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シナリオⅣ 1 前章 第4話

シナリオⅣ 1.4〈もしすべてがうまくいっているようなら、あなたは確実に何かを見落としているのだろう〉

If everything seems to be going well,you have obviously overlooked something


草創歴0449年4月(4/16)


戦火が天を焦がしていた。

難攻不落の要塞都市「ジュライ」が燃えている。


海面を赤く照らし、上空からの雨のような爆撃が建築物を次々に倒壊、炎上させてゆく。


今、ジ・ハド煌王國は存亡の危機の只中にあった。

凄惨なる悲鳴と怒号、逃げ惑うも退路は無し。


天蓋を覆い尽くすかのごとく、ジュライ上空に鎮座する「帝国領 壇上伽藍(プルウィウス)」。それは浮遊する山のごとき形状。

このような存在が実在しようなどと、誰が想像しようものか…。


対空戦を想定した国家などあろう筈もなく、防衛線は紙切れのごとく切り裂かれた。


ほぼ無抵抗のまま表層は一掃され、帝国は掃討戦に移行する。

壇上伽藍(プルウィウス)」下面、開口部より次々と浮遊降下する兵装輸送装甲庫。

各10名を定員とする強固な防壁装甲に囲まれた輸送システムは、着陸後自動展開し、防壁兼移動砲台として機能する。


これを以って戦線を構成し、包囲殲滅。


僅かに防衛線を維持していた銀翼騎士団にも為す術も無く、散り散りに脱出を余儀無くされていた。


掃討戦の指揮を執るは黒衣黒貌の闇将軍。

帝国軍第壱階位、第壱帝国総軍総統。肆(四)大総統の一画にして、帝国を象徴する人物である。

もっとも、素顔さえも黒色異貌の兜に覆われ、彼がまことに旧ソルティア公国の英雄、かつての「六英雄」が一人、ダーク・フォード卿であろうかは物議を醸す話題として流布されている。


進軍の指示を下す闇将軍もまた、「総統専用多機能兵装移動砲台」(フェブリス)にて前線に参戦していた。


「…標的の捕獲を最優先とする。火線確保の後、集中砲火開始。」


「総統専用多機能兵装移動砲台」(フェブリス)の動力源は、「壇上伽藍(プルウィウス)」に空間結合配列を通じて直結している。

壇上伽藍(プルウィウス)」の最深部、「人型覇光機関(サーマスダイナモ)」。

陽極体「エノシクトン(雄体)」と陰極体「ガイエオコス(雌体)」の相乗作用増幅兵装(グリモア)により、莫大な空間定着(浮遊機能)の消費動力を生み出し、余剰な分を生命維持その他に供給している。


「総統専用多機能兵装移動砲台」(フェブリス)が展開を始める。

六つの液体放熱板が自動精製、輪状構築部に組み合わされ、超電磁粒子加速器砲塔(フェブリス砲)を形成。


注がれる動力と共に、加速輪が高速回転を始める。

装填される積層型湾曲封入弾頭。


電磁の火花と共に弾頭が解き放たれる。


ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴ…ドゴォォォーーーン!!


火線集中の先は、ジュライ首都中央区画「煌王城」対面。


内壁さえも薙ぎ倒し、高度圧縮された弾頭の貫通力は、空間を湾曲させた特異点の渦を生じさせる。

この為、物理的防御率は極めて低下し、防ぐ手だては無い。


轟音と共に内壁に風穴を開け、火線は煌王城の外壁を軽々と吹き飛ばした。


射程距離300メートル。


砲撃位置より150メートルに都市外壁。

外壁より半径150メートル後方、中心地に位置する「煌王城」まで一直線に侵攻ルートが開く。


「…進軍を開始せよ。」


闇将軍号令のもと、何ら膠着状態にも陥らず、帝国第壱総軍の進軍は淡々と開始された。


ライオネック煌太子帰還より僅かに3日の経過の後である。

全ては帝国の指導者、帝位初代王「ラシュア・エクナス」の先見の妙であった。


一方、海域に於いては後方追跡を命じられていた帝国海軍が「壇上伽藍(プルウィウス)」と刻を同じくして到達。


総戦力の半数を消耗しながらも、「ヴォルフ」級艦船用収艦機構から搬出された黒狼騎士団旗艦「ソラマス(太陽の狼)」を集中砲火の末、撃破頓挫させていた。

「ソラマス(太陽の狼)」は収艦開口部もろとも大破し、内部施設への入り口を晒したまま黒煙を上げ、海水を呑み込んでいる。


この光景に帝位初代王直属、第壱帝国総軍麾下近衛肆(四)権士が1人、レイズナー・ファルコンは(うそぶ)く。


「呆気ないものだな…ジ・ハド煌王國とやらも。」


近衛肆(四)権士を筆頭に主戦力を搭乗させた大型帝国艦艇・旗艦「迎講壱位」は内部進入経路を確保。

制圧戦に投入すべく、接舷を開始した。


「敵を侮るのは危険ですよ、レイズナー?」


彼の感傷を忠告するかのように、銀仮面の魔道士が歩み寄った。

レイズナー同様、第壱帝国総軍麾下近衛肆(四)権士が1人に数えられるゲイル・トライデントである。


元来、レイズナーとは旧知の仲であり、年若く近衛肆(四)権士に抜擢された彼の補佐役にも等しい。


このゲイルが何故に銀仮面で顔を覆っているのかを知る者は少ない。

とは言え、その耳と仮面から覗く瞳の形状から分かる事は、俗称 妖精族(エルトメンヒェン)か、もしくは畏怖すべき魔界族(ウリエアエネケン)の血を色濃く引いているであろうこと。見た目通りの年齢では無い事であろう。


