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2-3 『スキルミスと偵察開始』

 東の砦までの道中、昴らは他PTパーティーと行動を共にした。城塞PTとその周辺偵察PTとは、向かうルートがほぼ同じだというのもあったからだ。

 クリフト、ライトの二人は、街道を歩く間にスキル使用方法を習い、休憩の合間にイメージを固め、野営中に習得に向け訓練を重ねた。

 その結果、二日目の朝には2つ3つのスキルを使えるようにまでなっていた。


「もう2つ3つほどスキルを増やしたら、次は使い物になるようにスキルレベルをあげる方にしたほうがいいな」

「そうですね。ヒーラーとしては今のままだと回復量が少なすぎて……お荷物のままですね」


 クリフトと桃太は職業こそ違うが、同じヒーラーとして意見が合致する。月も攻撃スキルよりも補助スキルを優先させて覚えているところだった。


「純粋にレベル上げの為なら、攻撃スキル優先でも良かったけどね〜。ウィザードが居ればわたしのスキルももっと生かされるんやけど」


 月の職業、吟遊詩人バードには、詠唱速度を速めたりMP自然回復力を高めるスキルもあり、魔法職との相性は良かった。

 しかし、このPTにいる魔法攻撃職はソーサラーの餡コロのみ。ソーサラーの魔法はウィザードに比べると、比較的短い詠唱のスキルが多く、MPに関しては敵から吸い取るスキルもあるので、バードのスキル恩恵はあまり感じられない職業だった。


「餡コロちゃんには、違う方面からの支援が必要かもねぇ」

「あ〜、そうだね……」


 カミーラと月は、腕組みをして溜息交じりに餡コロを見つめた。

 ウエストルの都を出てから偵察部隊は、スキル向上を目的としてモンスターとの戦闘もPT単位で度々行ってきた。

 そこで露見した事が――


「後ろから見てるとさ、餡コロちゃんの魔法……高確率で的を外してるんだけど……」


 ニャモが餡コロには聞こえないよう、一部のメンバーに声を掛けてきた。

 昴にしても気になる点ではあった。戦闘中にも「ちゃんと当たった〜」というような言葉が後ろから聞こえてきては不安な気持ちにもなる。


「や……やっぱりミスってるのか……」


 昴の不安な言葉を助長させるように、アーディンは続けた。


「4〜5割は外しているか。たまに前衛諸君にぶち当たっているが、安心したまえ。この世界の仕様のお陰でダメージは行って無いだろう」


 「意思」によって敵味方の識別ができ、魔法系に関してのみ、この識別によるダメージの有無が存在する。

つまり、誤って魔法が当たっても、術者が味方だと識別している相手であれば、ダメージを受けづに済むということだ。


「ちょ、それ怖いんですけど!」

「そうよねぇ、ぽぉーっとしてる子だから、認識不足であたしたちにダメージ入りましたぁー、っていつなる事やら……」


 全員が溜息を付く。

 元々、ノンターゲティングシステムのゲームだったのもあり、操作に慣れていれば異世界でのリアルな戦闘も、さほど無理なく出来るようになっているのだが、餡コロには敵をターゲットする能力が掛けている節が見受けられた。


「よし、何が問題で外しまくっているのか、昼食休憩のあとで検証してみよう。」

「おっけ〜」

「餡コロちゃん、お昼ご飯のあとはスキルの命中率を上げるお勉強よぉー」

「え? あ、はい!」

「カミーラ上手いな」

「んふふぅー。だってスキルを外してる原因調べるなんて言ったら、傷付くかもしれないじゃない。男ってこういう時デリカシー無く言っちゃうのよねぇ」


 お前も男じゃないのか?とは、誰も口にはしなかった。

 

