シナリオⅣ 4 前章 第5話〈後編〉
シナリオⅣ 4.5〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?
たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉
I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time
草創歴0449年5月(5/30)〈後編〉
ナウタは夢を見たと言った。
『ただ、お兄ちゃんに会いたかったんだ。そしたら「御霊」の声が聞こえたんだ。ここから出してあげるって…お兄ちゃんが燃えてて、死んじゃうと思ったから…。』
だが、それは紛れもなく、ハーリィー・ハーピーズによって亜空間に封じられた際に、結界因子「太陽を統べる者」(ジ・ヘリオドムス)を覚醒させた時分と重なる。
兄弟としての因子が、ナウタにもまた影響を及ぼしたに違いない。
因子を顕現した事で「結界神殿」の障壁が一時的に弱まった可能性もある…。
『おい、兄さん!どう言う事だ?何で俺様達だけ、外に出ちゃいけねえってんだ!?』
「…ドミュニエイティス殿の考えた事だ。分からぬ。」
とは言え、外に出るを禁ずると言うことは、内側を護れとも暗に取れる。
この土蜘蛛…ウリュウ・テウズスウならば、確かに一個師団の戦力に相当しよう。
…外では既に戦端が開かれている。
御霊山の入り口、「荷葉座台」にて護法天道(ディ-ヴァ)を束ねるは「明王位」マカ・ロン・タオであった。
また、双璧としてヒカル・マデュスティック・リユセもこれに加わる。
だが、ヒカルの胸中は複雑であった。
眼下で亀裂に呑み込まれてゆくは、かつて自らが率いた法王院棺護軍の武者等である。
更には、『臂釧・腕釧如意珠王』に踏み込んだ者達も鬼脈の波動に貫かれ、たちどころに昏倒した。
のみならず、波動に覆われた者達はむくりと起き上がるや、その刃を味方に向ける。
その瞳に精彩なく、「声院の使徒」(ハウグフォルク)の意のままに操られし傀儡と化したのだ。
「こうなる事が分かっていて、我々を先行させたのかっ!?」
烈火の如く、メディウム・パオシアオは綿津見たるオグ・ザ・ゴグマに噛みついた。
『これはこれは…それに関して勘繰られても困る。猪突猛進はそなた等の得意とする所であろう?』
「…おのれ…それ以上の侮辱は許さぬ!」
一線を超え、メディウム・パオシアオは愛刀「迦陵頻伽羅妙音刀」を抜き放つ。
『ふっ…まあ、待て。我らが綿津見の役目は、あの「臂釧・腕釧如意珠王」を打ち破り、突破口を開くこと。そなた等にそれが出来ようか?』
オグ・ザ・ゴグマはメディウム・パオシアオと取り合わず、ゆるりと歩を進めた。
その背後に綿津見等を引き連れる。
『一同、標的は荷葉座台。「ジ・タリスム」臨界結合。「ディヴァナガライ粒子」を空間固定に設定。』
綿津見等の機械化装甲「イージス」が排気機関を露出し、展開されてゆく。
一列に並びた者達に、遥けき『結界神殿』より「ニライカナイの力」が無尽蔵にも注がれる…。
『撃てっ!!』
一斉に放射された綿津見色の閃光。
ドドドドォォォーーーォォォオオオンンン!!!
それぞれが思念操作によりて撃ち出す「ディヴァナガライ粒子砲」の渦は互いに交わり、溶け合い、細く細く束ねられ、『臂釧・腕釧如意珠王』に風穴を開けた。
瞬間、「御霊曼荼羅」にて詠唱を行っていた「声院の使徒」(ハウグフォルク)の1人が炎上し、苦痛に身を捻ったまま炭化した。
『狼狽えるな…他の者が代わりなさい。』
瞑想せしドミュニエイティス・アミュレットの指示により、一心不乱に詠唱は続く…。
だが唐突に、次々に「声院の使徒」(ハウグフォルク)等が炎上してゆくではないか?
『これは…?』
炎に彩られる「御霊曼荼羅」にあって、ドミュニエイティスは当惑した。
鬼脈の流れが千々(ちぢ)に乱れている…?
