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事件

「む、二度目だぞ」

「……君か」

リッシモンとアウレトーラの邂逅。日用品の買い足しの帰り道のことである。昨日と同じ場所に、リッシモンは座っていた。

「時間は昨日と大きく違うはずだが……」

「人間いつも通りに行動するわけがないじゃないか。それよりもガリガリだ、忠告は聞いてくれたのかね?」

「……朝食は食べたよ」

「ふふふ、そうだろうそうだろう」

満足げにアウトレーラは何度も頷いた。

「ケースケが言ってたぞ。人間は栄養を考え食わなきゃいけないって。パン食べるかね」

「いや、いいよ。君は世話焼きなんだね」

「世話焼き?……よくわからない。世話を焼けるような人物といえば母様くらいだ」

「君のお母さん?どんな人なんだい?」

「賢者と呼ばれてはいるが、その実はズボラな部屋汚しの達人といったところだ。いつも私が掃除している」

リッシモンの顔がほころんだ。

「君は娘みたいだ」

「娘かね。ではすばらしい人物だったようだな」

リッシモンは噴き出しかけた。ごほんごほんと咳ばらいをしてごまかすと、懐かしむように言った。

「君のお母さんと君みたいな関係だったよ。私は仕事はできたが……私生活はダメダメだった、妻が亡くなってからは、部屋は汚くなるばかりだった。娘はね、いきなり『なんかもうこれじゃダメだぁ!』って言いだしてね、それからゴミをたたき出し始めたんだ」

「親というのはズボラになるものなのかね」

「い、いや、そういうわけじゃない。私の生活力がないだけだよ」

「うむ……まぁ人間というやつは多様性がある生き物だからな。そこが良いのだが」

納得したようにアウレトーラ言った。その自分が人間ではないかのような物言いに、リッシモンは首を傾げるが、そこまで引っかかりはしなかった。

「そういえば、ケースケというのは?」

問いに、アウレトーラは嬉しそうに答えた。

「ケースケは、とても優しいんだ。それで努力家で」

「ふふ、べたぼれだね」

「む……そ、そうだな」

アウレトーラは顔を真っ赤にさせる。

リッシモンは微笑ましく感じる。そして、これほど少女に好意を与える少年が気になった。

「すごくいい人なんだね」

「うむ、でもな……かっこ悪いところも見てきたぞ。目の前で盛大に吐しゃ物をぶちまけたところも見たし、ケースケの師匠たちにぼろぼろに負かされているのもみていた。遊戯関係は全敗で、半泣きになっていたのも知っている。だけど、ケースケはめげないんだ。なんでって聞いたら『友達の声が聞こえるんだ』って」

「友達?」

「遠いところにいる友達。ケースケの親はいい人じゃなかったみたいだ。でも友達はすごく恵まれたって、自信がなかったとき、彼らに背中を押されてたって言ってた」

「そうか、……ケースケくんか、会ってみたいな」

「会いたいならすぐに――といっても仕事があるから、暇になったらだな!」

「そうだね。……そういえばもう行かなければならない。明日、また会えるかな?」

「うむ、明日は昼あたりにこよう」

「うん」そう頷くと、アウレトーラは満足げに歩き出した。

それを見届けて、小さくなっていく背中をみて、まるで小さなころの娘のようだ――とリッシモンは思った。

懐からぶよぶよとした玉を取り出し、語り掛ける。

「あの子はいい友達になりそうだね」

懐へとしまい込み、路地へと足を踏み入れた時、道の先に真っ白な仮面が現れた。

リッシモンは足を止めた。顔が急激に青くなり、震えだす。

仮面は暗闇からぬうと出てきた。まるで仮面が黒い液体がくっ付いているような光景だった。黒い布で覆われて、体躯は判別し辛いが、リッシモンが子供に見えるほどの長身だった。

