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4-2 『真実か偽りか』

 昴たちはアナロアの砦を出て、都まで真っ直ぐ進む最短ルートを進んでいた。

 彼らは大手ギルド『青龍騎士団』率いる部隊に加わっている。『青龍騎士団』以外にも大勢のプレイヤーが参加し、人数的にはむしろ『青龍騎士団』以外のギルドに所属している参加者の方が多い。

 元々は大規模レイド戦経験の多い大手に、指揮系統を預けたほうがいいだろうという事だったのだが、既にほとんどのプレイヤーたちはレイド戦を経験しており、どこが指揮をとっても問題は無いのだが、結局の所「かなり面倒くさい」という理由で中堅以下のギルドは指揮することを辞退していた。


「次のコーストタウンはレベル85の中ボスが町を支配しています。こいつを倒せば町の開放が出来るでしょうから、頑張りましょう!」


『青龍騎士団』所属の女性プリーストが凛とした良く響く声でプレイヤー達に活を入れる。エルフ特有の美しい容姿が参加者達の士気を高めた。ただし男性限定で。


 コースタウンが見える場所までやってくると、総勢800名弱の彼らは12人PTに別れそれぞれが町を囲むように移動する。

 昴たちはというと――今作戦が始まる前にアーディンからこんな話があった。


「こんな極小ギルドに『奥義』持ちが二人、レイド産レア装備持ちも二人、チートが二人。今のままだとちと不味いんだ」

「そうでござるな……」

「どうして?」

「昴のスキル特性上、ボス戦には欠かせないしタゲは確実に取るだろ」

「レアをゲットできる可能性高くていいじゃない!」

「それがまずいんだよ。他のギルドから見れば『お前達ばっかりずるい』ってなるだろ」

「そ、そうかな〜」

「自分でも解ってるじゃんか……ってことで当分の間、昴は中堅ギルドの複合PTと組め」

「え……うーん……世間体か、仕方ないのか」


 こういった事情で、現在昴は中堅ギルド3つから出来ているPTのメインタンク役として参加している。もちろんレイド戦ではボスに挑むので参加メンバーのレベルは全員85以上だ。

 いっくんや他の仲間たちもボス戦には参加する事になる。「奥義」持ちのモンジや特殊スキルを持つアーディンがいるのであれば、ボス戦参加は当然の人選だ。


 コースタウンを囲むようにして配置についたプレイヤー達。

 事前に潜入したシノビやアサシン軍団がモンスターの徘徊ルートを調べ上げていた。そして今は巡回ルートを塞ぐ形で姿を隠したまま待機している。


 作戦決行の狼煙が上がった。

 姿を消していたプレイヤーたちが一斉にモンスターへと襲い掛かる。町の住民たちにも事前に開放作戦は伝えられており、何があっても屋内から出ないように頼んであった。

 町の外で待機していたプレイヤー達が一斉に内部へとなだれ込むと、そのままの勢いでモンスターとの戦闘に入る。ひとつのPTが戦闘をしていれば他のPTは構わず別のモンスターを探すか住民の保護に努める。


 あっという間の勝利だった。

 800名近い彼らは60以上のPTに分かれて町のいたるところを走り回り、モンスターを見つけては全力で戦い、また走る。

 町を支配していたモンスターの数はプレイヤーの数よりも圧倒的に少なかった。町そのものがそれほど大きな規模でなかったのもある。


「被害は出なかったみたいだね」


 全ての戦闘が終わり、周囲の状況を確認していた昴が、今の仲間達に言う。プレイヤー側で戦闘不能になった者もいるだろうが、決壊したPTの情報は出ていなかった。

 町の住人側でも死者が出なかった事は、プレイヤーにとって最大の戦果だろう。


「良かったですね〜、敵の数も少なくって」


 PTに加わっていた別ギルドのプリーストが感想を洩らす。回復職らしい反応だ。


「プリさんとエクさんは教会のほうに」


 PTにもうひとりいたナイトが回復職の二人に声を掛けた。コースタウン開放の一番の目的は、「聖堂帰還」を使って進軍を早める為にコースタウンの教会に置かれた闇のオーブの破壊だった。

 闇のオーブが置かれた教会や大聖堂では「聖堂帰還」が利用できなかった。ただ、オーブを破壊しただけでは「聖堂帰還」が使えても、教会を一歩でれば魔物だらけ……というのでは困る為、町そのものの開放も行ったという訳だった。


