婚約破棄・・・しますか?しませんか?
思い付きで書いたため、細かい設定はありません。
そんないい加減さでもよろしければ、お読みください。お楽しみいただけたら幸いです。
「ごめん、ノーラ。僕、他に好きな人ができた。」
そう私に告げたのは、私の婚約者、カイ。久しぶりに一緒に昼食を取ろうと、中庭のベンチに座ったところだった。
「そんな・・!」
「ごめん。」
「・・・どなたか聞いてもいいかしら。」
「マリアっていうんだ。」
噂は聞いていた。私は技能科の騎士クラスにいるカイと違って、普通科だったから直接見たことはないけれど、技能科にとても可愛い女の子がいると。その子は何事にも一生懸命で、誰もが守ってあげたいと思うのだそうだ。
彼女には魔法の才能があり、魔法クラスだけでなく、共に戦うこともあるだろうと騎士クラスの授業にも参加していて、両クラスの成績優秀な美形たちと仲がいい。いつもみんなの憧れの見目麗しい男性たちに囲まれているそうだ。その中にカイもいた。
彼らは全員、自分の婚約者に婚約破棄を告げ、マリアさんを選んだ。そして、最後に残っていたのがカイだった。これで私も絶賛大流行中の婚約破棄される女性になるわけだ。
カイだけは彼女でなく、私を選んでくれると思っていた。親の決めた婚約者ではあったが、私はそれなりにカイのことが好きだったのだ。カイは騎士になるため毎日剣の練習に励んでいたから、私も毎日差し入れを持って行ったし。結婚しても二人の時間はたくさん取ろうとか、子供は三人くらい欲しいなとか、子供たちが手を離れたら二人で旅行に行きたいなとか、カイの最期は私が看取るんだとか、そんなことを考えるくらいには大好きだったのだ。
私を捨てないでと、みっともなくてもいい、すがってしまおうか。でもカイはこうと決めたら一直線だ。思いとどまってはくれないかもしれない。でも、といろいろ考えていると、カイが私に聞いてきた。
「どうすればいい?」
「え?」
「婚約破棄、した方がいい?しない方がいい?」
まさか、意見を聞かれるとは思わなかった。それはしない方が私にとってはいいけれど、カイはそれでいいんだろうか?
「みんなは婚約破棄したって言ってた。婚約者じゃないマリアを好きになったからって。ねえ、ノーラ、婚約破棄するとどうなるの?」
あれ?そこ?そこからなの?
そう言えばカイは時々びっくりするような事を聞いてくるんだった。そのたびに私が教えていたのだけど。一般常識を教える私に、感心したようにうなずき、私を見つめるカイは本当に可愛かった。その姿がもう見られなくなってしまうの?これが、最後の授業にならないように祈りながら、私は話を始めた。
「そうね、ではまず、婚約破棄をしなかった場合の話をするわね。」
「うん。」
「婚約破棄をしなければ、婚約者とそのまま結婚をすることになるわ。その婚約者以外の好きになった人を諦めるか、愛人になってもらうしかないわね。」
「愛人・・・それは不誠実だ。」
「そうね、どちらの女性に対しても不誠実ね。」
この国は一夫一妻制だ。もちろん、愛人も許可されてはいない。何か罰が課せられるわけではないが、周りからは非難される。カイは不誠実を嫌う。だから婚約者の私に他に好きな人ができたと正直に話してくれたんだと思う。
「では、婚約破棄をした場合の話ね。婚約は両家の契約の意味合いもあるわ。だから一方的な婚約破棄には償いが必要ね。」
「償い・・」
今回の場合、彼らはどうしたのだったかしら?確か。
「違約金を払ったり、家を勘当された方もいたわね。後は、自分と同じくらいの条件か、それ以上の優良物件と言われる方と元婚約者の方の仲を取り持った方もいたわ。」
「僕たちだったら?」