「あの子は魔道生命体だな」

仮面越しのくぐもった声が、路地に響いた。男の声だった。

聞きなれぬ言葉に、リッシモンは首を傾げる。

「魔道生命体……?」

「そう、魔力の塊だ。細胞に特殊な魔法をかけ、魔法によって生かし、急激に成長させている」

「あ、あの子が?」

「人ではない」

違う。リッシモンは思わず否定した。

人から生まれたではないか、生まれも育ちも異常だが、それでも人ではないと言いたくはなかった。

「化け物だ」

この仮面の男は、リッシモンにとっては救世主に違いはない。ただ、この存在が異常であることは本能的に知っていた、それでもすがるしかなかった。

が――リッシモンは怒りを感じていた。救い手たる男へと言いようのない怒りを。

「アレは使えるぞ」

「……お前は、何を言ってるんだ」

「なにを?お前の娘のためのことを言っているんだよ。アレは魔力の塊、見るにかなり純度の高い、作り手はとんでもない力を持っているだろうな。――アレを使えば娘が生き返る」

それは甘露のような言葉だった。

「そうアレを使えば生き返るぞ、お前の娘が。お前の愛しい愛しい娘が」

「な……」

「そうお前はもう逃げることはできない。深い深い罪を負った。もう踵を返して走り出すことはできない。人を贄にささげた。人を神に喰わせた」

じりじりと侵食していく言葉。否定の言葉が喉元まで差し掛かるが、それを発することはできなかった。男の言っていることは真実だった。

「今までの犠牲者に、『感情的に嫌だ』と言い訳するか?できるか?できるのかい?――できないだろう? そうあれは化け物だ。人ではない、人として生きてはいない、そこらにいる、動物。人の作り出したもの、わかるだろう?家畜とは人の作り出したものだ。人は人の作り出したものを自由に命を食らい、糧としている。そう――」

