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すみっこ童話・短編

王国

作者: 神 雪

 ──どれだけ(ある)けばいいのだろう。


 この黒い、いやなにおいのする地面は

 この(かた)い、(やさ)しさの欠片(かけら)もない地面は

 どこまで続いているというのだ。


 日かげはどこにも見当たらない。

 どこにもだ!


 何かがあると信じて

 だれかが()っていると信じて

 ここまで歩いてきたというのに。

 

 動かなくなりそうな手足を必死(ひっし)に動かしてきたが

 ──もはや、これまでなのだろうか。


 ちっぽけなオレをあざ笑うかのように

 一切(いっさい)容赦(ようしゃ)なく()(そそ)ぐ熱。


 行く手をさえぎるかのように

 立ちのぼり足を止めさせる熱。

 

 どこから聞こえるのかわからない

 おおい()くすかのようなセミの声。


 ──(かわ)いた。


 熱はオレの力を(うば)

 身を守る力さえ残っていない。


 ──もう動けない。



 どれだけ時がたったのか。

 

 急に日かげができたかと思ったら

 何かがオレに近づいて来る気配(けはい)がした。


 最後(さいご)の力をふりしぼり

 オレは()(まも)るために体を丸めようとした。


 ──だれか。

 ──だれか助けて。


 オレは何も考えられなくなり

 黒い地面で動かなくなった。






 ──あれからどれだけの時間が流れたのだろう。

 気がつけば

 (ゆめ)にまでみたやわらかな地面の上にいた。


 わずかに(かお)るコケのにおい。

 そして()()のにおい。


 生きている。

 オレはまだ生きているんだ!


 手足を()ばし顔を上げて

 ()っ先に目に()()んできたもの。



 ──君に出会うために歩いてきたんだ。

 君と(きず)こう、王国を。

 オレたちだけの王国を。





 ──こうしてオレは王となった。

 (いと)しい君がいて

 語り合える友がいて。



 ──そして今、君は母となった。










 






 

□ ■ □ ■ □ ■ □


 

「ねえ、ねえ、お母さん! 白いダンゴムシがいる~!」


 勉強机(べんきょうづくえ)の上にあるケースを見ながら、ナオが大きな声をあげました。


 どれどれ? と、お母さんがやって来て、ナオといっしょにケースの中をのぞき込みます。


「あら、本当ね! ダンゴムシの赤ちゃんよ! これから脱皮(だっぴ)して黒くなっていくから、しっかりと観察(かんさつ)してごらんなさい」


「すぐに()わるの?」


「どうかしら。生まれたばかりみたいだし、まだまだ何日も時間がかかるかも」


 ケースの中では、白いダンゴムシの他にも、黒いダンゴムシが二(ひき)、なかよくモゾモゾと動いていました。ちょっとはなれたところにも、二匹黒いダンゴムシがいるようです。


「あ、お父さんダンゴムシとお母さんダンゴムシも元気みたい!」


「ふふっ。どっちがどっちなのかしらね?」


「四匹も入れちゃったから、わかんないよ」


「分かるように、色でもつけておけば()かったかしらね?」


「いいの。この黒くてツヤツヤしてるのがかわいいんだもん。でもねえ、道路(どうろ)にいたのって、どの子だろう。あんなところにダンゴムシがいるなんて、思ってもみなかったよ! ねえ、お母さん。ダンゴムシっていっぱい足があるけれど、こん虫なの?」


「どちらかというと、エビやカニの仲間(なかま)みたいよ?」


「ムシって言うのに? へんなの。でもくるんと(まる)まるのが、なんだかかわいい!」


「わらじムシっていう丸まらないのもいるからねえ~。あれはなんだか、かわいくないわね」


「へえ~。そんなのいるんだ~」


「そうなのよ。……そういえば、ダンゴムシって、(どく)がないからいざという時に食べられるらしいわよ!」


 そこまで言って、お母さんがニヤリと(わら)いました。ナオは思い切り顔をしかめて口をとがらせます。


「!! ぜったい食べないもん!」


 お母さんは、ふふっと笑った顔を(きゅう)にもどして、(こし)に手をあててナオを見ました。これは何かよくない(こと)を言うときのお母さんのポーズです。ナオはビクッとしました。


「ところで観察日記はもう書いたの?」


「まだ~」


「夏休みはあと少しなんだから、さっさと今日の分を書いちゃいなさいよ!」


 お母さんはそう言うと、クルッと背中を向け、ナオの部屋(へや)から出て行きます。その後ろすがたに、ナオが返事(へんじ)をしました。


「はあ~い」



 いつも返事だけはいいといわれるナオですが、夏休みに入ってから、観察日記だけは、ちゃんと書いているのです。夏休み中いっしょにいたダンゴムシたちをとても気に入ったナオは、毎日地面をしめらせてやり、それはそれは楽しくダンゴムシたちとの時間をすごしているのですから。


 丸まってから起きるまでの時間を計ったり、何を食べるんだろうと、おせんべやチーズを入れてみたり。





 ──(まど)の外は、まだまだ元気そうなお日様(ひさま)頑張(がんば)っています。

 かすかにセミたちの声も聞こえてきます。


 さあ、観察日記を書いてしまおう。そしたらアイスを食べるんだ!


  


 去年(きょねん)まで金魚がいた水そうに土を入れ、枯れ葉を入れ、他のダンゴムシを見つけたところにあったコケも入れて完成(かんせい)した四角い小さな世界(せかい)



 ナオはおでこにうかんだ(あせ)をぬぐい、自由研究(じゆうけんきゅう)の観察ノートを広げながら、つぶやきました。


「まるで、ダンゴムシの王国だなぁ」




*おしまい*


★ダンゴムシの飼育について等の補足★

ガラスやプラスチック等のツルツルしたところを上れないので、上部が開いていても大丈夫です。土は湿らせて下さい。

ダンゴムシは雑食性。枯れ葉等を分解して土へと変える益虫としての一面と、新芽等を食べてしまう害虫としての一面を合わせ持っています。

そしてなんと、「日本ダンゴムシ協会」なるものがあります。


実は以前、我が子がこのダンゴムシを使った夏休みの自由研究をしました。

「ミニ地球」という、一度作ったらそれでOKという、プラスチックの透明半円ボール二つを使い地球環境を再現させたものの中の住人として、住んでもらったのです。

(透明半円ボールは東〇ハンズ等で購入出来ます)

この「ミニ地球」、手入れ不要で半永久的な、ちょっとしたインテリアになります。

詳しくは、「ミニ地球」もしくは「鳥取環境大学」を検索してみて下さいませ。


下記は今回の企画のリンクとなっています。どうぞご活用下さい♪

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