シナリオⅣ 1 後章 第3話
シナリオⅣ 1.13〈すべての解決策は新たな問題を生み出すのみ〉
Every solution breeds new problems
草創歴0449年6月(6/4)
それは聖堂騎士団長レーズダン・スサリーが、我が子ハルカ・ヴァル・スサリーを伴っての謁城を行なう前日に遡る…。
「ラフル島」(ラフルインゼル)の聖都ヴァイスを訪れる1人の傭兵の姿があった。
中央大陸に於いて全ての職種ギルドは、冬歴4436年に建設された「黄金宮」によって統括されてきた。
傭兵ギルドもその中の一つである。
だが、今や黄金宮は帝国の圧政により解体され、その下部組織「金眼の社」を推し立て、その傘下に収まっていた。
ギディエール商会からの依頼は個人指定であった。
傭兵ギルド高格十位「氷界の傭兵」と名高い「サーロス・フレアーノ」の指名だ。
「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)の中でも名門、「由緒ある剣」(アルトデーゲン)マオアー(土)家の当主の指示を仰げとのこと。
漠然とした依頼ではあったが、彼はこの仕事を一つ返事で引き受けた。
聖ラムサ王國 (ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)には、六英雄と謳われる「白き剣豪」(ヴァイス・シュヴェーアトマイスター)が健在である。
チャンスがあれば接触出来るやも、と期待しての事であった。
全身を包むケープが夜風に揺れる。
予定時刻よりも幾分到着が遅れたのは、「自由都市連合」が戦時通行制限を敢行した事による。
どこもかしこも「帝国」の脅威に脅えていた。
見上げれば、既に満天の星空が頭上を覆っている。
同刻、聖堂騎士団寄宿舎の一室で目を覚ました青年は、確かに感じる不穏な悪意の気配を察知していた。
病床から立ち上がろうとするも、四肢に力が入らず倒れ伏した。
あれから2ヶ月余りが経過したと言うのに、この肉体の変調は如何ともし難い。
「チッ…。」
力なく這ってでも進む彼の脳裏に、彼女の朗らかな笑顔が揺れる。
こちらがいかに無愛想に接しようが、身元引受人だと言い張る彼女は、恐らくは貴族の令嬢だと思われた。
頑な自身の心を顧みず、押し付けがましい感謝を要求する事も度々。
また来たのか?
あなたの顔を1日1回見ないと落ち着かないのよねぇ。
それが毎日の挨拶であった。
全ては直感と言う他ないが、その悪意の一つは彼女を狙っているかの様に思えたのだ…。
一方、マオアー(土)家当主の屋敷は聖都の「南」、聖都入り口に配されている。
これはマオアー家がスサリー家に継ぐ、実質上、聖堂騎士団の統制を行なってきた事に由来する。
第二階位の騎士である「ツェンズューデン・マオアー卿」は、老人ではあったが頑強な人物である。
彼は「氷界の傭兵」たるサーロス・フレアーノを値踏みするかのような面差しで迎え入れた。
実際、想定していたよりも年若い青年である。
見た目の細さに目を奪われるも、その切れ長の双眸は魔道士特有の異光に満ちている。
