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3-1 『レベリング』

 ウエストル地方の東、闇の魔王によって完全に支配された王国マイアナ。

 魔物に支配されたといっても、PTパーティー単位で潜入することは容易く、今ではプレイヤー達のレベリングに適した狩場と化していた。


「は〜っはっはっは! ちね! ちねぇえぇぇ!」


 薄暗い洞窟の内部に響き渡る女性の声。色気の欠片もない叫びはアーディンのものだった。


 昴はレベル上げ目的で、マイアナ地方にある「死出の洞窟」へとやってきていた。同行しているのは、彼が一ヶ月前に結成したギルドのメンバー。

 いっくん、クリフト、カミーラ、ニャモ、ライト。ここまでは以前所属していたギルドの元メンバーだ。

 そして餡コロとアーディンもギルドに加わった。

 アーディンは「大手から逃げる良いチャンスだ」といって加入した。


「っちょ、アーディン! プリーストならプリーストらしく回復しろよ!」


 クリフトが慌てるようにしてアーディンの後ろを追いかけていく。アーディンになぶり殺されるアンデットめがけて「ターン・アンデット」を詠唱し浄化させる。

 本当ならアンデットの群れごと「クレセントフレア」の範囲攻撃で一網打尽にしたかったのだが、先頭を走るアーディンがことごとくクリフトの邪魔をした。


「は〜っはっはっは! ちねえぇぇぇ!」

「聞けよ!」


 二人とも後ろからやってくる仲間の事などお構いなしに攻撃に没頭している。アーディンとクリフトによって道は開かれていたせいで、昴たちの進行は安全そのものだったが。


「お前も一応ヒーラーだろ……」


 いっくんがクリフトの背中に冷たくツッコミを入れたが、完全に無視されていた。


 プリーストが純ヒーラー職であれば、エクソシストは準ヒーラー職。アンデット系、悪魔系モンスターに対して高い攻撃力を持つのがエクソシストだ。

 クリフトは普段は冷静に支援に徹しているが、アンデットや悪魔系がメインターゲットのダンジョンに入った時にはテンションが上がり、支援を忘れるクセがある。

 こういう時のために、常に桃太とセットでPTを組んでいたのだが……


「桃太がいてくれたらなぁ〜」


 桃太は現在、シノビのモンジとペアで別のダンジョンへと潜っていた。

 これまで大人数のPTでしかプレイしたことの無かった桃太は、PSプレイヤースキルを磨く為に、敢えてペアでのダンジョン攻略を願い出た。

 それならばとモンジが協力を申し出て、この2週間ほどはペアでのレベリングに勤しんでいる。

 桃太はもちろんだが、モンジも昴が作ったギルドへと所属しているが、理由はアーディンと似たようなものだった。


「流石にモンジと一緒だとレベルの上がりが早いよな……桃太もそろそろ俺達のレベルに追いついてくるだろ?」


 同じギルドに所属して、2週間ほど一緒に狩りをしている間に、モンジやアーディンとも打ち解けた彼らは、それぞれを呼び捨てであったり、呼称だったりと今では好きなように呼び合う仲になっていた。

 昴はアーディンに対して相変わらず「さん」付けではあったが。


「効率だけ考えればペアのほうが美味いに決まってるじゃない。しかもペアの相手はあのモンちゃんなのよぉ」


 カミーラが腰をくねらせると、UIユーザーインターフェイスから呼び出したギルド情報画面で、それぞれのレベルを確認する。

 モンジが83とギルド内で一番の高レベル者。次にクリフトの82。桃太が80でアーディンが78。他は全員81になったばかりだった。


「アーちゃんはモンちゃんとペアで組んだりしてなかったん?」

「ん〜、たま〜に程度は。元々ただの顔見知りだったからな〜。特に狩り友というわけでもなかったし」

「あれ? そうだったんですか? 俺はてっきり狩り友とかだと思ってた」


 アーディンが、手にした鈍器でアンデットを殴り飛ばしている中、ライトは攻撃速度を少しだけ上昇させる曲を奏でて彼女を支援する。

 ハープで演奏を行いながらモンジとの仲を探ってみたが、呆気ない返事が返ってくるだけだった。


「いや、モンジは私が主催するイベントの常連客で、それで顔見知りになっただけだぞ」


 倒し終わったアンデットが落としたドロップ品を回収し、次なる獲物を探すアーディンが答える。


「イベント?」

「あー、アーディンさんはイベントの企画主催とかやってた人だよ」


 以前からイベント開催を行っていた彼女を知る昴が、アーディンに変わって皆にその事を教えた。

 昴自身も何度かアーディン主催のイベントに参加したこともあった。


「え? なになにそれ! 面白そう!!」


 いっくんが興味津々な顔でアーディンの元へとやってきた。その表情はお菓子を前に喜ぶ子供のようなだった。


「っふ、そうか。イケメンが必要とされるならいつでもイベントをやってやろう!」

「おおぉぉ! やってほしーっす!」


 アーディンの言葉に、いっくんだけではなく他のメンバーも喜ぶ。

 そんな彼らに対してアーディンが突きつけた言葉は残酷なものだった。

 

