表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/116

シナリオⅣ 3 前章 第7話〈後編〉

シナリオⅣ 3.7〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉

I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light


草創歴0449年8月(8/5)〈後編〉


「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」で孤立する我らがヤーマンターカ・ハヒキ。


しかしながら、未だ、表立って拘束の気配がある訳でも無く、早合点の可能性も無きにしろ非ず…である。

それでも、二人の緊張感がリュー、アター両名にも伝わったようで、警戒の視線を巡らす。


「んでっ、ミュンヘンさんって人は何処なの?」


会談の目的は、帝国に対する対処について意見の相違を確認し、出来うれば「クリシュナ派」の支援を急進派に要請する事にある。


「残念ながら…ミュンヘン・サルヴァーティオは不在でしてな。」


だが、隣接する礼拝室より姿を現したのは、穏健派代表格にて「ステラマリスの六皇」のサキシュヴァ・アオゥルであった。

歳若くも異質な貫禄を(みなぎ)らせている。

また、背後に従えし武将、2名の殺気 (はなは)だしい。


「なるほど。ヤマさんの悪い予感が当たったみたいですね…。」


「俺が悪いみたいに言うんじゃなぁ〜い。」


誰もそんな事は言っていないのだが、ともあれリンベルにも思い当たる節があるのか、ヤーマンターカに同意する。

その者等の鎧、姿形を良く見れば、どこか見覚えがある…。


『…動くな。』


その内の一人が発した「言霊ことだま」が、瞬時にヤーマンターカ達の魂を縛り付ける。

俗に言う金縛り現象であった。


「くっ…みんな、奴は言霊ことだま使いです。気を付けてくださいっ。」


リューの指摘するように、これは東方辺境と称される大陸(ウァルキュリアス)に受け継がれる、「岩戸一族」の血統因子。

よもや、このような場所で「古都グローリー王国」の明武十将軍と対峙しようとは…まさに想定外であった。


「…どうかな?マツヤ卿。この者等が東の祇園「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)のラーマス族に相違なかろう?」


「確かに…。」


天邪てんじゃ」と称され、恐れられる冷面美麗の「言霊使い」(エイドロン)。

明武十将軍の1人「マツヤ・フィリップ・ロナルド」は、サキシュヴァ・アオゥルの言葉を肯定した。


「古都グローリー王国」からの使者として、同日、会談の場が設けられた折、サキシュヴァ・アオゥルから提示された取り引き条件。まんまと罠にはまったクリシュナ派の重鎮を差し出すと…そんなモノに興味は無かったのだが…。


