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4-3 『出た出たででんでんででん』

 キース・エッジによって語られた「都の玉座に座る人物」については、瞬く間に部隊全体へと、そして別部隊から砦警護の残留組にまで伝えられた。

 都へ向けて移動を進めながら各部隊単位で話し合いが持たれたが、結論から言えば「敵のいう事など信用するな」であった。

 プレイヤーを混乱させる為の陽動作戦だという声が圧倒的に高かったからだ。それに関しては昴も同意見である。ただし、もし本当に玉座に座るのが帝国皇帝だった場合、どうするべきか考える必要がある事を昴は提案した。


「まぁ……相手が人間なら話し合いも出来るだろうし、もし悪に染まってるっていうなら……拘束っていう手もあるな」


 疑心暗鬼に駆られながらも、『青龍騎士団』のギルドマスターはこう言った。あとの事は帝国国民が決めればいいとも付け加える。

 ひとまず「倒す」という結論が出なかったことに安堵した昴は、次なる大規模レイド戦へと心置きなく挑む事ができた。


 次に昴たちの部隊が向かったのはパームロイ砦。




「やった! レイドボス在住だぜ!」


 既に始まっている攻略作戦の中、昴のPTに在籍していたナイトが歓喜の声を上げる。

 今昴がいるPTには、昴を含めたナイトが二人。昴自身は『奥義』を発動させレイドボスと取り巻きのヘイトを取るのが純粋な役目になっている。

 しかし、これまでの戦場でも時折そうだったのだが、ボスが召喚する取り巻き以外にも、一般モンスターが別方向から現れて後衛を攻撃する事が多々あったのだ。

 そうしたモンスターに対応する為、今回はナイト二人構成となった。もちろん、参加したナイト自身は、レアの恩恵に授かりたいという下心が十分あったのは言うまでもない。


「レアのチャーンス!!」


 レイドボスとの激戦が待ち受けているであろう事など既に頭になく、ナイトは浮かれた様子で軽快なステップを踏みながら前進してゆく。


「いや、出るかどうか解らないから! 出ない確率のほうが高いぞ?」


 昴は慌ててもうひとりのナイトへと駆け寄り、あまり期待するなと話しかける。期待されすぎてレアが出なかった時の事を考えると、その後責められるのではないだろうかと不安になる。


「昴クンの言う事は信じられませ〜ん!」

「そうそう。初レイド戦であっさり『奥義書』は出すわボス産装備出すわ。この前だってボス産出したばっかだろ?」


 他のPTメンバーから次々に声が上がるが、その内容は理不尽でもあり、事実でもあった。実際、初レイド戦でレアアイテムを手に出来るプレイヤーなんてものは、ゲームだった頃も含めて昴唯一人しかいない。


「いや、ま……そうだけどさー」

「恩恵に預かりまっす!」


 口ごもる昴の事など無視して、全員が彼に頭を下げ、そして手を合わせた。彼らの頭の中ではレアアイテムが出る事が既に決定付けられていた。


「そんな変な期待されたらプレッシャー掛かるじゃねーか!」


 昴のそんな悲鳴はPTメンバーに届くことなく、彼らは早々にレイドボス、カオスイビルシブルの部屋へとなだれ込んだ。




『スプラッシュ!』


 ハンターが天井に向かって放った矢は、魔力マナを含んだ無数の矢となり、弧を描いて降り注ぐ。


『地獄よりいずる慟哭の叫び。恐怖に震えろ、カースマインド』


 大量に現れた一般モンスターは、ソーサラーの状態異常スキルによって足止めされる。


『まとめて燃え尽きろ! バーストフレア!!』


 そこへウィザードが強力な範囲攻撃魔法を放った。


 倒し損ねたモンスターは、素早くナイトが「雄たけび」を使用してヘイトを取ると、安全が確保されたウィザードが再び大魔法を詠唱する。


『絶対零度の中、凍えてしまえ! アイスストーム!』


 着々と数を減らしていく増援されたモンスターたち。

 

 別の場所では昴がいつも通りレイドボスと召喚取り巻きのヘイトを取って攻撃に耐える姿があった。戦闘が開始されたばかりの今は、取り巻きの数もそれほど多くはない。

 現PTメンバー以外にも他に2つのPTが参戦している。その内ひとつは昴にとって最も頼もしいと思える仲間達の姿もあった。


「作戦通りよろしく! 『奥義』入ります!」


 レイドボス戦では初めてとなる現PTメンバーに事前打ち合わせをしていた昴は、作戦開始の合図を出した。

 全員がそれを確認すると頷き、雑魚処理に当たっていたソーサラーが戻ってきて「ブロック」によってMPが削られる昴への支援に駆けつけた。


「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 昴の「奥義、クルセイダーディフェスト」が発動される。防御力を一時的に強化し持続的にHPを回復させる。更にヘイトも持続的に発生させる為、召喚されたばかりの取り巻きは必然的に昴へと襲い掛かる事になる。


