加奈の投稿
2019年8月19日。
栗山加奈の手は震えていた。
政府の掲示板が画面に映し出されている。
2ヶ月前に書かれた投稿に返事が付いていたからだ。
「うそ」
笑顔とともに顔が暗くなる。
もしかしたら、相手の人はもう。
投稿した後に気が付いた。
私の返事をしたら、その人は死ぬ。
そして加奈も、決めていた。
けじめをつけなければ。
もし私の投稿に返事があったら、ちゃんと返事を返して、自分も死ぬ。
そう決めていたから、データを消さなかった。
投稿してから、ほぼ毎日確認していた。
しかしこの2ヶ月、全く更新がなかったので、確認する事を諦めかけていたからだ。
「ありがとう。ごめんなさい」
もし、私たち同じ気持ちで返事をくれたなら、この人は書いたことに後悔をしていないはず。
だけど、それでいい、は私に取って軽い問題じゃなかった。
しっかり受け取れる覚悟はできていた。
「読ませて頂きます」
そう言って、クリックした。
操作に迷いはなかった。
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2019-08-18 14:11
title:re:誰か、私を覚えていてくれませんか
初めまして。
私は瀬尾ゆかりって言います。
貴方より少し年上の社会人2年目です。
私は今、4ヶ月目です。
だから"いない人"歴も貴方の先輩です。
これを読む時に気がつくと思うから、先に書くね。
返事を書いて、ボタンを押したら、私は死ぬ。
だけど、気にしないで。
逆にとても感謝しています。
最後に誰かにこうやって返事を書く事、貴方がどんな人か思いながら書く事、こんなに幸せな事だったんだってすごく思ってます。
貴方には最後まで生きて欲しい。
頑張って欲しい。
だけど、もしもう駄目だって思っても、私は今まで頑張ったね、偉いねって天国で貴方に言います。
だから
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途中から涙が止まらなかった。
何度、ありがとう、ごめんなさいを加奈は繰り返したか。
そして瀬尾の願い。
もうちょっと頑張れと書いてある。
でも。
そう思い読み進めていたが、「だから」で文面が止まっている。
なにかあったのだろうか。
少し嫌な予感がした。
検索サイトで名前を入力する。
「瀬尾かおり・・・さん」
検索ボタンを押した。
検索結果を見て、愕然とする。
「大量殺人。江田事件の再来・・・」
加奈は、ハッとしてテレビをつけた。
どの局も特集を組んで放送していた。
江田事件の再来。
殺害数、最低でも18人か。
出会い系を使った悪質な手口。
ヘリコプターが、駅周辺を飛び、ナレーターが大声で惨状を説明している。
その駅はそんなに遠くなかった。
「そっか」
加奈は少し微笑んだ。
「頑張ろうとしたんだね」
でも、これはみんなが可哀想だよ。
そう思った時に、ふと気が付いた。
覗き込むように掲示板と、ニュースの記事を見比べる。
掲示板の投稿日は14時。
事件は・・・夜21時。
ゆかりさんは、私の投稿に返事をしても、死んでいない。
これはつまり、もしかして。
"いない人"同士では、影響しあう事がない。
「私は殺してない」
加奈は自然と笑顔になった。
ゆかりさんは、辛い最後となってしまったが、それよりも自分の罪が、なくなった事に安堵した。
それと、もっと掲示板を使って、この事を他の人に、伝える事ができる。
それが加奈の心を明るくした。
もしかしたら、もしかしたら書き合うだけじゃない。
会えるかもしれない。
「それなら、読んでもらえるように」
加奈はまた画面に向き合い、新規投稿ボタンを押す。
"私は栗山加奈です。投稿して下さい。必ず返事をします。"
キーボードを叩く音には、自然と期待と願いが込められていた。
キーが気持ちに応えるように弾んだ。
誰か、誰か読んで下さい。
みんな、寂しくなくなるんです。
1人じゃなくなるんです。
連載形式にして、前より長く続けてます。
皆さん、よく何十話も書けるな、と思います。
繋げるので手いっぱいで、本当にすごいです。
そしてこの部分が予定より1番大きく話が変わりました。
ちゃんとまとめ上げろ、おれ。




