表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/116

シナリオⅣ 1 前章 第7話

シナリオⅣ 1.7〈もしすべてがうまくいっているようなら、あなたは確実に何かを見落としているのだろう〉

If everything seems to be going well,you have obviously overlooked something


草創歴0449年4月(4/16)


竜刀が引き抜かれ、ステリアスの掌中に全てが戻った。


竜刀「アムドゥシアス」の刃は再生されている。

カーズから奪った幽体を喰らい、自己再生の構成物質へと変換した結果であった。


その代償とばかりに、ミッドガルダーに抱え起こされたカーズ・サイレントの幽体は、もはや維持する事も困難な状況に陥っている…。


『…残念だが、私はここまでのようだ…捨て置け…。』


消え入るかのような思念。

幽体の端々は既に消えかけている。


同将に背を向け、ステリアスは無言で歩み始めた。


「おっ、おい。ステリアスよぉ〜。」


振り返る余裕は無い。

もはやジ・ハド煌王國は潰えた。

脱出に要する時間を念頭に置いても、そう猶予は無い筈であった。


だが、そこで意見の相違が生じる。


ミッドガルダーはこのまま表層部、中央区画仮設執政宮に上がり、籠城戦の指揮を執る煌太子ライオネック(サイーシャ)と合流し、残存戦力をまとめ上げ、戦域からの離脱を主張。

正しい選択ではある。

だが目的が違う以上、もはや行動を共には出来ない。


「お前はお前の好きにしろ。俺も勝手にやらせてもらう…。」


ラシャ・コウヤショウは恐らくは、ソラト・パワーと共に行動している筈だ。


「ちっ!何だよ、勝手にしやがれってんだっ!」


何かわめいているが知ったことではない。


俺が目指すのは、下層部区画の中心部、動力機関「アストマイスキュロン」の全てを管理する「制御宮」。

「制御宮」は黒狼騎士団将ソラト・パワー直轄の領域エリア

ソラト以外では、煌王サハドのみが立ち入る事の出来る禁忌の扉。


ミッドガルダーと別れた後、ステリアスは一路、隔壁かくへきによって閉ざされた制御宮に向かい、脇目も振らずに駆け抜ける。

その光景を、いや、今起きている全景を、全てを監視する者がここに存在した…。


全天周モニターが空間に投影され、その数や数百。


損傷箇所へのエネルギー供給の停止を指示。

隔壁を閉じ侵入者の進行方向を阻止。

ミッドガルダーを表層へと誘導していく…。


「…サイーシャを餌に、ミッドガルダーとミリオン・メーカーを戦わせる気か?」


御名答。ラシャ・コウヤショウの推測通り。


『ええ、その通りデス。血による結界は弱まったとは言え、あともう一押し。メーカー家の血には消えて頂きマス…。』


ソラト・パワーは無表情のままに、煌王家の滅亡を宣言した。


煌王家の血「フィダグマン因子」。それはサイーシャには受け継がれては居ない。

そもそも、彼女は煌王の血さえ引いてはいない傀儡かいらいである。


表層映像は仮設執政宮内の「ライオネック煌太子」(サイーシャ)に焦点を定める。

その表情は凍り付いていた。

上書きされた擬似記憶に翻弄される少女が見詰める先、映像もまた他方を捉える。


それは銀翼騎士団将ミリオン・メーカーの、悪鬼羅刹かのような戦いぶりであった。


首都ジュライ表層、内壁に陣を張り、移動砲台の攻撃に晒されながらも、最後の砦となり得たのは、全身朱に染まりながらも戦い続けるミリオンの存在ゆえだ。


「…て、敵は…敵はドコダ…?」


だがそれは、もはや自らの意思の産物では無く、「外骨格装甲(モーターフレーム)」に操られるがまま。

内装されていた「狂気(オルギア)回路」が脳幹に浸透し、潜在能力以上の力を引き出し、強制的な殺意を増幅する。


キキキィィィーーーーーィィィン!!


