あるんだな。
なんだかシンプル過ぎる感じがしすぎて、手抜き感が
ある。昔見た、ガラケのメニューってこんな感じだったな。
しかし、何かの助けになるだろう。
順番に見てくか。弘明は1番をクリックした。
---
1.初めての方へ
心中、お察し申し上げます。
通知の基準は非公開でありますが、このような状況は、決して国が意図して行っているものではありません。
ご理解を頂きたく思います。
現在も、問題の解決に向かい、調査をしております。
決して、殺人などの犯罪行為を取られないよう、お願いいたします。
今回通知された方々の援助につきましては、直接的な支援は関係者の安全に配慮する為、行えません。
ただし、ご家族などの近親者、および企業などの団体、個人的に近しい間柄などの方々には、国が調査し、通知、転居の支援などを行っております。
また、現在お住いの電気、ガス、水道、インターネットなどの一部サービスにおきましては、把握出来る限り、継続できるよう、支援致します。
また、食事につきましては、毎週土曜の午後23時ごろ、保存食をお届けします。栄養価は高いものですので、安心して食べて下さい。
重ねてのお願いですか、その時間に扉を開く、声をかけるなどの行為はおやめ下さい。
期間終了後、法的に罰せられます。
また、玄関の扉などに、マークが張ってあります。
これは不特定多数の方向けとして、接触禁止という意味です。(画像を参照)
決して剥がさないで下さい。
また、貼り紙、たすき等体に該当者だとわかるようにしての外出はやめて下さい。意思の接触と認識される可能性があります。
なお、統計上、インターネットサイトを利用して、この情報を閲覧できた方は、全体の35%ほどと推測されています。
ここで得た情報をもとに、期間の終了を無事迎えられます事、願っております。
---
とりあえずは、自分の身辺、特に家族・・・は何とかなってる、という事か。後、飢えることもとりあえずはない。
玄関に貼ったとされるマークの画像を開いてみると、たまに政府公報のCMで流れていた、あのマークが出て来た。赤い四角の輪郭に、黒丸。丸の中にはバツが4つ。上段に2つ小さめ、下段に大きめで2つ。
一見、禁止の禁の文字にも見えなくもないマークだ。
確かにこれがないと、事故になる。
それと、この情報を知らないままの人もいるかも知れないという事。周りの人は、大変だな。
とりあえずは、安心した。
次は2番か。
---
2.注意事項
皆さん、これからの行動には十分気をつけて下さい。
(1)こういう場合、相手が亡くなります。
・話しかけた上で、相手が返事をした時。
・相手が話しかけて、答えた時。
・言葉ではなく、行動で答えた場合も該当します。(指示、命令、ジェスチャーなど)
・手紙の宛先が自分だとわかり、受け取り、読んだ時。 (名前がなくても自分宛だとわかったときも該当)
・手紙を送り、返事があった時。相手が読んだ時。
・インターネットの掲示板、メッセンジャーなども手紙と同様です。
(2)相手の殺害を回避できる場合
・話しかけても返事をしない場合。
・手紙を書いた日が、発症日より前の時。(昔もらった手紙を読み返すなどはOK)
・インターネット掲示板を読むだけの場合。
・※注意。発症日より後に出された相手からの手紙も、読んだだけでは、なにも起こりません。ただし、読んだことで該当者の方が取った行動の影響が予測できませんので、受け取っても読む事はやめて下さい。
(3)100人にすれ違う時の注意点(新設)
・人にぶつからない(トラブルを避ける)
・繁華街より、少し離れた場所で行うこと(人が密集していると、早く終わりますが勧誘やチラシ、テッシュなどを受け取っても該当の恐れがあります)
・買い物はしない(レシートの授受なども該当)
・警戒しすぎない。
・近所の人に会わない。会釈も危険です。
---
意思の疎通に関しては、大方の予想通りだったが、確かに買い物はできないだろう。レシートが事故の元だとは、あまり気にしなかったため、意外だった。
あとは近所の人だな。
すれ違いの時間は、同じ時間、同じ方向にしない方が良さそうだ。
次だ。
弘明は無意識に身構えた。
---
3.把握している情報
このページは、該当者となった皆様へ、より詳細な情報を提供するべきとの見解から、政府が現在把握している情報を公開するページです。
専門調査チームの現在の調査結果と推測も記載しております。
受け入れらない情報もあると想定しておりますので、冷静に読めないと感じられた場合は、読む事をただちに中止して下さい。
クリック
---
今更なんだ。どうせ読む事しか今はできない。
弘明は構わずクリックする。
---
3.把握している情報
2018年8月現在。
全国への通知対象者は1ヶ月に平均約20人程で推移しています。規則性、法則性などは、まだわかっておりません。
3ヶ月生存率は30%ほどです。これは、警察が死体を発見した、または死亡届によるものから、算出しております。
2018年7月現在、117人に通知済で、うち67人は死亡、31人は食料品の消費が確認されています。
残念ながら、現時点で終了者の報告はありません。一部報道などにより存在するとされる一名の終了者とみられる人については、現在も捜索中です。
専門チームからは、伝播性の神経性ウイルス、もしくはその類似のものとの見解です。
ただし、なぜ政府が皆様に通知可能か、その精度とウイルスの関連性は不明です。
---
終わった人がいない・・・か。半ば予想していたが、認めたくないな。それと、1年近く更新がない。
弘明は思わず唸った。
「くそっ。どうやって生き延びるんだ。助からないじゃないか」
このサイトの運営も何があったのか。情報が掴めていないのか、やめたのか。
このサイトそのものが、もともとリスクがあったと言える。
以前、どうやって人を選ぶか、といった事は隠されているが、信用していい情報なんだろう。
しかし。
記載もあったが、ウイルスなら、こんな正確に始まりがわかる発症が、可能なんだろうか。
結局、わかったようで何もわかってないんだ。
弘明はため息と共に寝転んだ。