シナリオⅣ 3 前章 第7話〈後編〉
シナリオⅣ 3.7〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉
I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light
草創歴0449年8月(8/5)〈後編〉
「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」で孤立する我らがヤーマンターカ・ハヒキ。
しかしながら、未だ、表立って拘束の気配がある訳でも無く、早合点の可能性も無きにしろ非ず…である。
それでも、二人の緊張感がリュー、アター両名にも伝わったようで、警戒の視線を巡らす。
「んでっ、ミュンヘンさんって人は何処なの?」
会談の目的は、帝国に対する対処について意見の相違を確認し、出来うれば「クリシュナ派」の支援を急進派に要請する事にある。
「残念ながら…ミュンヘン・サルヴァーティオは不在でしてな。」
だが、隣接する礼拝室より姿を現したのは、穏健派代表格にて「ステラマリスの六皇」のサキシュヴァ・アオゥルであった。
歳若くも異質な貫禄を漲らせている。
また、背後に従えし武将、2名の殺気 甚だしい。
「なるほど。ヤマさんの悪い予感が当たったみたいですね…。」
「俺が悪いみたいに言うんじゃなぁ〜い。」
誰もそんな事は言っていないのだが、ともあれリンベルにも思い当たる節があるのか、ヤーマンターカに同意する。
その者等の鎧、姿形を良く見れば、どこか見覚えがある…。
『…動くな。』
その内の一人が発した「言霊」が、瞬時にヤーマンターカ達の魂を縛り付ける。
俗に言う金縛り現象であった。
「くっ…みんな、奴は言霊使いです。気を付けてくださいっ。」
リューの指摘するように、これは東方辺境と称される大陸に受け継がれる、「岩戸一族」の血統因子。
よもや、このような場所で「古都グローリー王国」の明武十将軍と対峙しようとは…まさに想定外であった。
「…どうかな?マツヤ卿。この者等が東の祇園「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)のラーマス族に相違なかろう?」
「確かに…。」
「天邪」と称され、恐れられる冷面美麗の「言霊使い」(エイドロン)。
明武十将軍の1人「マツヤ・フィリップ・ロナルド」は、サキシュヴァ・アオゥルの言葉を肯定した。
「古都グローリー王国」からの使者として、同日、会談の場が設けられた折、サキシュヴァ・アオゥルから提示された取り引き条件。まんまと罠に嵌ったクリシュナ派の重鎮を差し出すと…そんなモノに興味は無かったのだが…。
「驚いたなっ!!コイツはヘイ家のヤーマンターカだぜっ?東の祇園の次期当主だぞっ。」
粗雑極まりない口調で言い当てたのは、マツヤ同様に明武十将軍である魔獣使い「ジュダ・アルフレッド・ジョージ」。「魔獣の園」の召喚術士であった。
ヤーマンターカと聞いてもしや?と思ったが、となれば好都合だ。
「…なるほど。ではサキシュヴァ殿、教皇会穏健派は我々、古都グローリー王国と協定し、帝国を牽制する同盟を結ぶとの件、信用致しましょう…。」
マツヤは告げた。
ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスの首級と引き換えに…と。
「首を斬るなら、我がカエルム・キルクルス(天宝輪)の兵を貸しますぞ?ふはっはっはっはっ。」
つまりは、穏健派の策に嵌られ、取り引き材料にされたと言うところか。
それも、遠き東方辺境の一国家との同盟の為とは恐れ入る。
彼等にしてみれば、「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)は忌々しい宿敵に間違いは無い。
これは面倒な事になったと思案するリンベル。
カルディナーリス(枢機卿位)トニトルス・ム・コーロルの嘲笑がやけに腹立たしい。
ヤマさんじゃなくても、その鷲鼻をヘシ折りたくなってくる。
「それにしても、こんな粗雑そうな男が、あのラーマス族とは伝承もたかが知れていますな。ふはっはっはっはっ。」
徐々に苛立つヤーマンターカ。
もはや爆発寸前か…。
怒気に顔が膨らむ。
だが、先に動いたのはアター・ラ・ラセン。今回の同行者であった…。
「待てっ!教皇会穏健派のサキシュヴァ・アオゥルは、帝国と同盟を結ぼうとしている。その証拠がある!!」
「貴様、何故動けるっ!?」
言霊使い(エイドロン)マツヤが驚愕に叫んだ。
そう、アター・ラ・ラセンには、魂を縛り付ける金縛りが効いていなかったのである。
ただの偶然なのか?それとも…。
だが、アターが言う証拠とは如何なるものか?
トニトルス・ム・コーロルは震撼し、脚が竦んだ。
「今ここに、証拠を見せよう…。」
冥府の穴「韻律の梯子」(スーカーラ)を通じて、墓守の劣化した因子により、その魂を現世に蘇らせるアター・ラ・ラセンの秘儀。
これが「ラセンの都」に住まう末裔に宿る、魔道とは一線を画する異能。
ズズズ…ズズズズ…ズズズ…。
無念の鎖に縛られし者「白豹のライ・ム」の現し身として、瘴気を凝縮し、形状を視認化させていく…。
「ばっ、馬鹿なっ…これは何のまやかしかぁ!?」
『…叔父上…よくも俺を騙したな…殺してやるぅ…。』
その恨みはトニトルス・ム・コーロルに向けられている。
「おっ、おま、お前は死んだ筈っっっ!?!?」
既に死したとの報告を受けていた「豹牙」新設奇兵隊の長官であった男。
ライ・ムはトニトルス・ム・コーロルの実妹の遺児であった…。
「俺は死人を操る死人使い…。その男を使い、秘密裏にサキシュヴァ・アオゥルが、初代帝位ラシュア・エクナスと接触しているとの証言、既に割れているぞ!!」
急転直下。
ライ・ムの罪剣「フェアラート・クリンゲ」がトニトルス・ム・コーロルの胸部を易々と引き裂いていた。
ズシャャャッ!!
