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3-2 『賭け』

 フォトリアルへの帰還を決めた昴たち。彼らの前に現れたのは闇の魔王軍側に付いたプレイヤーのメイだった。 


「あら? もう帰っちゃうの?」


 突然現れた命。彼女はひとりで昴らの前にやってきた。

 戦う意思はないのか、武器である杖は装備されていなかった。


「命さん!?」


 驚愕の表情で昴は叫ぶ。はじめての大規模レイド戦以来の再会。


「アーちん、レベルアップおめでとう。相変わらず廃狩りできない体質なのね〜。普通なら一ヶ月もあったら77スタートでも81ぐらいまで上げれるのに」


 嫌味ったらしい口調で命はアーディンを挑発する。その言葉にアーディンは顔色ひとつ変えず、ふんっと小さく鼻で息を吐くと、命へ向かって短く反論をした。


「五月蝿い。私は私のペースがあるんだ」

「そのペースに他人巻き込んでちゃダメじゃない。ねぇ? そう思うでしょ皆さん」


 アーディンの反論に対し、更に嫌味を上乗せしていく命。

 言葉を振られた者の中から、いっくんがムっとした表情で命へ返答した。


「別に、レベル上げるだけがゲームじゃないからな」

「あら? ここはゲームの世界じゃないわよ?」

「あ? お前らがゲーム仕様にしてんじゃねーか!」


 いっくんは完全に頭にきたようで、手にした斧を地面に向かって力任せに突き立てた。斧の周辺の土は小さなクレーターのようへこむと、わずかに土煙が舞った。


「んふふ、そうだったわね」


 いっくんの怒った様子を見て楽しんでいるかのような命。その行為が更に他のメンバーの怒りを買う。

 いっくんらは武器を装備しなおし、いつでも攻撃に転じれるよう身構えた。


「何かようですか?」


 昴はPTメンバーの前に立ち、全員に対して落ち着くよう促す。その昴の視線も険しいものだった。


「昴くんまでそんな怖い顔するなんて……私、悲しいな〜」


 ふざけるように体を左右に振ると、上目遣いで命は昴を見つめた。口元は妖艶な笑みを浮かべている。


「……アーディンさん、帰還魔法使っちゃってください」

「わかった」


 命の態度に怒りすら感じた昴は、相手にするのをやめて当初の目的通り、大聖堂への帰還を決めるとアーディンへと声を掛けた。

 言われたアーディンはハナっから相手をする気がないようで、準備しておいた帰還魔法の詠唱を続ける。


「あぁん、待ってよ。良いこと教えにきてあげたのに」


 アーディンの詠唱が終わる前、命は慌てたようにそれを制した。


「言いたいことあるんだったらさっさと言っちゃいなさいよ! もったいぶる女ってイライラするっちゃ」


 月はとうとう我慢の限界とばかりに声を荒げると、命へ向かって一歩踏み出した。

 左手は竪琴に、右手は弦に触れている。


「ふぅ……いやぁ〜ね〜、更年期障害かしら?」


 月の様子を見た命は、くすくすと笑いだすと挑発するかのように手招きをしてみてた。


「はぁ? この女――」

「よしなさいよ、相手にしないの」


 今にも飛びかかろうとする月を慌ててカミーラが静止させる。

 流石の月も、一応男であるカミーラに押さえ込まれてしまえばそれ以上動く事はできなかった。


「んふふ。実はねぇ〜、私やアーちん以外にも他のプレイヤーより先に、この世界に来てる人がもうひとり居るのを突き止めたの」


 アーディンと命。大多数のプレイヤーが召喚されたあの日より、三ヶ月前のこの世界に現れた二人。

 それぞれが違う場所に召喚された為か、互いの存在を知ることなく大規模召喚の数日後までを過ごしてきた。


「キースがログイン時のデータを解析してたら、三人だけ時間軸がずれてログインした痕跡があるって言ってたわ」


 この世界にゲームのシステムを取り込んだ人物、それがキース。

 何かしらの方法でアップデート時のゲームデータを解析して、他とは違うパケット送信をしているデータを見つけたのだろう。

 

