シナリオⅣ 3 前章 第9話〈前編〉
シナリオⅣ 3.9〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉
I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light
草創歴0449年8月(8/20)〈前編〉
メデューズ海峡から分かたれし水路は、チョール・ゲルニカ(国歌の都市)にも通じており、「西方快賊」エルフェンバイン(象の牙)級3番艦オルガデス(鯱の群)は潜行状態のまま、都市下層に位置する「太陽の御殿」(ソーレテンピィオ)へと寄港した。
「太陽の御殿」(ソーレテンピィオ)は地底湖の上部に建設された人工島である。
支柱として、天井部位から降下する通路を兼ねた巨大給水塔に吊り下げられた形状となっていた。
「永劫種」を封じ込めるには最適な形状であろう。
湖面の牢獄都市といった情景である…。
もう一つの通路は上層水路と繋がる、通常時は厳重に封印されている、この隠し水路のみである。
オルガデス(鯱の群)を収容するには幾分、小型の収容港ではあるが、既に補修用の機材は十分に揃えられていた。接舷と同時に、改修が急ピッチで行われる手筈だ。
「オルガデス(鯱の群)専任艦長、ナタク・ムコウジュです!御協力、まことに感謝いたします!!」
「いえいえ、こちらこそ~。あっ、ヤマさん達もお疲れさま~。」
何とも気の抜ける歓迎の言葉。
相変わらずのガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルの空気感。
ナタクの口調が堅過ぎる為、より一層その対比が見ていて面白い。
まあ、それはさて置きだ…。
「でも兄ちゃん、この潜水艦を直せんのかぁ?」
「それは大丈夫ですよ〜。凄腕の技術士さんが僕らにはついていますからね~。」
機材の搬入作業を的確に指示するのは、錬金道に精通した人物であると言う。
本来であれば、自国の極秘兵器である「オルガデス(鯱の群)」に触れられるを忌避したいところのナタクであったが、その人物の知識はそれを大きく凌駕するものであった。
無論、「銀の種族」(アエテルニタス)の帆船を改修し、飛べるまでに再生したのも彼の手腕である。
一瞥にて、これが「ヴォルフ」級を素体とした量産機であると察した。
記憶が正しければ、このタイプの躯体には「旧型アストマイスキュロン」を動力機関として搭載している筈だった。
年代的には中古代に設計された、比較的古い移動機関群である。
クリシュナ派に於いても、彼の素性経歴は詳しく知られていない。
ただ、マイルウェスト公国からの避難民だと告げたのみだ…。
その名を「サクトリフ・ヴォルフォルター」と言う。
蒼白の肌色と、銀色の眩い頭髪が特徴的な、知的相貌の際立つ青年である。
また、その色を好んでいるのか黒色一辺倒にて、異質な印象を与える。
破損個所に適合する「蒼色羯磨鋼」を即座に見繕い、選別し、「西方快賊」整備員をも驚愕させた。
だが、思いもかけずにサクトリフは苦笑した。
こんな場所で再会するとは、何の因果であろうか、と。
「何年振りですか?」
「…サーガイアの坊ちゃんと別れて以来だから…300年ぐらいか?」
「オルガデス(鯱の群)」の艦橋から降りて来たのは、戦術長官たるダン・ラーフアングリフである。
旧知の仲と言うよりも、腐れ縁のような関係か…。
「あなたは変わりませんね?もっとも、不夜種としてはまだ若い方ですからね。」
余計なお世話だと言わんばかりに、無作法にも作業台に腰を下ろすダン。その伊達男っぷりも変わらない。
「…そりゃ、あんたに比べれば若いだろうさ。あんたは機界の住人だからな。」
「そこに座るんじゃありません。図面が汚れるでしょう?」
そう言う雑な所も変わらない。
「で、いままで何をやっていたんですか?」
「…俺か?まあ、あっちフラフラ、こっちフラフラね。あんたは相変わらず、あのジジイと一緒にいるのか?」
ダンは未だにウルカヌス様を恨んでいると知れる。
その曰くたる「太陽の御殿」(ソーレテンピィオ)での再会であれば仕方ないものの、鬱屈した感情が見て取れた。
「残念ですが…あの方ともはぐれてしまいましてね。」
その結果、サクトリフは成り行きからクリシュナ派に在籍していた。
それもこれも、押し掛け弟子とも言うべき「テクノ・ミュラー・ウェストエイト」に懇願され、足止めされた結果でもあった。
全くもって出来の悪い弟子に振り回されている。今になって、あの方の気持ちが知れるとは思わなかった…。
とはいえ、必要とされる事は価値ある存在理由と言える。