これは、綿津見によって抉じ開けられた間隙を縫い、何者かが鬼脈に紛れ込んだと思しい。
しかし、このような真似が出来る者など、居よう筈がない。
『この我、以外にこんな事が出来る者など…?』
瞬時にドミュニエイティスの左手が燃え上がりて炭化した。
『!?』
即座に左上肢の神経端末を断絶する。
『…誰だ?』
瞑想を解き放つ。
…「菩薩当麻転身」
拡大する意識が鬼脈の奥底へと沈んでゆく。
何かが障害となって、鬼脈の流れを阻害し、末端まで届かず涸渇させようとしているようだ。
今や赤き鬼脈の流れと同化したドミュニエイティスにとって、それは内臓を掻き回されるかのごとき苦痛を伴っていた。
『…お前は誰だ?』
揺らめく悪意の奔流がドミュニエイティスを前に嘲笑する。
『フッフッフッ…観賞用の人造人間ですか…製造番号アミュレットナンバー24…帝国製ですね?』
それはドミュニエイティスの過去を見透かし、人形として弄ばれてきた苦痛を呼び起こす。
『やめろ…今の我は人形に非ず…我は心を得たのだ…。』
『御霊と契約し、心を得たと?心は得ても、所詮は人形の体のまま。汚らわしい豚共に抱かれて来たその肉体が浄化されるとでも…?』
ドミュニエイティスは拒絶反応を示し、悲鳴を上げた。
だが、鬼脈の中にあっては誰にも届かぬ。
その変調と共に、鬼脈の流れの中で意識を形成する術を喪い、抗ずること叶わず、崩れ始める肉体。
千々(ちぢ)に崩れ、霧散するドミュニエイティスの意識は、その力を振り絞り、彼の者の心を覗こうと死力を尽くす。
『…お前の名は…モ…タイ…モタイ・メノウダイ…?』
『見事よな…なれど、貴様が消滅するも御霊の意思。そなたら護法天道(ディ-ヴァ)だけが、御霊の代弁者では無き事の証明であろう?』
崩れゆく意識のまま、そのような戯れ言は信じられぬと吐き捨て、ドミュニエイティスは散った。
まるで、儚き花びらにも似た美しき情景に、その者は吐息を漏らす。
この刻、脱け殻と化したドミュニエイティスの擬体が、「御霊曼荼羅」の中央で倒れ伏した。
同時に鬼脈の赤き波動は、御霊山上空に描かれし壮大な「祇園図(術式)」『阿羅漢呪宝』によって吸い上げられ、見る見るうちに涸渇し、『臂釧・腕釧如意珠王』を消滅させた。
霊子によって構成されし「祇園図(術式)」の上に佇むは、得体の知れぬ和装の衣を身に纏いし男だった。
素顔を隠すかのように、「霊符」の紋様が刻まれし布で覆っている。
彼は微動だにしない。
今、先程まで眼下の鬼脈に潜っていたが、これで永年の我が希求が果たされん日も近しい。
モタイは我知らずに咲う。
この異変は速やかに知れ渡り、『臂釧・腕釧如意珠王』を消失した御霊山など、もはや砂上の楼閣と同じ。
主戦力を喪った法王院棺護軍を尻目に、ここぞとばかりに第参帝国総軍に属する騎士等が群がる。
それをオグ・ザ・ゴグマが煽動する。
『一気に攻め落とせ。ヒカル・マデュスティック・リユセを討ちた者には、確たる地位が与えられよう。』
対するは、「荷葉座台」を守護する護法天道(ディ-ヴァ)数名のみの多勢に無勢。
先頭に立つマカ・ロン・タオも難色を示す。
なれども背水の陣。
「ここで引き下がっては、後の世に伝わるは名折ればかりっ!ここは不退転を貫くのみっ!!」
ヒカルはマカ・ロン・タオを押し退け、愛刀「日月相刻杵」を掲げたままに疾駆する。
攻め寄る騎兵を緑光石色の剣閃が両断し、血飛沫上げて打ち倒してゆく。
ザシュッッッ!!!
