2-9 『第2次レイド戦-2』
『城下町制圧チーム。お城までのルートの確保が整いました!』
『城内制圧チーム突撃開始! 地下突入組みはフィールド側のチームが敵を引き付けたのを確認してから、城内チームは突撃しろ!』
各部隊にいる「シャドウ・ロード」のメンバーらが、指揮官の指示を他ギルドメンバーらに伝えてゆく。
『地下突撃組み了解しました』
『フィールドチーム、了解です!』
昴のPTでは「シャドウ・ロード」所属の孤月が伝達役として返事を送る。
『フィールド側の地下通路から大量のモンスターが現れました!』
『地下突撃組みはモンスターが出尽くすのを待ってから突入しろ!』
『了解!』
『フィールド待機メンバーは、全員戦闘態勢に入ってくれ! あとは各ギルド単位で行動を頼む! 頑張ってくれ!!』
『おう! 任せろ!』
激しく飛び交う指示が、この戦場の緊張感を参加者全員に与える。
昴らは城下町に続く正面ルートを足早に進んだ。
フィールド側の地下入り口は、正面ルートからかなり離れた位置にあるが、激しい戦闘音は昴の耳にも届いていた。
彼らの後方に「メテオストライク」の隕石郡が落下する。
モンスターの大群に向けて、どこかのウィザードが放ったのだろう。
振り返ってそれを見る余裕はない。
昴たちの地下装置破壊の時間が遅れれば遅れるほど、地上の被害は大きくなっていくのだから。
「城下に突入するぞ! 孤月さん、フィールド側との連絡お願いします。地下入り口に到着したら、向こうの連絡が来るまで待機。じゃー走るぞ!」
昴は振り返って仲間達にそう伝えると、先頭に立って駆け出す。急ぎたい気持ちはあるが、仲間との足並みを揃えるために加減して走った。
●
フォークロードフィールド。
ウエストルの都から東に進んだフィールド内では、現在4つの大規模な戦闘が繰り広げられていた。
ひとつは「フォトンの砦」内部で行われている大規模戦。
2つめは砦の外で繰り広げられている戦場。巡回モンスターたちが砦内部に入らないように、また砦から出てくるモンスターを殲滅するために、中小規模のギルドメンバーらによって決死の戦場と化していた。
3つめは「フォトリアル城」。昴らが攻略している城塞だ。ここにはモンスターを無限に生みだす装置があり、この装置のせいで周辺フィールドには、いまや無数のモンスターが徘徊していた。
そして4つめが、「フォトリアル城」外。巡回モンスターだけでなく、フィールド側の地下出入り口からも多数のモンスターが這い出てくる場所では、激しい戦闘が続いていた。
「くっそ! 予想外に数が多いな」
重装備に身を包んだ男が声を荒げて吼えた。
彼らが地下入り口で戦闘を開始して20分は経っているが、突然大軍が出てきた後も、定期的に数体が編隊を組んで出てきていた。
「ガンツ! これじゃー地下突撃部隊が中に入れないぞ!」
ガンツと呼んだ重装備の男の横で、共に戦うシノビが彼に向かって怒鳴るように声を掛ける。
出てくるモンスターのレベルは68とそれほど高いとは言えないが、こう数が多すぎると流石に殲滅にも時間が掛かる。
この小さな戦場で戦っているのは、地下突入組みの12人フルPTが3組と、出入り口を確保する12人フルPT3組。合わせて72人。
対するモンスターの数は、初めに50体ほどが続々と現れると、その後も10体程度がPTを組んだような状態で定期的に現れてきていた。
「解ってるよ! 一旦戦場を後ろに下げよう! 今ヘイトを取ってる連中は後退して火力メンバーは攻撃を中断しろ!」
ナイトであるガンツも数体のモンスターを抱えて戦っていた。
彼は同じPTメンバーの火力職に攻撃を辞めさせると、モンスターを抱えたまま地下入り口から遠ざかるようにゆっくりと移動を開始した。
「下がってどうするんだ!?」
他のPTからガンツに向かって声が掛かる。ガンツは止まることなく説明を続けた。
「一旦下がらないと、いつまでもここで戦ってたら入り口が混戦状態で中にも入れないだろ!」
「あ、そっか……でもまだ中から出てきてるモンスターだっているのよ?」
ガンツのやろうとしている事を理解したプリーストが、移動後にも出てくるモンスターに対しての疑念を口にする。
