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プロローグ

*8/8にプロローグから1章まるごと改稿しております。

『助けてください……この世界を……闇の魔王から救ってください……』


 モニターに映る少女が懇願するように呟く。声はイヤホン越しに聞こえてきた。


 パソコンの前に鎮座してモニターを見つめる青年がいる。

 彼は今、MMORPG『ワールド・オブ・フォーチュン』の大型アップデート用のパッチダウンロードを行っていた。


 青年が見つめるモニターの映像がオープニングムービーへと変わる。

 映像に合わせるかのように字幕が流れてゆく。



 

 それはここではない別の世界。

 剣と魔法が織り成す異世界。

 古の大戦によって神々は、僅か二人を残して滅んだ。

 

 生き延びた二人の神のうちのひとり女神フローリアは、先の大戦の最中に傍観者を決めた事を他の神々に恨まれ、彼女が住まう神殿に閉じ込められると結界を張られたことでこの世界に干渉する力を失った。


 神々の大戦から数百年の月日が流れる。


 彼女の住まうこの世界に、突如として闇の軍勢が現れた。

 闇は世界を蝕み、闇を払おうと戦った多くの戦士、魔法使いたちが命を落とす。


 人々は恐怖に支配され、絶望の淵で祈った。自らが助かりたい一心で、女神にではなく別の何かに。


 祈りは届いた。


 祈りは『異世界』からひとりの英雄を召喚した。


 しかし、召喚されたばかりの「英雄」は戦う力を発揮することなく、闇の魔王によって命を奪われてしまった。


 世界は再び闇の脅威に晒されることとなる。

 その光景をじっと見つめることしか出来なかった女神フローリアは、ある方法を試みることにした。



「彼と同じ『世界』から、彼のような人々を……そう……『人々』を召喚すれば……」


 傍らに控える弟神に告げると、女神フローリアはこう続けた。


「フロイ……異世界へ行き、英雄となる者たちを育ててください。彼のように突然こちらの世界へ召喚して、自身の力を使う術も解らないまま戦いの場に連れ出しても、結果は同じこと。そして、英雄は一人ではなく大勢必要です。この世界を救うために、多くの英雄を育てるのです!」


 こうして弟神フロイは彼にとっての異世界、地球へと飛んだ。

 地球の日本という国で弟神フロイは、電脳仮想世界インターネットによるオンラインゲームの存在を知る。




 オープニングムービーが終わる頃、パッチのダウンロードも無事に終了した。しかし、イヤホンから聞こえる声は映像とは関係なく続いていた。


『わたくしはフローリア。女神フローリアです』


 オープニングにも登場した女神フローリアからの呼びかけ。公式サイトのイラストでは、7歳前後の幼い姿をした美しい少女だ。

 再びモニターには女神フローリアの姿が映しだされる。 


『これから起きる出来事は、夢でもゲームでもございません』


 青年はパソコン前に鎮座したまま、モニターに流れる映像を見つめていた。


『みなさま、勝手な事をしてしまい申し訳ありません……闇の魔王を倒す事ができれば無事に元の世界にお戻しいたします』


 モニター内の少女が祈るように両手を合わせる。その手が再び開いた時、モニターから「LOGIN」の文字が浮かび上がり、同時に光が溢れ出す。


「え? まさか自動ログインじゃねーよな!?」


 突然モニターに映し出された「LOGIN」の文字に慌てた青年が、横に置かれていたヘッドギアを急いで装着した。ヘッドギアのスイッチに触れた瞬間、抗う事のできない眠りへと誘われ、そこで青年の意識は途絶えた。


 再び彼の瞳が開かれた時、目の前にはパソコン画面ではなく「景色」が広がっていた。


 そこはMMORPG『ワールド・オブ・フォーチュン』の世界であり、リアルな世界観を追求したネットワーク技術によって作りだされたヴァーチャルリアリティの世界。

 少なくとも青年はそう思っていただろう。


「これがVR化ってやつかー」


 いまやゲーム内のキャラクターと化した青年は、目の前に広がる光景を目にして呟く。現実との区別が付かないほど精密に描かれた建物。草木の葉の1枚1枚がはっきりと見える。


 大勢のプレイヤーたちが、青年と同じようにキャラクターとしてこの世界に続々とログインしてくる。


 青年はリアルに作り出されたゲームの世界を前に胸を躍らせるが、仲間達と合流する為に歩き出す。

 見上げた空よりもやや深めの青い髪を風に揺らし、髪よりも明るめの青い瞳は仲間を探す為に周囲を巡らせる。


 UIユーザーインターフェイスを開き、視界に映る人々の頭上に、それぞれのキャラクター名が表示されるように設定する。

 こうでもしなければ目的の人物を外見だけで見つけ出すのは難しいと判断したからだ。


 暫く歩いていると、人ごみに紛れて見覚えのあるキャラクター名を見つけた。

 青年がもっとも会いたいと願っていた人物の名前だ。


「ミルキィー!」


 青年は愛しいゲーム内相方の名を呼んだ。

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