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1-12 『初レイド戦-2』

『レイドボス:グランダム・ガウルの討伐に成功しました。これによりウエストル地区の脅威が排除されました』


 レイドボスとの戦場は村の中央だという楓の報告を受けて、昴のPTが現場へと向かう最中、突然視界に黄色い文字で書かれたシステムメッセージが現れた。

 メッセージは全てのプレイヤーの視界に強制的に表示される。


「え? これって?」


 突然のメッセージに驚いた昴らは、何が起きたのかと立ち止まった。慌てて楓がギルドチャットを使い仲間へ情報を求めると、険しかった表情が一変して明るいものになる。


「ギルマスがレイドボスを倒したそうです!」

「はや!」

「よかった……倒せたんだ……よかったよホント」


 ニャモはレイドボスが倒された事に感極まって涙を浮かべた。先ほど見た誰かの遺体。自分の手で直接仇は取れなかったものの、無念ははらせたはずだと願った。


 昴が村の中央に到着した時、レイドボスは影も形もなくなっていた。カイザーらは戦利品の収集も終わらせ、帰り支度に入っているところだった。


「おう! 遅かったな。あんまり遅いから心配したぜ」

「嘘つきでござるな」


 心配しているという割には、戦利品はしっかり回収済みだし帰還準備もしている。モンジは茶化すようにカーザーへとツッコミを入れた。


「すみません、何もお手伝いできなくって……」

「はっはっは、気にするな。それより誘っておいて結局俺達で倒しちまって、こっちこそ悪かったな……どうした?」


 昴の返答にも覇気が感じられなかったが、表情も青ざめた様子なのを見てカイザーが心配そうに声を掛けてきた。


「あ、いえ……なんでも」


 良く見れば昴だけでなく、彼のPTメンバーもほぼ全員が昴と似たような表情になっている。特にアーディン以外の女性陣の顔色はかなり悪い。

 心配したカイザーがさらに言葉をかけるべく口を開いた。


「なんかあったのか? 遠慮しないでい――」


 次の瞬間。

 突然黒い霧を纏った風がカイザーを襲った。


「ぐはぁぁぁぁぁっ」


 突風に煽られたように地面へと叩きつけられたカイザーは、突然の出来事に防御をとる事もできず、まともにダメージを食らってしまった。

 慌ててカイザーの下へ駆け寄る昴の耳に、風が吹いた方向から女性の声が聞こえてきた。


「あらぁ、ダメよ敵に背を向けちゃあ」


 カイザーを嘲笑うかのように言ったのは、昴にとって聞き覚えのある声だった。

 視線を上げると、そこには黒光りする巨大な魔物がいた。数日前、森で出会ったレイドボスである。その傍らには同じ日に出会った彼女の姿もあった。


メイ……さん……」

「んふふ。近いうちにまた会いましょうって言ったでしょ? 昴くん」


 妖艶な笑みを浮かべた命は、片手でレイドボス・グランダム・ガウルの足を優しく撫でると、自身は数歩後退する。


「復活……してるだ……と?」


 先ほど倒したばかりのグランダム・ガウルを憎々しげに見つめたカイザーは、味方の援護で回復を受けるとすぐさま体制を整えた。

 仲間のソーサラーがモンスター情報でグランダム・ガウルを確認する。本物かどうか見極める為だ。ソーサラーは自身のUIに映し出されたグランダム・ガウルの情報を見て驚愕する。


「さっきとは違う!? レベル75になってる!!」


 カイザーらが倒したグランダム・ガウルはレベル53だった。MMOにおいてレベルが10以上も変われば、その強さは格段に違ってくる。先ほどのグランダム・ガウルよりツーランクは上の強さになる。


『クリムゾンナイト』の面々は全員レベル80だ。しかし、異世界で実際に体を動かして戦うのにまだ慣れていないプレイヤーにとって、敵とのレベル差が5しか無いのはかなるの苦戦を強いられる事になる。


「まさか『クリムゾンナイト』が出てくるとは思ってなかったんだもん。貴方たちに合わせて少し強くしてみたの。いいでしょ?」


 グランダム・ガウルへと合図を送るように命は腕を上げる。その腕が振り下ろされるのに合わせて、グランダム・ガウルが特殊スキルを発動させた。


「ギガ・デストラクション」


 真っ赤な目が輝き、4本の腕から発せられた黒光りする球体がそれぞれを黒い稲妻で繋ぐと、その場にいた『クリムゾンナイト』の面々を襲う。


「っっああああああああああああああ!!」


 黒い稲妻に撃たれた彼らが次々に地面へと倒れてゆく。やや離れた距離にいた昴のPTメンバー以外の全員が攻撃の範囲にいたのだ。


「マスターアァァァァァ!?」


 悲痛な叫びとともに駆け出す楓を、昴が慌てて彼女の腕を掴んで静止させた。


「アーディンさん、桃太! カイザーさんたちの回復を!」


 昴の指示が終わるよりも前に、グランダム・ガウルは取り巻きの召喚を行った。出てきたのはグレーターデーモンが50体。


「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 昴は広範囲に渡って敵対値ヘイトを取る事が出来る「雄たけび」のスキルを使用して、ヒーラー二人の安全を確保する。

