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3-10 『次なる目標と行方不明事件』

 2万人を超すプレイヤーがこの世界に召喚されてから約三ヶ月が経っていた。

 フォトリアルの城を拠点として活動してきた彼らは、現在では城塞がフォトリアルを含めて2、砦は11が既に攻略を終わらせている。

 闇の軍勢によって支配されている城や砦の数はわからない。ゲームだった頃と照らし合わせると、ゲームでは存在していなかった町や村があるように、城や砦もプレイヤーの記憶に無いものがいくつもあったからだ。


 レイドボスの討伐数は7体。2度目の大規模レイド戦では3つ全ての攻略ポイントにレイドボスが配置されていたが、その後はレイドボスが居ない砦が増えた。


「次の攻略場所は……マイアナの都じゃねーか?」


 フォトリアルの城内では、ギルドマスターらによる会議が行われている。彼らプレイヤーは各々が好き勝手に砦攻略を行っているわけではない。

 偵察を行うプレイヤーらがどの地方のどこに攻略すべき城や砦があるか調べ、それを元に会議を開き実際にどこを攻略するか決めているのである。


「マイアナ帝国もこっち寄りのほうはいくつか攻略して、全部スカだったしなー。都でレイド戦になったら……住んでる人らがどうなるか……」


 マイアナ帝国は闇の軍勢に降った国で、国政に関わる貴族や帝国兵など一部の人間は魔物から脅かされることなく暮らしている。


「襲ってきた場合、どうする?」


 襲ってきた場合とは、魔物がではなくマイアナ帝国の民の事だ。国民は恐怖による支配を受けているのでプレイヤーを襲ってくるかどうかは解らないが、帝国兵たちとは戦闘になる可能性は高いだろう。


「どうするって……うーん……」

「とりあえずマイアナの都に偵察部隊を出そう。どうするかはその後だ」


 出来ればプレイヤー側としても人間相手には戦いたくは無い。プレイヤー同士での戦闘であれば、お互い死亡という概念が無いので戦えなくも無い。

 結局、この会議では具体的に次のレイド戦攻略地をどこにするかは決定されなかった。


 会議が閉められる前に、ひとりの小規模ギルドのギルドマスターの青年が席を立ち、手を上げて発言を求めた。


「ちょっといいですか?」


 会議の進行役を務める女性から承諾を貰うと、立ち上がった青年が会釈をしてから会話を続けた。


「最近、結構な人数が行方不明になってる話しを聞いたんですが、何か知ってる人はいませんか?」


 青年はそう言って参加者を見渡す。あちこちで両隣になった者同士の会話が聞こえてくる。


「そういえば、そんな噂聞いたな。はじめはパール・ウェストに引篭もってた連中が消えただけだったみたいだが」


 どこかから上がった声に、同じような話を耳にしたという者が多数いた。


「実は知り合いの小規模ギルドがごっそり居なくなったんですよ。人数的には三人のギルドだったんですが」


 始めに席を立った青年が続けた。会話の様子からすると、そのギルドメンバー三人は揃って突然消えたのだろう。心配な面持ちで青年は椅子に腰を下ろす。


「そういや中堅のギルドが偵察から戻らなくなってるな。RMTリアルマネートレードとかやってる不正プレイヤーばかりの有名ギルドだったが」


 会議に参加していた『クリムゾンナイト』のカイザーが口を開く。偵察に出るという情報が残されたまま戻ってこないあたりは、消息を絶ったと言えなくも無い。


「あ〜『ダークマネー」ね。あいつらムカつくから居なくなってくれて清々したわ」


 進行役の女性が正直な感想を洩らす。同じように『ダークマネー』ギルドが消えて喜んでいるプレイヤーは多い。しかし、居なくなった事に理由があるとすれば気になる所だろう。


「消えた奴らの事も調べとく必要があるかな?」


 大手ギルドからも調査の必要性を問う声が上がった。

 消息不明のプレイヤーはどのくらいいるのか?

 いつころから消えているのか?

 消息を絶つうえで手がかりになるような事はなかったのか?

 いくつかの疑問点を挙げ、それを調べる為の人員を集める事になった。


「もし元の世界に戻っていたりするなら、その方法は是非知りたいね」


 ある者が何の気無しに口にした言葉だったが、その場にいたギルドマスターらは大きく頷いた。誰もが元の世界に戻りたいと願っている。少なくとも今この場にいる人々はそう思っていた。


 会議が終わり、参加者達が解散していく。フォトリアル城内の大きな会議室から出た参加者達は、ある者はギルドルームへと向かい、ある者ははギルドチャットを使って会議の内容を伝える。

 会議に参加していた昴もまた、内容を伝える為ギルドルームへと向かった。




「次の攻略はマイアナか……ここを落とせばマイアナの拠点に出来るんじゃね?」


 会議の内容を昴から聞いたいっくんは、広げられた地図を見ながらマイアナの都を指差した。王都になる都は帝国領土内の丁度中心部にある。ここを落とす事ができればマイアナ地方の他方面へ行くのに交通の便や補給などの面でも都合がいいだの。


