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ライザ=クロムウェル

昔々に、一緒に遊んで、食べて喧嘩した人が夢に出てきた。

そして、一番記憶に強く残った言葉を語りかけてくる。

「浅い眠りを、静かに絶やして我々は行く。」

「だがお前はまだ眠れ、お前はまだまだ大きくなる。」

「寝る子は育つというものだ。」

そのときすでに、十代の後半だった彼にとって、それは冗談以外の何者でもなかった。

だけど、彼はそれを飲み込んで静かに、受け入れた。

彼はもう彼らが戻ってこないことと、それがもうどうしようもないことが解ってしまっていたから。

そこで若さゆえの無謀を仕掛けなかったことが、吉だったのか凶だったのかはわからない。

しかし、彼らから実の親以上のものを感じたのは事実だった。





小さな、わずかに木陰と呼べる影ができるほど、小さな木の下に、ペンキの剥げたベンチがある。

そこに男が一人眠っていた。

周辺には砂しかないが、そこの一帯だけ苔が生えていて、なぜか、妙に草も生えていたりする。

そしてその中心にいる男は、寝返りを打ちながら垂れそうになっている涎をすすっているようだ。

「うーん。」

彼は、一目で言うならゴチャゴチャしていた、いや、身なりが、とかじゃない。

まず、顔が隠れるくらいに伸びた、夜のように鮮やかな漆黒。

そしてひどい癖っ毛、ここまでくるともう個性のようなものだ、直毛が無く、すべて波打っている。

肌は土色をしているが、日焼けではなく地の色のようだ、そして、長身痩躯をそのまま絵に描いたような体。

上に着ているシャツが七分丈になってしまっている。

「あー。」

最後に現れたのは、一番人の目を引き、その後も騒動の種になる、鮮やかな緑の眼だった。

「夢、か、久しぶりに、見たなぁ。」

頭の癖っ毛をガシガシと豪快に掻く、木の隙間から漏れる光がまぶしい。

「少々寝すぎたかな、油断した。」

一度体を伸ばすと、彼は傍らにあった荷物を肩に担ぐ、ついていた砂がパラパラと緑の上に落ちた。

「もう時間はとうに過ぎてるんだけど、、、」

しかし、地平線にはなんの兆しすら現れない、鳥も風も無い、雲だけがやけにたくさん浮かんでいるだけだ。

「しかたないか、、。」

そういって彼はベンチに座り込んだのだが、今度は空中を見つめたまま動きが停止してしまった。


ライザ=クロムウェルは先ほど見た夢について考えていた。

あまりにも久しぶりだったのである、夢を見ることが。

夢の内容だってそうだ、あんな物、今となっては御伽噺なみに遠いところの過去だった。

それがどんなにすばらしいものだったとしても、けっして戻ることは叶わないし、なによりそれを捨てたのは自分だ。

いまさら夢でみることも、おこがましい、が。

「まあ、でも、たまには、、、」


「たまには、なんだい?」

ライザが顔を上げると、そこにはすでに、砂上バスと、客がなかなか乗車しないので降りて来たのだろう、車掌がいた。

「切符を拝見。」

いい笑顔である。

「お、ガランドまでかい、だったら終点だね、あそこはいいよお、遊べるところがたんとある。」

切符を切りながら、車掌はにやけ顔でそういった。

「車掌さんの遊び場なんかにいったら、とたんに一文無しですよぉ。」

そう言って切符を受け取り、そのまま空いてる席に直行する、背後から、「いいとこ紹介するぞぉ。」っという声が聞こえてきた。










「仕事、変えようかしら、、、。」

「今ので4度目の台詞ね。」

もう溜息が趣味になりつつあるサラシャに、同僚のカリスが煙草を吹きつけながら応える。

「ケホッ、だってさー!」

「なにがだってよ、事件じゃなくてよかったじゃない、警、官、として。」

彼女はからかうように、語尾のアクセントを上げて、もう一度煙草を楽しみ始めた。

ここは彼女らの職場らしい、厳つい男に、先ほど検挙されたのであろう、手錠をはめた男が連れて行かれている。

それに雰囲気がものものしい、何か、常に警戒しているような感じであり、常にスレた空気がつき纏っている。

「ふざけんな!私は真面目にいってるの!」

サラシャは机を拳で勢いよく叩いて立ち上がった。

「おー、コワ、コワ。」

カリスはそんなことを言ってはいるが、その様子を楽しんでいるようにも見受けられる、傍目には。

「いーわね!、そっちは!、私と違ってエリートだし!、どうせ現場なんて行かなくていいんでしょ!」

ギリギリと机のふちを握りながら叫ぶサラシャ。

「一緒の大学でしょーが、あんたとわたしゃ。」

そんな彼女を呆れたようにジト目で見るカリス、もう慣れているようだ。

「それに、現場の配属を願ったのはあなたでしょ?」

今度は煙をリング状に吐き出した。

それが自分の顔に届く前に握りつぶすサラシャ。

「そうだとしても、私が望んだのは最前線よ!」

「、、、はー。」

カリスはもう喋る気さえ無くなってきた。

じゃあ、なんだ?今から最前線に配属されて、僻地の分署に飛ばされた経緯を一から説明すればいいのか?

はっきりいってそんなの御免だ、こちとら不毛な争いをするほどの余裕はない。

きっぱり言って、終わらせようとしたカリスの耳に、壮年の男の声が飛び込んできた。

「サラシャ=ガーロンド、カリス=ネーブル、職場では静かにするように」

「「ハイ!」」

こういうところで息がピッタリだからこそ、彼女らは腐れ縁なのかもしれない。


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