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7-3 『闇に生きた者へと差す光』

 モードリュークの街から帰還した一行は、まず屋敷内に残っていた仲間たちに事の次第を告げた。全員が元の世界に戻る事に賛成し、そして命の為に装置の破壊に協力する事に同意した。


「屋敷に残ってた人数も合わせて七十人か」

「PT六つか。生成装置は全部で六だったな?」

「あぁ。1PTずつ破壊しに行くか?」

「いや、2PTずつのほうがいいだろう。装置の周りにはモンスターが絶対にいるしな」


 彼らは全員の職業とレベルを考慮して、素早く六つのPTを作り上げた。更に二つのPTを一組として、それぞれがどこの装置を破壊しに行くかを決めた。


「なんとか装置まで俺達の裏切りを悟られずに行ければいいけどな」

「行けたとしても、装置に攻撃仕掛けた時点でバレるだろうな」


 既に裏切り行為が魔王に知られていれば、道中に遭遇するモンスターとも戦闘になるだろう。そうなれば装置の場所まで行くのにもかなりの時間が必要になってくる。

 まだ魔王に知られていないとしても、装置を破壊すれば否応なしに知られることになる。各組みが二つ目の装置に向かう時には、道中のモンスターは全て敵に変わる事になるだろう。


「とにかく、それぞれが装置を二つずつ破壊して、あとは各自で逃げる。これでいいな?」


 命の副官だった男がそう言う。逃げる方法は『聖堂帰還』を使用して飛ぶ事だが、屋敷の周囲以外では帰還魔法は使えないようになっている。


「よし、それじゃー行くか」

「あぁ。運が良ければまた会おうぜ」

「おぅ。またな」


 彼らはこの場所での再会を約束して三方へと分かれた。




 女装男ミルキィーが加わったPTが、モンスター生成装置のある部屋へと到着した。


「さて、ここまで無事に到着はしたが……装置の周りに四十体ぐらいか」


 彼らが道中遭遇したモンスターたちは、これまで通り彼らに対して敵意を見せず、ただ横を通り過ぎていくだけであった。

 そして装置の置かれた部屋の中には、数刻前に生まれたであろうモンスターたちが、身動きひとつ取ることなくじっと立ち尽くしている。


「各個撃破とかやってたら、次に生成されるモンスターが出て来るんじゃね?」

「出来ればまとめて範囲で潰したい所だな」


 モンスター生成装置は、一定間隔でモンスターを生み出し続けている。今居るモンスターたちを一匹ずつ倒していったのでは、全部を倒しきる前に次のモンスターが生まれてきてしまうかもしれない。そうなれば、いつまでたっても装置の破壊に取り掛かれなくなるのだ。


 すると、ナイトのひとりが作戦を提案してきた。


「俺がまず囮になって突っ込む。俺が装置に張り付きゃあいつらも寄ってくるだろ。集まった所で範囲攻撃を始めてくれ」


 彼は背中に背負った盾を取り出し、今手にしている片手剣をカバンにしまい別の武器を取り出した。攻撃力よりも防御力を優先させた宝玉を装着させた片手剣だ。


「大丈夫かよ、そんなかっこつけやがって」

「この中で防御力が一番高いのは俺だろ。俺がやるしかねーんだよ」


 早期決戦の為にはモンスターと装置の両方をまとめて攻撃するのが有効だ。その為に自身を犠牲にするというのだ。もちろん戦闘不能になるつもりはない。ギリギリのところで持ち堪える為にも、防御の高い自分が向かうのが最適だと判断したのだ。

 全員が言葉無く、ただ男の決意に頷くしかなかった。


 囮役のナイトが部屋の中へと一歩足を踏み出すと、残りのメンバーは素早く通路へと身を隠した。仲間が隠れたのを確認すると、ナイトは一度だけ深く深呼吸をしてから武器を強く握り締めてから突入した。 


「いくぜ!! うりゃああぁあぁぁぁぁぁ!!」


 猛々しい声をあげ装置へと一直線に駆け出す。すると、それまでじっと動かなかったモンスターたちが反応し、声のする方角へと視線を向けた。


「グギギ」


 モンスターたちは異質な声を上げたかと思うと、装置の前に辿りついたナイトの方へと向かって走り出した。どすどすと地響きを立てて、全てのモンスターがナイトの傍へと集結する。