「全力で行けぇぇぇぇ」


 雑魚の処理を終えたナイトが、火力が低い自身も叫びながら武器を構えて突進してゆく。

 それを見た『冒険者』ギルドの面々も、彼の叫びに呼応するように攻撃を開始した。


「俺達も行くぜ! ぐるぐるばんばーん!」


 いつものようにいっくんは、スキル「ギガントレボリューション」でレイドボスへと突撃してゆく。

 巨大な斧を振り回し、遠心力で回転速度を速めてそのまま敵へと突撃するこのスキルは、バーサーカー最大の攻撃力を誇る。


「お前、それ恥しくないか?」


 常に「ぐるぐるばんばん」と叫びながら敵へと突撃するいっくんへ、後方で支援するクリフトが淡々と突っ込んだ。

 

「ん? なんか言ったかクリフト?」


 回転攻撃を終え、満足げに額の汗を篭手で拭ういっくん。クリフトの声は届いていたがその内容までは把握していなかった。


「いや、なんでもない。気のせいだ気にするな」


 キラキラと汗に輝くいっくんの暑苦しい姿を目にしたクリフトは、目線を逸らして近くのプレイヤーへと支援スキルを送った。




「そろそろ『奥義』切れる頃だな。「ジャッジメント」入れるからな! 昴のPTは準備いいか?」


 昴の「奥義」発動と同時に、持続時間5分の防御力アップスキル「プロテクション」を使用していたアーディンは、自身のスキル効果残り時間を確認する事で昴の「奥義」効果残り時間も把握していた。


「おっけ〜よぉ」


 アーディンの「ジャッジメント」についても昴から聞かされていた彼のPTメンバーたちは、15秒間に高い攻撃力を持つスキルをいかにして連発させる事が出来るか前もってシュミレーションしていた。

 合図の後はスキル使用を控え、「ジャッジメント」が発動するのを待つ。発動と同時に最大火力のスキルを使用し、それから純に上位火力スキルを放っていく。

 詠唱が長く、CTクールタイムの長いウィザードスキルであっても、真っ先に使用したものは「ジャッジメント」効果が終了するギリギリの所で再使用が出来る。


「んじゃ行くぞ。『愚かなる生き物よ、世界の裁きを受けよ! ジャッジメント』」


 合図を受けたアーディンが「ジャッジメント」の効果範囲を視野に入れてスキルを放つ。


 レイドボスや取り巻き達を含めた広範囲の床に輝く魔法陣が現れる。


 聖属性の攻撃を受け、モンスターたちが悲鳴を上げた。

 同時に何十人ものプレイヤーたちが一斉にレイドボスへと攻撃を仕掛ける。


 ある者は巨大な剣を突き刺し、ある者は短剣を素早い連続攻撃でボスの肉体を切り刻む。


 矢が飛び、炎が舞い、氷が降り注ぐ。


「ジャァスティスブゥレイドオォォォォォォ!」


 昴の渾身の一撃がカオスイビルシブルに突き刺さった。


 耳を覆いたくなるような断末魔を発したカオスイビルシブルは、巨体を横たえると黒い霧となって四散した。


 勝利の喜びを分ち合おうと、PTメンバーの方へと振り向いた昴。だがそこには喜びよりも笑いが待ち構えていた。


「え? 何その恥しいスキル!?」

「ちょ! まさかそれが噂のチートスキルなのかよ!?」

「いやなんとなく俺、鎧貰う立場じゃなくって良かったわ」

「スキル名口にしなきゃいけないにしても、もうちょっと言い方ってのがあるだろ」

「なんていうか、熱血してます俺! みたいなノリだよな」

「キャラ的にちょっと違う気がするよね〜」

「……辞めてくれ……みんな……」


 PTを組んでそれほど日数も経っていない中、既に弄り倒されるキャラ扱いを受けていた昴であった。


「っぷ」


 アーディンの短い笑いの直ぐ後、突然昴のPTにいたウィザードが顔面蒼白な表情で叫んだ。


「ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 その場にいた全員が驚いてウィザードへと視線を向ける。中堅ギルドのギルドマスターを勤めているウィザードの青年は、宙を見つめて口をパクパクとさせていた。


「マスタどうした!?」

 

 彼と同じギルドに所属していたエクソシストの男が心配して駆け寄った。宙を見つめたままのギルドマスターの眼前でエクソシストが手を振ってみせると、ようやくギルドマスターは我に返った。


