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5-1 『霧の大地』

 マイアナ全土を魔物の支配から開放したプレイヤーたちは、その後マイアナ南部にある、小国ドロイノ国の攻略に乗り出した。

 しかし、マイアナ国は、闇の魔王の本拠地であろう場所、ゲームマップでは霧で覆い隠された場所に最も近い位置にあることから、度々魔物の攻撃に晒されることになった。

 魔物が進軍するたびに高レベルプレイヤーらが迎撃し、なんとか住民への被害は免れている。

 

 その後、霧に覆い隠された場所に最も近い城塞はプレイヤーの手に委ね、最高レベルのプレイヤーらが城塞の守りを固め、魔物の進行を防ぐ事にした。

 これによってマイアナ全域を警備するのに必要な人員を削減することに成功する。


 そして遂に、プレイヤーやは精鋭部隊を結成し、2PTと他二名を霧で覆われた地へと送り込んだ。


「ゲームマップでも霧に覆われてたし、まさかと思っていたが……」


 先頭を歩くのは『シャドウ・ロード』のギルドマスター影山が口を開く。狼タイプの獣人族である彼は、優れた視力の持ち主だった。更にアサシンという職業柄、暗がりでも比較的見える暗視能力の持ち主でもある。

 しかし、この深い霧の中では暗視能力は役に立たず、よく見える視力も効果のほぼは薄い。ただ、大きな耳はわずかな音も聞き逃さず、その点では敵の奇襲などに備えるのには役になっていた。


「真っ白だなー」


 影山の後ろから追従するメンバーのひとりがありきたりな感想を洩らす。視界は霧を覆われ二、三歩前を歩く仲間の姿がようやく見えるぐらいだ。


「逸れるなよ皆」


 一行の中間地点を歩く『青龍騎士団』ギルドマスターの小竜パイロンが、後続にも聞こえるように声を掛けた。


「手でも繋ぐか?」


 小竜のすぐ後ろを歩いていた彼のギルドメンバーであるグレミアが、場を和ませようと冗談を口にして小竜へと手を伸ばす。


「やめろよ……ホモくせぇだろ」


 小竜は照れたように伸ばされた手を振りほどく。もちろん、照れてなどいない。ただの演技だ。


「やだぁ、そういうの大歓迎よ〜」

「腐女子だこいつ……」

「ふふふふふふ」


 グレミアの横に並んで歩く『薔薇の旅団〜エンジェル・ローズ〜』のギルドマスター橘 紅葉は、二人の男達による熱い友情劇に興奮する。

 傍を歩いていた『クリムゾンナイト』のカイザーは一歩後退して紅葉から距離を取った。


 総勢24名は、全プレイヤー内でもPSプレイヤースキルが上位だと言われている人物らばかりで構成されている。大手や中堅ギルドのギルドマスターが多数在籍し、奥義スキルの所持者であったり、レイドボス産のレア装備を持っていたりといった面々だ。

 残り二名がこの二つのPTに追従しているはずなのだが、歩く人影は24しかなかった。




 霧の中を歩く事数日後。一行は何度も激闘を繰り返した後ようやく、目的とする大穴へと辿りついた。流石にPSの高いと言われている面々だけあって、混合ギルドPTであるにも関わらず上手く連携の取れた戦術で強敵を潜り抜け、現在の所は戦闘不能者を出すことなく進んできた。


「まじでけー穴だな……」


 グレミアは小さく感想を洩らした。

 巨大な穴の周囲は不思議な事に霧が晴れていた。その為、穴の大きさもハッキリと確認できる。野球グラウンドよりも遥かに大きい穴だ。


「あっちから降りれそうだ。ってかお誂え向きに作られた階段だな」

「敵PCが出入りする為の階段じゃね?」

「PCと遭遇すると厄介だな」


 カイザーが指差した方角に、穴の底へと通じる階段があった。幅はそれほど広くは無い。手すりなども一切無い。一歩足を踏み外せば奈落の底まで一直線だ。

 更に隠れる場所の無い階段で、下から敵PCプレイヤーキャラクターが登ってくた場合、完全な鉢合わせ状態となる。可能な限り奥まで進みたい一行としては、ここで見つかるわけにはいかなかった。


