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3-7 『ビンゴ大会終わります』

 午前中からビンゴカードを配り始めて2時間後。

 アーディンのイベントに何度も参加した事があるという古参プレイヤーが数名、カード配布の手伝いを申し出てくれたお陰で、思ったよりも早く作業が終了した。

 ひとりに対してカードは2枚ずつ配られ、配布枚数から計算すると参加者は4000人を少し超えたぐらいだった。

 

「では、これより数字とアルファベットが書かれた紙の捜索に向かって貰います!」


 昼食にはまだ早すぎるというぐらいの時間。ついにビンゴ大会ははじまった。

 アーディンが手際よくレベル50以下プレイヤーに向けて簡単な説明を行うと、集まったプレイヤーたちは一様に頷きスタート地点へと移動を開始する。


「はいは〜い、皆さん用意はいいですか〜?」


 スタート地点ではニャモやライト、餡コロといった女性陣が待機しており、引率のお姉さんといった感じで仕切っていた。


「おっけーでーす!」


 何人かが準備が出来た旨を報告すると、全員胸を躍らせて次なる号令を待った。


「そうさぁ〜〜く……開始!」


 アーディンの号令と共に一目散に駆け出す50レベル以下のプレイヤーたち。


「いってきやーっす!」


 律儀に出発の挨拶をしながら駆け出す者もいた。


 番号が書かれた紙は、城下町のいたるところに隠されている。

 カミーラとモンジが2時間掛けて隠して周った紙だ。もっとも、見つけてもらうのが目的なので、意外と適当な場所にポンと置かれただけの状態ではあった。


 事前説明によって、紙の捜索自体はレベル50以上のプレイヤーも行っていい事になっており、紙を会場に持ってきて引き渡すのがレベル50以下プレイヤー限定という事だった。