「驚いたなっ!!コイツはヘイ家のヤーマンターカだぜっ?東の祇園の次期当主だぞっ。」


粗雑極まりない口調で言い当てたのは、マツヤ同様に明武十将軍である魔獣使い「ジュダ・アルフレッド・ジョージ」。「魔獣の園」の召喚術士であった。


ヤーマンターカと聞いてもしや?と思ったが、となれば好都合だ。


「…なるほど。ではサキシュヴァ殿、教皇会(プロヴェデンティア)穏健派は我々、古都グローリー王国と協定し、帝国を牽制する同盟を結ぶとの件、信用致しましょう…。」


マツヤは告げた。

ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスの首級と引き換えに…と。


「首を斬るなら、我がカエルム・キルクルス(天宝輪)の兵を貸しますぞ?ふはっはっはっはっ。」


つまりは、穏健派の策に(はめ)られ、取り引き材料にされたと言うところか。

それも、遠き東方辺境の一国家との同盟の為とは恐れ入る。

彼等にしてみれば、「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)は忌々しい宿敵に間違いは無い。


これは面倒な事になったと思案するリンベル。

カルディナーリス(枢機卿位)トニトルス・ム・コーロルの嘲笑がやけに腹立たしい。

ヤマさんじゃなくても、その鷲鼻をヘシ折りたくなってくる。


「それにしても、こんな粗雑そうな男が、あのラーマス族とは伝承もたかが知れていますな。ふはっはっはっはっ。」


徐々に苛立つヤーマンターカ。

もはや爆発寸前か…。

怒気に顔が膨らむ。


だが、先に動いたのはアター・ラ・ラセン。今回の同行者であった…。


「待てっ!教皇会(プロヴェデンティア)穏健派のサキシュヴァ・アオゥルは、帝国と同盟を結ぼうとしている。その証拠がある!!」


「貴様、何故動けるっ!?」


言霊使い(エイドロン)マツヤが驚愕に叫んだ。

そう、アター・ラ・ラセンには、魂を縛り付ける金縛りが効いていなかったのである。

ただの偶然なのか?それとも…。


だが、アターが言う証拠とは如何なるものか?

トニトルス・ム・コーロルは震撼し、脚が(すく)んだ。


「今ここに、証拠を見せよう…。」


冥府の穴「韻律の梯子」(スーカーラ)を通じて、墓守(ケルヌンノス)の劣化した因子により、その魂を現世に蘇らせるアター・ラ・ラセンの秘儀。

これが「ラセンの都」に住まう末裔に宿る、魔道とは一線を画する異能。


ズズズ…ズズズズ…ズズズ…。


無念の鎖に縛られし者「白豹(パンテーラビャンコ)のライ・ム」の現し身として、瘴気(ミアズマ)を凝縮し、形状を視認化させていく…。


「ばっ、馬鹿なっ…これは何のまやかしかぁ!?」


『…叔父上…よくも俺を騙したな…殺してやるぅ…。』


その恨みはトニトルス・ム・コーロルに向けられている。


「おっ、おま、お前は死んだ筈っっっ!?!?」


既に死したとの報告を受けていた「豹牙(ザンナ・パンテーラ)」新設奇兵隊の長官であった男。

ライ・ムはトニトルス・ム・コーロルの実妹の遺児であった…。


「俺は死人(しびと)を操る死人使い…。その男を使い、秘密裏にサキシュヴァ・アオゥルが、初代帝位ラシュア・エクナスと接触しているとの証言、既に割れているぞ!!」


急転直下。


ライ・ムの罪剣「フェアラート・クリンゲ」がトニトルス・ム・コーロルの胸部を易々と引き裂いていた。


ズシャャャッ!!


