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3-6 『ビンゴ大会はじめます』

「ビンゴ大会やるぞ!」


 唐突にそう言ったのはアーディンだ。


 昴らが灯台から戻って1週間。新しい装備の感触を確かめる為に、昴は餡コロと桃太に頼んで近場のモンスターが多く群生する狩場に度々足を運んでいた。

 三人以外はフォトリアルで自由に過ごしていたのだが、この数日アーディンはギルドルーム内にある生産工房に引篭もっていた。


「え? 急になんですか?」


 新しい装備や、それに付与されたスキルの仕様にも慣れてきた昴は、先日から体を休めるために狩場へ出かけるのを一旦中止している。

 今はギルドルーム内にある大広間でみんなと一緒に寛いでいたのだが、突然大声を上げて工房から出てきたアーディンにやや驚かされた様子だった。


「だからビンゴ大会だ、ビンゴ! イベントやるって言ってるんだよ!」

「えっと……それで?」


 アーディンがイベントをやると言い出すこと事態は、以前から彼女の事を知る昴にとっては、珍しいとも思わなかった。

 ただ、以前と違い現在スバルらがいるのは「異世界」だ。

 異世界でイベント開催をする気力があることに呆れたような関心するような、複雑な心境でもある。

 

 全員の反応は様々だ。

 更に彼らの考えでは、ギルドメンバー内でビンゴゲームをやるという感覚でアーディンの言葉を受け止めていた。

 しかし、それは彼女の次の言葉で間違っていた事に気づかされる。


「手伝え」




 アーディンがビンゴ大会開催宣言をした夜。

 夕食を終えた彼らは、現在大広間である作業を行っていた。


 手のひらサイズの紙を用意し、そこにアルファベットと数字を書き込むという作業だ。


「俺もビンゴやりてー!」

「ダメだ。スタッフは裏方のみ」

「鬼だあぁぁぁぁぁぁ」


 ひとりあたりが50枚の紙に、アルファベット1文字と数字の1から50までを書き込む。それどほ時間の掛かる作業ではない。

 既に自分の分を書き終えたいっくんが、ビンゴ大会に参加できない事に意義を唱えたがあっさりと却下された。


「ルールとかどうするんですか?」


 同じく作業を終えた昴が、書き終えた紙を二つ折りにしながらアーディンへと尋ねる。


「あぁ、大雑把だが考えてある。低レベル支援も兼ねてやるんで、まずこの紙をフォトリアル城下町に隠す。それをレベル50以下のプレイヤーに探させて、カードを持ってきたヤツにはポーションセットを贈呈する」