「で? 何でそんなことを我々に話しにきたんだ?」


 クリフトが苛立ちを隠す事もせず命へと詰め寄った。


「ゲームを面白くする為よ〜。私と昴くんと、どっちが先にその人を見つけることが出来るか、競争しない?」

「する意味があるんですか?」

「私が先に見つければ、当然彼を仲間に引き入れるに決まってるじゃない。どんな手を使ってでもね」


 命からの提案は興味が引かれるような内容ではなかった。自分たちより先にこの世界に来た人がもうひとり居たとして、その人を見つけることに何の意味があるのだろうか。

 おそらくアーディン同様に何かしたの得点スキルを持っているかもしれないが、昴にはチート系スキル使用者がひとりいようがいまいが、戦況を大きく左右するとも思えなかった。

 

「そうね〜、私が勝ったら昴くんのお友達をひとり頂いちゃおうかな」


 命は昴のやる気を起こさせる為に、賭けの賞品となるものの提案を行った。

 とたんに昴の目の色が変わる。それは喜びの色ではなく焦りの色だった。


「何言ってるんですか! そんなの無理にきまってるでしょ!」


 昴は感情をあらわにして叫んだ。その声は広い洞窟内を木霊していく。


「きみが勝てば……砦をひとつ無条件で明け渡すわ」

「……!?」

「悪くないでしょ?」


 命は自分が負けた際の賞品を提示する。一瞬、昴にとってその内容は惹かれるものがあったのは確かだった。

 一切の犠牲を支払わずに砦を取れるのはたしかに魅力がある。

 しかし、その為に仲間を賭けの材料にするというのは――


「競争なんてする気はありません。仲間を賭けにするような真似なんて――」


 昴はきっぱりと答えたが、全てを言い終える前に命は「テレポート」の呪文を詠唱しはじめた。


「私はもう決めちゃったもん。じゃね〜」


 詠唱が完了し、スキツ名を唱えると、命の体は一瞬のうちに消え去った。


「ちょっと! 勝手な事を!!」


 一方的な賭けを押し付けられた形の昴は、ぶつける場所のない怒りを拳に溜め込むしかなかった。


「くっそ!」


 溜め込んだ怒りを壁にぶつけると、壁の一部が破壊されいくつかの小石が飛び散った。

 そんな昴の様子を背中から見ていた餡コロは、いつもの陽気でどこか抜けた口調の喋りで声を掛けた。


「昴さん……大丈夫ですよ! あの人より先に……え〜っと誰でしたっけ?」


 そういって餡コロはアーディンを振り返る。面倒くさそうな表情のアーディン。


「名前は知らんな。あいつも言ってなかったし。とにかく命より先に私同様の三ヶ月前ログイン者を見つければいいんだろ」

「そうです! 三ヶ月前の人を探すんです! たったそれだけの事じゃないですか!」


 ガッツポーズを決め、餡コロは昴の腕を取って「行きましょう!」と促した。

 昴は暫く考え込んだ。大事な仲間を賭けてまで勝負なんてしたくはなかった。

 しかし、とうの命はすっかりその気である。自分のせいで仲間を巻き込んでしまう結果になった事を後悔するが、振り返って仲間達を見渡すと、みな意気揚々とした表情で昴を見返している。

 簡単なことなのだ。餡コロのいうように、命より先に「もうひとりの人物」を探し出せばいいだけなのだから。 


「今はひとまずフォトリアルに戻ろう。俺達プレイヤーが行動できる範囲内でそれらしい人物の噂がないか調べてみてから動いても遅くないだろうし」


 反対意見は出なかった。いや、それどころか大はしゃぎしはじめた。

 昴の苦労などまったく関係ないといった具合に。

 

「よっしゃぁ! 飯だあぁ!」

「お風呂よぉ!」

「お買い物〜」

「久々のシャバだな」

「のんびりするぞぉ!!」

「のんびりしません!!」


 真面目に考えているのは昴唯一人。

 フォトリアルへの帰還はあくまでも情報収集であることを再三告げるが、誰も聞く耳を持つ気はないらしい。

 

 アーディンが再びスキルの詠唱を開始する。


「聖堂帰還」


 ようやく約一ヶ月ぶりとなるフォトリアルへの帰還となった。


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