「でででででででで」


 我に返ったものの、興奮のあまり言葉にならないものを口走っている。落ち着くようになだめるエクソシストの後ろで、アーディンが楽しそうにしながらやってくる。


「ででんでんででん?」


 彼女の記憶にある古いSF映画のテーマ曲を口ずさむ。ウィザードの言葉が「で」から先に進むまで、アーディンはこのテーマ曲は続ける気でいた。

 そしてウィザードの青年の口から「で」より先の言葉が出たのは、テーマ曲を口ずさむのにアーディンが飽きてきた頃だった。


「でたあぁあぁぁぁぁぁぁ」

「やっと終わったああぁぁぁぁ」


 青年とアーディンは、ようやく「違う言葉」を発せられた事に喜んだ。それぞれ思惑はまったく別の所にあったが。


「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 何が出たのよ!?」


 アーディンを押しのけニャモが飛び込んでくる。目をランランに輝かせ、尻尾は真っ直ぐピンと立っている。


「ウ……ウィザードの……『奥義書』」


 彼は恐る恐るアイテム欄から「奥義書」を取り出すと、震える両手でしっかりと握り締めた。


「っぶ……嘘だろ」


 同じPTにいたバーサーカーが吹き出した。昴のPTに参加する事でレアの恩恵に預かりたいという気持ちはあったし、レイド戦を繰り返せばひとつふたつは出るだろうとは思っていた。

 しかし、まさか一戦目にして最大級のレアアイテム『奥義書』が出るとは思いもしなかったのだ。

 

 だが、これだけでは終わらなかった。


「俺の所にも……いや『奥義書』じゃないけど」

「ごめんなさい……私もなんか来てる」


 昴のPTにいたもうひとりのナイトが、先に出た「奥義書」というレアアイテムの前に、やや申し訳無さそうな表情で一歩前にでた。彼に続くようにプリーストの女性も声を上げる。


「おいおいおいおい、待てよ。何このレアオンパレード。で? 何が出たん?」


 他の仲間達からも次々と質問攻めにされるレア獲得の二人は、はじめ苦笑いを浮かべていたが直ぐに晴れやかな表情になると、ナイトの方は早速獲得したアイテムを見せびらかした。


「じゃっじゃじゃーん!」

「盾えぇぇぇぇ!? ちょっとそれ羨ましい! 俺も盾はほしい!」


 ナイトが左手に装備して掲げたのは盾だ。防御が要のナイト職にとって、レイド産の盾はかなり魅力的な装備だ。


「残念だったな昴くん。獲得と同時にロック掛かったじぇ」

「くっそー。しかもレベル85盾って、もしかして現存する盾装備で最強なんじゃ?」


 見せ付けられた盾を、昴はしっかりとアイテム情報で確認していた。

「幻影光輝の盾」レベル85装備。暗黒・混乱の状態異常耐性100%。つまり絶対にこの二つの状態異常には掛からないという意味だ。他にもダメージ発生時に25%の確率でHP持続回復、ソーサラースキルの「フラッシュ」という目くらましスキルを習得するという効果もあった。


「……そうじゃん! 異世界に来てレア盾装備のドロップ情報ってまったく無かったもんな!」


 昴から「現存する盾装備では最強」という事場を聞いて、彼は更に興奮した。中堅ギルドのひとつを束ねていた自分が、まさか大手ギルドのマスターですら持ってないような、超レア装備を手にする事が出来るとは夢にも思わなかったのだろう。


「やったねギルマス!」


 ナイトと同じギルドに所属するハンターの女性が彼の背中を叩いて祝った。ナイトは照れたように頭を掻いていたが、もうひとりのアイテム獲得者の事を思い出し、話題を彼女に向けるべく話を振った。


「そっちの彼女は?」


 ナイトから改めて問われたプリーストの女性は、早速手に入れた装備をナイトのように装備してみんなへと見せた。

 彼女は左手を自身の顔の前で見せると、その指には美しく輝く指輪が嵌められていた。指輪は薬指に嵌められている。


「リングでした」

「よし、結婚しよう」

「お断りします」

「即答だし!」


 プリーストの女性がアイテムの種類を告げると、横に立っていたナイトは即座に彼女の手を取ってプロポーズをした。もちろんこれは冗談だったのだが、それすらもプリーストは一瞬の迷いも無く口を開き、それが至極当たり前の事であるかのように拒否した。。

 膝を折り愕然と項垂れるナイトを無視し、彼女は昴へと頭を下げ礼を述べる。


「昴くん、ありがとう〜。でも結婚はしないから〜」

「どういたしまして、かな? もちろんプロポーズなんてしないから」


 プリーストのボケに昴は珍しく突っ込みを入れた。その様に驚く昴の仲間達。


(ふ……俺も鍛えられてるからな。どんだけ弄られてきたかあの人に)


 その「あの人」はテーマ曲を随分長いこと口ずさんでいた為、頭から曲が離れず、ひとり頭を抱えて悶え苦しんでいた。


「誰かこの曲止めてぇぇぇ〜〜〜」


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