彼女への回答を無視するように、ガンツは今思いついた作戦を話し始めた。
「俺が抱えてるモンスターを倒したら、俺が一人で中に突入する!」
ガンツがヘイトを取っているモンスターは2体。話をしている間にも1匹が倒れ、もう一匹も仲間のウィザードによって止めをさされた。
「な、何いってんだよ!?」
同じギルド所属のシノビが驚愕して叫んだ。
いくらレベル差があるとはいえ、一人で突っ込めば何十匹といるモンスターに囲まれる事になる。
殲滅力の低いナイトでは、すぐに戦闘不能という状態にはならないものの、殲滅するのに時間がかかり、そうなれば敵の増援が到着し、いつまで経っても身動き取れなくなるのは明白なのだ。
「まぁ、聞け。敵は1分単位で出てきているって子とは、1分毎に装置から生まれてきてるってことだろ?」
「た、たぶんそうだけど……」
同じPTの女性ソーサラーが曖昧に返事をする。
確かに1分間隔ぐらいで敵の増援が出てきているのはある程度のメンバーが把握していた。
「報告書だと、ここから装置まで距離にして1kmぐらいだっていうしな、とにかく地下突撃組をそこまで連れて行かなきゃいけないんだ。なるべく時間を掛けないようにな」
1kmを走るのに鎧だの武器だのを装備して陸上競技者並に走るのは不可能なので、多く見積もって7~8分というところか。
それも邪魔をされなければの話だ。
遭遇するモンスターと戦闘をしていれば10分でも到達できる保証はない。
「そんな事わかってるさ! それとお前が突入するのにどう関係するんだよ!」
味方への回復を行いつつ、苛立ちを隠そうともしないでプリーストの男が叫ぶ。
「500Mほど進んだ所で十字路になってるって報告書にあっただろう。そこまで走ったら俺は脇道に反れるから、その間に突撃部隊は進んでほしいんだ」
「ガンツさんはその後どうするんですか!?」
「なんとかここまで出てくるから迎撃してくれ」
ガンツは自身の消費したMPを回復させるべく、ソーサラーに向かって「ライフソウル」を乞う。
ポーション類はもしものときように温存させておく為に。
「無茶すぎるだろ!」
他のPTからも無謀すぎる作戦に対し、非難する声が上がった。
それでもガンツは着々と地下へ降りる準備を進める。
「だったら俺も一緒に行ってやるよ。回復がいたほうが安心だろ」
言っても無駄だと悟ったプリーストの男が、同行を申し出る。
時間を掛けて入られない。ガンツの作戦はたしかく時間を掛けずに突撃部隊を送る込める。
「ヒールでヘイト取ったらお前がヤバいだろ!?」
「だからガンツがしっかりヘイトスキルで維持させとけよ」
回復役が一人抜ける事で、もう一人のプリーストに負担を掛ける事になるのを謝罪しながら、彼はガンツの元へと歩み寄った。
同じギルドで半年以上一緒に組んでいる仲だ。彼のナイトとしての腕を信じているのだろう。
「あたしも行くよ! 「ブロック」して攻撃を防ぐ間に突撃部隊を行かせるって作戦なんだろうけど、MPがガッツリ持って行かれるでしょ」
「ソーサラーの「ライフソウル」でMP回復させつつタゲを維持して、突撃部隊が去ったら外に向かって逃げる。ヘイトスキル使ってる間のダメージは俺が回復させる。決まりだな」
プリーストは、こちらも同じギルド所属のソーサラーを見て、少しでも安全な方法を取るべく、彼女の同行に賛成した。
「っち。仕方ねーな……んじゃ三人で行くぞ!」
仕方ない――そう言いつつガンツの顔はこの上なく嬉しそうな表情をしている。
仲間を助け、仲間に助けられる。
それがガンツにとっては、MMOをプレイしていた中でもっとも楽しい時間だった。
「ったく、こんな所でカッコつけやがって……よおし! この場は必ず死守してやる! お前らが安心して逃げてこれるようにしといてやんよ!」
シノビが感無量とばかりに涙ぐむが、それを悟られまいと気合を入れなおして三人を送りだす。
「うぃっさー!」
「突撃部隊は俺達が入ってから10秒後ぐらいに入ってくれ。行くぞ、ビタミンA、パール!」
ガンツは、プリーストの「ビタミンA」とソーサラーの「パール」を伴って、薄暗い地下通路へと駆け込んだ。
●
