シナリオⅣ 1 前章 第10話
シナリオⅣ 1.10〈もしすべてがうまくいっているようなら、あなたは確実に何かを見落としているのだろう〉
If everything seems to be going well,you have obviously overlooked something
草創歴0449年4月(4/16)
残骸を這い出しながら、どうにかしてミッドガルダーは下層軍部専用移送昇降ゲートに辿り着いた。
背中に担いだステリアスはピクリとも動かない…。
途中、帝位初代王直属、第壱帝国総軍麾下近衛肆(四)権士が1人、レイズナー・ファルコンとすれ違ったものの、一瞥をくれたまま、見逃された。
互いに構っている余裕が無いと言う事だろうな…。
「十三星座の結晶」(ゾア・クリスタル)の解放とともに、制御宮の外部第三回廊内の全ての動力機関「アストマイスキュロン(強い息)」は自動的に暴走するよう設定されており、もう間も無く臨界点に到達する。
ミッドガルダーは今、「ヴォルフ」級艦船用収艦機構に直結する下層区画ドック港に降下していた。
もはや脱出ルートは、それしか思い浮かばない。息急き切って先を急ぐ。
案の定、白象騎士団旗艦「エルフェンバイン(象の牙)」はゲージに拘留されたまま、団将の帰りを待ち続けていた。
「でかしたぁ!!よく耐え忍んでくれたな、お前らぁ!!」
接舷通路の切り離しを指示し、すぐ様、出航可能の可否を整備員に確認する。
「すぐ船を出せっ!もうここはもたんぞっ!!」
慌ただしく出航準備に取り掛かかる。急げ!急げ!と発破をかけ続けるミッドガルダー。
「ダメですっ!収艦開口部が塞がっていて出れませんっ!!」
「あんだとぉぉぉ〜!?」
泣き言を言いやがる。
更には、移送通路に動力が届いていない為に、ゲージ移送機構が稼働不可能な状態だ。
だが、どちらにせよ、ここに留まるは死地以外の何物でもない。
「バカ野郎ぉっ!!出なきゃ死ぬんだぞっ!海水が入り込んでんだ、最大出力で登ればいい!!」
手動にて装甲接舷アームが切り離され、緊急時ゲージ開放により、水没区画から海水が流れ込んだ。
ゴゴゴ……ッッッゴゴゴ…ゴゴゴゴォォォ。
動力機関「アストマイスキュロン」に火がつく。
「野郎どもぉ!最大船速で障害物にぶち当てろぉ!」
白き巨大艦船「エルフェンバイン(象の牙)」が唸り声を上げて、ゲージ移送通路に突入した。
ドッシャャャャャーーーンッ!!!
その衝撃と振動は尋常ではない。
流れ込む海水を逆手に取り、鉄骨の斜面を駆け上がって行く。
海面まで、およそ200メートル。
サイーシャの亡骸を抱えたまま、幽鬼カーズ・サイレントは、この國と運命を共にすると告げた。
未だ彼等は中枢部第一回廊で、その刻が来るのを待っているのだろう…。
海面まで100メートル。
エルフェンバイン(象の牙)の速度が急激にガクン落ちる。
「何だっ!?どうしたっ??」
2基搭載する「アストマイスキュロン」の一つが出力不安定となった。
作業員が必死の調整を行うが、同時に装甲の外傷も激しい。
海水の流入も始まっている…。
「団長っ!応急処置じゃ限度が…。」
「グヌヌヌぅ…。」
苦虫を噛み潰す。
鉄骨構造剥き出しの内壁に船体が接触し、船速も安定しない。舌を噛みそうだ。
「根性だっ!!根性で登れぇぇぇ!!」
海面まで50メートル。
ステリアスの双眸に光が宿った。
「お、おいっ、おめえっ!?」
担がれていた手を逃れ、ステリアスは自ら床に降り立つ。
…感じる。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…。
金色の輝きが胸部にて脈打っている。
眼前に迫る収艦開口部を塞ぐ残骸、それは黒狼騎士団旗艦「ソラマス(太陽の狼)」。
それを勢いで押し出すだと?無謀この上ない失策だ。
「ミッドガルダー…無謀な賭けをしたものだな。」
「んなこと言ったって、おめぇ。」
ステリアスは自らの心臓に霊的結合を果たした「十三星座の結晶」(ゾア・クリスタル)の聖刻術式を解き放つ。
キイイイィィィ…ンンン!!