血飛沫を上げ、両断される肉体。


「ぐぎゃあああぁぁぁ!!」


と、同時に振り下ろされたジュダ・アルフレッド・ジョージの魔剣「ゲフィオンズ・ウィップ」が空を切る。

サキシュヴァ・アオゥルの肉体は霞みの如く消え去り、その刃から逃れていた。


「野郎ぉっ!初めっから幻術だとっ!?」


「…これはいっぱい食わされました。我々までも(たぶら)かされていたとは…十剣の盟約を違えたこと、後悔する事になりますよ、サキシュヴァ・アオゥル。」


マツヤ・フィリップ・ロナルドは溜め息まじりに呟いた。


「お~い、どうするの?とりあえず、この言霊ことだま解除してみない?一緒に脱出しない?」


ヤーマンターカは呑気顔で言った。

敵の敵は味方の理論か…。

腹立たしいが、まあ、一理はある。


「…いいでしょう。その提案に乗ります。」


「おいっ。マツヤ、マジでかっ!?」


だが当のヤーマンターカは思い付きで言った一言が、まさかの起死回生に繋がるとは思いもしない。

このまま首を取られる可能性も多大にあったのだ。


「おっ、動くぞっ??」


ふと、彼等は言霊ことだまから解放され、自由の身となった。


「…あくまで一時的な協闘ですよ。私達はこの場を脱出し、都市港に停泊している艦船に戻ります。」


「はいはいっ、俺達もこの街から出れればそれでいいのさっ!」


奇妙な共闘関係を結び、ピリピリとした緊張感が漂う。


「えっ~、これ大丈夫なのぉ?」


言いながらも、リューは期待感にワクワク顔。


まずは、この「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」からの脱出経路の確保が重要か。

それにはまず、この内室を取り囲んでいると思われる「カエルム・キルクルス(天宝輪)」の軍勢をどうするか?だ。


「ジュダ、頼みますよ。」


「はいよっ。人使いが荒いねぇ~。」


魔獣使いの家系に受け継がれる召喚魔道。

その肉体に刻まれた刺青いれずみが術式を体現しており、腕に刻まれた刺青が、指が示す本数が、生み出すべき飛獣ガルグイユの数を選定する。


「…術式解放!!」


ジュダの周囲に10匹の鳥形状の異質な黒毛獣が唐突に浮かび上がる。

魔獣「飛獣ガルグイユ」の群れが一斉に飛び立った。


「行けっっ!」


突破口を作るべく、それが扉を打ち破る。

装飾を第一とした硝子ガラス細工のステンドグラスが砕け散った。


ガシャャャーーーンンン!!


その後はもはや混乱戦と化していた。


「リュー、アター、はぐれるなよっ!!」


「はいはいさ〜!」


「…はっ、はいっ!」


立ち塞がる衛兵らをバッタンバッタン叩き伏せ、ヤーマンターカは通路を確保する。

先行する明武十将軍の姿はもう見えない。…優しくない奴等だ。


リンベルが視線を凝らし、襲撃の抜け目を探る。こういう時、「雲外鏡の眼」は便利だ。


一方、アター・ラ・ラセンには強力な護衛役、いまだ「白豹(パンテーラビャンコ)のライ・ム」が付き従っていた。

死人ゆえの異様さに、攻める側も手をこまねいている。


「アター君、こっち!!」


リューの霊符(アポストロ)が飛来し、その周囲のO2に化学反応し、紫電の残光を一面に生み出す。


バチバチ…バチバチバチ…バチッ…!!


これに触れたエクスオルキスタ(魔祓士)達は一様に跳ね飛び、気絶した。


「大丈夫?」


「…ありがとう。」


2人の友情が微笑ましい。


その時、大聖堂の外壁が破壊され、黒煙が内側に吹き込んだ。


「何じゃあ、こりゃ!?」


何事が起きたのか定かでは無いが、敵も味方も視線を遮られ、困惑する。

その間にも、モクモクと通路に充満しつつある煙幕。


「…皆さんっ!こちらです、急いで下さい!!」


導く声は、この気に乗じて「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」からの脱出を示唆する。

聞き覚えのある声だ。


「…急いでっ!」


ともあれ、逃げるが勝ちか。


「あれっ?あんた、案内してくれた兄ちゃんだよなぁ?」


それは御者を引き受け、彼等をこの場所に導いたエクスオルキスタ(魔祓士)、アミュアントゥス・クストーデ青年であった…。


またしても図られたか?とも思ったが、外壁を抜け出す道を先導する姿に、警戒する必要は無いようだ。そこまで俺は人間不信じゃないのだ。


「私は、このような事態が起きた場合に、皆様方を無事に脱出させるよう、ボヌム・レギオー(聖紋団)の指導者、ヒュークリスタル・ヴォーグス様より秘密裏に命じられておりました。」


ほほう。教皇会(プロヴェデンティア)も一枚岩では無いと言う事だな。


ともあれ、サキシュヴァ・アオゥルを中心とする穏健派は、今回の件で画策していた計画に遅延をきたす事となった。

キルカの領主「トニトルス・ム・コーロル」は討ち取られ、逆賊ヤーマンターカ・ハヒキの賞金額はグンと跳ね上がる事となる。

つまりは、策にめたがまんまと取り逃した事を公表すると同義。


一躍、ヤーマンターカの名は知れ渡る事となり、人の口に戸は建てられぬ。

即ち、彼こそは救世主か、はたまた破壊者かと。


教皇会(プロヴェデンティア)内部の穏健派と急進派の対立が、この日を境に著しくなった事を、関与者であるヤーマンターカは知る由もなかった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