 昴のPTにいた回復職二人は一旦教会へと向かい、「聖堂帰還」が使えるようにする。教会では同じ目的で訪れた回復職が大勢いた。




 二人の回復職を待つ間に、昴の元へ『冒険者』ギルドのメンバー二人がやってきた。


「おーい、昴」


 元気そのものといった様子のいっくんが、手を振りながら昴の元へと歩いてくる。その後ろには餡コロがトカゲスプーン杖を大事そうに抱えて付いてきていた。


「そっちはどうだった?」


 昴はやってきたいっくんに向けて声を掛ける。昴の鎧やマントはやや薄汚れた状態だったが、いっくんのそれはまっさらな綺麗な物だった。


「うーん……」

「どうした?」


 昴の言葉に口ごもるいっくんは、頭をぽりぽりと掻きながら俯いた。餡コロもやや苦笑いで昴を見つめている。


 コースタウンのあちこちで大歓声が上がっていた。魔物達による恐怖から開放された住民が、プレイヤーたちの勝利を祝い、そして開放された事の喜びを表すかのように叫んでいたのだ。

 屋内から出てきた住民の一人が、頑丈そうな鎧を着込み、破壊力のありそうな巨大斧を背負ったいっくんに向けて握手を求め感謝してきた。

 その住民はまた別のプレイヤーへと次々に握手を求めていく。住民が離れていくといっくんは申し訳無さそうに声を洩らした。


「俺……何もしてないんだ……」


 着込んだ鎧も背負った斧も、何一つ汚れていない。後ろに立つ餡コロも同様だ。


「こちらは全然敵来なくて、一度も戦闘しなかったんです」


 つまり、いっくんたちは唯の一度も活躍する場が無く、この大歓声の中に立たされているという訳だった。いっくんのばつの悪そうな表情を理解した昴は、掛ける言葉をどうしたものかと悩んだ。

 戦闘をしなければ怪我をする事もないし、それ自体は悪いことではない。しかし、何もしなかったのに感謝されるだけのいっくんの気持ちも理解できる。だからといって戦わなかった事に対して「残念だったな」というのも不謹慎だと思った。


「そう、なのか……」


 結局、良い言葉が浮かばなかった昴は曖昧な言葉を掛ける事になってしまう。その時、町の中心あたりから笛の音が聞こえてきた。移動を知らせる指揮官から出された合図だ。


「お、もう移動開始か。じゃーな、昴!」


 いっくんは次の戦場で活躍できる事を期待して開き直った。片手を挙げて挨拶をすると元来た道を戻ってゆく。


「あぁ、気をつけてな。餡コロさんも気をつけて。何かあったらアーディンさんの後ろに隠れるんだよ」


 昴は仲間達を心配し、代表していっくんの背中へと声を掛けた。餡コロの事が最も心配だったが、近くにはアーディンが付いているだろうから大丈夫だと思う事にする。


「はい! 昴さんも気をつけてくださいね」


 餡コロはいっくんの後を慌てて追いかけると、もう一度昴のほうへ振り向くと大きく手を振った。


 昴と二人のやりとりを見ていた現在のPTメンバー数人が、いそいそと昴のほうへ集まってくる。


「ふふ〜ん。彼女?」

「え? ち、違いますよ!」

「お? なんだその照れ方。怪しいぞ!」

「怪しくないです! 断じて怪しくなんかない!」

「要観察だな」


 興味津々といった様子で次々に昴へと絡んでゆく。殺伐とした戦闘の後での生き抜きといった所だろう。


(中堅ギルドって大手に比べると、なんかアットホームっていうか、馴染みやすいな)


 世間体の為とはいえ、昴はいつもの仲間達と違うプレイヤーとPTを組む事に、多少の不安は抱えていた。しかし、進軍の道中も会話は多く、先ほどの一件もあって随分打ち解けられたと昴は感じていた。


 笑顔で回復職の二人を迎えた昴たちは、コースタウンから東に進む為に移動を開始する。だが、移動は背後から掛けられた声によって妨害された。


「突然ですがみなさん。都の玉座に座るのが魔物か人間か、知りたくはないですか?」


 昴のPTメンバー12人全員が足を止め振り返った。

 そこには「彼」がいた。

 黒い髪。黒い瞳。髪から突き出た特徴的な耳を持つエルフの男。


「え? 急に何?」

「ってか、君、どこの所属?」


 男は見るからに軽装で、武器も装備している様子が無かった。全プレイヤーが持つカバンも腰に下げていない。だが、町の住民ではない事は直ぐに解った。

 視界に映る人物に意識を集中させることで、簡易的な情報が視界に表示される。表示されたものがキャラクター情報であり、この世界の住民にはキャラクター情報が存在しないからだ。