機界の民にとって、既に追放された身ではあったが、個としての存在理由は生命維持と同等以上の価値があるのだから。
そして、もう一つの事案の件でもサクトリフは忙しい身の上であった…。
「サクトリフさぁ~ん。」
クリシュナ派の代表であるガチャトーレが遠くから呼んでいる。
言わんと知れた、特に珍しいケースの「研究対象」の1人だ。
この組織に居る限り、研究対象にいとまが無い。それは研究者冥利に尽きる事だよ。
「悪いが、話しはまた後で。これから緊急動議の為に議堂中枢室に全員集合なのです。あなたも来ますか?」
「…やめておくよ。俺は群れるのが嫌いなんだ。」
そんなところも変わらずか…。
既に旧施療院区画の議堂中枢室には、クリシュナ派の主要人物が勢揃いしていた。
緊張感が張り詰めていたものの、そこにヤーマンターカが顔を出すや、空気が一転して和やかになった。
とは言え、内心は御立腹のヤマさん…。
それもその筈、帰って来たそうそうに会議に駆り出されるとは、こちらは久し振りにマトモな食い物が食べられると期待していたものを。
「別に俺抜きでもいいんじゃないの?リンベルがいればいいんじゃないの〜?」
「それはその通りですが…一応、ヤマさんはクリシュナ派の参謀と言う事になっていますから、食堂は少し我慢してください。」
否定しないんだ。あまりのショックに開いた口が塞がらないとはこの事だよ。
それがリンベルの本音なのね…。
こんな時に慰めてくれるのはリューだけだ。
そのリューはと言えば、アター君は何処かと周りに聞いて回っている。
何をする気なのやら…。
「あ~、皆さん聞いてください。今日、皆さんに集まってもらったのはね、まず、こちらのサクトリフさんから詳細なお話しをして頂きま~す。」
ガチャトーレが議長席から、両側ヒナ壇の左側席に座すサクトリフ・ヴォルフォルターを紹介した。
ちなみに、右側総長席にヤーマンターカ等は陣取っている。
ヤマさん指定席だとか何とか言ってたな。
「サクトリフだ。健康診断に出てない人はちゃんと出るように。尿検査が提出されてない人物も多々いますよっ!」
「…。」
「あっ、間違った。私としては血液サンプルの採取の方が大事ですが…帝国に我々の拠点が知れたとの裏が取れました。自首するならば、早めにお願いしますね。」
一同、震撼とする。
「それはっ、俺達の中に裏切り者がいるって事かっ?証拠はっ!?」
サン・アガスティアが激昂し、サクトリフに異を唱える。
これに賛同する声も多い。
風雲急を告げる展開に、ヤーマンターカも呆然だ。
だが、ここで予想外の人物が非難の鉾先を別方向に投じた。
「奴は西方辺境の愛群封土国の密偵です!守護塞杜の総主ラシャ・コウヤショウの高弟ですよ!!」
「西方快賊」から特別参加と相成ったナタク・ムコウジュが追及するのは、クリシュナ派でも筆頭に名を連ねる羅刹のナユタ・ゴブジョウであった…。
だが、当のナユタは顔色一つ変えぬ余裕の体裁。
そこがまたナタクの感に触る。
その姿を見掛けた際には見間違いかとも思ったが、だが確かに奴は守護塞杜、かつては「羅刹機関」と呼ばれし組織の羅刹であると確信した。
「忘れたとは言わさんぞ、ナユタ!貴様らに滅ぼされし我が天山をっ!!愛群封土国の手先め!何を企んでいるっ!?」
「…だが、それは今の私には全く関係の無い話しだと思うのだが…?」
「貴様っ、よくも白々しい事を…。」
まさかの一触即発の気配。
しかも、どんどん議題から離れている気がするのは気のせいかな?
そもそも、出身が何処だとか、それに拘らず、協力関係にあるのが「クリシュナ派」だろうとする意見…。
そんな事を言ったら、組織として成り立たないだろうという意見…。
そんな事より、裏切り者の件はどうなったんだ?という意見…。
ちょっと待て、これは何の意見対立だ?室内のあちらこちらで代理喧騒が生じている。
…段々イライラして来た。
「おい、お前らっ!仲間割れしてる場合じゃないだろ。喧嘩はダメっ。」
ヤーマンターカの怒鳴り声が響き、一同を瞬時に怯ませた。
とは言え、冷静になってみれば、その言葉には何の説得力も無い事に気付く。
何の解決策にもなっていないのだ。
見上げるリューの期待の眼差しが痛い。
議長台に乗り出した手前、ヤマさん、引くにも引けず…。
「え~と、裏切った者がいようがなかろうが、この場所がばれたってんなら、やる事たぁ〜一つだろうが?違うかっ、お前らっ!」
勢いで口にしたものの、これが功を奏した。
ヤ〜マ〜さん!!ヤ〜マ〜さん!!ヤ〜マさん!!ヤ〜マさん!!
ヤマさんコールにての一致団結に、ほっと胸を撫で下ろすヤーマンターカ。
それはさて置き、ナタクは緊急動議後、ダン・ラーフアングリフから厳重注意をコッテリと受ける事となるのであった…。