その様はまさに電光石火。
騎乗に対する不利を一蹴するは、ヒカルが有する六世奥義。
「…燕王供御天部!!!」
戦場に舞う大将の息吹。
その健在ぶりを誇示して見せる。
これに勢いを得て、護法天道(ディ-ヴァ)等も戦線に加わった。
なれば、マカ・ロン・タオとて傍観する訳にはいかない。
「とは言え、死に行くようなものを…。」
まさに言葉通り。
既に鬼脈は封ずられた。
鬼脈からの「呪」を使用する事は叶わない。
それは即ち、護法天道(ディ-ヴァ)特有の「護法気」を使用出来ぬと言う事に他ならない。
にも関わらず、決死の覚悟で刃を振るっている自分がいる。
…まあ、それも良かろう。
マカ・ロン・タオには護るべき故郷が無い。
公家にとって双子は縁起が悪く、「トルフィット(物質感能力)因子」を持たぬと捨てられ、法王院に拾われた日より、己の生死に興味は無い。
…ここで死すのも一興か。
次の瞬間には、血塗られた争いに身を投じていた。
ともあれ、奇跡が起きぬ限りは、この御霊山が滅ぼされるは必須。
だが奇跡などそうそう起こる筈もない。
「声院の使徒」(ハウグフォルク)の血縁者は根絶やしにされるが運命であろう。
そんな最中、一つの騎馬が群れより抜け出し、雄叫びを伴いて肉迫する。
荒れ狂う騎馬を制し、その視線が定めるのはただ一つ。
視線の先には、華々(はなばな)しくも他を寄せ付けぬ、ヒカル・マデュスティック・リユセの姿があった。
だが、その姿は酷く儚く見える。
かつての見知った壮麗なりし、緑光石色に輝く後光を背負い、鬼神かと見紛う姿は今は無い。
「我に勝機ありっ!鬼脈無き今、貴様の力は半減著しい!」
「メディウム殿!またしても、貴殿かっ!?」
打ち下ろされた刃を、寸前で弾き返す。
ガキィィィ…ン!!
衝撃にヒカルの右腕が痺れた。
「我がパオシアオ一門の存続が為、貴様の首は私が戴く!」
「馬鹿な事を…鬼脈が喪われたとなれば、この本州島を支える礎が失われたと同義!このままでは、何が起こるかも分からぬと言うのに!!」
それも聴く耳持たず、メディウム・パオシアオは己が六世奥義「忉利千眼」を以って、襲いかかる。
その表情に、己が勝利を疑う余地もない。
事実、ヒカルの身体能力は極限にまで低下していた…。
鬼脈を断ち、鬼脈を得て、その理を制御するが一族の固有因子。
それは鬼脈を辿り、「御霊」に結実する。
鬼脈が封ずられたとは、「御霊」が封印されたと等しい。
故に、ヒカルは迫る危殆をヒシヒシと感じ取っていた。
「やめよ!このままでは、この地に災いが降りかかる事になろうぞっ!」
焦燥感が募る。
だが、メディウム・パオシアオの「迦陵頻伽羅妙音刀」が四方八方より襲いかかり、ヒカルの身は木の葉の如く揺れ動いた。
「くっ!?」
このままでは、付け入る隙も見出せず、刃を受け続けるのも限界が見えよう。
それが見えているからこその「先見の法」。
彼は攻撃の手を緩めない。
…このヒカル・マデュスティック・リユセ、一生の不覚なれど、ここで野に屍晒すは本意ならず。
鬼脈無き今、己が肉体を鬼脈とし、その昇華によって、最強無比の一撃を放ち、窮地を脱するしか手段はあるまい。
だがそれは、魂の消費でもある。
瞬刻迷ったものの、もはや逡巡は無い。
「その首!貰ったぞ!!」
メディウム・パオシアオは、ヒカルがあえて生み出した隙に魅入られ、誘い込まれるように刃を繰り出していた。
勝利の構図を「忉利千眼」は確かに描いている。
「メディウム殿!もはやこれまでっ!」
ヒカルは魂を窮極にまで燃やした。
…「忉利千眼」の予測を、理を打ち砕く力を得んが為に。
二つの影が重なる。
まるで刻が止まったかの如く。
この刻を狙いすましたかのように、その男は忍び寄っていた。
「!?」
メディウム・パオシアオが気付いた時には、既に回避不可能な位置にあった。