 一斉に昴へと襲うかかるグレーターデーモンたち。そこへ炎が一直線になって躍り出た。


「雑魚は引き受けるでござるよ!」


 モンジの火遁がグレーターデーモンを焼き払う。続けていっくんが巨大な斧を振り回してグレーターデーモンの群れへと突っ込んだ。


「俺も取り巻きなら5~6体ぐらいなら……たぶん大丈夫だ!」


 二人の援護に感謝しながら、昴は頷き、次にカミーラのほうを見た。


「カミーラはアーディンさんと桃太の護衛を!」

「了解よ」


 カミーラは風のようにグレーターデーモンを交わすと、倒れた面々を起こしている二人のヒーラーの下へと向かった。


「餡コロさんは復活した向こうのヒーラーにMP付与してあげて。ニャモはトラップで少しでも近づく取り巻きを引き止めてくれ!」


 アーディンが戦闘不能状態になっていた『クリムゾンナイト』の回復メンバーを「蘇生」で復活させると、桃太がそこに範囲回復用の「サンクチュアリ」を展開してゆく。

 餡コロが昴の指示に従って、起き上がった彼らに「ライフソウル」でMPを付与していくと、回復した面々がさらに倒れた仲間を「蘇生」して回復を行う。


「こっちも少し本気出してあげなきゃね。『迷子の(つぶて)たちよ、おいで。カオスストライク』」


 命の攻撃が炸裂した。

 天空が真っ赤に染まり、暗黒の塊が礫となって降り注ぐ。

 復活したばかりの者が再び地面へと倒れこむ。幸いな事にダメージそのものは高くはなく、HPが6割ほど回復していた者は戦闘不能を免れた。

 ただし、ひとりを除いて誰もが動けない状態になっている。


 状態異常効果。プレイヤーの行動に障害を与える状態異常には、様々な種類が存在するが、今彼らを苦しめているのは3つの状態異常効果だった。

 プレイヤーの足止めには最も有効な「麻痺」、そしてじわじわとHPを削ってゆく「出血」、最後にスキルの使用を禁止する「沈黙」の3つだ。


「何あの魔法!? ウィザードにあんなスキルは無いわよ!」


 離れた場所に居た為難を逃れた楓が、自分と同じウィザードであるにも関わらず、自らの記憶にあるウィザード魔法スキルには無い魔法を使った命に対し、驚きを隠せないでいる。


「だって、これは私だけのスキルだもん」


 得意げな表情の命は、再び杖を振りかざした。今度は楓を獲物に選ぶと、魔法の射程を補う為に移動を開始する。


「そうか、お前だけのスキルか。それならこっちにもあるぞ。『愚かなる生き物よ、世界の裁きを受けよ! ジャッジメント』」


 命が楓に対して解説している間に、アーディンは素早く状態異常解除魔法である「リカバリー・サークル」を使用すると、支援よりも先に攻撃に転じた。


「あぁん、やだぁ~。アーちんもチート装備貰ってたのね……つまり私と同じ三ヶ月前の冒険者……か」


 予想していなかった攻撃にあった命は、「ジャッジメント」の追加効果である麻痺を受けて身動きが取れなくなってしまった。レイドボス、グランダム・ガウルにも麻痺は同様に効果が現れた。

 本来、ボス属性に状態異常攻撃は通じないのだが、特殊仕様である「ジャッジメント」は全ての属性を無視してダメージや効果が入るようになっていた。


 麻痺の効果は15秒間。この間に『クリムゾンナイト』のメンバーは「蘇生」を行い、戦闘不能を免れた者や復活した者は一旦距離を取ってから各々回復してゆく。


「なんとかボスだけでも俺が……」


 既にグレーターデーモンの半数以上を倒した昴のPTは、盾役の昴が前進してグランダム・ガウルのヘイトを自分へと向ける作戦に出た。

 その時点で復活したグランダム・ガウルへのヘイト値が最も高いのは、攻撃を食らえたアーディンだったが、昴の「挑発」一発で簡単にヘイトは昴へと移る。


 麻痺の効果が切れたグランダム・ガウルが動き出す。命は後ろに下がってじっと昴を見つめていた。


 4本の腕から繰り出される攻撃は全て盾で「ブロック」し、隙をみては「挑発」や「シールドブロック」でヘイトを稼ぐ。幸運なことに、先ほどのスキル攻撃は飛んでこない。 

 変わりにグランダム・ガウルは取り巻きの召喚を行った。追加されたグレーターデーモンは30体。そこへ体制を整えたカイザーらが参戦する。


「グレーターデーモンは摩陀螺とアインで抱えろ! 雑魚は倒さず抱えたままにするんだ。ヒーラーがひとり付け! あとはボスに集中攻撃だ!」


 カイザーの指揮で二人のナイトが、範囲ヘイトスキルを使用してグレーターデーモンをかき集める。少し離れた先にある家屋の壁を背にして「ブロック」の姿勢でグレーターデーモンをやり過ごす。

 グレーターデーモンを倒せば再び召喚されるだけできりが無いのだ。


「『ジャッジメント』のCTが空けたらすぐに二発目入れるからな。その後、私はひとつのスキルだけを詠唱し続けるから、他の支援は任せるからな」


 アーディンは「ジャッジメント」のCTが空ける前にPTメンバーへの支援を掛け直す。最後に持続性の回復魔法も使用した。


「一定時間防御力アップと全ての攻撃が100%会心、攻撃速度と詠唱速度もアップする支援スキルを使う。ただし、持続時間中はまったく身動きが取れなくなる。私が攻撃を食らうと、その時も効果がきれるから、私にグレーターデーモンを寄こすなよ!」


 アーディンが説明を言い終えると、遂に「ジャッジメント」のCTが空けた。


「『愚かなる生き物よ、世界の裁きを受けよ! ジャッジメント』続いて『女神フローリアの涙と聖なる泉。祈りの言葉は全てを具現化させる。黄金の盃に注がれる生命の水よ、我らに奇跡の力を! 聖杯!』」


 ふたつめの長い詠唱が完了すると、アーディンの頭上に神々しい光が舞い降り、両手をかざした彼女の手に黄金の盃が与えられる。

 盃には輝く液体が注がれていた。


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