仕方がないことだ、男の声が、リッシモンの脳内に反響する。

仕方がないことだ。

仕方がないことだ。

仕方がないこと――なんだ。

「仕方が、ない」

「そう、そうしないとダメだろう?誰にでもわかること、そうわかっている。みんな君を責めない、そうだろう?仕方がないことなんだからさ」

仮面の男にはしっかりと見えていることだろう。己の指から伸びる、白い糸を。

その糸はリッシモンへと延びている、すべてを操るために、言いなりにするために。

仮面の下で、男は笑った。




「……なんか二日目なのに、お前と妙に親しくなってきてないか」

「というより、二人で会う機会が多いんスよ」

そう言って遠くに見える魔物を啓介は見た。昨日と同じ、肉塊から人の手足のようなものが突き出ている。

「新種の魔物、というよりも変異種といったほうがまだわかるな」

「そうッスね」

二人は後方に位置する場所に立っている。魔物の場所がわかる位置だ。

作戦は簡単、前方と後方二つに分けで、それをさらに東西南北四つに分ける。

前方が確保に動き、後方が対象が逃走した場合追跡、もしくは足止めを行う。

――とまぁ、それだけの話だ。

「たぶん前方だけで終わるだろうな」

と、気楽にアレックスは言った。足を投げ出し座っている。ストレッチすら始める始末である。

啓介はそれをちらっと見た後、配置についたことの報告をするために、与えられたものを取り出す。

『魔道通信機』というやつである。名前の通り魔力を通せば通信が可能となる。

青白い光が石から発せられる。

「昨日徹夜だったから、このまま寝たいな」

アレックスの突然の言葉に、啓介は思わず言葉を漏らした。

「あ、やべっ」

「……え?」

『……おい、アレックス』

石から底冷えするような男声が響く。

「ユウス隊長!?ちょ、……も、申し訳ありませんっ後方南側配置につきました!」

『終わってすぐ帰れるものと思うなよ?』

ぶつんと音を立てて、石は光を無くした。

数秒の沈黙の後、アレックスは顔を手で覆い、嘆くように言った。

「……ちょっと少し考えてくれないか」

「一度確認するようにするッス」

はぁとアレックスはため息をついて立ち上がり、啓介の横に立つ。

陽光を遮るべく、手をバイザーのようにして遠くを見る。

「気色悪いな」

顔を引きつらせて、アレックスは言った。

「ですよね。どうやって生まれたんスかね?」

「大きさ的にオークの異変種か、なにかしら魔力をつぎ込まれたかってところだな……」

そこでアレックスは口ごもった。

「どうかしたんスか?」啓介が声をかけると、アレックスは冷や汗をかいていた。

「嫌なことを考えてしまった」

「はぁ、なんスか?」

「あれが全部人を固めて作ったとしたら、だよ。そんなわけないとは思うが――」

「昔、狂えし神と戦った時代は、死体を材料にして魔物にしたてあげたとか」

「マジで……?っていうか狂えし神ってなんだ?」

「さぁ、師匠の一人に聞いた話なんで、詳しくは知らないッス。生物同士の戦争を眺めて、堕ちていくのが大好物だそうッス」

「滅されたほうがいいなそれは」

うんうん、と二人で頷く。

その時だった。石が光を放ち、接続を開始した。

『全員配置についた。今から三分後に連絡する。各自落ち着いて事に当たるように』

「了解」と二人が口々に返事をする。

ぶつんと切れた後、再び魔物を視線に入れた。

「さぁて、どういう動きをしてくるかな」

アレックスは剣を鞘から小さく抜き、抜剣を確認する。啓介もそれに倣い、意識を剣へと集中する。啓介の愛剣はこの場にはない、召喚することができる。意識を向ければ剣を抜くことよりも、数段早く出すことができる。

一日千回。剣の召喚。当時は意味も分からず、召喚スピードも変わったとハッキリとわからないが、こうしてみると有用性がよくわかる。

二人の周囲が緊張へと落とし込まれていく、重くなっていく空気の中、作戦のはじまりを待つ。

三分は、驚くほどに早かった。

瞬間、魔物の下半身が地面へと埋まっていった。魔法、地面を泥沼にでも変更したか。

その瞬間、周囲が氷に包まれた。泥沼も凍り付き、周囲の地面も盛り上がり、魔物を拘束していく。

対象の沈黙。迅速かつ的確な行動だった。

そこで二人は緊張を解いた。

「……問題はなかったな」

アレックスが小さくため息をついた。

「そう……ッスね。拍子抜けって感じで……」

「騎士は毎日訓練しているからな」

今回は特に何もやっていないが、アレックスは誇らしげだった。

『成功だ。無力化後、各員帰路に――待て!なにかす――』

魔物は悲鳴を上げた。男のような、女のような、何人もの人間が重なり合い、共鳴し合ったかのような悲鳴だった。通信が遠く離れたここもかき消されるほどに、広く響き渡った。