白銀剣ルミナスの波動「(ダン)」が移動砲台をまた一つ、両断する。


ミリオンとしての身体疲労は限界をとうに越え、全身が悲鳴を上げていた。

朱に染めるは、自らの血潮でもあった。


だが「外骨格装甲(モーターフレーム)」は背部縮小型動力機関「アストマイスキュロン」によってエネルギーが供給され続ける限り、半永久的に稼働する。


ミリオンの顔は狂気と絶望に彩られていた。


とは言え、帝国の進軍は止まらない。物量の差は圧倒的であった。

このまま帝国の総統、闇将軍と闘い敗れるのも一興か。

ミッドガルダーが駆け付けたところで、状況に大差は無い。


それどころか、ミッドガルダーの左上肢機械義手も同様、「狂気(オルギア)回路」を備えている。

鎧タイプ程の効能は無いが、戦う為だけの手駒とはなろう。


…戦況は次の段階へと移っていた。


想定外があるとすれば、ソラト・パワーは傍らのラシャに問いただす。


『…ラシャよ、なぜステリアスの外骨格装甲(モーターフレーム)のアストマイスキュロンを破壊したのデスカ?』


死んだ筈の赤竜騎士団将。

だが突如の帰還。


…疑念。


「いや、すまないなぁ。まさか、あの傷で生きていたとは思わなかったのでな…。」


ラシャは飄々(ひょうひょう)として応えた。


海面開口部よりの進軍に対し、カーズ・サイレントを配置したが、それも無意味に終わった。

よもや、あの「怨形鬼(オルギア)」を討ち倒す者がいようとは、全くの想定外である。


下層ドック港を映し出す映像には、第壱帝国総軍麾下近衛肆(四)権士、レイズナー・ファルコンに率いられた潜入部隊の現況が映る。


対して、白象騎士団旗艦「エルフェンバイン(象の牙)」に立て篭もる残存兵の抵抗。


歯牙にも掛けずレイズナー・ファルコン、ゲイル・トライデントの両名は下層中枢部を目指す。

図らずも、先行するステリアスと同一ルートを辿っている。

ここ「制御宮」が標的であろう。


『時間の猶予は無イ…現状でも、あなたのソレを使用すれば、十三星座の結晶 (ゾア・クリスタル)を解放する事は可能でショウ…?』


それとは、ラシャ・コウヤショウが携える長大な槍を指す。

ラシャが煌王國に持ち込んだ、この禍々しいまでの異質な槍。


「十剣の盟約」により、幻の大国、「霊聖トリスティシア帝國」から借り受けた「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)である。


用意周到に進められてきた計画、その全ては草創歴四十二年、この地に封印された「十三星座の結晶」(ゾア・クリスタル)の解放にあった。

伝説に謳われる「魔人ファナティック」ギャリガに起因するもの…それはここ制御宮、中枢最深部に格納されている。


「ああ、その通りだな…。」


無造作に、唖然とする程に簡単に、ラシャは「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)でソラト・パワーを貫いていた。


『!?…貴様っ、何のつもりダ…?』


槍に貫かれたまま、ソレは微動たりしない。


「残念だが、俺の目的はお前達とは違うのさ。十三星座の結晶 (ゾア・クリスタル)は我々が戴く。」


『愚かな…たかだが小国の愛群アイグーン封土国ごときが…十剣の盟約に反旗を翻すナドト…。』


…ここに至りての謀叛むほんか。


だが、「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)に手応えは無い。

ソラト・パワーの全身を覆う布状液体金属「崇高なる銀」(クイックシルバー)の内部は、まるで空洞であるかのようだった。


『私に実体は無イ…私を構成するクイックシルバー、それ自体が記憶媒体でアリ、私は人格を複写された人工知能デシカ無イノダヨ…。』


「……。」


『そして、貴様のこの行動は逐一、我が本体二ヨリ共有サレルノダ…。』


ナノレベルで構築された金属、その構成原子一つ一つが機械化されている。

設計図さえあれば分子を自在に組み替え、あらゆる有機物を産み出す万能の液体金属。


三次元科学に特化した「機界(アガルタ)」による至宝「崇高なる銀」(クイックシルバー)。

それは生命でさえも産み出し、故に機界(アガルタ)の住人は「水銀生命体」とも称された。


「…代用のきく身体は羨ましいが…俺がお前をコレで殺すのは、今回で五回目だよ。」


『なん…ダ…ト?』


動揺の言葉の端々が不明瞭となっている。


「お前が煌太子を殺したあの日、俺はお前を殺した。」


液体金属の表面が澱む。


「どういう訳か記憶を失っちまうようだが…前からお前さん達、機械人形のやり方は気に入らなかったんだよ。」


躊躇う事なく、ラシャの反射呪言(ラクシャーサ)の「一の太刀」が、縮小型動力機関「アストマイスキュロン」を内蔵した頭部甲冑を破壊し、粉々に吹き飛ばす。


ガシャ…ャャャン


露わになったソラト・パワーの素顔は液体金属そのものだ。

だが、どうした事か槍に貫かれたまま、表面が激しく泡立っている。


曰くつきの「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)の効能か。

「真王殺し」と同質、「光の蛇」(オピオモルプス)の顕現けんげんを宿した槍である。

この次元界では役目を失効してはいたが、残された残滓は絶大な歪み(呪い)を今も宿していた。


この槍を用いる事で、何が起こるかは予期出来ない。


『ガガガッ…バカなッ…。』


だが、黒く変色した水銀生命体はヘドロ状のようで、形を保てずに崩れ落ちる。


ドシャ…ッ。


エネルギー供給源である「アストマイスキュロン」を失った今、ソラト・パワーであった存在は朽ち果てるのみであった。


「さあ、間も無く閉幕だ…早く来い、ステリアス。お前にも真実を見せてやろう…。」


まるで自嘲するかのごとく、ラシャ・コウヤショウは笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