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3-3 『新しい拠点フォトリアル』

 フォトリアルの城は、約二ヶ月前にプレイヤーたちが協力し攻略した城塞都市。

 城下町も備えているこの城に、現在は1万5千人ほどのプレイヤーが生活の場としていた。

 大部分はギルド施設で借り入れられるギルドルームで寝泊りする形だが、ギルド未所属な極少数のプレイヤーは、城下町にある宿屋などの小部屋を専用の部屋として使っていた。

 もちとん、宿賃などは発生しない。


 城下町にはこの世界の住民も暮らす様になっていた。

 元々住んでいた村が魔物に襲われ、帰る所を失った人々がプレイヤーとの交渉で住む家を借り入れているのだが、噂を聞きつけた住民が駆けつけ、現在では二千人ほどが暮らしている。


「人増えたね〜」


 城下町で一番の大通りになる通路を進む一行。大聖堂からギルド施設までは数分の距離だった。


「良い意味で活気づいてる感じだな」


 昴は通りの両端に立ち並ぶ露店を眺めて顔がほころぶのを感じた。

 一ヶ月前、ここを離れる時にはプレイヤーたちが各々のアイテムを売るために数軒の露店を出していたが、今彼らが見ている露店はプレイヤーではなく、この世界の住人が出したもので、食材から衣類まで様々な品物が並べられていた。

 露店の数も数十軒は出ている。


「こっちの世界の人が住んでくれるお陰で、お店とかも増えてるし、ショッピングが楽しみだね〜」


 ニャモとライト、カミーラとそれに餡コロがキョロキョロと辺りの露店に視線を泳がせる。


「美味そうな店、増えてねーかなー」


 いっくんは食い気一本に絞り込まれていた。


「とりあえずギルドルームに戻ってアイテム整理しよーぜ」


 各々が勝手に露店を覗こうとする前に、昴が先手を打つ。

 しぶしぶといっくんあたりは香ばしい匂いを漂わせる露店に、後ろ髪惹かれる思い出でギルドルームへと向かった。


「カバンまったく確認しなかったけど、レアのひとつでも出てるかしらぁ」


 ギルド施設を目前にして、カミーラがドロップ品の中にレアアイテムが紛れていないか期待に胸を含まらせる。

 そこへ、別行動を取っていたモンジと桃太の二人が合流した。


「こっちはな〜んにも出ませんでしたよぉー」

「しょんぼりでござった」


 こちらの二人はレアアイテムのドロップは一切無かったようで、アイテム清算のほうに期待は持てないといった様子だった。


「お、ひっさしぶり〜ワンワンコンビ」

「ワンワンでござるって、拙者は狼でござるよ」


 ノリやすい性格のモンジは、言われた事に対してついネタで返事を返してしまう所がある。

 ワールド内最強クラスのプレイヤーであるモンジは、度々「冷静沈着なシノビ」だと勘違いされる節がある。

 昴らも以前はそう思っていたが、ここ一ヶ月の間で彼の性格を把握してくると、女性陣などはよく絡んで遊ぶようになっていった。


「全員揃った事だし、ギルドルームに帰るか」


 今ここに集まった面々が、昴がギルドマスターを勤める『冒険者』の全ギルドメンバー。彼らは揃ってギルド施設へと入ると、自分たちの専用エリアへと向かった。




 ギルドルームでアイテム清算の下準備を済ませると、既に空腹も我慢の限界に達したいっくんとモンジによるダブル地団駄攻撃によって、アイテム売却は後回しとなり城下町へと再び戻る事になった。


 昴らは一ヶ月前にフォトリアルを発つときには営業をしていなかった、酒場の一軒に足を運んだ。

 夕食には少し早い時間帯だったのもあって、テーブル席にはいくつも空席があり、昴らは酒場の中央付近にあった大きなテーブルに腰を下ろした。


 何組かの客のうち、半数以上はプレイヤーたちだった。

 昴らから近いテーブルで、早めの食事を行っていたプレイヤーらしき二人組みの会話が耳に入る。

  

「聞いたか? 最近パール・ウェストにいる数百人ぐらいのプレイヤーが行方知れずになってるんだとさ」

「多いな……まさかログアウトできたとか?」

「いや、だって魔王倒してねーし」

「使えないプレイヤーだから先に送り返されたとか」

「あぁ、それはありそうだな」


 二人はひとしきり笑うと、食事を終わらせ支払いを済ませると店を出た。


「どうなのかしらねぇ」


 注文した食事が運ばれてくると、カミーラが先ほどの二人組みの話を持ちかけた。


「引篭もりプレイヤーってどのくらいいるのかな?」


 桃太はひき肉を楕円形に丸めたハンガーグに似たものを頬張ると、素朴な疑問を呟いた。口ひげのまわりはソースで濡れてしまっている。


「さぁ? パール・ウェストには結局ログイン当日以来行ってないしな」


 昴はログイン当日に、例のネカマ事件もあって早々にパール・ウェストを飛び出すと、その後は一度も足を運んでいなかった。


「拙者の調べだと、パール・ウェスト周辺には三千人ほど滞在しているでござるよ」


 骨付き肉にかぶりつくモンジ。その姿はあまりにも似合いすぎていて、ニャモなどは彼を見ては笑い出していた。

 女性陣に笑われているモンジは、ギルドマスター会議での要望で、パール・ウェスト周辺で停滞しているプレイヤー数の調査を以前行っていた。


「さすが忍者。調べは付いているのか」

「まぁ、一応人数把握はしておきたいっていうこっち側の依頼で」


 三千人ほどのプレイヤーのうち、数百人が消えたというのであれば気になるところだろう。しかし、これまでパール・ウェストから動くことなく、戦闘もせずただ引篭もってただけのプレイヤーたちが、ついに戦いの場に身を置く決心が付いただけ……といえばそれはそれで納得できる内容である。