「…パルテノス(処女宮)変生。」
力の奔流が黄金色の「蝶の羽」(プシュケ)を背に形成し、その身を飛ばす。
…時空間転移。
海面、見降ろす先に黒狼騎士団旗艦「ソラマス(太陽の狼)」の大破した残骸があった。
瞬時にしてステリアスは暗雲渦巻く虚空の空にいた。
「…クリオス(白羊宮)変生。」
次いでステリアスの後頭部、黄金色の後光が浮かび上がる。
孔雀の羽根状刻印が煌めきと共に、放射線状に無限に拡がってゆく…。
「アルネイオスの炎」の一斉放射。
ズゴゴゴ……ゴゴゴォォォーーーーン!!!
凄まじい熱線の渦が後光から伸びきり、弧を描き、開口部を塞ぐゲージと「ソラマス(太陽の狼)」をアメのように溶かした。
圧倒的な熱量が周辺の海面を干上がらせる。
ドカァァァーーーーーァァァンンン!!!
間一髪、隙間を抜け飛び出す「エルフェンバイン(象の牙)」。
追って瀑熱の余波が開口部を破壊し、船体を空へと突き上げる。
制御宮の「アストマイスキュロン」が連鎖瀑発し、大規模な対消滅を起こした結果であった。
「ぐあぁぁぁあ!死ぬかと思ったぜぇぇぇ!!」
海上へと飛び出した船体の甲板にて、ミッドガルダーは確かに見た。
あの時も、黄金色に彩られたステリアスの姿を…。
それは、あのラシャ・コウヤショウの「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)でさえも一蹴した力だった。
「十三星座の結晶」(ゾア・クリスタル)と霊的結合して早々、ラシャに対して使用したのはアイゴケロス(山羊宮)変生だ。
それは「ヘイズルーン」(ヒースの知恵)。
その空間、半径100メートルに於ける対象者を、任意に属性剥奪、摂理遮断無力化する。
「馬鹿なっ!?槍の永久不変が打ち消されただとっ??」
あってはならない事だ…そんな事があってはならないのだ。
だが、ラシャ・コウヤショウの慄きは止まらなかった。
…属性剥奪だと?
「そうだ。ラシャ、お前の属性を剥奪した。今のお前に、これが受け切れるかな…アスクレピオス(蛇遣宮)変生。」
ステリアスが伸ばした両腕から黄金色の奔流が吹き出し、巨大な獣爪を形成する。
これぞ「龍種皇顕現」である。
ガシャャャーーーン!!
床を抉り、圧倒的な質量がラシャを押し潰す。
「グハっ!?」
受けた「神殺しの槍」(トリスカイデカトン)が真っ二つに折れ曲がる。
のみならず、ラシャの呪言反射も機能していない。
その事実に打ちのめされるラシャ。
それ以前に、あの巨大な獣爪に叩き伏せられ、ラシャは一撃で半身を潰されていた。
まさに圧倒的であったと言える。
「…これが十三星座の結晶 (ゾア・クリスタル)の力…お前の力か…素晴らしいじゃないか、ステリアスよ…。」
捨て台詞としては如何なもんか?
ラシャの奴は、勝ち目無しと見るや、即座に姿をくらませやがった。
全く、相変わらず、退き際の良さだけは大したもんだぜ。
「っか、ステリアスっ!!おめぇ、手を伸ばせっー!!」
交差する視線。
状況が同じなら、「十三星座の結晶」(ゾア・クリスタル)を使用した直後、ステリアスはガックリと昏倒する筈だ。
あいつ、空に浮いたままだし…嫌な予感が的中した。
甲板から剛腕を伸ばすミッドガルダー。
「ちきしょおおおぉぉぉ〜〜〜!!」
だが手は届かず、すり抜け、ステリアスの身体は金色の輝きを失い、途端に降下した。
その身体は海面にのみ込まれ、濁流に紛れる。
ゴゴゴゴ…ゴゴゴ…ゴゴゴォォォ…。
ミッドガルダーの叫び声がこだました。
それはジ・ハド煌王國首都ジュライ陥落の日。
帝都戦争を翌年に控えた、全ての始まりの序章。
その事象の一端であった…。
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