 つまり、他のプレイヤーが見つけた紙を、レベル50以下のプレイヤーに渡してやればいいのだ。

 同じギルド内にレベル50以下プレイヤーがいれば、彼らに協力して紙の捜索に手伝う者も多数いる。

 中には適当にその辺を走り回っているレベル50以下プレイヤーに、自分が見つけた紙を持たせる者もいた。


 捜索開始から5分もしないうちに紙を手にして戻ってきた、はじめのプレイヤーが現れた。

 城を出てすぐ近くに置いてあった紙を発見したのだろう。


 会場の受付壇上では、、HP回復ポーション100個とMP回復ポーション50個、そして武器にはめ込む「宝玉」というアイテム1個が紙と交換で渡された。


 「宝玉」はモンジが製造したアイテムで、武器や防具にはめ込む事で様々な効果が得られるアイテムだ。

 製造で作れる「宝玉」は性能そのものはそれほどいい物ではないが、レベルの低いプレイヤーにとってはありがたい品物だ。

 紙と交換で貰えるのは、物理攻撃職には「攻撃力+5%」が、魔法職には「魔法攻撃力+5%」か「MP回復量+50」を選べるようにしてある。


 はじめに紙を持ってきたのはエルフの男性のウィザード。魔法攻撃力を付与する宝玉を希望すると再び紙の捜索に向かった。

 1度に1枚しか交換できないというルールがあったため、律儀に1枚だけ見つけると戻ってきたのだ。


「最初の番号は……Bの48!」


 早速、受け取ったばかりの紙を開き、番号を公表する。

 公表された番号は更に大きな紙へと書き込まれてゆく。書記を務めるのは餡コロだ。

 意外な事に彼女はペン字を習っていたという事で、かなりの達筆だった。


「おっしゃ! あったぁ!!」

「あ〜ん、いきなり無い番号だ〜」


 はじめの番号を呼び上げられると、すかさず参加者から大きな反応がでた。


 受付壇上では次々と紙を手にしたプレイヤーが到着する。その度に番号が読み上げられると参加者の間で一喜一憂する声が聞こえてくる。

 紙を手にしたプレイヤーたちにもビンゴカードが配られており、カード裏に名前を記入してスタッフ側がビンゴを確認するというやり方で対応されていた。


 番号発表開始から35回目。ついにその時はきた。


「ぃやったあぁ〜〜〜!! ビンゴォォォォォ!」


 会場から女性の叫び声が上がると、周囲では拍手と歓声、野次が混ざった声が沸きあがった。


「おおおおぉぉぉぉぉぉ!! はえー!」

「羨ましい!」

「そのカードよこせぇぇぇ!」


 壇上へとカードを持って現れたヒューマンの女性は、目を輝かせて賞品一覧を見つめた。

 背後に群がる参加者からはジャンケンコールが始まる。


「ジャーンケン! ジャーンケン!」

「女の私が女の脱ぐ姿見たいと思ってるわけ? 賞品貰うに決まってるじゃん!」


 月の奏でる「音声拡大」スキルの効果範囲にいた女性の声は、会場中に聞こえる音声として響き渡った。


「なんだってー!」

「そこはお約束としてジャンケンだろぉ!」

「ほっほっほ。空気読めなくって悪かったわねぇ〜」


 女性は「月光蝶の弓」を受け取ると、それを頭上に掲げて壇上を降りた。

 それを目にしたプレイヤーからはどよめきが上がる。

 弓はなんと、レイドボス産の超レア装備だったのだ。


 イベントで用意された賞品のうち、いくつかレイドボス産のものが混じっていた。アーディンにとって「別キャラ」で使おうと取っていた装備なのだが、引退した身でもあれば、キャラクターチェンジも出来ない異世界では宝の持ち腐れ。

 そういって彼女はレイドボス産を手放す事にした。もちろん、ギルドメンバーらは喉から手が出るほどほしかったが、アーディンが先にいくつかの装備で譲ると言ったのでレイドボス産は諦める事になった。


 更にビンゴ大会は続く。番号が読み上げるたびにビンゴ達成者も続々と現れてきた。

 しかし、男性プレイヤーたちが壇上に上がっても、意外とジャンケン勝負を申し出る者はなく、賞品を受け取って壇上を降りていくものばかりだった。

 

 20人ほどのビンゴ達成者がアイテムを受け取った頃、ジャンケン勝負を挑む勇者が現れた。


「ついに来たぜ! 俺の番! もちろんここはジャンケンだ!」


 会場からは盛大な拍手と歓声が送られる。


「っふ、よかろう。イケメンの強さ思い知らせてくれるわ!!」


 ポーズを決めて勇者に詰め寄るアーディン。イケメンに負けの2文字は無い! と宣言すると、勇者と横並びになって身構えた。


「「最初はグー! ジャーンケーン、ポン!」」


 勇者が出したのはパー。

 アーディンはグー。


「……」

「ヒャッハー! 勝ったぜぇぇぇぇ!!」

「イケメン弱すぎー!」


 呆然と自らの拳を見つめるアーディンに対し、勇者は肩をぽんと叩くと「脱げ」と一言呟いた。


「脱げー!」

「「ぬーげ! ぬーげ! ぬーげ!」」


 会場からも脱げコールが送られる。


「っふ。仕方ないな」

「ちょっとアーちゃん!」


 アーディンが遂にロングコートのボタンへと手を掛けると、会場からはどよめきに似た歓声が沸き起こった。近くにいたニャモは心配して声を掛けるが、アーディンはニヤリと笑うと次々にボタンを外しはじめた。


「ちゃらっちゃ〜ちゃらららっちゃっら〜」


 妙な効果音を口にしながらコートを脱ぐアーディン。

 会場のあちこちで生唾を飲む込む音が聞こえてくる。

 脱いだコートをひらひらと振り回しポーズを決めるアーディンだったが、次の瞬間、コートの袖を腰紐代わりにして腰に巻きつけると、何事も無かったかのようにイベントを続行した。


「さぁ、次の番号行こうか」

「おい! コート脱いだだけじゃねーか!」

「貴様、野球拳のルールも知らないのか! ジャンケン1回負けたら1枚脱ぐ! これ常識アルよ!」

「うっわぁー、セコー」


 実は、アーディンはビンゴカードを配布している間に裏方のほうへ行き、コートの下には普段よりも2枚多めにシャツを着込むと、手にはめたグローブは3枚、アクセサリーも必要以上に身につけてきたのだ。

