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ハイヒール  作者:
2/3

加齢臭のシンデレラ

【パニックルーム】からのバトンタッチ【加齢臭のシンデレラ】

微妙に繋がっています。

【加齢臭のシンデレラ】


私のあだ名はウドちゃんです。これにはちょっと歴史があります。

昔から人より背が高かった為、小さい頃に学芸会でさせられた役は大木(たいぼく)でした。

大木ですが主役です。そこでついたあだ名がそのまま大木(たいぼく)

あ。ちなみに名前は野田(のだ) 静流(しずる)です。大木(おおき)とかじゃないです。

そうしている間に芸人さんでウド鈴木さんという方が世に出てきました。

時代は彼の全盛期。

ウド鈴木さんの芸名のウドは【ウドの大木】から取ったものだそうです。

結果、私のあだ名はウドちゃんになりました。

再度言いますが本名は野田です。鈴木でも大木でもないんです。

ちなみに性格もちょっとぼんやりしている所があるらしくそれを含めてもウドちゃんと呼ばれます。


あ。脱線しましたね。すいません。

私の今の話をします。

私の今の職場はデパート内の小さな雑貨店です。ここにもう6年勤めています。

元々は商業高校卒業後、友達と同じブランドのショップ販売員をしていました。

が…同級生のかおたんに「頭使わない仕事って楽でしょ?」って言われて、よく考えたんです。この仕事…頭使わない?というか…この仕事…私…好きかな?…そして、目が覚めたんです!!


【私、服より雑貨が好き!!】


で…今に至ります。あの時疑問を作ってくれる言葉を言ってくれたかおたんに感謝です。

今は可愛い雑貨に囲まれて毎日楽しいです。特に納品の日は心躍ります!!

そんな情熱を買われ?ちなみに今や私が店長です。

一応店長なのですが…

「ウド店長…」

「ん?どうしたー?」

今でもおしげもなくウドちゃんのあだ名が付き纏います。ここに就いてからすぐ友達のかおたんが店に遊びに来た時に『この子。あだ名はウドちゃんなんですよ』ってバラしたので、私は店長なのに…ここでもあだ名はウドちゃんです。


何だか…でかくて、ぼーっとしている事を露骨に現わしている様で私はこのあだ名が本当は嫌いです。

でも長年言えませんでした。一度やんわり嫌だという旨を伝えた事があるのですが酒の席ってやつで…みんな笑ってとりあってはくれませんでした。伝わらなければ意味がない。何より空気が悪くなるならもうこれでいいやって諦めました。


あ。ちなみに独身で絶賛彼氏募集中ですが上記の様な理由で…鈴木さんはちょっとだけ避けたい…そんなお年頃なんです。


こんな私ですが唯一私の事をウドちゃんと呼ばない友達が一人居ます。彼女とは高校からの付き合いで最初の就職先も一緒でした。同じブランドで勤務地も一緒だったんです。

彼女だけは私のことをしずるたんとかしずたんと呼んでくれます。彼女はすごく上昇志向が強く、どんな状況でもあきらめません。純ちゃんって言うんですが、彼女は私の憧れです。

純ちゃんも転職して今は貿易関係?の会社のマーケティングなんたら?の何とか?って言ってました。

きっとすごいのだと思います!!良く分からないけど…めっちゃ勉強して資格試験にもあっさり合格していました。キャリアウーマンって感じ!!

純ちゃん酔うとかわいいので酔ったらじゅんじゅんって呼んでます。


実は、この純ちゃんのおかげで克服したものが一つあります。

それはハイヒールです。

単純な事ですが、私の身長で10センチオーバーのハイヒールを履くと軽く175オーバーになるんですよね。

場合によっては180何て事も。女子の平均からしても頭一つ飛び出しちゃうんですよね。

それが嫌でハイヒールだけは避けてきました。

ところが純ちゃんが昔に『今日私ハイヒール履いて来たからしずたんよりビックやん。』っと肩を叩いて来たんです。衝撃でした。

そんな事言われた事無かったし、何か胸が熱くなりました。純ちゃんが誇らしげに履くなら私も欲しいと思ったんです。

次の日純ちゃんに人生初のハイヒールを買いに付いて来てもらいたいと申し出ました。

『しずたんはモデル並みにスタイルがいいんだからもっとヒール履いてその脚の長さを武器にしたらいいのに。もったいない。』

私は二度目の衝撃でした。

脚が武器!?

