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4-4 『都の現状』

 昴のPTに参加した中堅ギルドのメンバー三人がレイドボス産のレアを獲得した話は、プレイヤー達の間で瞬く間に広がった。その為、PTへの参加を希望する者も続出した。


 しかし、その後昴の快進撃はピタリと止まる事になる。

 PTメンバーの総入れ替えの声が高まったのもあって、再び昴は見知らぬプレイヤー達と組まされる事になったのだが、パームロイの砦以降2回のレイド戦が行われ、レアはおろか一切のドロップが無しという状況だった。


「つまり……昴の運はパームロイで消滅したってことか?」

「連続して出すぎたんだよ! あいつのレア運はもう打ち止めなんだろ」

「逆にアイテムゼロとかもレイド戦じゃありえくね?」

「だよな。装備とかレア物じゃなくっても、なんかいろいろと出るもんだしな」

「「貧乏神が憑いたんだ!」」


 こうして昴の元でレイド戦に参加したいと申し出るプレイヤーは、あっという間に居なくなった。


「ま、元気だせよ昴! 俺達が付いているじゃねーか!」

「あらぁ、あたしだって居るわよ昴ぅ」


 昴は元の仲間ギルドメンバーの下へと戻り、今はマイアナの都へと向かっていた。キース・エッジの「玉座に座っているのは皇帝」という言葉を確かめる為だ。


「玉座まで潜入するでござるか?」

「流石にそれはモンジさんでも難しいでしょ?」

「うーん。以前は、モンスターが格下だったから良かったでござるが、今は適正でござるからなー」


 格下相手であれば、潜入が見つかっても逃げ切るのは容易であったが、適正レベルが相手では最悪の場合、戦闘不能も覚悟しなければならない。


「では、都の人たちに話を聞くというのはどうですか?」


 桃太は愛くるしい表情で首を傾げる様な仕草で意見を口にした。自分の言葉を補足するように、説明を続けた。 


「ずっとそこに住んでいる人達なら、自分たちの皇帝陛下の人柄だって判るでしょう? だから今の皇帝陛下に不自然な所が無いか聞いてみたらいいんじゃないですかね?」


 一番の正攻法とも言えるやり方ではあるが、いっくんには不安材料があるらしく難色を示した。

 その理由が――


「上手く化けてたら判らなくね?」


 というものだ。魔物が人間に化けて成りすます。ファンタジー物では良くあるパターンだ。しかし、桃太にしてもそれは考えなかった訳ではない。


「そんな事言ってたら、玉座まで潜入出来たとしてもそれが皇帝陛下なのか魔物なのか、僕たちに判るんですか?」


 桃太はいっくんにこう反論した。その人物を何年も、何十年も見てきた人間にも見抜けないほど完璧に化けられているのを、一見である自分たちがどう見抜くのか。それこそ不可能なのではないか。と桃太は言うのだ。


「ぐっ、確かに……」


 返す言葉が見つからないいっくんは、桃太の話す内容を認めるしかなかった。

 そんな一連のやり取りの後ろで嬉々とした声が上がる。


「聞き取り捜査ですね!」


 一同が振り返ると、楽しそうにメモ用紙片手に張り切っているリーフィンの少女がひとり、言わずと知れた餡コロがいた。


「何か張り切ってる? 餡ちゃん?」


 苦笑いのニャモが尋ねると、餡コロは嬉しそうに頷いた。


「刑事ドラマ大好きです私〜」

「……張り込みも好きそうね」

「尾行もいいですよね!」


 そこまでは聞いてないと言わんばかりに視線を落とすニャモ。彼女は一抹の不安を覚えた。


「おぉぉ! なんかかっけー!」


 桃太の正攻法にどこか納得のいかないいっくんだったが、聞き取り捜査、張り込み、尾行と聞き、自分が刑事になるのを想像して一気にやる気を帯びた。


「……いっくんも餡コロちゃんと同レベルやったんね」


 ニャモの不安はライトにも伝染したのであった。




 帝都、マイアナの都の城門は開かれていた。いくつもの荷馬車が行き来する中、昴たちはなんの警戒もされる事無く都へと潜入する事が出来た。

 ただし、今の彼らは武器も防具も身につけておらず、この世界での旅人風な装いをしている。布装備組はそのままの出で立ちだが、特に変わった服装というわけではなく目立たなかった。

 誰かに奪われては困る昴のブルークリスタル・アーマーは、他のメンバーの装備を隠した小さな洞窟に、更に穴を掘って埋めて隠してある。


「拍子抜けだな。もっと厳戒態勢だと思ってたのに」

「だな。けど、良く見るとモンスターがあちこち巡回してやがるぜ」


 いっくんの言うとおり、そこかしこにモンスターの姿がある。数体が1PTとなって決まったコースを巡回しているようだった。

 規則正しく動くモンスターたちは、見る限りまったく住民を襲うといった行動は取っていない。その証拠に、都の住民も普通に出歩いているし、モンスターの横を距離を開けながらも、別段恐れて逃げるといった事も無く通り過ぎている。