 負けて1枚ずつ脱いでいっても、合計20回は稼げる状態にしてある。


 その後、何人かの勇者が現れ、アーディンが5連敗するとその後はジャンケンを選択する者がピタリと止んだ。


「ビンゴ達成者があと五人出た時点で終了で〜す!」


 受付のニャモが声高々に宣言すると、会場からは悲観する声が聞こえてきた。

 賞品を手に出来ないかもしれないと悲観する声に混じって、別の意味で悲観する声も聞こえてくる。


「くっそぉー、お前ら賞品目当てにしねーでジャンケンしろよ!」


 どうやっても最後まで脱がせたいと思うプレイヤーもいたが、実際の所は公衆の面前で女性の服を脱がせるのに抵抗のある男のほうが圧倒的に多かったのだ。

 事実、用意された賞品が120個ある中、これまでジャンケンを選択したのは6人だけ。


「はい、賞品全て無くなりました〜」


 遂に最後の賞品を手にしたプレイヤーが出ると、ビンゴ大会終了宣言が行われた。


「お集まりの皆さん、今日はご参加いただきありがとうございました〜。あ? ジャンケン? 知らんがな」


 ビンゴはいいからジャンケンをさせろと言う趣旨の声が幾つも上がる。とはいえ、叫ぶばかりで実際には壇上に姿を晒そうという者はいない。

 つまり、場の空気で叫んでいるだけなのだ。笑いを取る為に。


「ジャンケンさせろぉぉぉ」

「やっぱこういうオチになったか」

「結構楽しかった〜。またイベントやってね〜」

「お疲れさまー」

「次こそは絶対脱がす!」


 会場からは盛大な拍手が送られてくる。鳴り止まない拍手と歓声の中、アーディが精一杯の大声で叫んだ。


「賞品になるものが底を尽きてるので、次は賞品無しのイベントで〜」


 会場内がどよめく。たしかにビンゴ大会で出された賞品は、かなり高額で取引されるであろうアイテムが多数含まれていた。

 もっとも「ゲーム」では無くなった現状では、自分の為に使うプレイヤーのほうが圧倒的だろう。


「頑張って賞品仕入れてこいやー!」

「イベントに資産投入するとは泣ける話や」


 イベントを楽しみにするプレイヤー達からは、賞品を提供するという声もちらほら聞こえてくる。

 

 なかなか収まらない参加者に、アーディンが閉めの挨拶を行った。


「それでは皆さん、ごきげんよおぉ〜〜〜! またどこかで、主にフォトリアルでお会いしましょう!」


 会場にワァっと笑いが起きる。


「ありがとうございました〜」

「おっつー!」


 ニャモやいっくんらも閉会の挨拶に加わった。

 これを皮切りに参加者達が次第に解散しはじめる。


 会場となった中庭を出るときに、大勢の参加者達がスタッフとして奮闘した「冒険者」ギルドのメンバーたちに声を掛けてくれた。


「スタッフお疲れ様!」

「またやってくれよなぁ」



● 


 時刻は夕暮れ時。

 中庭に捨てられたビンゴカードを回収してまわる昴たち。

 ゴミとして捨てられたカードの枚数は思ったよりも少なく、清掃作業は直ぐに終わった。

 受付となった壇上近くにカードを捨てるためのゴミ箱を用意していたのだが、その場で捨てるプレイヤーも多々いる中、それを拾って自分のカードと一緒にゴミ箱へ入れて行く者も多かったのだ。


「なんか、こういうのもいいね」

「そうだな」

「うふふ、楽しいの大好きです」

「俺も俺も、楽しいのは大好きだぜ」


 清掃も終わり、ギルドルームへと帰宅する道中、彼らの表情からは多少疲れの色も見えたが、みな一様にして笑顔が絶えず浮かんでいた。


「元の世界に帰れない不安は、みんなどこかで感じてるよな」


 昴がふと呟くと、何人かは考え込むように表情を変えた。


「そうねぇ、特に家庭を持ってる人なんかは……ううん、誰だって家族の事が心配よね」


 カミーラは考え深げに言葉を濁す。ひとり暮らしであろうが、家族と一緒に暮らしていようが、どこかで心配してくれる人は確実にいるのだ。


「それでも、今日は笑って過ごせたよな」

「うんうん」


 明るく振舞う日常の中でも、時々ふと誰かが思い悩むような姿を目にすることがある。

 街中でも、そしてこの「冒険者」ギルド内でも。


(みんなの笑顔が無くならないといいな……)


 昴は共に歩く仲間達を振り返った。

 しんみりした会話は既に終わり、今日のイベントでの話題に切り替わっている。

 次はこんなイベントを。もっとこうすればスムーズに進行できるんじゃないかと、意気揚々とした雰囲気になっていた。


(アーディンさんはイベントを通じて、大勢を笑顔にさせる事が出来る。……俺には何ができるだろうか……)



 日が沈む中、彼らは行き着けとなっている酒場で夕食を済ませると、寝るのも惜しいぐらいにイベント話に花を咲かせた。

 しかし、疲れからか、結局は何時もよりも早くベッドへ潜り込むこととなった。




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