純ちゃん曰く…『もうそりゃぁ凶器レベルの美脚よ!!』そうだったのか!?と、私は衝撃で黒の10センチオーバーのハイヒールを買いました。まだ高校生だったのでちょっと高い買い物だったけど今でもこの人生観を変えたハイヒールは大事に箱に取ってます。

私にとっての靴の概念を変えてくれた純ちゃん。おかげで今は無類のハイヒール好きです。

私、おばあちゃんになってもハイヒール履いてたいです。例え危険でも!!ハイヒールスピリッツです。


今の勤めている雑貨屋さんはナチュラルテイストなのでお店ではフラットシューズに履き替えていますが通勤は必ずハイヒールです。

ハイヒールに変えてから色んな人に『モデルさんみたい』とか『スタイルイイですね』とか『ハーフですか?』と嬉しい言葉をよく言われるようになりました。

背が高いというコンプレックスを見事にハイヒールが打ち砕いてくれました。純ちゃんに感謝!!!


でもやっぱりお店ではウドちゃんなのですが、勤務が終わり私服に着替えハイヒールを履いた私にウドちゃんと声を掛ける人はいません。

どやっ!!

ハイヒールを履いている時だけ気持ちはアンジェリーナジョリーです。

どやっ!!


で。こないだハイヒールのせいで事件が起こりました。


冬の始まりでとても寒い日。

その日は前日からの雨で朝からしっとり地面も濡れていました。

もちろん雨の日の電車はいつもの倍込んでいて、車内の床は外と同じくらい濡れて居ました。

私はあまり奥に入れず出入り口のドア付近で何か掴める物を探して居ました。それでも無情に電車はスタートし必死に揺れに耐えて居ました。ノー掴まりで。

電車自体は5駅くらいで鈍行でも10分しか乗っていないのですが何より揺れが激しい個所を行くので、この10分で掴み物なしはかなり辛いです。


何か…何か…掴まる物!!


っとその時でした。

第一波の大きな揺れが。車内は順番に大きな揺れに翻弄され私もその揺れに弄ばれました。その揺れで思わずドア付近の壁に手を付いてしまいました。

そうでもしないと私と壁の間に居る女性がつぶれてしまうからです。私は腕が長い分壁には余裕で届いたのですが、凄い勢いで押されたので私の体で女性を軽く壁にサンドしてしまいました。

大変申し訳ない事です。私はすぐ腕に力を込めて女性との距離を取りました。しかしこの壁ドンのような体制はかなり恥ずかしい。ですが辞めるわけにもいかず。

「すいません。」

小声で体がアタックした事を壁ドン状態な事も含めて謝罪しました。

「あ。…いえ…。」

だいぶ掠れた声が返って来ました。というか…ん?

予想外の声質に驚き思わず目線を落とすとそこには私の顎下に毛髪の薄い頭が広がっていました。


え!?おじさん!?


てっきり女の子ばかりと思っていたのですが、私の腕の中にはミニマムなおじさんがバックを両手に抱え私のおっぱいが顔に当たらない様に首を変な方向に曲げて必死に耐えていました。


なんてこったい!!


「すいません!!!!」

私は再度謝ってしまいました。私に当たらないように向こうも必死に壁の方で身を小さくしていました。

そして、私と決して目が合わない様に明後日方向をみている。

おじさんの抱くバックは二個あって大きい黒のトートとオフホワイトのランチバック。

そのランチバックは私の勤める雑貨屋のノベルティーでした。

女性向けの雑貨屋ではあるのですが、まさかこんなナイスミドルなおじ様までもご愛用してくださってるとは!!静かに感動しました。

なぜならそのランチバックは5千円以上お買い上げの方のお客様にしか配って居ないのですから。しかも取っ手がスカイブルーなのは、うちの店だけ!!