「そうね、私たちだったら違約金はかからないと思うわ。正式に文書を交わしているわけではないし、父とカイのお父様のお酒の席での話が元ですもの。勘当なんてそれこそないでしょうし。父が文官の血筋で、剣士に憧れていたのよね。だから、私の次の婚約者はベルモンテ家のトニー様かブエノ家のルーカス様辺りになるかしら?持参金も上乗せすれば、いくら婚約を破棄された女でも迎え入れてくださると思うわ。だから」
だから、私のことは心配しないでいいのよ?と言おうと思ったのだけれど、すぐに言葉にはできなかった。それは自分の心とは真逆の言葉だったから。でも、カイには幸せになってほしい。私を心配して後悔の残る選択をしてほしくない。つっかえてしまった言葉の続きを言うと決心してカイを見ると、私の話を聞いていたカイは少し怖い顔になっていて、すっと立ち上がった。
「トニーとルーカス。」
「え?ええ。多分だけれど。」
「ノーラのお父さんは強い方を選ぶ?」
「ええ、そう思うわ。」
カイは頷くと、去ってしまった。もしかして、二人に私の次の婚約者になってほしいと頼みにいったのかしら?それで、どちらかが了承してくれたら、カイは安心して今度こそ婚約破棄を告げるのかしら。
**********
翌日、私は信じられないことを聞いた。
「え?トニー様とルーカス様が入院?」
「ええ。その、何でもカイ様と決闘をなさったとか。」
「決闘!?」
どういうことなのかしら。私のことを頼みに行ったのではなかったの?私は慌てて技能科へ向かった。すると、ちょうどカイが自分のクラスから出てきたところだった。私のところへ来るつもりだったらしい。
「ノーラ、僕、勝ったよ。」
「ええ、カイは強いわ。二人に勝って当然だと思うの。決闘と聞いたのだけれど、何故そんなことをしたの?」
「強い奴が次の婚約者になるって聞いたから。」
「まあ、多分そうなるだろうという話なのだけれど。それで、どちらが強いか調べに行ってくれたの?」
トニー様、ルーカス様と剣を合わせ、より強い方に私のことをお願いしてくれるつもりだったのかしら?カイは強いから、うっかり入院させてしまったの?
「僕が勝ったんだよ。」
「ええ、それは聞いたわ。」
「だから、婚約破棄したら次の婚約者は僕だね。」
「・・・・・・・・はい?」
あら?おかしいわ。カイの言っていることがよくわからないのだけれど。カイと婚約するのなら、婚約破棄をしなくてもいいのではないの?
「カイが婚約者?」
「うん。だって、婚約者と結婚するんでしょ?」
「え、ええ。そうね。」
「ノーラと結婚するのは僕だから。」
何か、おかしくないかしら。マリアさんはどうしたの?
「あのね、カイ。カイはマリアさんのことが好きなのよね?」
「うん。」
「だから婚約破棄をしようと思ったのよね?」
「うん。」
「カイはマリアさんと結婚したいのよね?」
「結婚するのはノーラじゃなきゃ嫌だよ。」
カイはマリアさんのことが好き。でも結婚したくない。これが女性関係の派手なアルマン様(マリアさんの取り巻きの一人)だったら、結婚する女性と恋人にする女性は違うんだとか言いそうだけれど、カイはそんなことを考えないし。
「ねえ、カイ。カイはマリアさんのこと、どんな風に好きなの?」
「マリア?ちょこちょこ歩いて、キョロキョロして可愛いし、びくびくするから守ってあげたいと思う。」
うーん、それは、『好きな女性』というのとは、何かちょっと違うと思うのだけれど。
「それは、私の妹たちへの思いと同じに聞こえるけど。」
「うん、同じ。でも、マリアは妹じゃないから、ノーラがいるのにマリアを好きになった僕は、みんなと同じように婚約破棄しなくちゃいけない。」
「いえ、あのね、カイ」
「でも、ノーラと結婚するのは僕だし、他の男なんて候補になるのも駄目。だから、僕が一番強いって証明した。」
あああああ。ごめんなさい、トニー様、ルーカス様。私がうっかりあなた方のお名前を出したばっかりに、完全なとばっちりが!!お二人の結婚相手は私が責任をもってお探しいたします!!