 ナイトは装置を背にして盾を構え、必死にモンスターからの攻撃に耐えた。


 何体ものモンスターが腕を振り、盾に爪を立てる音が当たりに響き渡る。

 モンスターの注意は完全にナイトへと向けられた。 


「よし、今だ!」


 通路で待機しつつ、様子を伺っていた先頭の男がそう言うと、全員が一斉に走り出した。

 前衛職はナイトに張り付くモンスター目掛けて突っ込み、後衛職は部屋の半ばで立ち止まると早速攻撃を開始する。


「あらよっと!」


 ハンターが弓に矢をつがえ、天井に向かって放つ。魔力を帯びた一本の矢は天井付近まで飛ぶと、魔力を媒介として数本の矢となり降り注ぐ。


『破壊をもたらす地獄の業火! バースト・フレア』


 魔法少女のような派手な杖を振りかざし、ウィザードの男が呪文を完成させた。

 密集隊形にあったモンスターの中心で爆発が起きる。

 

 矢を浴び、爆発の衝撃で大打撃を受けたモンスターがおぞましい悲鳴を上げた。そこへ前衛メンバーが張り付き、攻撃を繰り出してゆく。 


「殺・陣」


 アサシンが闇に紛れ込むように気配を消し、目標の背後へと素早く回り込むと、急所目掛けて強烈な一撃を浴びせた。


 ソーサラーはモンスターの足元に「スロー・スウォップ」を展開させてから、効果時間が持続する間に攻撃魔法を放つ。


 バーサーカーはその自慢の巨大斧を振り回し、密集したモンスターの中へと突っ込んでいった。


 誰もが必死で攻撃に参加する中、ミルキィーは唇を噛み締めて仲間達の後姿を見つめている。


(くそ。俺は回復することしか出来ねーのか? 皆みてーに攻撃に参加できねーのかよ。もっと早く装置を壊せねーと……モンスターどもが集まってくるじゃねーか)


 ゲームとしてプレイしていた頃にはヒーラー以外の職業でもプレイしていたミルキィーは、今の自分の状況に苛立ちを感じていた。

 ヒーラーであるこのキャラクターは、男を騙してアイテムを貢がせるのに向いていたから作成したキャラクターであって、本来なら前衛で戦う事を好むプレイヤーだったのだ。


 ミルキィーの不安は的中した。戦闘音を聞きつけた他のモンスターたちが、とうとう装置部屋へと集まって来たのだ。


「っち、他のモンスターどもも集まってきやがったか」


 集まったモンスターの数は、およそ一〇〇体。始めにこの部屋にいた数よりも多かった。

 モンスターは部屋の出入り口を塞ぐかのように、背後からプレイヤーらを取り囲んだ。


「やっべ。『癒しをもたらす生命の泉、サンクチュアリ』」


 ミルキィーは敵の数に驚き、慌てて範囲用の回復魔法を展開させた。

 続け様に効果時間を上書きする為、持続回復の魔法と防御力を高める魔法を唱える。

 もうひとりのヒーラーが前衛に向かって「サンクチュアリ」を展開し、装置に張り付くナイトに対しては「ヒール・バレット」を飛ばしてHPを全快させた。


 襲い来るモンスターにそれぞれが最大限の攻撃を続けるが、数が多く、また焦った彼らの動きにも無駄が生じていた。

 そんな時、あるひとりが苛立つように叫んだ。


「火力を集中しろ!」


 命令するかのように叫ばれた言葉によって、一気にプレイヤーたちの和が乱れ始めた。


「んなこたー解ってるよ! てめーこそ周りばっか見てねーで攻撃しろよ!!」

「なんだとぉ!」


 戦闘音に混じって、互いを罵りあう声が室内に響き渡る。あっという間にその声はいたるところで発せられるようになった。

 モンスターと戦いながら味方同士で足を引っ張り合う姿を、ミルキィーは後ろから睨むように見つめている。


(こんな時に何争ってんだよ。最後ぐらい仲間として協力し合えよ)


 自分がまだ女キャラクターであった頃、人を騙し、アイテムを貢がせ、それをRMT業者に売りつけるという悪意ある行為を行ってきた。

 そんなミルキィーであっても、時には真剣にダンジョン攻略を目指し、昴らと協力して戦う事もあった。彼は今、その時の自分の事を思い出していた。


「あぁーくっそ! 俺だって戦いてーよ! でも俺に出来ることはお前らを回復する事しかねーんだ! だから……だからお前らに頑張って貰わなきゃいけねーんだ!! 頼むからケンカなんかしてねーで、戦ってくれよ!」