うちの店のご贔屓様!!

だったら!!尚の事このおじ様を守らねば!!

揺れよ!!いざ勝負!!っとぐっと腕に力を込めました。

私の鼻息でおじ様の毛髪が揺れいました。

そして第二波。今度はまさかの逆方向への揺れ。


しまった!!


私は背中側のビジネスマンに倒れ込みそうになりました。ふんばる所かヒールが滑って力が入らなかったのです。


あ!!


この巨体が迷惑をかける!!っと思った次の瞬間でした。壁から離れる私の腕をぐっと引っ張ってくれる人が居ました。おかげで体制を戻せました。

その引っ張ってくれた人はミニマムなおじ様でした。お礼を言う前に更に引っ張られ私が壁側へと移動していたんです。一瞬でおじ様と位置がかわりました。何て鮮やか!!

「すいません。引っ張ってしまって。」

おじ様はわざと私と入れ替わってくれたのです。

「こちらこそ、ありがとうござ…」

最後の大きな揺れ。電車が分岐点の上を通過するときの突き上げるようなあれです。最後の揺れはおじ様も耐えられなかったようでその薄い毛髪を私の胸に突っ込んで居ました。


あ。


おじ様の腕だと壁までのリーチが足りなかった様で、このままではおじ様の後ろのビジネスマン風の人がおじ様をつぶしてしまう!!それはいかん!!っと思い。私はそっとビジネスマンの背中を押し返しました。

その時ふと自然にもう片方の腕でおじ様を抱き寄せて居ました。


これは…これは…恥ずかしい!!


しまった!!っと思った時にはおじ様は耳まで真っ赤にしてバックを抱えながらふるふると震えて居ました。


ごめんなさい!!!!


私は謝ろうと思ったのですがすぐにすぐにドアが開きおじ様は私の腕の中をすり抜けて行ったのです。私の腕の中に男性用整髪料オーデコロンの香りを残して…。


私はあれからずっとあのおじ様を探しています。謝りたいし、お礼も言いたい。でも彼が残して行ったのはこの香りだけなんです。もちろんランチバックの件でも探してみたのですがそれらしき人物はヒットしませんでした。

ここは我らが頭脳、純ちゃんに相談しよう。っと相談するも。

「あんたこの世におじさんなんて捨てて掃く程いるのよ。ランチバックだって娘とか嫁とかから貰ったかもしれないじゃん。本人が雑貨が趣味とは限らないからね。もう諦めなさい。」

とのお言葉。

「この香りで探せないかな?」

「…。」

あ、純ちゃんが呆れてる。

「香水ってのはさ、その人の体臭と交ざって微妙に香りを変えるのよ。」

「…。」

「まるでシンデレラやん。」

「シンデレラ?」

「加齢臭のシンデレラ。」

にやっと笑う純ちゃん。私は何だかそう言われて胸がキュンとしました。

あれから1カ月。同じ電車に同じ時間帯に同じ車両に乗ろうとも時間帯を前後させようとも、おじ様は見つかりませんでした。季節はクリスマス前、雑貨屋が一番忙しい時です。


私はその日早番で早めにシフト交代になったので帰りに同じデパート内の本屋に寄りました。

実は私の趣味はミステリーを読み漁る事で、仕事が忙しくなればなるほどストレス発散に読みたくなるのです。書店に入るとお気に入りの作家さんの新作から目をつけていた未開拓の作家さんのもの。そうそう。このグロテスクな…。

「あ。」

偶然かもしれませんが鼻腔をあの香りがかすめました。香りの先にはエプロン姿で棚に書籍を並べるおじ様が居ました。私は気付かれぬ様にヒールの音を消して近づき彼の後ろにそっと立ちました。