動じぬ冷淡さは傭兵ならではか…。
「…すまんな。人を待たせていたので、少し遅れた。」
会うなりツェンズューデン・マオアーは、その場に同席者を招き入れる。
「!?」
取り急ぎ「歳経た城」(アルタートゥーム・シュロス)から駆け付けた白き剣豪 (ヴァイス・シュヴェーアトマイスター)は開口一番、相好を崩した。
「オストロ・フレアーノの子だなっ!?会いたかったぜぇ〜!!」
それは久方ぶりに出会った甥っ子を抱くかの様に。
「いやぁ…しかし、ホントに父親にソックリだな。一目で分かるぞっ。」
彼にとって、共に「英雄戦争」で生き残り、六英雄と言う称号を得たオストロ・フレアーノ。その落胤とこうして出会うとは感慨深いものがある。
しかしこの展開は、サーロス・フレアーノにせよ想定外ではあった。
聖堂騎士団長レーズダン・スサリーと言えば、教皇会の「ステラマリスの六皇」の1人である。
言わば雲上の人物である。
そう易々と面会出来うる人物では無いと考えていたのだ。
それはその通りであったが、何処の世界にも例外中の例外は居るもので…。
彼はこのフレンドリーそのもののハグから判るように、常識に囚われぬ豪胆な偉丈夫であった。
「あの…スサリー卿、少し苦しいです…。」
「おおっ?いや、すまん。すまん。」
慌てて手を放すレーズダン・スサリー。
呆れ顔のツェンズューデン・マオアー。
動揺を隠せないサーロス・フレアーノ。
…三者三様、苦笑するしかなかった。
そんな安堵の空気を切り裂く感覚が全員を襲う。
これは世界の摂理を切り裂く感覚に等しい。
「まさかっ、聖王家の水の結界 (トロプフェン)が破られただとっ?」
聖都ヴァイスを覆う目に見えぬ水の障壁「水の王冠(クローネ=トロプフェン)」。
魔性を打ち払う絶対防御圏の破壊。
即ちそれは、大規模な進撃にあらず、魔性を帯びた者の単騎精鋭侵入と推測される。
「ツェン老、直ぐに聖堂騎士団の配置をっ!!」
レーズダン・スサリーは直ぐ様、傍らのツェンズューデン・マオアーに指示を出すが、見やった視線の先、ツェン老は袈裟懸けに斬られて伏していた。
何事が起きたのか?
黒刀「曠野餓鬼」。
その黒き大剣には見憶えがあった。
「ダーク・フォードっ!!お前なのかっ!?」
「……。」
忽然と現れた黒衣黒貌の闇将軍。
今や帝国軍第壱階位、肆(四)大総統の一。
無言は肯定と取るべきであろうか。
闇将軍に続いて、空間の湾曲から現れ出でる異貌の女。
何処から現れ、帝国に湾曲空間技術をもたらした当事者である。
彼女は帝国軍第参階位、第参帝国総軍総統。肆(四)大総統の一人、ハーリィー・ハーピーズである。
依頼主のツェンズューデン・マオアー卿は瀕死の重体にあり、これを護る事が優先事項と判断したサーロス・フレアーノは、自らの「アレイオス・パゴス(魔道)回路」を発動させる。
レーズダンもまた「召喚魔道」により、イグニファタス(火)家の鍛えし聖剣「ネルガール」を呼び出し、その掌中で物質化した。
「やるってんなら、手加減しねぇぞ!」
間隙を縫って打ち込まれた黒刀の斬撃を、レーズダンは軽々と撥ねつける。
ガキィィィ…ィィィン!!
