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3-11  『モンスター襲撃イベント』

 フォトリアルの城塞都市を囲むように展開されたモンスターの群れは、分厚く高い壁に取り付くと、なんとか壁を破壊しようと攻撃を加え始めた。

 モンスター襲撃イベントの幕開けだ。


「なんであいつがまた……」


 昴は壁の真下にいるミルキィーを見ながら溜息交じりに呟いた。

 

 フォトリアルの城下町をぐるっと囲むようにそびえ立つ壁の高さは8メートルほど。厚みは3メートルはあり、上部は人が歩けるようになっている。

 あまりにも急な襲撃だった為プレイヤーたちは城塞都市から出るに出れなくなってしまい、篭城状態になっていた。

 どうやらモンスターを指揮しているのは敵側に寝返ったプレイヤーのようだった。今昴らの目下にいるミルキィーもしきりと周囲のモンスターをたき付けている。


「この状況どうするのよ……魔物だらけよ?」


 壁の上には今、100人ほどのプレイヤーたちが眼下を見下ろしている。城下町のほうでは大勢のプレイヤーたちが戦の準備を整えようとしていた。

 そんな中、壁に上がろうと階段を登るプレイヤーらの中にアーディンの姿があった。


「は〜っはっはっは!」


 黒いロングコートを着込んだアーディンだ。


「アーちゃん、今度は何?」

「今度とはなんだ今度とは!」

「大体そんな高笑いして出てくるときは何かやろうとしてるときでしょ」

「……」

「ほらぁ、図星じゃない」


 カミーラに絡まれたアーディンは、彼の視線から逃げるように壁の縁へとやってきた。


「っち……まぁ、なんだ。この戦いはな……簡単に勝てるぞ」

「え? どうして?」


 アーディンの言葉に驚いた昴は、彼女の顔を見つめた。いつものふざけたような表情を見せるアーディンは、全員に自身の言葉の真意を伝える。


「考えても見ろ、強固な城壁に守られている上に、こっちは安全な壁上から攻撃できるんだぞ?」

「え? いや、攻撃できないだろ?」


 高所からの攻撃は不可能だと口にするいっくんは、物理接近職であるバーサーカーだ。いっくんの横に立つ餡コロはあっさりといっくんの言葉を否定した。


「出来ますよ? だって魔法の射程内だもの」

「え? 魔法?」

「あ、ってことは私も攻撃できるわ」


 餡コロのいう「射程内」という言葉に納得したニャモは、背負った弓を肩から下ろす。


「そう! つまり――」


 アーディンの作戦はこうだ。敵を指定するタイプの遠距離攻撃ではなく、地面を指定した範囲攻撃によって壁際ギリギリを攻撃するというものだ。これによって壁に取り付いていたモンスターはことごとく攻撃範囲に入る事になる。

 フォトリアルにいる魔法職と弓職が総出で壁の上に並び、一斉に範囲攻撃をする。それだけだった。

 また、途中で逃げようとしたり回復の為に一旦下がろうとする敵がいるかもしれないので、その時にはナイト軍団による範囲ヘイトスキル「雄たけび」によって注意を引き付けて逃げないようにさせる。

 他にもバードの支援スキルで攻撃射程を伸ばす「鷹の目」を使う事なども上げられた。




 数刻後、壁の上に集まった数百人規模の魔法職と弓職、支援の為のバードと「雄たけび」要員のナイト、ステータスを上昇させる支援用にプリーストが集まると、モンスター迎撃作戦が始まった。


『始原の炎、イフリートの吐息。天空より召喚せしは星の子なり!メテオストライク』


氷狼ひょうろうフェンリルの凍える吐息。吹き荒れろ、フトームブリザード』


『雷鳴神よ! 我が敵に裁きのイカズチを下せ! ライトニングプラズマ』


 高火力職のウィザードたちが次々に大技を披露していく。ある場所では小さな隕石が降り注ぎ、ある場所では荒れ狂う吹雪が大地とモンスターを凍らせ、ある場所では雷が縦横無尽に駆け巡る。

 同じ魔法職であるソーサラーは火力の面ではかなり劣るが、ここまで人数が揃えばひとりの火力の大小など関係ない。

 ソーサラーである餡コロも活躍の場を与えられ、張り切って魔法を打ち出す。 


『小粒の隕石さんいらっしゃ〜い! コメット』


 ハンターたちはスキル名を叫ぶことなく、気合の入った短い掛け声と共に矢を放った。弓から放たれた1本の矢は天高く舞い上がると、落ちてくるときには10本に増殖し、魔法職の攻撃を受けてもがくモンスターの頭上へと降り注ぐ。

 ある程度MPが減ると、ソーサラーたちは「マナドレイン」を使って射程ギリギリにいるモンスターからMPを奪い、近くのウィザードやハンターには「ライフドレイン」でMPを分け与える。

「ライフドレイン」で減ったHPはプリーストの「サンクチュアリ」によって数人がまとめて回復されていく。

 

 壁の向こう側では次々にモンスターたちが倒れてゆく。元々それほどレベルの高いモンスター軍団ではなかったようで、レア装備をした高レベルウィザードの魔法一発で倒れる輩も多かった。

