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通達から始まる孤独

2019年6月22日。

 宇野弘明(うのひろあき)に、一通の通達が届いた。


ー 包括的意思疎通絶対禁止命令 ー

通称"いない人"。


 発令は昨日付。有効日は今日から。

つまり既に俺は仲間入りだ。


 弘明もはじめはタチの悪いいたずらだと考えた。

しかし、緊急速報で流れた政府公報から今月のリストに名前がでた時には、目の前が真っ暗になった。

何故、こんな目に、どうして俺が。


 弘明は静かな部屋でうずくまって泣く。

もう彼に声をかける人はいない。



---

 1年半前の2018年1月、政府から重要な声明が発令される。

要約すればこんな内容だった。


『任意に選ばれた禁止命令対象者に、一定期間、いかなる理由があっても意思の疎通をしてはならない。相手をすれば疎通者および関係者の生命に甚大な被害が及ぶ』


 当然ながら信じない人もいた。


2月。

 政府からの要請を無視して強行されたテレビ番組。

番組名は「教えて?いない人」。

私は死なない、と公言するコメンテーターが、公開電話を用意して"いない人"と話す企画だ。

番組開始から12分後、コメンテーターへ掛かって来た電話に出た瞬間、彼は少し止まってそのまま倒れた。


 局の不手際か、ワザとかコメンテーターが動かなくなるまでの一部始終が放送されてしまった。

アップで映されてしまったその表情は、壮絶な苦悶、永遠とも言える地獄から解き放たれた安堵感の両方を表現したかのような顔だった。


 一瞬で身体が硬直したかと思うと、首から上が膨れ上がって顔は青紫色に変色し、小さくなったはずの白目が際立った。

 息が出来ないであろうその顔に向かって上げようとする腕は、ボンレスハムのように膨れ上がり、膝を曲げる事を許さない。

まるで手足の短い生物が、地面に足が届かずもどかしく動いているかのような、ある種滑稽に見える印象をうけた。

それが数秒続き、一瞬で身体が弛緩し絶命する。

これはインターネットで拡散され、今も探せば簡単に見つかる"サンプル"だ。

同時期に似たような事をやっていた他局も、急遽番組を中止した。

ラジオ番組でも犠牲者が出たとニュースになった。

FAXを受け取って、読み上げたからだ。


 マスコミはその放送の責任を隠すかのように、政府への対策を強く要求した。

しかし政府の回答は継続的に調査中、また該当者の算定、通達方法も極秘扱いの一点張り。


 ある政治家が情報を掴んだと報道番組で話したが、翌日には事故死のニュースに変わった。


3月3日。

 人々は恐怖と共に、この状況を受け入れるしかないのではと思い始めた頃、実際にこれだけでは終わらなかった。

通達を受けた人が家に引きこもった場合、確実に3日後に"あの死に方"をしたからだ。


 これがパニックに繋がる事になる。

政府の言う、一定期間がいつまでかわからない。

だから大人しくしていたかったが、何もしなくても死んでしまう。"いない人"達は何をしていいかわからず、街に出て自暴自棄になった。

それは、第三者が自暴自棄な状況だけを見ているなら大丈夫だが、"いない人"があらゆる手を使ってリンクするような言葉を話せば、"意思の疎通"となったからだ。


「あの、すいません、ちょっと聞いてもいいですか」

そう言って返事を待つ。

「生きたい、と言え、さもないと殺す」

錯乱して脅す者もいた。


 声をかけられた人も逃げればよかったのだが、気がつかず返事をすれば、待っているのは死だ。

話しかけた彼らは、自殺という形で自分の生を終えていたが、このような行為による道連れ殺人が増えてしまった。


 これは恐怖の連鎖になり、魔女狩りのようなリンチ行為にまで発展する。

無関係の人が、さらに犠牲になることもあった。


 事件の報道に熱が入る頃、全国の繁華街などがシャッター街となる事態も発生することになる。

どこで何があるかわからないからだ。

決して小さくないマイナスの経済効果に政府最後の対応を検討した。


 しかし、これも悲劇だった。


3月28日。

 渋谷で起きた「江田事件」。

"見えない人"になった江田という男性が、パニックに陥り、人々に意思疎通を迫った事件だ。

被害者はおよそ68人。

まず外出前に彼女は、貰った人が返事を仕向けるように、無差別にメール、FAXを送った。

その後、繁華街にでて刃物を持って脅し、声を上げた人に向かって話しかける、という方法で、大量殺人を実現させた人だ。

例えば悲鳴を上げる人がいたとする。そうするとその人に向かって、「悲鳴をあげてくれて、ありがとう」と言うだけのものだ。


 これには警察も動かざるを得なかった。

話しかけるという行為だけでは立証出来ない。しかし、結果を見れば、いち早く止めなければならない。

警察は狙撃手を用意し、死角からの射殺を試みた。

射殺は成功したが、ほぼ同時に狙撃手も亡くなった。

該当者の死に繋がる直接行為は、意思の疎通と同等の結果に結びつく事がわかってしまった。


 その事故が分かって、政府の専門研究班は直ちに直接的、間接的どちらの手段にもよる一切の直接解決を禁止した。

研究結果、また内々(・・)に進められた調査結果により、その対策規模に比例して非該当者への影響度が拡大するであろうとの報告だ。


 つまり、ヘリコプター等で狙撃すればパイロットも該当する。ミサイルなどを使えば多数の関係者も危ういとの見解だ。


 少し経った5月23日。

八方ふさがりかと思ったところで、自称「期間を終えた人」から匿名で連絡があった。


ー 3日間で100人ほどの人々とすれ違えば、禁止者の死が回避できる。走る以上の速度は駄目。歩く速度でなければならない。 ー


 政府、マスコミ共にテレビやラジオ、インターネットを使っていない人への説明と説得が行われた。


「必ず終わる。終わった人がいる」

「すれ違うだけでいい」

「やけにならないで。悲しむ人がいる」


 彼らも大量殺人を犯したい訳ではない。

効果があってか、街から江田事件の再来は今の所起きていない。

どうやら情報は本物のようだった。


併せてこの事件でわかったこともあった。


 「返事をしなければ、無視し続ければ大丈夫」

返事を期待する前提である、呼び込みなどの勧誘が街から消えてしまったが、効果は確かにあった。

少なくとも突発的な事故は激減した。


そして徐々にではあるが国民の生活は戻りつつある。


 ここまでが今までの現状。

インターネットのサイトから集めた拾った情報だ。


 政府のサイトには、通達を受け、該当した人への注意喚起が続く。

・みだりに家族の者にも声をかけてはいけない事。

・置き手紙、張り紙、インターネットへの投稿なども行わない事。

・決して取り乱さない事。

・長期間にわたる場合、様々なインフラが使えなくなる恐れがある事。

・自殺は、最後まで選択しない事。


「ある意味平等だな」

モニターを見ながら呟く。

ここには性別貧富なんの差もない。

相手にされない事に解決策はないのだから。


 ただ、気になる事がある。

政府は通知先を把握している。

同時に、死亡届による"回答"も得ているはずで、そこから生還者を把握できるはず。

何故それを公表しないのか。


弘明はなんの情報も掴めない自分に不安と焦りを感じた。

こういうのが書けるのか挑戦。

今までで1番長くなります。

どうなるやら。

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