その瞬間、肉塊が膨れ上がった。真っ赤になり、ぱんぱんに膨張したかと思うと、急激に暴れだした。

『魔法を緩めるな!集中しろ!己の役割を貫け!』

が――魔物は拘束を抜けて外へと飛び出した。真っ赤なボールが空へと飛んだかと思うと、落ちてきた真下にいる騎士は――潰れた。

暴風が吹き荒れる。それは渦巻き、魔物へと収束し、再び拘束せんと巻き付いた。

が、それは魔物側より吹き荒れた風により対消滅することとなる。

「ちょっと待て」アレックすは剣を握りしめ、いつでも鞘から抜けるようにしながら言った。思わず零れ落ちたといった感じだった。

「魔法、使ったよな」

「ええ」

「魔法って、少なくとも理性がなければ使えないよな」

「……ええ」

「理性があるようには、見えないんだが」

「こっち来るッス」

啓介が剣を召喚するのに続き、アレックスは剣を引き抜いた。

魔物は恐ろしい速度でこちらへと向かっている。

石が光り、通信が開始された。

『可能ならそこに留めろ、不可能なら追跡しろ』

了解、と二人は同時に呟いた。

魔物はすぐに目の前に現れた。肉塊についているのは細腕だというのに、木々をなぎ倒し、そして二人へと拳を繰り出した。

その瞬間、啓介は繰り出された腕を斬り飛ばした。アレックスは身を低くして飛び出し、足を斬る。切断には及ばなかったが、血が噴き出した。

アレックスは離れるべく背後に跳んだ。その瞬間、啓介が二本目の腕を斬り飛ばし、魔物の側面へと飛んだ。

次の瞬間、魔物を中心に炎が巻き起こった。

啓介は本能的に陣を宙に描いた。魔力を操作し、指さきに灯す。それはアレックスも同じ行動をしていた。

「『水よ、火を消し飛ばせ』」

精霊言語――音魔術の一つである、肉声魔法である。

二方向から放たれたそれは、水しぶきをあげて炎を沈下し、水蒸気を発声させた。

「やっべっ」

アレックスの声が白い煙の中で響いた。それを感知したのだろう、アレックスが顔を上げれば黒い影が真上に現れ――魔物の足が三本、切り落とされた。

バランスを崩して転倒する。間一髪、アレックスはそれから逃れた。

「大丈夫ッスか!?」

「すまねぇ!」

体勢を立て直しながら、アレックスは驚嘆していた。とんでもない剣速だ。こいつの師匠とやらは、こいつの修行とやらは、どれほどのことをしてきたのだろうか。

しかし、そんな場合でないことはわかっている。夥しい量の血を流しながらも、魔物は暴れまわっている。剣を構え、踏み込んでいく。

風が巻き起こり、水蒸気がすべて払われた。剣をよけ、鉄球のごとく飛びまわる肉塊を避け、着実に剣を入れていく。

その中で二人は考えていた。

――どうやって無力化しようか、と。

精神的にはどれほど経ったかはわからない、だがそこまでではないことは、本能的ではあるがわかっていた。どれほどで仲間が到着してくれるのだろうか?

倒すだけならまだいい。ちらりとアレックスは啓介を見た。

「何か一時的でいいから無力化できる方法はあるか?魔法はダメだ、対処される可能性がある」

突然の問いに、啓介は驚きつつも頷いた。可能である。

「反動で少し動けなくなりますけど」

「あぁ、後は任せろ」

啓介は魔物の腕を切り払うと、思いきり蹴りつけた。その反動で後方へと飛ぶ。

クラウチングスタート。片膝と両手を地面につけ、スタートをきる方法である。

意味不明すぎる行動に、アレックスが目を丸くした瞬間、それは起こった。

地面が爆ぜる。突風が吹き付け、木々がざわめいた。

魔物が吹き飛ばされる、木々へとぶつかり、ずるりと地面へと落ちた。肌が裂け、微弱ではあるが出血している。

「『風よ、魔の者を拘束せよ』」

肉声魔法が発動する。対処せんと、ぼろぼろだというのに魔物は魔法を使う――が。

「魔力の量はちょっと一級品でねぇぇ」

さっきよりも弱い。さすがにあの奇妙な一撃に虚を突かれたということか。

魔力を開放する。それを喰わんとする精霊たちが集まってくる。自然魔法とは単純なものだ。精霊に愛されていれば強くなる。魔力を多く放出すれば強くなる。

拮抗はすぐに途切れた。押しつぶされ、木と共に地面へと縫い付けられる。

「おい、大丈夫か!」

「大丈夫ですよ」

ケロリとして啓介は現れた。服に砂埃がついたのか、払い落としている。

身体からは一滴も血は流れていない。

「今の一撃はなんだったんだ?」

「師匠的に言う、殺せない・魔法が使える・拘束しないといけないの場合にやればいいんじゃないかっていう技、らしいです」

「……なんだそりゃ」

「音速を越えて通り過ぎればズタズタに引き裂かれるって。そのうえでぶん殴れば打撃と全身切裂きの痛みやら、なにが起こったのかわからないやらでまともに動けなくなるって」