フィールド側の地下突撃組みから、地下への突撃開始の報告がもたらされたのは、スバルらがようやく城下町から城内敷地に入った時だった。
城下町は城まで一直線に向かうルートが存在せず、入り組んだ道を進んだ結果、予想以上に城への到着時間が掛かった。
「地下への入り口は正門潜って左手だったな!?」
昴が、自分の後ろを走るシノビの孤月に声を掛けた。
城内へは既に彼女のギルドメンバーたちが攻略を始めている。
「そうよ。外からの突撃チームも今入った所だから、直ぐには中に入る事ができないから、焦らなくてOKよ」
孤月は移動中もUIを開いて、PTチャットとギルドチャットの切り替えを器用に行いつつ、昴の後をしっかりと突いてきていた。
「っとは言え、早めに到着して体勢整える時間があったほうが気持ち的に楽だしな」
「だな」
プリーストのラム酒の言葉にいっくんも頷く。
休みなしで地下へ突入するのは避けたかった。
「それに、城内だといつ敵に襲われるかわかったもんじゃないしな」
地下に突入する前に、支援スキルを掛けておきたいラム酒。周囲をモンスターで囲まれていたりしたら、落ち着いてスキル掛けもできない。
「地下への出入り口は、先行した部隊が安全確保してくれているから大丈夫よ」
孤月が皆の不安を見透かしたように、不安を解消するべく口を開いた。
「あ〜、それ助かる。作戦成功させた後、外に出ようとしたら後ろからやってきたモンスターに囲まれました〜とかなったらシャレにならないわ」
ニャモが素直な感想を洩らす。思っている事はみな同じだろう。
そうこうするうちに彼らは目的地へと到着した。
地下へと通じる通路の前には、20人近いプレイヤーが待機している。
今の今まで戦闘でも繰り広げていたのだろう。四散したばかりの黒い煙が僅かに見えた。
「っよ! こっちだこっち!」
昴たちから見て先頭に立っていた男が手招きしながら声を掛けてきた。
彼の背後には縦横5Mほどの空洞が広がり、床はスロープ状になった地下入り口が見える。
「これが地下入り口か」
昴は穴を覗き込むように通路の先を見たが、明かりの点らない通路は暗く、いつモンスターが現れるかも解らない様子だった。
「フィールド側から先にちょっかい出してくれたお陰で、今の所はここからモンスターが出てくる気配はないぜ」
昴の不安を感じたのか、近くに居た男が安心させるように声を掛けてきた。
彼らが戦っていたのは元からこの場所にいたモンスターか、城内の巡回モンスターだったのだろう。
「だからって気を抜いて入ると、中にモンスターがいましたビックリしました! なんてマヌケな事になるから気合入れていけよ」
カミーラの横にいた屈強そうな男が、カミーラの肩に肘を乗せてニカっと笑いかけた。
二枚目……というほどではないが、男らしい顔つきをしたプレイヤーだ。
カミーラの「元」を含むギルメンが、カミーラの肩に肘を突いた男へ対して同情の眼差しを向ける。
そしてカミーラ本人は、両手を胸元で握り、腰をくねらせ、うっとりとした表情で男へと詰め寄った。
「あらぁん、心配してくれるのねぇー」
指で男の背中を刺激すると、男は慌てたように後ずさりすると、同じギルドメンバーの背後へと隠れた。
「っげ! 何だこいつ!」
「なんだとは何よぉ。失礼しちゃうわね!」
カミーラと男の漫才が行われる中、孤月がギルドチャットで送られてくる指示を仲間達に伝えた。
「フィールド組が中間地点まで潜入しました! こちらも突入準備に入ってください!」
孤月の掛け声の後は、全員が自らの役目を遂行した。
プリーストとエクソシストは、支援スキルを掛け直す。
彼らの消費したMPは、安全確保のためこの場に留まるメンバーのソーサラーから「ライフソウル」を与えられて回復した。
バードは移動速度を増加させる曲を奏でる。
ウィザードとソーサラーが自身の杖の先に「ライト」のスキルで光源を生み出す。
全ての準備が終わった。
「さぁ! 行こう!!」
昴が先頭になって地下へと下っていった。
装置のある場所までいくと、昴が「奥義」を発動して回復メンバー以外は全員で装置の破壊に取り掛かることになる。
制限時間5分の戦いが、間もなくはじまろうとしていた。