「それでアーちゃんは、ここ最近ずっと生産してたのね」


 工房に引篭もっていたアーディンは、製造職サブクラスである薬剤師のスキルを生かして、大量のポーションを作り続けていた。

 カミーラは時折工房に引篭もるアーディンへと差し入れをしていた為に、彼女が何をやっていたのかを知っていたのだ。


「あぁ。んで集まった紙がビンゴの数字になるわけだ。集まった紙が多ければ多いほどビンゴする確率も高くなるって寸法だな」

「あとはどのタイミングでビンゴが揃うか、ビンゴカードの運次第ってことか」

「そういうことだ」


 ビンゴカードにはランダムで数字が書かれており、カードの上部にはこれまたランダムにアルファベットが縦一列に対して1文字書かれることになる。

 レベル50以下のプレイヤーが紙を持ってきた順番で番号を公表していく。こうすることでビンゴが揃う順番を運任せで競うというのである。


「賞品はどうするでござるか?」


 全員の紙を集めたモンジは、アーディンが用意していた箱に収めてから気になる点を確認した。


「あぁ、未使用のクズレアとかプチレアとかを出してしまおうかと思ってな」

「どんだけレア持ってるんだ……」

「休止期間を除外しても12年はプレイしているからな、溜め込むクセもあったし、結構いろいろ持ってるぞ」


 あれこれとアーディンが装備名を挙げていくと、何人かは感嘆な声をあげ、賞品にするぐらいならくれ! とまで叫んだ。

 当然アーディンは、そういった声には完全無視を決め込む。


「凄いんですねぇ〜アーディンさんって」


 餡コロにとって、アーディンが口にした装備の7割以上は知らないアイテム名だった。記憶していないだけなのかもしれない。

 効果についてもまったく理解していないが、仲間達の反応からすると良い物なのだろうという事は判った。


「ふっふっふ。そう凄いのだイケメンは!」


 自信たっぷりに威張ってみせるアーディンだったが、この後彼女はひとり自室でビンゴカードの作成に取り掛かることになっている。

 流石にカード作成まで手伝わせるのは酷だと思っ手の事だったのだが、翌朝には考えを改めて再びカード作成の手伝い要請をすることになった。


 参加者が何人になるか解らない中、フォトリアルを拠点とするプレイヤー数を考えれば1万枚は確保しておきたかった。

 アーディンは、ひとりで1万枚のカードに数字を25文字、アルファベットを5文字書くだけでも腱鞘炎になると判断したのだった。




 数日後、イベント開催の告知を張り紙として城下町のあちこちに貼り付けたアーディンたちは、ついにイベント当日を迎えた。

 張り紙には参加者が興味を引くようにと、賞品として出されるアイテムの一部も書き込まれていた。



「じゃあ、紙を隠しに行ってくるわねぇ」

「行ってくるでござる」

「いってらっしゃ〜い。見つからないようにね〜」


 姿を隠すスキルを持つアサシンのカミーラとシノビのモンジが、数字の書かれた紙を隠す為にそれぞれが分担した地区へと向かう。

 二人は暫く歩いた所でスキルを使用すると、あっという間に見えなくなってしまった。


「さて、俺達は参加者の整理にいくか」

「どんだけ人来てるかな〜?」

「楽しみですねぇ」


 残ったメンバーは、男たちがビンゴカードを手に持って会場となる城の中庭へと移動した。

 事前にイベント用で中庭の使用を宣言していたが、これに対して抗議するプレイヤーはひとりも現れなかったので、問題はないだろうとアーディンは思っている。


「んげ! 何これ!?」


 お城の中庭までやってきた彼らの目に飛び込んできたのは、中庭に入りきれないほどの人数だった。

 入りきれないプレイヤーたちは、中庭を囲む廊下や、2階、3階にある同様の廊下にまで溢れ、中には屋根から見下ろしている者までいる。


「よ、予想外なんですけど……」


 人数の多さにたじろぐ桃太は、収集が付かなくなる事を予想した。

 桃太の予想通り、主催者が現れたのを知ると、集まったプレイヤーたちは好き勝手に叫びだした。


「早く受付開始しろよー!」

「ビンゴカードくださーい!」

「マジでAランク宝玉くれるのかよ! 証拠見せろー!!」


 賞品の一部として書いたものの中には、大手ギルド所属のプレイヤーですら喉から手が出るほど欲しいアイテムもいくつかあった。

 アーディンの素性を知る一部のプレイヤーが、彼女の持つレアアイテムの噂を広めたため、これほどまでの人数が集まってしまったのだ。


 アーディンはライトに「音声拡大」効果のあるスキルを奏でてもらうと、プレイヤー達に向かってこう告げた。


「落ち着きたまえ諸君! 私が来たからには慌てる事はない! たとえ日が暮れようともビンゴは開催するからな!!」


 一瞬、会場に静寂が訪れる。しかし、すぐにアーディンへの激しいツッコミが始まった。


「日が暮れるまでやる気かよ!」

「ちょ! マジでアーディンは女だったのかよ!」

「イケメンー、本当に女かどうか証拠見せろぉー」


 参加者の中には彼女を知る者も多数いるようだった。とはいえ、参加者が知るアーディンは「女」ではなく「男」のアーディンだ。


「私が女だと? 貴様らどこに目が付いているんだ! 私はイケメンであって女ではないぞ!」


 この期に及んでも、女であることを否定しようとするアーディンに、参加者からは更なるツッコミが入れられた。


「ネナベプレイ続行中かよ!」

「いいから脱げよぉ!」

「ぬーげ! ぬーげ!」


 会場からは「脱げ」コールが沸き起こる。男性プレイヤーのほうが圧倒的に多い状態では、悪ノリすればこうなるのは目に見えていた。

 以前、いっくんが大規模レイド戦の証拠提示の為に壇上へ立ったときもそうだったように。


「よかろう!」


 参加者の様子を暫く見ていたアーディンが、「音声拡大」効果があるにも関わらず大声で叫ぶと、会場は再び静まり返った。


「ビンゴの揃ったヤツが、私とジャンケン勝負して勝てたら脱いでやろう! まずはビンゴカードを配るから大人しく並べ!」

「ヤッホォォォォォォォ!」


 アーディンから出された提案に歓喜する男たち。同じ会場にいた女性らは呆れたような表情を浮かべていたが、イベント自体を楽しみにしていたので男らと同じように列を作って並んだ。


「……いいんですか、あんな事いって」


 昴はアーディンの提案を心配する。男アーディンであれば心配もしないのだが、流石に女性が人前で脱ぐというのには抵抗があった。


「でもほとんどが大人しく並んでるよね」

「男って……バカばっかり」


 ニャモと月が見つめる視線の先には、大人しく順番を守って並ぶ男達の姿が合った。




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