『シャドウ・ロード』所属のアサシン、スネーク・アイが紅葉に向かって支援スキルを要求する。


「俺が潜行していく」


 アサシンのスキル「サイレント・ウォーク」を発動させると、スネーク・アイの姿は瞬く間に消えていった。


「頼む」


 影山は自身のギルドメンバーへと声を掛ける。まだ近くに居る事は判っているが、その姿はどこにあるか判らない。

 その間、一行は岩陰で休息を取り、スネーク・アイからの連絡を待つ。


 数分後、影山がスネーク・アイからの連絡をギルドチャットで受け取ると、一同へと報告した。



「ギルチャで連絡が来た。階段は穴の途中にあった横穴までしかなかったとさ。とりあえず降りてきても大丈夫だとさ」


 影山の言葉を聞いた一行は、まずプリースト、エクソシストらによる支援スキルを貰うと前衛、後衛、支援、最後尾にカイザーの順で進んでいった。

 先頭を歩くのは影山だ。


「よし、行こう。ちゃんと付いて来いよ」


 影山は遠く離れた後方に視線を送りながら言った。彼の視線の先に微かに動く人影が二体あった。その影もすぐに消えて無くなる。




 階段を下りたところで合流したスネーク・アイを加え、24人は横穴の奥へと進んでいく。彼らの姿が横穴へと消える直前、後を追うようにして一陣の風が吹く。


 内部はこれといって人の手が加えられたという気配も無かったが、唯一地面が剥き出しのままである壁には、一定間隔で松明の明かりが灯されていた。


 奥へと進む途中、枝分かれした道では二つのPTのうちひとつが「ハズレ」っぽそうな道へと進み、ハズレであることを確認すると引き返して合流。これを幾度となく切り返してきた。

 歩いてきた工程は全てマッピングし、行き止まりなども逐一書き込んでゆく。


「とりあえず、今の所遭遇したのは全部レベル95モンスターばっかりだな」

「俺らのレベルが92……タイマンじゃ厳しいな」


 彼らは出来るだけ戦闘を避けてきた。避けることが出来ない戦闘では全力で敵と交戦した。戦闘が長引けば他の敵に見つかる可能性もでてくるからだ。

 それに付け加え、敵は全て自分たちよりも格上レベルだった事もある。敵の能力なども調べておきたい気もあったが、悠長に戦っている余裕は無かった。


「95モンスターばっかってことは、ボスのレベルはまだ高いよね……」


 中堅ギルドからの参加者で、武器と胴部位の防具がレイドボス産というブルジョアプレイヤーの柚子は、これまで遭遇したモンスターレベルの事を考えて意見を口にした。大抵のダンジョンでは、徘徊するモンスターのレベルより、そこを統べるボスのレベルは高いと決まっている。

 闇の魔王は全てのモンスターの頂点に立つのだ。まさか徘徊モンスターと同レベルとは誰も考えては居ない。 


「そうなるな。くっそ、もう暫くレベル上げに専念しねーとダメっぽいな」


 柚子のセリフにカイザーが同意すると、自身のレベルの低さを呪った。カイザーのレベルは決して低くは無い。今回の精鋭部隊に参加している24名と+二名のうち、一名だけレベルがやや低い者がいるが、他は全員レベル92なのだ。

 レベル92とは、現段階でのプレイヤー側の最高レベルなのだ。しかしカイザーの言うように、敵とのレベル差を確認した彼らは帰還後、レベル上げに専念する必要性がある事を認識したのだった。


「おい、あそこ見てみろ」


 先頭を歩いていた影山が、枝分かれになっていた道の奥を指差していった。

 壁に掛けられた松明の明かりによって、歩く分には支障のない程度の明るさが保たれていた洞窟内部だが、影山の指差す方角はかなりの明るかった。そこには洞窟内に似つかわしくない建造物が、明かりに照らされて建っていた。


「ん? 屋敷? こんな所に人が住んでいるのか?」


 明かりに照らし出されていたのは、明らかに人が住む為用意されたような屋敷であった。2階建ての屋敷は中世ヨーロッパをイメージさせる佇まいだ。


「敵PC連中だろ」

「あぁー、そうか」


 それほど大きくも無い屋敷ではあったが、100人ほどなら十分寝泊りするぐらいの広さはありそうだ。

 闇の中でそこだけが明るく照らし出された屋敷は、敵に寝返ったプレイヤーらが住んでいるのだろう。現に屋敷の外には数人のプレイヤーらしき人影が見える。

 精鋭部隊の一行は、敵に見つからないよう静かに移動を行おうとした。

 すると、エクソシストであるバファリンが、小さく呪文を唱えると、ある魔法の効果を試した。


「お、ここ『聖堂帰還』が使えるぞ」


 小さく言葉にしたバファリンの視界には、『聖堂帰還』の使用が可能である証拠に、転移場所の一覧表が現れていた。


「敵PCの移動用にか。ありがたいな。敵の本拠地内で帰還魔法使えるのは」

「もしもの時はここまで引き返してから逃げることになるな」


 影山とマークが交互に口を開く。

 一行は静かに来た道を戻ると、もう片方の分かれ道の方へと進んでいった。


「さっきの場所、マッピングよろしく」


 マッピングを担当しているソーサラーのあきらへと影山は声を掛ける。


「バッチリ、大丈夫」


 明は軽快に答えると、手にした紙を彼へと見せた。細かくも無く、大雑把すぎもせず、重要な箇所はしっかり明記されたマップはとても見やすく描かれていた。


「じゃあ、奥に進むぞ」


 正確なマップに感心しながら、影山は更に奥へと進んでいった。


「了解」


 24人は慎重に、且つ背後に気をつけながら先へ進んだ。万が一、敵PCが後ろから現れる危険性も出てきたからだ。

 彼らは壁に掛けられた明かりを頼りに、自身らは明かりを灯すことなく進んでいる。しかし、松明の明かりは小さくも無く、先ほどの屋敷から彼らの姿をまったく確認できないという程でもない。

 見つかっている可能性もゼロではないのだ。

 そしてその心配は現実のものとなる。

5章スタートです。

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