 結局、それ以上の興味を惹かれなかったこの話題は、あっさり片付けられ記憶の隅に追いやる事となった。


「ふぅー食った食った! 余は満足じゃ」


 満腹になったお腹をさするいっくん。横ではモンジが最後の骨付き肉にかぶりついていた。


 途中からひとりカウンター席に移動していたカミーラが、仲間が座るテーブル席へと戻ってくると酒場の主人から聞き出した情報を提示した。


「あたしらみたいな『冒険者』が、二ヶ月以上前から活躍してる噂が無いか聞いたんだけど」


 プレイヤーたちがログインしたのが約二ヶ月ほど前。それ以前からこの世界に来ていたのはアーディン、命を含めて三人。

 その時には既に、この世界の住民は闇の軍勢と戦う意思を失っていた。「意思」が強さの証でもあるこの世界で戦う意思を失うとは、戦士であれば武器すら振るうことのできない木偶の坊と化し、魔法使いであれば魔法が使えなくなるという事だった。

 それに対してプレイヤーたちは、当たり前のようにモンスターと戦い、巨大な武器を振り回し、魔法を使う。

 この世界の住人にとってプレイヤーたちはまさに「英雄」だった。


 カミーラはあのログイン祭りより前に召喚された最後のひとりが、モンスターと遭遇するたびに戦いを繰り返していれば、自然とどこかで噂話ぐらいにはなっていると思ったのだ。


「ウエストルの大聖堂に腕利きの聖職者が客として招かれてたって噂ならあったんだけど……でも……ねぇ」


 一通り主人との会話内容を話したカミーラだったが、自身が聞いた噂の人物に心当たりがあり、入手した情報が有益なものでない事が口調からも伝わってきた。


「……アーディンさん……ですよね」

「あぁ……」


 ひとりで異世界を徘徊していた三ヶ月間。スキルの使用方法を見つけると、アーディンは片っ端から回復をしまくり、低級モンスターを蹴散らし、好き放題暴れまくった。

 結果、地元住民からは「神の使い」などと噂されるようになり、ウエストルの都でも大聖堂の大神官や、果ては国王にまで感謝されるようにまでなっていたのだ。


 他にめぼしい情報も得られそうになかった昴らは、ギルドルームへと戻り一ヶ月間の疲れを落とす事を優先にした。



「明日はウエストルにでも行ってみるか」


 外は既に日が沈み、月が頭上を照らす時刻。

 アイテムの換金も済ませた昴が、明日からの予定を仲間達に提案した。

 大広間に座したメンバーの中には、既にうたた寝状態の者もいる。


「そうだな。ってことで今日の所はおつかれちーん」


 自慢の斧を入念に磨いていたいっくんだが、そろそろ瞼も重くなってきたようで、片目を擦りながら返事をすると、斧を背負って自室へと向かった。

 いっくんが動いたのを皮切りに、それぞれが部屋へと向かうために重い腰を上げた。 


「おやすみぃ〜」

「明日からもう動くのか……もう暫くのんびりしたいのに……」


 アーディンはしきりに「のんびりしたい。遊びたい」と洩らしていた。

 そんなアーディンに向かって餡コロが駆け寄ると、アーディンの頭をぽんぽんと叩いてお姉さんぶった口調で叱咤する。


「だめですよアーディンさん! そんな事いってたら、あの人との勝負に負けた時アーディンさんを連れて行って貰いますからね!」


 腕を組んで仁王立ちになる餡コロ。

 そんな彼女の様子にアーディンは、大げさな身振り手振りで応戦した。そして何故か昴を巻き込む。


「鬼がいる! 鬼が居るぞ昴!」


 必死に訴えるアーディンだったが、最近は彼女のこういった「昴いじり」にも慣れてきた昴は、難なくそれらを受け流すようになってきていた。


「はいはい、おやすみなさい」


 パタリと閉められた昴の部屋の扉。


「鬼だぁあぁぁ、お前も鬼だぁぁぁ」



『見つけてください……見つけてください……彼はここにいます……』


 海の見える風景が広がっている。

 岬の先端には灯台がぽつんと建っていた。


「灯台……海?」


『見つけてください……見つけてください……彼はここにいます……』


 どこかで聞き覚えのある幼い少女の声。

 映し出される海。灯台。


「なんだろう……どこかで見た風景なんだが……」


 彼女は自問した。

 岬の先端に四つんばいになると、恐るおそる崖の下を覗き込む。

 その高さに恐怖して直ぐに後退すると、思い出したかのように叫んだ。


「は!? 自殺の名所か!」


 アーディンが目を覚ますとそこはベッドの上だった。

 灯台も海もどこにも無い。


「あ? ……夢……か? もう一回寝よう……」


 彼女は寝ぼけたように再びベッドへと潜り込んだ。



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