血飛沫を上げ、両断される肉体。
「ぐぎゃあああぁぁぁ!!」
と、同時に振り下ろされたジュダ・アルフレッド・ジョージの魔剣「ゲフィオンズ・ウィップ」が空を切る。
サキシュヴァ・アオゥルの肉体は霞みの如く消え去り、その刃から逃れていた。
「野郎ぉっ!初めっから幻術だとっ!?」
「…これはいっぱい食わされました。我々までも誑かされていたとは…十剣の盟約を違えたこと、後悔する事になりますよ、サキシュヴァ・アオゥル。」
マツヤ・フィリップ・ロナルドは溜め息まじりに呟いた。
「お~い、どうするの?とりあえず、この言霊解除してみない?一緒に脱出しない?」
ヤーマンターカは呑気顔で言った。
敵の敵は味方の理論か…。
腹立たしいが、まあ、一理はある。
「…いいでしょう。その提案に乗ります。」
「おいっ。マツヤ、マジでかっ!?」
だが当のヤーマンターカは思い付きで言った一言が、まさかの起死回生に繋がるとは思いもしない。
このまま首を取られる可能性も多大にあったのだ。
「おっ、動くぞっ??」
ふと、彼等は言霊から解放され、自由の身となった。
「…あくまで一時的な協闘ですよ。私達はこの場を脱出し、都市港に停泊している艦船に戻ります。」
「はいはいっ、俺達もこの街から出れればそれでいいのさっ!」
奇妙な共闘関係を結び、ピリピリとした緊張感が漂う。
「えっ~、これ大丈夫なのぉ?」
言いながらも、リューは期待感にワクワク顔。
まずは、この「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」からの脱出経路の確保が重要か。
それにはまず、この内室を取り囲んでいると思われる「カエルム・キルクルス(天宝輪)」の軍勢をどうするか?だ。
「ジュダ、頼みますよ。」
「はいよっ。人使いが荒いねぇ~。」
魔獣使いの家系に受け継がれる召喚魔道。
その肉体に刻まれた刺青が術式を体現しており、腕に刻まれた刺青が、指が示す本数が、生み出すべき飛獣の数を選定する。
「…術式解放!!」
ジュダの周囲に10匹の鳥形状の異質な黒毛獣が唐突に浮かび上がる。
魔獣「飛獣」の群れが一斉に飛び立った。
「行けっっ!」
突破口を作るべく、それが扉を打ち破る。
装飾を第一とした硝子細工のステンドグラスが砕け散った。
ガシャャャーーーンンン!!
その後はもはや混乱戦と化していた。
「リュー、アター、はぐれるなよっ!!」
「はいはいさ〜!」
「…はっ、はいっ!」
立ち塞がる衛兵らをバッタンバッタン叩き伏せ、ヤーマンターカは通路を確保する。
先行する明武十将軍の姿はもう見えない。…優しくない奴等だ。
リンベルが視線を凝らし、襲撃の抜け目を探る。こういう時、「雲外鏡の眼」は便利だ。
一方、アター・ラ・ラセンには強力な護衛役、いまだ「白豹のライ・ム」が付き従っていた。
死人ゆえの異様さに、攻める側も手をこまねいている。
「アター君、こっち!!」
リューの霊符が飛来し、その周囲のO2に化学反応し、紫電の残光を一面に生み出す。
バチバチ…バチバチバチ…バチッ…!!
これに触れたエクスオルキスタ(魔祓士)達は一様に跳ね飛び、気絶した。
「大丈夫?」
「…ありがとう。」
2人の友情が微笑ましい。
その時、大聖堂の外壁が破壊され、黒煙が内側に吹き込んだ。
「何じゃあ、こりゃ!?」
何事が起きたのか定かでは無いが、敵も味方も視線を遮られ、困惑する。
その間にも、モクモクと通路に充満しつつある煙幕。
「…皆さんっ!こちらです、急いで下さい!!」
導く声は、この気に乗じて「インファントゥルス(幼な児の)大聖堂」からの脱出を示唆する。
聞き覚えのある声だ。
「…急いでっ!」
ともあれ、逃げるが勝ちか。
「あれっ?あんた、案内してくれた兄ちゃんだよなぁ?」
それは御者を引き受け、彼等をこの場所に導いたエクスオルキスタ(魔祓士)、アミュアントゥス・クストーデ青年であった…。
またしても図られたか?とも思ったが、外壁を抜け出す道を先導する姿に、警戒する必要は無いようだ。そこまで俺は人間不信じゃないのだ。
「私は、このような事態が起きた場合に、皆様方を無事に脱出させるよう、ボヌム・レギオー(聖紋団)の指導者、ヒュークリスタル・ヴォーグス様より秘密裏に命じられておりました。」
ほほう。教皇会も一枚岩では無いと言う事だな。
ともあれ、サキシュヴァ・アオゥルを中心とする穏健派は、今回の件で画策していた計画に遅延をきたす事となった。
キルカの領主「トニトルス・ム・コーロル」は討ち取られ、逆賊ヤーマンターカ・ハヒキの賞金額はグンと跳ね上がる事となる。
つまりは、策に嵌めたがまんまと取り逃した事を公表すると同義。
一躍、ヤーマンターカの名は知れ渡る事となり、人の口に戸は建てられぬ。
即ち、彼こそは救世主か、はたまた破壊者かと。
教皇会内部の穏健派と急進派の対立が、この日を境に著しくなった事を、関与者であるヤーマンターカは知る由もなかった…。