「ノーラ?誰のことを考えてるの?」
「え!?あ。その・・・そう!カイにとって、マリアさんは私の妹たちと同じなのでしょう?カイの話だと、私の妹たちを守ってあげたいと思ったら、私と婚約破棄しなくちゃいけなくなってしまうわ。」
「何で?妹だよ?」
「私の妹よ?」
「ノーラの妹だもん、僕の妹じゃないか。」
・・・カイの中では私と結婚することは当たり前のことなのね。だから、私の妹はカイの妹という認識なんだわ。ああ、本当にトニー様とルーカス様に多大なご迷惑をかけてしまったわ。
「ノーラ?僕のこと、考えてないよね。誰のこと」
「ええと、カイ、トニー様とルーカス様にはきちんと謝りましょうね。」
「トニーとルーカスに?何で?」
何でというか、そもそも、私が別の人のことを考えてるのがわかるカイに何でと聞きたいけれど。順を追って説明しましょうか。
「あのね、カイ。私たちは婚約破棄する必要はないの。別に好きな人ができたから、とカイは言ったけれど、私以外に結婚したい人ができたわけではないでしょう?」
「うん。結婚したいのはノーラだけだよ。」
「例えカイがマリアさんを可愛いと思っても、浮気にはならないのよ?そんなことを言ったら、私がカイ以外の男性をかっこいいと言ったら浮気になってしまうでしょ?」
「ノーラは僕以外の男をかっこいいって言うの?」
いけない、カイが酷く不機嫌になってしまった。まさかカイの中で、私が他の男性をかっこいいと言うのが浮気扱いにされるだなんて思ってもなかったわ。
「女性の間では同調という、しなくてはいけないルールがあるの。いくら私がカイのことだけが好きで、カイのことだけをかっこいいと思っていても、毎回言葉にしていたら、交流関係からはじき出されてしまうの。だから、カイ以外の人をかっこいいわねと言われたら、そうですね、と答えなくちゃいけないのよ。心にもない事を言うのが女性社会の中では必要なのよ。」
私、必死に浮気のいい訳をしている人みたい。違うのよ、いい訳じみているけど、大体はあっているのよ。ただ、カイの不機嫌さに驚いて、私が他の人をかっこいいと言ったことはなかったことにしているけれど。
「ふーん。女の子も大変なんだね。」
「そう!そうなの!!それで、話を戻すわね。カイと私は婚約破棄をする必要がないの。結婚するまでずっと婚約者のままでいればいいの。でも、私がうっかり他の人の名前を出してしまったせいで、カイが決闘を申し込んでしまって、お二方は入院してしまわれたのでしょう?完全に無関係だったのに、申し訳ないわ。」
「無関係?完全に?」
「ええ。そうよ。」
「そっか。じゃあ、僕、二人に謝るよ。ごめんねって。」
そんなに軽い謝罪でいいのかしら?私も一緒にと言ってみたのだけれど、自分だけでいいとカイは譲らず、お詫びに女性を紹介しようと思ったのだけれど、それも、カイの交友関係の広い友達に頼むから私は何もしなくていいと言われたの。
「僕がいつも一緒にいる友達がマリアと一緒にいるから、僕も一緒にいたけど、また目障りなのが出てきても困るから、ずっとノーラと一緒にいることにする。」
「ごめんなさい、私と一緒にいるっていうのしか聞こえなかったんだけど」
「うん。別に技能科と普通科を行き来しちゃいけないなんてことないから、休み時間はノーラと一緒にいる。」
「でも、別棟だから遠いでしょ?休み時間ごとに来なくてもいいのよ?」
「ううん。来る。」
なぜだか、以前より私にベッタリなんだけれど、結果的に婚約破棄事件は良かったことなのかしら?