背後を取られている。
「…オグ・ザ・ゴグマ!?貴様…何をっ!?」
『悪く思うな…我の標的は、その男を確実に葬る事…きっと親父も褒めてくれる。』
ヒカルにとっては、メディウム・パオシアオが障害となり、上空は死角と化している。
頭上の綿津見の姿を捉える事は出来ない。
『アグネヤストラ・フィンガー!!』
オグ・ザ・ゴグマの右手が白熱し、颶風が渦巻き、熱線を帯びたままメディウム・パオシアオの背を溶解し、紙切れのように貫いた。
「ぐがっぁぁあ!?」
その勢いは止まらず、その鉤爪は眼下のヒカルを直接襲う。
「メディウム殿っっ!?」
メディウム・パオシアオを目くらましとし、ヒカルを狙ったオグ・ザ・ゴグマの右手の鉤爪。
死角から放たれた鉤爪は寸分の狂いもなく、ヒカルを捉えている。
だが己が身よりも、ヒカルは凄惨なこの状況にあって、メディウム・パオシアオの身を案じ、その名を叫んでいた。
無論、戦意は消失している。
その刹那、身を割り込ませた障害により、オグ・ザ・ゴグマの鉤爪は遮られた。
ゴゴゴゴォォォ…。
肉の焦げる匂いが鼻を突く。
『馬鹿なっ…この我の右手を押し返すだとっ…!?』
それは、交差せし両腕の障壁。
メディウム・パオシアオの体を受け止めたヒカルが見たもの、それはマカ・ロン・タオが持つ六世奥義「多聞星守護」の鉄壁なる燐光であった。
「…マカロン殿っ!?」
苦痛にマカ・ロン・タオの顔が歪んでいる。
幼き頃に、法王院によって移植された『多聞星』の血統因子。
それを以ってしても、鋼と化した肉体を燻る熱含量。
細胞が焼き尽くされる。
既にメディウム・パオシアオはこと切れていた。
即死であったと思われる…。
ヒカルは自身の力の無さを嘆いた。
一方、御霊山内部の異変も著しく、激しい鳴動が続いている。
恐らく、鬼脈が封じられた事により、「御霊」に影響が出ていると推測するヒビヤ。
だが、今は弟のナウタと共に、如何にしてこの地を脱出するかに思いを巡らせるのみ。
しかし、『臂釧・腕釧如意珠王』が破られたことで、綿津見等は空間転移によって、次々と内部への直接侵入を果たしている。
各所で悲鳴が木霊していた。
襲われているのは非戦闘員であろう事は想像に難くない。
先行するウリュウを追い、難を逃れる二人の前に、彼が姿を現す。
「…ロム!お前か?」
綿津見色の機械化装甲「イージス」を纏いし青年が立ち塞がる。
よく見知った顔だ。
彼の名は「ロム・テッド・ラーマス」。
「海府の郷」(ニライカナイ)にあって、その長「エポナロッド・キロペー」に次ぐ地位にある「テッド家」の正当後継者である。
それはエポナロッド・キロペーが確保する、唯一無二の純粋なる「ラーマス族」の血統であった。
『俺と共に来い、ヒビヤ・ヴォルケーノ・ラウム…今ならば、俺がエポナロッド様に取りなす…。』
「…お前の頼みでも、それは聞けぬ…戻れば、ナウタはまた幽閉されてしまうだけだ。」
例え、かつての友とは言えども、そればかりは聞けぬ申し出であった。
『…ならば、力尽くもやむ終えまい…。』
空気が凍り付く。
だが、この瞬きする間に、ヒビヤとナウリは枯れ果てた鬼脈に飲み込まれていた。
ウリュウは、これはいかんと即座にヒビヤの影の内側に退避する。
『ヒビヤ…逃げ切る事など出来はしないのだぞ。』
呆気に囚われたまま、その場に取り残されたロム・テッド・ラーマスは嘯いた。
それは「菩薩位」ドミュニエイティス・アミュレットの最期の生命の輝き…。
その生命を鬼脈とする「菩薩当麻転身」により、ヒビヤを始め、ヒカルやマカ・ロン・タオ、その他の者達を抱きて、本州島アイゾンゲウアイスオ島を駆け巡る。
だが、掴んだナウタの手を二度とは離さない。
ヒビヤはそう誓った。
…枯れ果てた鬼脈の果てまでも、と。
(^ー^)ノバラバラになってしまったヒビヤ達…w




