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2-12 『第2次レイド戦-5』

 昴の「奥義」発動から3分が経過したが、モンスター生成装置のHPバーは未だに全快のまま。


「このままじゃまずいだろ!?」


 攻撃をただ黙々と繰り返すだけの単調な作業に、ついに我慢しきれなくなった者から声があがった。


「装置が回復する原因がここにないってことは、別のところにあるんじゃないか?」

「怪しいのはフィールド側の脇道だよね」


 それまでずっと黙っていた他の者達からも声があがる。

 むしろ、装置のHP回復に原因が無ければ完全にお手上げ状態だ。


「俺達が行く!」


 攻撃に参加していたナイトのひとりが名乗りをあげた。

 フィールド側から突入してきたメンバーの一人だ。


「俺達がここまで来るのに、囮になってくれた連中がいるんだ!」


 ガンツら三人のことである。

 彼らと別れるときに「死ぬなよ」と告げたナイトが、戦闘の最中も彼らをずっと気に掛けていたことだった。


(囮!?)


 「囮」という言葉を聞いて、昴の背筋に冷たいものが走る。

 一瞬、脳裏に浮かぶのは無数のモンスターに囲まれる光景。

 無事でいるのだろうか? いや無事でいてくれなければ困る。誰かを犠牲にして行う作戦なんて、何の価値があるというのか?

 昴はこういった、他人の犠牲の上に築かれる物というのを嫌った。


「そいつらが脇道のほうに向かったから今から追いかければ助けられるかもしれない。ついでにこいつが回復している原因がないか調べてくるよ」


 フィールド突入側のPTがひとつ、既に行動に移ろうとしていた。


 「奥義」発動によって高い防御力を手に入れた昴だが、効果時間が切れればどうなるか……ガンツらの下へ向かうと宣言したナイトは、同じ職業クラスの昴を振り返って見つめた。

 同じ職業だけあって、「奥義」効果が切れた後の状況は想像できる。

 きっちり「ブロック」の効果が生かされる立ち位置をキープできればいいが、続々と沸き続けるモンスター相手に、常に位置をキープし続けるのは難しい事を理解している。


「俺の事は大丈夫です! ここには仲間達もいますから、あなたは『あなたの仲間』を助けにいってください!」


 昴が自分を気にしてくれていることを感じて安心するように促した。

 ナイトが昴の声を聞くと、殲滅部隊のPTリーダーであるグレミアのほうへと向き直る。

 グレミアは攻撃する手を止め、溜息を付くとナイトに向かって告げた。


「……わかった、そっちのPTは脇道に向かってくれ」


 グレミアが指示を出した瞬間、装置に攻撃を続けていたニャモから嬉しい報告がもたらされた。


「いや、待って! 装置のHPが回復しなくなってるわ!!」

「マジで!? やったじゃん!」


 いっくんも敵のHPバーを確認して見た。

 いつからそうだったのか、装置のHPバーが1割ほど削れているが、回復する様子がない。

 これまでは、誰かが攻撃して減ったHPは、瞬時に回復していたのだ。だからこそ、いっくんはまったく減らないHPバーを見て気力を失うのが嫌でバーを見るのをやめ、ただひたすらに攻撃をし続けていた。