くしくもあの時と同じヒール。薄い毛髪が顎のラインに来るこの感じ。


見つけた。


私の気配に気づいたおじ様が振り返りながら

「いらっしゃいませ。は!!エアガーデンの店長さん!?」

「同じデパートに勤務だなんて…お久しぶりです。私の事覚えてますか?」

「……エアガーデンの店長さん…。」

「そうなんですが…あの1か月前…雨の日朝電車で…」

「……あぁあああ!!!!あの時の!?」

「あの時は…」

「あの時は失礼しました。揺れとは言え女性にあんなに接触してしまい。」

「いやいやいや…こちらこそ、場所を替わって頂いたりすっ転びそうなのを助けてもらったりして本当にありがとうございます。ずっとお礼と謝りたくて…」

「あの…」

「あの…」

「あ。どうぞ。」

「あ。…すいません。あのこの後お仕事って何時までですか?仕事終わりご予定とかありますか?」

「…いえ?特には…今日は早番なのでこれを並べたらもうあがりです。」

「よかったら、ちょっとお茶しませんか?」

「え!?私とですか?」

「はい」

「おじさんですけど大丈夫ですか?あ。同じ時刻あがりの田中ちゃん連れて来ましょうか?エアーガーデンさんの大ファンなんですよ。おじさんと二人よりも同じ若い子が居た方が…。」

「私と二人じゃ…嫌ですか?」

「いやいやいや!!それはそんなっ!!」

「時間はそんなに頂きませんから!!そこのスタバで待ってます!!」

私は頭を下げその場を去り本の会計を済ませ、スタバでスタンバイしてました。

おじ様はすぐに現れました。ノーネクタイの白いシャツに黒のスラックス。黒の大きなトートバックとあのランチバックを持って。

「そのランチバック…。」

「あぁ。これはエアーガーデンさんのノベルティですよね?スタッフさんで貝さんって方がうちで良く漫画を買ってくださってて。お好きな漫画の限定ノベルティを…本当はダメなんですが貝さんにおまけしたんですよ。そしたら替わりにこれをくださって…丁度いいサイズなんで重宝しています。」

「貝ちゃんだったのか…。」

「あ。怒らないでやってくださいね。私がノベルティをサービスしたので気を使ってくださったんです。本当はエアガーデンの店長さんにもサービスしたかったのですが中々時間帯が合わず。」

「私にですか?」

「えぇ。いつも大量にミステリーを購入してくださるでしょう?エアガーデン店長さんモデルさんみたいで目立つのでうちの店員の中では人気があるんですよ。特に田中ちゃんなんて憧れてるみたいで仕事が終わるとあなたを目指してハイヒールに履き替えるんですよ。さっきもすごく羨んでましたよ。」

おじ様のその笑顔は私の心をかき乱すには充分でした。

「あ。これ良かったら…。もしかしたら、もう持ってらっしゃるかも知れませんが…。」

おじ様は一冊の本を手渡してくれました。

「持ってません…。これは?」

「あ。やっぱり、ご存知ではなかったのですね。店長さんの御贔屓にしている作家さん…実は3つ程、別のお名前があるんですよ。名前は違うのですが同じ作家さんですよ。読んだらすぐ分かりますよ。」


!!!!


私はおじ様の粋なサプライズで手が震えました。

「私もあの作家さんすきなんですよ」

「ありがとうございます。あの…あの…私…あの…」

「ははは…ゆっくり話しましょう。折角会えたんですし。」


私の今回のシンデレラ探しはミステリーに近いものがあったと思うわけですよ。そして、おとぎ話では見つけてもらったシンデレラは王子様とすぐにくっつくわけですよ。

しかし、私はおとぎ話の住人ではないので…


「っと言うわけで…シンデレラと3度目のデートに行ってきます。」

電話の向こうで純ちゃんが大笑いしている。

「いってらっしゃい。ちなみにそのシンデレラの名前は?」

「名前は…鈴木さん…。」

「ぶっ‼」

「行ってきます‼」


待っててね。私のおじ(シンデレラ)




【加齢臭のシンデレラ】→【下剋上】へバトンタッチ。

雨の日のハイヒールは危険ですよね。。(;´_ゝ`)


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