豪語するだけの事はある腕前だ。
また、サーロスの細剣「アスタンフェウス(水星の王)」が冷気を帯びて打ち込まれ、一撃、二撃を目くらましに、ツェンズューデン・マオアーの背中の傷口を凍結させた。
「やるじゃねぇか!!見直したぜっ!」
「さほどの事ではありません。」
即興のコンビネーションではあったが、レーズダンの追撃は総じてハーリィー・ハーピーズの歪曲空間壁に阻まれている。
「こりゃ、攻撃が入らねえっ!」
案外、この歪曲空間壁ってのは物理攻撃とは相性が悪く、厄介であると実感するレーズダンであった。
他方、ハルカ・ヴァル・スサリーに肩を担がれ、彼等は「歳経た城」(アルタートゥーム・シュロス)に向かう路地を急いでいた…。
事の発端は、聖堂騎士団寄宿舎で療養中の青年が暴れていると、スサリー家別宅に立ち寄っていたハルカに一報が入った為である。
隣接地でもあった為、直ぐに駆け付けたものの、こう言う状況に至ったのは、その表情が真に迫っていたからに他ならない。
「第一、お前が行ったからって、何の役に立つと言うんだっ!?」
とは言うものの、この事態を早期に察知したのも彼唯一人だ。
まさか「水の王冠(クローネ=トロプフェン)」が破られる日が来ようなどと、國内の誰もが想像だにしない事態である。
夜刻、聖都は警報と光に包まれていた。
本来であれば、ハルカは第四階位の騎士として第三騎士大隊の指揮を執るべく、真っ先に「歳経た城」(アルタートゥーム・シュロス)へ向かわなければならない立場である。
ともあれ、寄宿舎に待機中の聖堂騎士に号令を掛け、警戒網に加わるように指示を出してきた。
「不審者、目撃時は直ちに聖堂の瞳 (ゼーエン)に通達する事!行けっ!」
「「「ハッ!!」」」
「歳経た城」(アルタートゥーム・シュロス)詰めの第一、第三大隊はツェンズューデン・マオアー卿もしくは、副官のアデュタント卿が手筈を整えていてくれよう。
あまり心配する理由はない。
それよりも肩に担ぐ青年は、彼女(レーアか?)が危険だと夢現のごとく繰り返し、進むべき方向を指し示す。
その矢先の事であった。
ハルカ達の前に、路面の一際濃い影の内側より、人の形をした物が生じた。
だが、その半身は未だ影の中に没している。
『…何と言う偶然…聖王女の首を戴く前に、とんだ標的を見つけましたよ。』
影の中の男がほくそ笑む。
影に浮き出る異様な双眸と唇。
それは血の如き、生々しい真紅に染まり、歪んでいる。
『おお!我等が王マスター・エイヴィスよっ!この者を討ち取りたまへ!』
それは歓喜にも似て、それを狂気と共に呼び寄せる。
「な、何だっ!?」
突如、ハルカ達を襲う黒き鳥の群れ。
バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!!
何処から現れたものか、その衝撃は計り知れず、二人は路面に打ち投げられた。
「くっ…!!」
背後の赤髪の青年はピクリとも動かない
路面を転がりつつ、ハルカは追撃に備えて「凱化剣」を抜き放ちて起動する。
ピキィィィーーーン。
「聖堂の瞳」(ゼーエン)に連結するこの凱化剣は、聖堂騎士総員が所持する、その身の証でもある。
同時に、情報を共有するためのシステムでもある。
魔道の光「リヒト(座標点)」が転送され、剣身を灯す。
物質化した影による鳥形態の攻撃を数匹寸断し、ハルカは距離を取るや、凱化剣を通して遠距離転送される光状の鎧に覆われた。
「シュテルケン(着装)!!」
光が物質化され、その身に一瞬にして纏った聖堂鎧は純白の煌めき。
正面胸部には水色の紋章が刻まれている。
それは「神聖なる庭」(ハインリッヒ・ガルデン)を表す紋章であった。
だが、その影による鳥の群れもまた路上に集結し、ハルカの眼前で一つの個体と化しつつあった。
身の丈2メートル、頭髪を逆立て、全身は闇色の天鵞絨に包まれている。
そして瘴気の渦を纏う闇…。
帝国軍第肆(四)階位、第肆帝国総軍総統。肆(四)大総統の一人、マスター・エイヴィスである。
「くせ者めっ!!」
躊躇う余裕はない。
ハルカは凱化剣を袈裟懸けに斬り落とす。
バキィ…ン!!
聖堂鎧と同じ硬質「白輝石」で作られた、ハルカの凱化剣は、いとも容易く叩き折られていた。
瘴気を纏った、その手刀により容易くだ。
『…ラシャから話しは聞いている。さあ…貴様の心臓を貰おうか…ジ・ハド煌王國の赤竜将よ?』
マスター・エイヴィスの影に住まうソレが、口を歪ませてほくそ笑んだ。