 敵側に寝返ったプレイヤーたちは流石に簡単には倒れない。しかし、被害は甚大だ。


「ぎゃあぁぁああぁぁぁぁ! そんな所から一斉攻撃なんて、ずるいぞ貴様らあぁぁぁぁ」


 フリフリのメイド服に身を包んだミルキィーが、呪うように壁上に居並ぶプレイヤーらを見た。


「あ〜きこえな〜い、きこえな〜い」


 射程増加の支援の為、曲を奏でているニャモがミルキィーの姿を視界に入れないよう、天を仰いで答えた。楽器の演奏にもすっかり馴れた手つきで、手元を見ることなくハープを演奏している。


「さぁ、魔法使いのみなさん、バンバン行きましょう!」


 警備担当ギルドのマスターから号令が掛けられたが、どこか緊張感が感じられない声だ。それでも声が聞こえたプレイヤーたちはみな一斉に気合の入った返事を返す。


「「おぉー」」


 壁上のプレイヤーたちから上る声に気圧された敵方プレイヤーは、じりじりと後退しはじめる。


「た、退却だー! 距離を取れー!!」


 踵を返して逃げようとする敵プレイヤーとモンスターたち。しかし、壁上のプレイヤーたちがそれを許さなかった。


「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


 何十人ものナイトが一斉に「雄たけび」を使用する。敵だけでなく壁上プレイヤーらもあまりの五月蝿さに耳を押さえた。


「よし、これで頭の悪いモンスターどもは逃げなくなるぞ」

「うっは、『雄たけび』の大合唱」

「耳が痛いな……」


 適当な支援で適当に手抜きをしていたアーディンが、モンスターの様子を見て満足そうにしている。見物に来ていたいっくんやクリフトは、ナイトの「雄たけび」合唱に耳を塞いでいた。

 彼らの眼下に群がるモンスターたちは、ヘイト対象である壁上の一番身近なナイトに向かって必死に襲い掛かろうともがいている。当然、高所にいる為目的を達する事もできずただひたすら壁を引っ掻く事しか出来ずにいる。

 そこへウィザード軍団が隕石を落とし、吹雪を起こし、雷を落とす。ハンター軍団は大量の矢の雨を降らせた。ソーサラーの一部は低火力を見せ付けるため魔法を放つが、ほとんどは既に決着が付いたとばかり観戦モードに入っている。


 前線にいたモンスターたちが全て黒い煙となって四散したあと、女装姿の男が魔法の届かない位置で自分を回復すると、何やら叫びだした。


「よ、良く聞けお前達!」


 黒いメイド服のスカート裾から白いレースがちらりと見えた。風が吹けば捲れたスカートの下から剛毛が顔を覗かせる。着ているのがリーフィンの女性であれば男性プレイヤーたちは歓声を上げただろう。

 だが、メイド服を着込んでいたのは男だ。しかもお世辞にも美形とは程遠いデブ男だ。


「何あの女装デブ! きもぃ〜」

「気持ち悪いもん見せんじゃねー!」


 壁上にいた男女問わず、多くのプレイヤーから非難の声が上がる。その声を聞いた女装男、ミルキィーは逆上すると手にした杖を振りかざして啖呵を切ろうとした。


「……くっそ! てめーらなんか今に命さまがだなー!」


 ミルキィーの言葉は途中でナイト風の男によって遮られる。


「どけ、お前は余計な口を開くな」


 ナイト風の男はミルキィーを退かせると、代わりに自分が壁上に向かって叫んだ。


「良く聞け! お前たちの中には元の世界に戻りたくないと思っているヤツも少なからずいるだろう」


 男の声は穏やかではなかったが、威圧するような口調でもなかった。男の話す内容に真意を見出せないプレイヤーたちは戸惑いの表情を浮かべる。

 ナイト風の男に攻撃を仕掛けようとしたハンターが居たが、警備担当のギルドマスターが制した。消息不明者の手がかりがあるかもしれないと思ったからだ。 


「元の世界に戻っても、惨めな人生が待っているだけなヤツ、人には言えない犯罪歴のあるヤツ。どんなヤツでもいい。元の世界に戻りたくないと思ってるやつは俺達と一緒に来い!」


 一緒に来い。そう叫ぶ男に呆れた様子のプレイヤーたちが次々に眼下の男へと罵声を浴びさせる。


「はぁ? 何寝ぼけた事言ってやがるんだ」

「犯罪者はお帰りください!」

「現実で引篭もってたから今度は異世界に引篭もるのか? ヒッキーはどこにいってもヒッキーなんだよ!」


 罵声を無視して男は淡々と言葉を続けた。


「この世界は恐怖という名の秩序で支配されるだけだ。これから先は魔物どもも無闇に人を殺さなくなるだろう。それもこれもキース様や命さまのお力のお陰だ」


 男の言う内容が理解できないものになる。魔物は人を襲う生き物だ。それは以前、システムメッセージを介して現れたキース・エッジと命によって指示された事だというのだろうか。


 ナイト風の男と、周辺にいた別の男達が次々に壁上へ向かって呼びかけた。


「我々は人殺し集団ではない! これからは支配者の一員として戦うのだ!」

「待ってるぞ!」


 そういい残して彼らは『聖堂帰還』によって一斉に姿を消した。後に残ったモンスターたちは指揮官が居なくなった事で蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「おいおい、あいつら一体なんだったんだ?」

「新手の宗教勧誘みたいだったわね」


 壁上では呑気な会話が聞こえていた。

 しかし、この後、彼らの勧誘が功を成すこととなる。



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