「なんだか妙な光景よねぇ」


 カミーラの言葉に全員頷いた。


 昴たちたち10人は二人一組になって聞き取りを開始した。長居をすればするほど危険が伴う為、今日中に都を離れるつもりで居た。


 昴は餡コロと二人で住宅街へと向かった。

 家屋の脇にあった長椅子に腰を下ろしていた老婆に早速話を聞くことにした昴たち。周囲を警戒し、モンスターが近くに居ないか確認する。

 安全であることを確認すると、自分たちは帝国の外から来た行商人の下っ端だと説明し、この国と貿易をしたいと話す親方の命令で国益の具合を国民から聞きだすためにこっそり調査に来た。と話した。

 そして皇帝はちゃんと存命しているのか、魔物が完全に国政を行っているのか尋ね、魔物相手に貿易は難しいからと笑いながら話す。


「皇帝陛下? っはん! あんなヤツ死んでしまえばいいんじゃ!」

「え?」


 皇帝の話を聞いた瞬間、老婆は突然叫んだ。もっとも年老いた老婆の声はそれほど大きくも無く、周囲にはそれほど響きもしなかった。

 老婆は昴と餡コロをじっと見つめて二人を観察しはじめた。昴はともかく異種族であるリーフィンが商人というのは珍しい。ゲームだった頃にはリーフィンのNPCは多数存在したが、異世界の方ではそういったNPCはことごとく消え、リーフィン自体は希少な種族だというのがわかった。


「お前さん、商人なんて嘘じゃろ」

「あ、えっと、それは……」


 見透かされているような視線で見つめられた昴は、たじろぐ様に後退する。演技はあまり得意ではなかったようだ。それに関しては餡コロも同様で、先ほどから一言も喋っていない。


「もしかして、今噂になっとる……っは! こっちに来るんじゃ」


 老婆は周囲を警戒してか、二人を家の中へと招き入れた。

 質素な室内には、都という大きな町に住む人の家とは思えないほど物が置かれていなかった。あるのは食事をするときに使うであろうテーブルと、座る為の椅子。それだけだった。

 奥にも部屋はあったが、ここがこれだけ質素なのに対して奥が豪華なんてことは考えにくい。


「いいか、帝国の皇帝は四代前から暴君として君臨し続けとる。今の皇帝もそうじゃ」


 老婆は椅子に腰を下ろすと、出来るだけ小さな声で話し始めた。


「わしは生まれたときからこの国でずっと暮らしてきておるが、出来ることなら他の国へと逃げたかった……」


 しわだからの表情が曇り、老婆は視線を落とす。これまでの生活を振り返っているのだろうか、老婆は暫く無言で俯いたまま動かなかった。

 再び顔を上げた時、老婆の表情には怒りが顕になっていた。


「それでも先代や先々代は、今の皇帝よりはマシじゃった! 魔物に国を引き渡したりしなかったからの!」

「皇帝陛下が自ら国を明け渡したんですか?」


 老婆の言葉に偽りが無ければ、今玉座に座るのは皇帝自身である可能性が出てくる。


「そうじゃ! わしは、いやこの都の民全員が見たはずじゃ。皇帝が頭を垂れて魔物にひざまづく姿を!」


(やっぱり、本物の皇帝なんだろうか……)


 昴は想像した。人間が魔物の前で土下座し、王冠を引き渡す光景を。


「頼む、お若いの」


 老婆は椅子から立ち上がると昴の元までやって来て、彼の手を掴み涙ながらに訴えた。


「なんでしょうか?」

「私達に出来ることなら何でもしますよ、おばあさん」


 昴も、そしてようやく口を開いた餡コロも、精一杯穏やかな口調で老婆へと語りかけた。


「皇帝を殺してくれ!」


 老婆の口から漏れた言葉は、二人にとって予想しなかった言葉だった。


「!?」


 驚きを隠せない二人は、互いに顔を見合わせると再び老婆へと視線を向けた。


「わしらを解放しておくれ! 悪政を続ける帝国からも、恐ろしい魔物からも!」


 両手で顔を覆った老婆は、その場で泣き崩れるように座り込む。慌てて餡コロが老婆を支えたが、今度は餡コロの体に縋るようにして老婆が抱きつく。


「皇帝を殺せば、わしらは同時に二つから解放される事になるんじゃ。お願いじゃあお若いの」


 困惑した表情で昴を振り向いた餡コロ。昴もまた困惑していた。




 二人は老婆を落ち着かせた後、別室にあるベッドで寝かせてから家を出た。二人が部屋を出る際、老婆はもう一度、この国を救ってくれと頼んできた。年老いた自分の為ではなく、幼い子供達の為に……と。

 昴はそれに答える事は出来なかった。この国を救うだけなら喜んで力を貸したいと思うのだが、その為に皇帝を殺せるかといえば、答えは否だった。


(人殺しなんて……誰だって嫌に決まってるさ)


 昴と餡コロは複雑な心境の中、仲間達との合流場所へと急いだ。




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