 こうしてクリフトが中心となって、餡コロのスキル外し検証が行われる事となる。

 一行は急いで食事を済ませると、他PTが休憩をしている間に餡コロのスキル検証に取り掛かった。


「敵がいないから、とりあえず『ライフソウル』でやろう。桃太は『ライフソウル』後に減ったHPを回復してやってくれ」

「わかりました!」


 クリフトが皆に指示を送る間、餡コロは不安そうに杖を握り締めてキョロキョロと様子を伺い、申し訳なさそうに、こう洩らした。


「すみません……私がノーコンなばっかりに……」


 クリフトが指示する手を止めて振り返ると、猫耳も尻尾も、しおれた花のように項垂れた餡コロの姿が目に入る。


「いや、ノーコンとかゲームには関係ないか……あ!?」

「「それだ!」」


 二人のエルフが同時に口を開いた。

 アーディンとクリフトは視線を合わせると、アーディンのほうが「どうぞ」と言うような仕草で、クリフトを促した。


「この世界での戦闘には『意思』が強く影響している。自分がノーコンだと思い込むことで、実際にそうなってしまっているんだろう」

「じゃー、ノーコンだと思い込まなくなればミスは無くなると?」


 クリフトの説明に昴が質問を返す。


「おそらくな」

「いや〜、でもそれって難しいんじゃないの?」

「あぁ、そうだな……」


 ニャモは首を振って、クリフトの回答を悲観した。クリフトとしてもそれが簡単ではない事を理解している。

 既に「ノーコン」状態になっている餡コロに、「ノーコンは関係ないから絶対当たるよ」と言っても、直ぐにミスが無くなるとは思えない。


「フッ、ここはイケメンの出番だな!」


 ここまで黙って聞いていたアーディンが、突然ポーズを決めて口を挟んでくる。いっくんが面白いものを見つけた子供のように笑うと、ぽんっと手を叩いて見せた。


「お? 何か良い案でもあるんっすか?」

「皆の者! 耳の穴かっぷじいて聞くがいい!」

「―ごくり―」


 アーディンの無駄にカッコ付けたポーズが披露されると、凝視した全員が息を呑む音が聞こえてきた。

 視線がアーディンへと集中する。

 間をおいて、焦らしたアーディンが天高く両手を掲げると、「名案」を声高に叫んだ。


「ひたすら練習! ずっと練習!! そして褒めまくって「当たる」と思い込ませる!」


 その場にいた全員、耳を澄まして聞いていた他PTからも冷ややかな視線がアーディンへと注がれた。

 アーディン自体は清々しい表情で、満足気に頷いている。


「…………」

「ま、それしかないか」

「えっと……頑張ります!」


 餡コロが元気よく返事をしたのを合図に、「ひたすら練習」を実行に移す事になり、指示された相手へ『ライフソウル』を使用してMPを付与する練習を繰り返す。

 練習は移動の最中も行われた。プレイヤーに対して使用するスキルであり、詠唱もほとんど無いという利点で、移動中でも練習をすることが可能だった。


 餡コロのノーコン克服へ向けた練習が行われるようになって二日目。

 城塞偵察PTと周辺偵察PTと、この日別れる事になった昴たち一行。

 翌日の昼過ぎには、とうとう砦が視界に入る所まで到着した。


 今回のPTにはモンジが同行しておらず、隠密行動はアサシンのカミーラ単独で行われる事になる。

 まずは全員で気づかれない安全な位置まで移動。外周から見える敵の守りを確認する。


 砦を出入りする者、この場合は魔物になるわけだが、それらの動きも観察する為に、1日ほどは遠目から見るだけの作業だ。


「さて、これ以上は近づけない……な」


 昴らが立ち止まった場所は、砦が見える林の中。砦のすぐ後ろまで続いているが、流石に真後ろまで行けば壁上の監視役に見つかってしまうだろう。

 そう思って、砦からはまだ幾分距離のある地点で歩みを止めた。


「カミーラ、単眼鏡持ってたよな?」

「もちろんよぉ! ちゃーんと買っておいたわよ」


 出発前の買出しでカミーラが単眼鏡を購入しようとしていたのを思い出したいっくんは、振り向いてカミーラへ手を差し出し、それを受け取った。


「では、監視チームと餡コロのスキル練習チームに別れるか」


 年寄りは休憩させて貰うぞといいながら、アーディンはどっかりと腰を下ろし、視線は砦のほうへと向ける。


「「了解ー」」


 監視チームには、アーディンとカミータ。そしていっくんの三人が。他メンバーは自分のスキル向上も兼ねて奥の林へと移動する。

 砦からは500Mは離れただろう場所で、それでも周りに注意し、声は小さめでスキルの練習を行った。




 その日の夜。ここまでは無事に気づかれる事なく偵察を行えていた一行。

 敵に気づかれる恐れのある焚き火は使用できず、火を使う事の出来ない昴らは、日中の間に用意しておいたサンドイッチを僅かな月明かりの下で頬張ると、早めに休む事になった。


 夜中の偵察は夜目の利く獣人アニフィンであるニャモと、獣人ほどではないが薄明かりでも多少は見れるエルフ族のクリフトとアーディン、そして職業柄夜目の利くカミーラが担当することになった。

 初めにニャモとアーディンが、次にクリフトとカミーラという順番で偵察を続けた。

 

 魔物達は基本的に夜の活動のほうが活発なようで、砦から出入りする数も日中に比べると多かった。

 幸い、昴らのいた林のほうへやってくる魔物はおらず、朝までは平穏無事に時は過ぎていった。

 朝までは……


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