木村の判断
2019年8月25日午後。
木村浩介は思う。
これは他と違う、と。
剣崎"別宅"邸の玄関前に、静岡理恵が横たわる。
胸に手を組み、手には萎れたアサガオがあった。
「事故、か・・・な」
今月に入り、類似した事件が増えた。
該当者の家に第三者が上がり込み、死んでしまうと言う、理解しがたい事件だ。
「もう、4件目ですか」
国枝が話しかける。
「そうだ。だが、ここのは少し違うようだ」
他の2件は部屋の中で侵入者が発症し、その死体も荒々しく扱われ、道路に投げ入れられているケース。
もう1件は、殺人の罪に耐えられず、同じ部屋の中で首を吊っていた。
しかし、これら3人の身元がまだ分かっていない。
しかし、この剣崎という人は。
簡単ではあるが、弔った様子が伺える。
血で汚れていたであろう顔は拭き取られ、穏やかに見えるよう、整えられている。
迎え入れたのだろうか。
剣崎の実家に事情を聞いたが、剣崎登志喜は、この家に引っ越して以来、ほとんど家族と連絡を取ってなかった。
元々人付き合いもそれほど上手くなく、頑固なタイプだそうだ。
かたや今横たわっている静岡理恵は、5ヶ月ほど前までは、食品工場で働いていた。
息子の静岡健太・・・現在アパートにて生存中、が該当者になってから、この家庭は壊れてしまったらしい。
理恵はその後、行方がわからなかった。
今日、ここに横たわるまで。
身元も、側にあるカバンからわかった。
周辺に聞けば、ひと月ほど前から通っていたそうだ。
何故そんな事になっているのか、分からない。
「剣崎さんに悪意がないんだ。静岡さんを見るとそう思う」
「命がけの行為に惚れたとか」
国枝が茶化す。
「どうだろう。ひと月でそうなるのは違うだろうな。剣崎さんはそういうタイプには聞こえなかった。何か別の理由があると思う」
そんな話をしていると、玄関のドアが開いた。
剣崎外志喜が立っている。
木村は少し慌てたが、国枝に目配せをする。
"動くな"
国枝は頷く。
外志喜は前を見たまま、2人に目を合わせない。そして静岡理恵の近くまで歩き、胸の上に一枚の紙を置いた。
ゆっくりしゃがみ込み、手を合わせ、家に入っていった。
「読むな」
最後に一言残して。
扉が閉まると同時に木村は話す。
「これは事故だ。何かに巻き込まれている」
「木村さんが断言するなんて珍しいですね」
国枝が驚く。
「剣崎さんは、自分の特性を大体掴んでいると俺は感じた。だから、こちらにもある程度の対応ができる者がいると踏んで、今の行動を取ったと思う。だから」
そう言いつつ、静岡理恵に置かれた紙を拾い上げた。
「何か伝えたい事がある、そして俺たちに影響がないように、だ」
裏を返して見た。
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あの青い集団、救世主をなんとかという宗教団体を好きにさせてやれ。
こんな奴を勝手に人の家に上がり込ませて迷惑だ。
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「なんすかね。やっぱ惚れてたんですかね」
国枝が言う。
「お前、緊張感が足りんぞ。剣崎さんに感謝しろ」
国枝を睨みつける。
「手紙はその内容に従って行動すれば死ぬ」
木村は続けた。
「意味は逆だ。ただ、わかりにくいから普通には使えない」
この手紙のやり方は、本部でも検討されていた。
手紙が行動をしばるなら、逆を書けばいい、と。
しかしこれは該当者からの一方通行でしか使えない。
こちらからだと、該当者がどんな行動を取るか分からず、常にリスクがあるからだ。
そして長文でも、手紙の数を増やしても駄目だ。
一つ一つは大丈夫でも、お互いが生きている間に条件が適合すれば、読んだ誰かが死んでしまうからだ。
「剣崎さんは考えている。これ以上は多分手紙を出さない。最大のヒントなんだ」
紙を見て考え込む。
「まずは宗教団体だ。国枝、探せ。青、救世主、簡単に見つかるだろう」
「わかりました」
国枝が、車に向かった。
剣崎さん、あなたの思いは伝わりました。
木村は自分しか聞こえないほどの声をだし、剣崎に感謝しつつ、国枝の後を追った。
私は始めに結末を決めて書いていくのですが、書いていくと、どんどん細かいところが変わっていき、結末に影響し始めます。
面白いもんですね。