「んむ。では働け」


 ビシッ!っと突き出した指をいっくんに向けると、鈍器を握りなおしてジリジリと近づいた。


「「え?」」


 ジリジリと後退するいっくんとその周りにいた仲間達。


「賞品をゲットするために働け」

「レア出せってことっすか……」


 イベントの賞品を拾う所から始めろという事らしい。

 どうやらアーディンは、イベント参加者ではなく、イベントの裏方としていっくんらをこき使おうという魂胆らしい。


「そんなに簡単にレアなんて出んっちゃ! 出たとしても自分で使いたいじゃん!」


 月は抗議の声をあげるが、既にアーディンの耳には届いていなかった。

 いっくんらの背後からアンデットが数体現れたようで、一目散に駆け出していったのだ。

 もちろん、クリフトが負けじとそれを追いかける。


「ふははははは! ちねぇぇぇぇ!」

「ああぁ、アーディンさんひとりで突っ込むなよ!」


 昴の心配を他所に、ダメージを受ければ自己回復で難なくしのぐアーディン。装備性能もあって防御力は昴、いっくんに次いで高い数値を持っている。

 よぽど格上モンスターに囲まれでもしない限り倒れる事はなさそうだ。


「んふふ、アーディンさん楽しそうですね〜」


 餡コロはふわふわとした口調で、前衛を無視して突っ込む二人のヒーラーを見つめながら洩らす。

 たしかにアーディンは楽しそうだった。


「はぁぁ、自分より弱い敵相手だといっつもあぁなんだよなー」


 昔を懐かしむように昴は苦笑いを浮かべた。

 自分たちより明らかに格下のダンジョンにいくと、大抵アーディンはこうだった。


「まぁ、敵が強かったり数が多かったりすれば、ちゃんと回復に徹してくれるし、いいんじゃなぁい?」


 カミーラも諦めたように呟く。いつでも飛び出せる用意はしているものの、今いるダンジョンでは最下層にでも行かなければ格上モンスターもいないので、助けに向かう必要性がまったくなかった。


「ちねぇぇぇぇぇ!!」


 アーディンが3匹目のアンデットを倒した時だった。


 ―パパラパァーパァーン―


 アーディンの頭上に純白の翼が羽ばたくと、レベルアップを知らせる効果音が鳴り響いた。


「っぶ! レベルあがった!」

「おおぉぉ!!」

「おめー」

「おめ〜」


 ひとしきり仲間達からの祝いの言葉が掛けられる。

 アーディンはさっそくUIを開いてステータスなどを確認した。


「やっと79かー。一ヶ月掛けて77から79か」


 レベルの低いアーディンは、レベルアップに必要なEXP総数も昴らよりは少なく、比較的上がりやすいハズだった。

 昴としてはもう少し上がるものと思っていたのだ。


「そういうあたしらも79からつい先日81になったばかりじゃない」

「まぁ、俺らはレベル79のEXP90%超えだったしな」


 結局のところ、全員レベルが2つ上がっただけだったのだ。

 もっとも、パーセントで言えば昴らは110%ほどEXPが増えたのに対して、アーディンは190%以上増えていることになる。

 

 もう少し長時間連続で狩りが出来れば、もう少し格上を相手に戦闘を続けていれば……昴はそう考えると、少し残念な気にもなった。


「よし! レベルアップ記念だ!!!」


 ステータスの確認を終えたアーディンが、キラキラと目を輝かせて一同を振り返ると、声高らかに叫んだ。

 

「お祝いですね!」


 餡コロも同じようにきらきらとした瞳を彼女に向けると、その瞳を次に昴のほうへと移動させた。

 ビクっとしたように昴は半歩後退する。


「そうとも!! フォトリアルに帰ろう!」

「帰りたいだけでしょ!」


 素早く昴は突っ込んだ。出来ればあと1つ2つはレベルを上げたかったのだ。

 ここで帰るコールを許してしまうと、次にレベリングに出かけるのはいつの事になるか解ったもんじゃない。


「もう嫌だぁぁぁぁ。一ヶ月もずっと狩りっぱなしなんて、私はもう嫌だあぁぁぁぁ」


 案の定アーディンが駄々を捏ねだす。

 引きずってでも先を急がせようとした矢先、昴にとってまさかの敵が他にも存在した。


「うん、気持ちはわかる。私もそろそろまともなご飯食べてベッドで寝て、お風呂に入りたい」

「あたしもよぉー。もうドロドロのベトベトなのは嫌よぉ」


 ニャモとカミーラ、そして月までも帰りたいと言い出したのだ。

 いつもは昴の意見に従う餡コロすら「頼んでおいたものがそろそろ出来る頃だから帰りたい」と。


「かぁ〜え〜る! かぁ〜え〜る!! そぉれっかぁ〜え〜る!!」

「「かぁ〜え〜る!」」


 帰るコールの大合唱。


「……はいはい、解りました。桃太とモンジさんにも連絡して向こうで合流しよう」


 こうなってはもう勝ち目はない。諦めた昴は現在のプレイヤーたちの最大拠点「フォトリアルの城」へと戻る事を決めた。


「「やったぁ~!」」


 何故か女性陣だけではなく、いっくんまで喜んでいた。昴にしたって久々にまともな生活ができるのは喜ばしい。

 ここ4週間ほどは野宿がほとんどで、そのたびに同じ内容の食事ばかりだったのだから。


 全員が荷物の整理を済ませ、アーディンが「聖堂帰還」のスキルを詠唱しようとしたとき、彼らの前方から突然人影が現れた。 


「あら? もう帰っちゃうの?」


 そこに現れたのはウィザードのメイだった。 


3章スタートです。

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