「でも都でしょ〜? 攻略後は王様に返さなきゃいけないんじゃない?」

「王様って、今も住んでいるんですかね?」

「魔物に占拠されてる都だしな……居ない可能性のほうが高いんじゃないかな」


 全員が好き勝手に会話をしているが、マイアナの都攻略が前提とした会話内容だ。


「いや、まだマイアナの都を攻略するって決まったわけじゃないんだが……」


 昴が暴走する仲間達を止めようと、正式決定でない事を告げる。何人かが昴の話を無視してマイアナの都攻略に向けた作戦を立てようとしていた。


「でも目ぼしいのってここと渓谷だけだろ?」


 マイアナの都から真っ直ぐ北にある高い山々が連なる場所に渓谷はあった。机に広げられた地図上でも、山の絵は山頂部分が真っ白に塗られている。


「まぁ、そうなんだけどさ。シザー渓谷なんかはレイドボスの目撃もあるから確実だけど、なんせ雪山だからなー」


 溜息を付く昴の横ではアーディンが腕組みをして地図を覗き込んでいる。


「行くまでに凍死しそうだな」


 地図がどのくらい正確に描かれているのかは解らないが、ウエストルからフォトリアルまでの距離を参考にすると、山々だけでも直線距離にして二日は掛かりそうだった。

 当然、上り下りや積雪量によって工程日数は大幅に増えるだろう。


「凍死できるんでござるかな?」


 この世界では死亡という概念のないプレイヤーにとって凍死はありえるのかと素朴に思ったモンジだったが、答えを知る者は誰一人としていない。

 答える者がいない代わりに、突然窓の外からけたたましい音が鳴り響いた。


――カンカンカンカンカンカンカン――


「なんか騒々しいね……」


 音は町全体から上がっているようだった。専用エリアであるギルドルームも、窓を開けていれば外の音は聞こえてくる。

 鐘を叩くような音が鳴り響く中、昴らが今いる大広間の扉が勢い良く開かれると、そこに餡コロの姿があった。


「た、大変です!!」

「どうしたの餡ちゃん?」


 息を切らせながら走ってきた餡コロが、窓の外――町を指差して叫んだ。


「町の外にモンスターがいっぱい集まってきてるんです!」


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった昴たち。餡コロが同じ内容をもう一度口にしたとき、ようやく理解した。


「えぇぇぇぇ!?」




 昴らが急いで城下入り口へと向かうと、巨大な門は今まさに閉ざされようとしている所だった。


「門を閉じろ! こっちの世界の住民は城に避難させるんだ!」


 門と城壁は10日ごとに交代で100人規模のギルドが警備している。今の警備担当になっていたギルドのメンバーらしき男が大声を上げて指示を出していた。

 フォトリアルにはこの世界の住人たちも大勢住んでいる。戦う力の無い彼らは悲鳴を上げながらもプレイヤーらに従って城内へと避難した。

 フォトリアルは城塞都市。六角形に近い形の城塞は中央にギルド施設があり、施設の奥側にお城が建っている。城塞は高い壁で囲まれているので城下町事態も安全だが、城がさらに高い壁で守られていた。

 つまり、2つの壁でお城は守られている形になる。城塞警備担当のギルドはより安全な場所へ住民を避難させたのだ。


 城塞の壁に上がったいっくんは、壁の向こう側に群がる黒い影を見つめた。影のひとつひとつがモンスターである。


「うっわ!? 何この数!!」


 モンスターの群れは城塞の正面側に広がっている。数は100や200というような数字ではない。群れは城塞の壁には到達していなかったが、壁に取り付くのも時間の問題だろう。

 フォトリアルの門に向かって走ってくる住民の姿も見える。一部のプレイヤーが馬車を走らせ救助に向かっていた。


「これってもしかして、モンスター襲撃イベントかしらねぇ?」


 無事に救出された住民の姿を見て安堵したカミーラが、ゲーム内でも度々行われていたイベントを思い出す。大きな町や都をモンスターの大群が襲い、プレイヤーが協力して迎撃するという趣旨のイベントだが、制限時間内に一定数のモンスターを倒せなければ町や都のNPC利用料が跳ね上がるという条件もついていた。


「そう言われると……そういう光景に似てるかも?」


 昴もカミーラの言葉を聞いてイベント内容を思い出した。自身も何度か参加したイベントだ。特にボスモンスターなどは出現しては来なかったが、とにかく敵の数が多いのが特徴のイベントだった。


「あ、昴さん。あそこに居る人たち」

「え?」


 遂に壁の間近まで到達したモンスター集団の一角を指差して、餡コロが昴へと声を掛けた。彼女の指差す方角に視線を向けた昴だったが、彼女の意図が掴めず困惑する。


「あそこです、あそこ。ほら、のっぽなモンスターさんがいる足元」


 のっぽなと言われて昴は再び視線をモンスターに向けると、かなり背丈のあるモンスターの足元に何者かがいた。


「あれ? 人……っていうか……まさかプレイヤー?」


 装備からしてこの世界の住人には見えなかった。何人かが城壁に登っていたプレイヤーたちも見覚えのあるアバター衣装を纏っていたからだ。モンスターの傍にいるプレイヤーと思われる人影は50人はいるように見える。


「みたいだな。見覚えあるとうか見覚えたくないやつがいた」


 クリフトが単眼鏡を使ってモンスターの足元に居るプレイヤーらの人数と容貌を確認しながら言う。『冒険者』ギルドのメンバー以外も集まってきていた。

 既に彼らもプレイヤーと思われる輩の姿を捕らえていた。


「は? なんだよそれ」


 クリフトの遠まわしな物言いにいっくんが単眼鏡を奪って敵側を覗き込んだ。


「ミルキィーがいた。しかもまだ女装してるぞ」


 いっくんの視界には、真っ黒なメイド服を着込み、ショッキングピンクの長くも無い髪を真っ黒いリボンで左右に結んだ小太り男、ミルキィーの姿が映しだされた。

 まるで吐き出すかのような仕草のいっくんから単眼鏡を譲り受けた昴が、同様に敵側を覗き込むと、確かにそこにはミルキィーの姿があった。


「…………簡便してくれ」


 昴の言葉にいっくんも頷く。敵側に寝返った元ギルドメンバーにして昴を騙し続けていたネカマプレイヤーは、再び彼らの前へと姿を現した。


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