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ショートストーリー 闇の世界へようこそ

航空写真

作者: 梅桃さくら

梅桃さくらの闇の世界へようこそ。


ホラー短編集、第5回です。


「こちら〇〇リフォームです。


太陽光パネルをご存知ですか?」


「うち、結構です。」


「はい、ではまた宜しくお願いします。」


テレフォンアポインターのアルバイトを始めて2週間が過ぎた。


最初は電話の呼び出し音を聞くだけで心臓が飛び出そうなほどだったが、


ようやくマニュアル通りの勧誘文句を噛まずに言えるようになってきた。


断られた家の番号にチェックをうち、次の番号を押す。


流れ作業だ。


「こちら◯◯リフォームです。 太陽光パネルをご存知ですか?」


「・・・・・」


電話は確かに繋がっているのに


完全な無音。


「あの?もしもし?」


「主人の女でしょ。」


いきなり怒りを含んだ女の声がした。


「いえ、私は◯◯リフォームの・・」


「嘘言いなさい!そんな会社ないんでしょ?わかってるのよ!人を馬鹿にしてこんな電話!


あなた、なんて名前!」


突然の事にとっさに嘘をつく事ができなかった。


「鈴木です。」


「そんなどこにでもあるん名前言うなんて!


やっぱり嘘ね!嘘じゃないっていうなら、会社の社長の名前を言いなさいよ!」


私はバイト先の社長の名前まで知らない。


どうしようと思った時、


最初の仕事説明でアルバイトリーダーに聞いた言葉がパッと浮かんだ。


「面倒くさそうな客に当たったら、


『弊社の商品は必要ないみたいですね』と言って


切りなさい。」


すぐさま電話の向こうの女に使った。


「弊社の商品は必要ないみたいですね。またお願いします。」


電話の向こうで怒声が聞こえる。


「まちなさいよ!逃げるの!社長の名前を言いなさい!


リフォームなんて嘘でしょ!知っているのよ!鈴木さん!


私は知ってるのよ!」


構わず受話器を置いた。


完全に病んでるな。


私は震える手をなんとか抑え、チェックを打とうとした。


すると番号の横に見慣れないマーク。


丁度部屋に入ってきたリーダーを捕まえ、


「これ、なんのマークですか?」


と聞くと


「あーこれ。ここは電話しなくていいや。


問題あるところだから。


電話、しちゃった?」


頷くと気の毒そうな表情を浮かべて、小声で言った。


「そっか。ごめんな。早く言っておけばよかったな。


これからそのマークのある家は、掛けなくていいからな。」


そう言ってリーダーは自分の席に着いた。


私も自分のリストに戻る。


改めて見直すとさっきの家と同じマークのついている番号がところどころある。


この番号の人達はみんな何処か病んでいるんだろうか。


そう思うと先程の怖さが消え、


好奇心がわいてきた。


私は家の住所と名前をコッソリとメモに写した。




その日、家に帰った私は早速メモした家の住所をPCに打ち込んだ。


Googleアース。


これなら足を運ばなくても家の外観くらいはわかる。


夫の浮気に苦しんでいるらしい、あの病んだ女がどんな家に住んでいるのか、


単純に見たかっただけだった。


Googleアースが起動した。


地表が迫り、一軒の家が画面に現れる。


普通のどこにでもある住宅街の、普通のどこにでもある一軒家。


庭も綺麗に造られていた。


こんなもんか。


私は軽くガッカリする。


ストリートビューに切り替えようとした時、どこかに違和感を感じて手を止めた。


庭の一角、タイルで貼られた水場のような場所。


そこに文字のようなものが見えたのだ。


角度を変えてみる。


途端に私は再び恐怖で動けなくなる。


汗がどっと噴き出し、マウスを持つ手が滑る。


タイルには多数の文字が、あの女からの多数のメッセージが白いタイルで浮かび上がっていたのだ。


I know


I know


I know


I know


知っているのよ!と叫ぶ女の声が、頭の中でリフレインした。



私は翌日、バイトを辞めた。


このバイト、本当にしていました。


これ、実話なんです・・・・


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