「そうですね……強いて言えば魔王軍所属……ですかね?」


 悪びれた様子もなく彼は答えた。

 キャラクター情報に映った小さな表示には「LV100:キース・エッジ」と出ている。


「は? ……ってこいつキース・エッジ!?」


 驚いたかのように後ずさったウィザードの男は、驚きながらも何時戦闘状態になってもいいように位置取りを行う。異世界に来て突然の戦闘は日常茶飯事的に行われていた。そこで培われた条件反射なのだろう。


「何しにきやがった!?」


 大剣を構えたバーサーカーの男が威嚇するように吼える。キースはそれを細く笑いながら見つめた。


「だから、玉座に座るのが何者か、プレイヤーのみなさんは知りたいんじゃないかなーっと思って」


 キースは相手の反応を伺う様に、間延びした口調で語った。


「知りたきゃ自分たちで調べるわよ!」


 ハンターの女性が苛立ちを隠し様子もなく言うと、それを聞いたキースの表情に陰りが生じた。


「……ボクはそういう反応を望んでいるんじゃねーんだよ。ヒス女は黙ってろ」


 それまでの丁寧な口調が変化してゆく。その表情から笑顔も消えかけていた。


「な! なんですって!!」

「黙ってろって言ってんだろ!」


 ヒス女と言われて逆上したハンターが先ほどよりも大きな声で叫ぶと、キースは右手を突き出して拳を作って見せた。

 その瞬間、全員の体が石像と化す。いや、唯一人石像を免れた人物がいた。


「流石に昴くんには、フロイが用意した鎧を着てるだけあって、呪いにはかかってくれないか」

「何をした!?」


 昴の背中につめたい汗が流れた。石像にされてはいないものの、その場から一歩でも動く事ができないでいる。


「大丈夫。あと5分もすれば効果消えるからね」


 キースはそう言うと、石像と化したハンターの顔を撫でた。その表情には狂気さへ感じられる。


「で、昴くんは知りたくないかい?」


(ヘタに機嫌を損ねて石像を壊されたりしたら……どうなるんだ?)


 戦闘不能になっても制限時間内であれば回復職の「蘇生」で復活する事が出来る。制限時間を過ぎたとしても、一番近い教会や大聖堂に強制移動させられるだけで復活は出来る。

 しかし、肉体が粉々に砕け散っているのであればどうなるのかは解らない。これまで昴は酷いダメージを受けた戦闘を何度も経験していたが、肉体が切断されたり欠損したことは一度もない。

 他人がそうなるのも見たことがない。


 もし石像を破壊され、石化の効果時間が終了した場合。どうなるのか想像はしたくなかった。


「……聞いてやるよ」


 昴は、相手が教えたがっている事、教える事で自分が格上の存在である事を示したいのだろうと考え、相手の話に合わせる事にした。


「うん。ちょっと勘に触る言い方ではあるけれど、ま、いいか」


 一瞬ヒヤリとした昴だったが、キースの表情に笑顔が戻るのを確認してほっと胸を撫で下ろした。


「教えてあげるよ。玉座に座っているのは本物の皇帝さ。帝国皇帝、アドリアーナ4世」


 キースが話す内容はある程度昴にも予想が出来るものだった。というより玉座に座るのが誰なのかという回答には大きく別けて2つしかないのだから。

 ひとつはゲームの時同様にモンスターであること。もうひとつはゲームとは違いこの世界の住人だということ。

 結果としてはプレイヤーにとって喜ばしくないほうが答えになってしまった。ただし、キースが話した事が真実かどうかは不明である。


「……レイドボスは居ないってことか?」

「そうは言ってないよ。玉座に座っているのは皇帝っていう事だけさ」


 昴は別方向から探りを入れてみた。玉座に座るのが皇帝だとして、では都にはレイドボスは不在なのかどうか。それを知りたかったのだが、キースはそんな昴を見透かすように答えをはぐらかす。


「さぁ、どうする?」


 昴自身は個人で判断できる内容ではないことは理解している。しかし、目の前のキースは昴個人へと問いかけてきた。

 今すぐ自分がどうすべきかなど、答えが出るはずもなく、昴はただ苛立ちを隠すようにじっと口を閉じていた。


「皇帝はこの世界の住人であって人間なんだよ。倒すの? 倒さないの?」


 昴は答える事ができない。人である皇帝を倒すということは、殺すという事に繋がる。他に方法があるのであれば縋りたいとも思った。


「あーはっはっはっは。困ってるねー。困ってるよねー?」


 昴の困惑する姿を見て満足したキースは手を叩いて喜んだ。それから右手の指をパチンと鳴らすと、嘲笑うかのように昴に視線を送る。


「じゃ、ボクは帰らせて貰うよ。君達が、いや君がどうするか見物だなー」


 キースはそういい残して消えた。


 その数分後、石像と化していたPTメンバーは無事に元の体へと戻った。


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