 ミルキィーは叫んだ。

 力の限り叫んだ。

 自分の素直な気持ちを、精一杯叫んだ。


 すると、それまで言い争っていた全員が一瞬の内にして静まり返った。この間にも彼らは必死に戦っている。いや、必死だったに違いない。しかし、どこからともなく噴出すような笑いが起こった。


「……かっこいいセリフ言ってもな……お前のその恰好じゃなー」


 ミルキィーの近くに居た男が、彼を指差して笑い出す。

 そう。ミルキィーは女装したままだった。命からの言いつけとはいえ、最後のこの戦いでも彼は女装のままなのだ。


「っちょ、うるせーよ! その事は今無視しろよ!」

「ぶわっはっは! 女装ミルキィーがかっこつけやがった」


 それまで最前衛で奮闘していたナイトも、たまらず噴出してしまった。

 笑いを堪えていた者は涙を浮かべてモンスターと戦っている。


「だぁー! だからそれは――あ!?」


 反論しようとしたミルキィーだったが、セリフは途中で驚きの声に変わった。

 突然彼の視界に新しいウィンドウが現れたのだ。


「どうした?」


 ミルキィーを指差した男が怪訝な顔をして声を掛けてきた。彼はミルキィーと同じプリーストで、今も仲間の足元へと回復魔法を展開させている。

 同職の心配を他所に、ミルキィーの顔が緩みきっていた。そしてミルキィーは口元に笑みを浮かべながらこう言った。


「ふひひ……新スキル……出た」


 感極まった彼はうわずった声で言うと、震える指先で目の前の空間をなぞる様な仕草をした。彼は目の前に現れた、他人には見えないシステムウィンドウを必死に見つめているのだ。


「はぁー?」


 ミルキィーの答えがまったく理解できないプリーストの男は、間の抜けた声で彼に返答をした。同じタイミングでミルキィーの指先の震えも止まる。

 彼は勝ち誇ったように目を輝かせると、天を仰ぐようにして両手を突き出した。


「なんかよくわかんねーが……女神様が俺を認めてくれたんだ、きっと!」


 ミルキィーは突き出した腕を下ろすと、今度は腰に手を当ててその場スキップをし始めた。そんなミルキーに対し、何人もの男達が同じ言葉を連呼する。


「ないないないないない」


 上機嫌になりかけていたミルキィーは、とたんに不機嫌そうになったか、今やるべきことを思い出して真剣な眼差しで男達へと怒鳴った。


「うるせーよ! とにかくやるぞ!」


 そう言うと、ミルキィーは生成装置の方へと近寄り、全員に対しても同様に集まるよう指示する。


 彼らを囲むモンスターがじわりじわりとにじり寄ってくる、まさにその時。ミルキィーが新スキルの詠唱に入った。


『聖なる鐘を打ち鳴らせ。我が領域は闇を退く聖域なり! シャイニング・ゾーン』


 スキルの完成と同時に、ミルキィーの体が眩い光に包まれる。光は瞬く間に広がり、彼を中心とした一定空間を淡い光となって覆った。


「なんの効果だ?」


 すぐに誰かが言った。効果が解らないのであれば、どう動けばいいかすら解らないのだ。


「俺を中心に……えーっと、文字化けしてて読みづらいな。俺を中心に一定範囲内が聖属性になる、か? んで、範囲内の闇属性モンスターに聖属性ダメージ。味方の攻撃に聖属性付与と持続性回復」

「なんかいいスキルじゃねーか」


 スキルの説明を求めた男が、嬉々とした声で言う。

 効果はすぐに現れた。

 まず、ダメージを受けていた前衛メンバーのHPが、徐々にではあるが回復していく。

 そして範囲内にいたモンスターたちが、突然苦しそうに悲鳴を上げ始めたのだ。


「よーっし! 俺の時代が到来したぜー! このまま張り切って行くぞヤローども!」


 おぉー! っと張り切って拳を振り上げた男のひとりが、ハタとなってミルキィーに視線を向けた。


「なんでお前が仕切るんだよ!」


 そんな男に向かってミルキィーは真っ白な歯を見せて、自慢気に笑って見せた。


 ここから彼らの快進撃が始まる。

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