**********
僕の友人たちが夢中になってるマリアという女の子。確かに可愛い子だけれど、ノーラの妹たちだって同じくらい可愛い。兄として、僕の友人たちには近づけないでおこうと思う。
友人たちは、婚約者以外の子を好きになったら婚約破棄をするべきだと言うんだけど、それは婚約者と話し合って決めた方がいいんじゃないの?だから僕はノーラに聞きに行ったんだ。
そしたら、ノーラの口から僕以外の男の名前が出てきた。しかも、僕に代わって婚約者になりそうな男だって。ノーラは美人だし、とても優しいし、ノーラ自身が他の男から好意を寄せられるのに十分な魅力がある。その上ノーラの家はすごい資産家で、それがさらに他の男たちを引き寄せるらしい。もちろんそんな男たちをノーラに近寄らせたりはしないけど。
僕が友人たちと一緒にマリアと一緒にいたら、僕のノーラに対する思いが無くなったって勘違いするやつがいっぱい出てきた。僕の目の前で、ノーラは自分が幸せにするとか言った奴もいた。潰したけど。
トニーとルーカスは僕に対しては何も言わなかった。でも、ノーラに向ける視線が変わっていたのは気付いていたよ。まるで近々自分の物になる、みたいな目。ノーラは僕のお嫁さんなのにばっかみたい。でも、ノーラの口から彼らの名前が出てしまったんだから、仕方ないよね、候補にすらなるわけがないんだってちゃんと教えておかなきゃ。
優しいノーラは、彼らにお詫びとしてお嫁さんを見つけてあげるっていうから、もうノーラが彼らのことを考えなくていいように、僕がさっさと相手を見つけてあげたんだ。今はまだこの学校に通う学生だけど、卒業したらノーラの噂も聞こえないような遠い国で幸せになるといいよ。
本当は彼らの相手なんて誰でもいいと思ったけれど、あまり雑に選ぶとノーラが心配しちゃうから、上昇志向のトニーには、辺境の国の王女を。お金に困っているルーカスには遠い国の大商人の娘を会せたんだ。二人とも、一目で気に入ったみたいだったね。ノーラのことはすぐに忘れてくれたみたい。ああ、ほんとあんな奴らの欲に満ちた目でノーラが穢されなくなってホッとしたよ。
もうこれ以上目障りな男たちが出てこないように、ノーラにずっと張り付いていることにしたんだ。そうしたら、マリアがいきなり、
「婚約者の人じゃなくて、私を選んでくれたんじゃないの?」
なんて言ってびっくりしちゃった。自分の何がノーラと並べられるところがあると思ったんだろ?あまりにもしつこかったから、マリアなんて比べ物にならないノーラの素晴らしさを3時間くらい教えてあげたんだけど、気付いたらいなくなってたよね。まあ、いいや。あれから僕の方に来なくなったし。
「カイ、あのね、何度も言うようだけれど、学校で、その・・・過度な接触はいけないと思うのよ。」
「婚約者なのに?」
「婚約者だけれども、学生として、節度ある距離を保った方がいいの。」
「保ってるよ?だって僕、すっごく我慢してるもん。」
抱きしめるくらいで我慢してる僕って偉くない?ノーラが真っ赤になってる。可愛いな。きっと今ノーラの頭の中は僕でいっぱいだね。ずっと僕だけを見て、僕のことだけを考えていてね、ノーラ。
ヤンデレを書くつもりは全くありませんでした。何故にこうなった。
トニーとルーカスは完全なとばっちりでもありません。高嶺の花のノーラの番犬が他所を向いたと思ったため、チャンスがあるんじゃ、と夢を見てしまったのです。その番犬が、足音も立てずに背後から忍び寄ってるのに気付かずに。
ちょっと自業自得なところがあるんですって書くつもりでカイ視点を入れたのに、まさかのヤンデレ。あっれ~?
お読みいただきありがとうございました。