「未だ、ジ・ハド煌王國の騎士団将は健在でしょうね。私はあなたの補佐に回りますから、制圧戦では一対一を心掛けてください。」


「……。」


対しての返答は無い。


ゲイルは苦笑する。

レイズナーの気性はわきまえていた。

助太刀などはもっとも嫌う質である。

お節介焼きとは分かっていても、この危なっかしい若者を放置する理由もない。


同じ近衛肆(四)権士とは言え、他の2名は人ならざる者と言っても過言では無い。

現在は闇将軍に同行し、地表制圧戦に加わっている最中であろう。

出来得る限り、関わりを持ちたくない部類のやからだ。


比して、レイズナーは一陣の風のような男である。

鋭角なまでに研ぎ澄まされた剣のように張り詰めていながら、どこかうつろいやすもろい。


自ら消し去った過去の記憶。

ゲイルの中の忘れ去られた残滓ざんしが、彼の行く末を見届けたいと願望しているのかも知れない。


「…感傷に耽っているのは、私の方か…。」


ゲイルが雑念を振り払った矢先の事である。


レイズナーと共に振り返ったゲイルの瞳に、後方待機艦勢が自沈する光景が見て取れた。


何が起きたと言うのか?


孤立無援のジ・ハド煌王國である。

今更、援軍が訪れようと些末さまつな事…。


援軍?


…いや、違う。

赤い影は唯1人。


掠奪せしめた東方辺境の艦船を乗り捨て、帝国軍の後方待機艦に衝突させたのだ。


と、無限とも言える赤き竜刀が直上から降り注ぐ!


ズダダダッッッ…ダダダッ!!!


無数に分かたれた刃が甲板上の帝国兵を淘汰とうたし、血の海に染め上げる。


「迎講壱位」に迫る斬撃を、だが銀仮面が生み出した「積層型響音結界(トララメス系)」が三層で竜刀を十数本、響音破壊した。


破壊された竜刀は紅き苦悶を上げ、ゲイルの銀仮面、その内に刻まれた刻印型術式を浸食する。


「ぐうっ…この程度で…この私をっ!!」


苦悶を振り払い、ゲイルは立ち上がる。

だが残されし二層の響音結界は、いとも容易く破壊された。


バキィィィ…ィィィン!!


紅きその男の「ヴァルヴァトスの眼」は、如何な理屈であろうとも、どのような術式を用いようとも、あらゆる事象を透過する。

透過するとは、その偽りを偽りとして、世界の理に問い質し、魔道の現象を消失させる術である。


「!?」


「迎講壱位」の甲板に降り立った、その紅き竜人を警戒するゲイル。


その鎧は激しく損傷していた。

特に背後からの斬撃は致命傷に等しい。


即ち、赤竜騎士団将「ステリアス・シーヴァ」の帰還であった…。


竜精の仮面には多数の亀裂が生じていたが、その両眼に満ちた復讐にたぎる念は一際激しく揺れている。


…風が揺らぐ。


レイズナーの刀身が鞘走った。


ロンダルキア(虹蛇)鉱石により鍛えられし封剣「カルシスト」。

世界の摂理として、霊的干渉を遮断する属性を備える。


加えてレイズナーの剣才。


感覚で斬るとは超越論であろう。

人の間合い、剣を持ち得た駆動範囲、関節の曲がる許容値。

人と言う骨格で行動する際、如何に剣の達人であろうとその範疇、剣筋に差異は無い。


差は刹那の速度と感応(一歩先を行く思考)に他ならない。

ならば、更にその先を行けば良いだけのこと…。


レイズナーは師「ガイヤ・ス」にそう叩き込まれた。

風のごとき自由な発想で。


故にレイズナーはこう呼ばれる。

「風色の騎士」(ア・エレイ)と。


それは彼が幼少の頃から、彼の魂に同居し続ける(シュルフ)と戯れ、その声を聴き、その流れを読む特質(エウプロシュネ現象)を身に付けた事に由来する。


レイズナーには風の流れが見えた。

風の流れとは、刻の流れでもある。


刻の動きが見える、それは剣を振るう者にとって、達人をも上回る剣才を付与した。


ガキィィィ…ン


そのレイズナーの操る封剣を、轟炎噴き上がる右掌中で摑み取るステリアス。


…微動せずに対峙する。


後に、共に歩を進める事となる二人の英雄、その初めての邂逅の瞬間であった。

だが、今は宿敵として名を互いに刻み込む。


ステリアスは掴んだ封剣を振り払うや、身をひるがえした。

半壊し、海面に口を開けたままの収艦開口部へと身を投じる。


「…!?」


その復讐の眼差しは今、誰に向けられたものであったのか?


破壊された黒狼騎士団旗艦「ソラマス(太陽の狼)」が輸送ゲージを封鎖している。

収艦開口部、各所の亀裂部分から内部施設に向かって海水が流出していた。


ステリアスは躊躇すること無く亀裂へと突入し、レイズナーの視線から消えた。

そこへ追撃を行おうとしたゲイルを、咄嗟に彼が止める。


「奴は敵なのか…?風が迷っている…。」


彼の顔は怪訝に曇っていた。

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