「お、音速?」

「……師匠曰く、半分冗談らしいですけど。その時に的確に動けとは言われました」

「半分冗談を大真面目に使うなよ。ま、いい感じに成功したけどな」

ちらり、とアレックスは魔物を見る。必死でもがいているが、拘束は抜けられないし、抜かせる気もない。

「魔力大きいんスね」

「うん?まぁな、これでも貴族ですから。というよりも一番驚いたのは、お前無茶苦茶強いじゃないかってことだよ」

「一応力は師匠にも勝るんスよ?本来の戦い方は、でかい剣振り回して暴れるッス

「お前はドラゴンでも倒すつもりか?」

「一応対人戦も心得てますけど、一人で戦うことを前提にしてるんス……町中でやると周囲が瓦礫になるッス」

「よしわかった、俺といるときは使うな」

といったところで、仲間たちが現れた。周辺の惨状に驚きながらも、拘束された魔物に安堵する。

「よくやったな」と各員から言われた後、魔法や鎖やらで魔物をがんじがらめにする。

こちらでの確保は終了した、と。ユウスが二分されたほうにいるハズの副隊長へと、連絡を行うべく石へと魔力を付与していく。

『あ……うあ……』

ユウスは副隊長の異変に気付き、声を大にして叫んだ。

「どうした!なにがあった!」

『い、いえ問題はなギャアアアアアアアアアないんです』

「悲鳴が聞こえるのだが……」

『それは魔物の悲鳴です。人の声に聞こえて……その、ものすごく気分が悪ギャアアアアア』

「……報告を頼む」

『魔物が突然暴れだして、拘束から抜け出して……』

啓介はその報告を聞きながら、こちらとほぼ一緒だと理解する。

『エミリーが作り出した酸の水の中に捕らわれました』

思わずユウスすらもぽかんと口を半開きにして沈黙した。周囲は言わずもがなである。

『ギャアアアアアアギィィィッ今全員青ざめてますグギャアアアアアア魔物は動けない上に解除がわからないそうでイギイイイィィィィ』

「……こっちは確保した」

『殺してガアアアアアア……あげてもいいですか?ギャアアアアアいや、見てられないんですよゴアアアアアア……殺さなくても死ぬと思いますし』

悲鳴が悲惨さを感じさせる。魔物であれ、頬が引きつるのを抑えられない。

ユウスは額に手を当てて言った。

「……構わない」

『了解です』

悲鳴の余韻をこちらに残しながら、通信は切れた。残ったのはどうともいえない濁った空気である。

「……帰りましょう!」

どこからか声が響いた。同調してユウスと共に頷き合い、彼らは帰路についた。

再び、元のミーティングルーム。誰もが青ざめ、エミリーの周囲数メートルは円を描くようにして人がいない。隊長はまだいないため、誰もしゃべることなく沈黙している。

被害は八人。死亡一人。少ないと言えるが、それでも気落ちさせる。人の死はどんな人物であろうと、人の心を落ち込ませる。そのうえにエミリーのヤバさも重ねて、雰囲気は暗い。

そこへボロボロとなった制服の新品をもらってきた啓介がやってくる。疲れた表情で、がっくりと肩を落としている。

「すごい怒られたッス……」

「あ、その……」エミリーが怖がりながらも近づいてくる。「だ、大丈夫?」

啓介は顔を上げて、エミリーを見る。不安げである、拒絶されるとでも思っているのだろうか、と啓介は笑った。

「まぁ大丈夫ッスけど。受付の人がものすごい怖かったッス。笑顔の裏にどす黒い怒りが見えたッス」

その返答にエミリーは嬉しそうに笑った。

「うん、受付の人って怒らせるとすごく怖いよね。あぁそういえばアリス見なかった?あの子諭したのに隠れてついてきて、見てはしゃいだかと思ったらどこかに行っちゃったのよ」

酸のプールにぶち込まれて悲鳴を上げる生物を見て、はしゃぐとはさすがと言えばいいのかよくわからなかった。啓介は曖昧な笑顔と共に首を振り、知らないと言った。

「……お前、なんつーか怖いもの知らずだよなぁ」

呆れたように、アレックスも近づいてくる。

「まぁ……師匠のほうが数倍ヤバいッスから」

「マジか……ヤバさバハムート数体か」

戦慄したようにアレックスは言った。

「まぁバハムート数体とかミンチにしそうッスけどね……」

「なんか会いたくもあるし会いたくなくもあるな……」

男二人は、奇妙なほどに仲良くなっている

「……あれ、これ私バハムート級にヤバいって言われてない?」

一人エミリーはぽつりと漏らした。


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