「ほら、そこのバーサーカー。『奥義』の見せ所でしょ? ライトの演奏のお陰でCTクールタイムは半減してるはずよ」


 カミーラが隣で斧を構えたグレミアに声を掛ける。


「いや、『奥義』はそういった類の効果は無視してCT5分は絶対なんだよ」


 グレミアはばつが悪そうに答えると、斧を振りかざして通常のスキル攻撃を行った。


「じゃ〜、さっきの『奥義』は不発と同じってことなん?」


 後ろで全員を支援するための曲を演奏していた月が、グレミアの背中に声を掛けた。

 装置に深く突き刺さった斧を引き抜こうとしたグレミアの手が止まる。


「っううぅ……」


 小さく呻いたグレミアに、更なる追い討ち攻撃が後方から放たれる。


「不発なんやろ?」

「……」

「不発っちゃろぉ?」


 答えようとしないグレミアに、月は繰り返し追い討ちをかけてゆく。

 ぷるぷると震えるグレミアが、遂に斧を引き抜くと、振り向き様に月へと叫んだ。


「あぁ、そうだよ不発だよ! くっそぉぉぉぉぉ」


 斧に回転を加えて、遠心力を利用して回転速度を上げると、そのまま装置に向かって飛び込む。


「あ、俺も俺もーぐるぐるばんばんだぜぇ!」


 いっくんが同じスキルで同じように装置へと飛び込んでいった。


「うおおおおおおおおおおお」

「うひゃっほおおおおおおお」


 二人のバーサーカーが吼えた。

 ひとりはがむしゃらに。ひとりは愉快そうに。


「……バーサーカーってやっぱり脳筋ばっかりだな」


 クリフトが冷めた口調でそう呟いた。それが聞こえた周囲のメンバーはみな頷く。


「さ、俺達もしっかり働くか」


 誰かがそういうと、全員がバーサーカー二人に負けじと攻撃を繰り出していった。



「残り1分で『奥義』切れるけど、こっちはこっちで敵を倒していってるんで『奥義』切れても気にしないでそっち優先させてくれ!」


 昴がこれまでにヘイトで呼び寄せたモンスターは40体。しかし、今現在抱えているのは24体ほど。しかも半数近くは既にHPが半分以下に減っているモンスターだ。

 

 桃太は、ヘイトが十分に昴へと向いたのを確認すると餡コロへ範囲攻撃を指示。新しいモンスターが昴の元へ向かうと範囲攻撃中止を餡コロへ指示。

 これを繰り返す事で、効率よく敵への攻撃を行ってこれた。

 火力の低いソーサラーだからこそ、ここまで16体ほどしか倒せていなかったが、それでも十分な戦果だ。


「わかったわ! 装置のHPもゴリゴリ削れるようになってるから、すぐ援護できるはずよ!」


 孤月が昴へと返事を送る。彼女も返事の後には直ぐに攻撃へと転じた。


 昴と餡コロ、桃太以外の全員が一丸となって装置へと攻撃を繰り返す。

 装置のHPが3割を切った。 


 そして、昴の「奥義」が切れるカウントダウンが彼の視界にメッセージとして現れる。

 

 5――「MP切れたあぁぁぁ」


 4――「あたしもこれが最後よ!! 早く倒れやがれゴルァァ!!」


 3――「燃え尽きなさいよ! 『バーストフレア!』」


 2――「低火力だって頑張るっちゃもん! 『デッドシンフォニー』」


 1――「効果時間切れる!!」


 0――「CT明け! 『唸れ、地獄の戦斧! デスティニー・ホーク』」


 昴の「奥義」の効果が切れると同時に、グレミアの「奥義」のCTが終わる。

 10連続攻撃となる「デスティニー・ホーク」の威力は、樹木を思わせる生成装置の根元から大きな裂け目を作り上げた。

 レアクラスの巨大な斧から繰り出された「奥義」によって、生成装置は遂に活動を停止した。




 生成装置を破壊してからは、フィールド側から突入してきたチームはフィールド方向へ、当然1PTは脇道のほうへと向かった。

 残った昴とグレミアのPTで、昴が抱えたモンスターの殲滅を行ったが、既に昴と餡コロによって数自体も減っていた事もあり、MPを餡コロから分け与えられたいっくんらが、あっという間に片付けてしまった。


「俺達は城内に向かう。お前達は……孤月から指示が出るだろ。たぶんもうそろそろレイドボスが倒される頃だ。そうしたら周辺のモンスターが行き場を無くして逃走しはじめるだろうから、そいつらの討伐が当面の仕事になるだろうな」

「あぁ、あいつら逃がしちまったら今回の大規模レイド戦は、半分負けみたいになっちまうもんな」


 グレミアといっくんはがっつりと握手を交わして互いの健闘を称えた。

 戦いはまだ続く。この先の無事をお互いに祈るように拳に力を込めあう。


「だな。じゃ、俺達は行くぜ」

「気をつけて!」

「そっちもな!」


 二人のバーサーカーが別れの言葉を交わした。その光景を遠巻きに見ているほかのメンバーたちは、どこかクサイ演出でも見せられている気分になる。

 そんな中、月だけが遠ざかるグレミアに手を振って言葉を掛けた。


「もう不発したらだめやよ〜」

「言うなよ!」


 月はニヤリと笑うと、もう一度彼へと手を振った。グレミアは背を向けたまま右手を軽く振ると、仲間達に声を掛けて駆け足で地上へと続く通路を上っていった。


「私達はフィールド側のほうに向かいましょう。モンスターを見かけたら根こそぎ倒していくわよ!」


 ギルドチャットで状況報告を済ませた孤月が次の指示をメンバーへと伝える。

 戦場からモンスターが逃げ出せば、近隣の村や町に被害がおよぶだろう。それを未然に防ぐのも今回の大規模レイド戦では重要な作戦だった。


「おけーぃ!」


 いっくんは張り切って返事をすると、床に転がしておいた斧を拾い上げ肩に担ぎなおすとフィールド側の通路へと向きを変えた。


「皆さんのMPを回復しますね」


 餡コロは既に歩き出そうとしていたいっくんのMPを真っ先に回復させる。それに気づいたいっくんが、先ほどの戦闘でMP切れを起こしていたのを思い出して歩みを止めた。

 魔法職以外のメンバーはみな似たような状態だ。

 元々、自然回復量に差があるため、戦闘さえ終わってしまえば魔法職のMP回復速度は早い。

 逆に物理攻撃職はMP量も少なければ自然回復量も雀の涙程度。MP回復用のマナポーションを飲むかソーサラーの「ライフソウル」に頼るかしなければ、連戦は難しい。


 PTメンバーのMP回復が全て済むと、孤月が様子を伺って声を掛けた。


「準備できたら行きましょう」

 

 孤月以外の11人がそれに頷きフィールド方面へ向かう通路へと駆け出す。

 ひとまず、ここでの作戦は成功した。

 しかし、成功した安堵感よりも次なる作戦の行方のほうが気になる昴は、戦いに勝利した満足感も満たされる事なく、足早に通路奥へと向かった。


 フィールドへ向かう道中、脇道に差し掛かったときに通路奥から歓声が響いたのを昴たちはしっかりと耳にした。

 どうやら無事に仲間と合流できたようだ。

 その事を仲間内で話していると、ウィザードの宮城 楓が事の成り行きを話してくれた。


「そっか、『クリムゾンナイト』のひとたちが助けに向かってくれてたのか」


 昴は「囮」となった三人の無事を楓の口から聞くと、心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。


「うちのギルマスは『誰かの犠牲の上に築かれた勝利』なんて大嫌いな人でね。だから地下突入時に三人が先行して行った話がギルチャで出た時に、即効で支援PT作って向かわせろって怒鳴ってたのよね」


 楓は誇らしげにギルドマスター、カイザーの事を話した。

 少しバカっぽいところはあるが、男気のある頼れる存在。それが楓の持つカイザーという男の人物像だ。


「カイザーカッケー!」


 いっくんの言葉に別大手ギルド所属のラム酒と孤月も頷いた。

 大手同士、ぶつかり合う事も間々あるものの、それは競争という世界では極当たり前の事で、イコール嫌いという事ではなかった。

 カイザーに対して好印象を持つ大手ギルドメンバーも少なくは無い。


 昴は少し気恥ずかしいような、それでいて嬉しくも思った。自分とカイザーの思いが同じである事に。


「じゃ、私達はこのままフィールドのほうに直行しましょう。レイドボスも残りHP5%を切ったってギルチャで流れてるから、外に出る頃には終わってるかも」


 彼女には今も絶え間なくギルドチャットによって、レイドボスとの戦闘模様が伝えられてきていた。

 意識を集中しさへしなければ、その内容ははっきりとは聞き取れないが、時折聞こえるHP残量のときにだけ集中して内容を把握させている。


 レイドボスが倒れれば、城塞内に残ったモンスターや周辺地域のモンスターたちがどう動くか……

 ゲーム時代であれば、モンスターは常に一定区間を巡回するか、プレイヤーが近づくまでその場で待機し続けているかのどちらかであるが、ゲームシステムが存在してもここは異世界そのものなのだ。

 モンスターたちの行動は完全には把握できていない。


「さて、やつらがどう動くか……」


 クリフトは考え込むように前方を見つめる。視線の先には地上から差し込む光が僅かに見え始めた。


「出る直前に支援スキル掛け直すぞ」


 クリフトが桃太へと視線を送ると、彼も頷いて杖を握り締めて答えた。


 それほど長い時間、地下へと潜っていたわけではないが、昴には久々に太陽の光を見たような気がした。


 深呼吸ひとつ。


 すると背後で小さな歓声が起こった。


「レイドボスが倒れたわ!」


 孤月からの知らせで、『シャドウ・ロード』のギルドマスター、影山によってレイドボスが討ち取られた事を知る。

 地上での待機部隊にもその声は伝わり、あちこちから勝利を祝う声が聞こえてきた。

 同時に、自分たちの戦いはまだ続くことを認識する。


 レイドボスが倒された事を知ったプレイヤーたちの士気は高まり、逃走モンスターを殲滅する作戦では、多くのプレイヤーが活躍し、一匹のモンスターも逃がすことなく全滅させる事に成功した。


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