忘れ物 中
それは間違いなく汗だった。
暖かい日差しが差し込んでいた。
雨だからって、暖かい格好をしたのが仇になったか。
いや、これは焦りからきた汗だろう。
心臓が高鳴る。
そして、とっくに出ていた結論に情報処理が到達した。
恐らくこれはタイムトラベルだ。
どうしては分からないが。
そんな事より、周りの懐かしい風景に夢中になる。
見慣れた建築物の列。
汗をふき、結論に辿り着いた時から、内心期待していた事を確認するために、電話BOXを出て、近くのコンビニを目指した。
あっという間に着いたそこには、自分が求めていたものがあった。
昔から欲しがっていたものだ。
コンビニを出てから目を集中し、辺りを観察し、何かを探すように見つめていた。
コンビニを出て向かった先は、自分の家があった場所だった。
そこには、やはり自分の家が有り、中から聞き慣れていた声も聞こえる。
だけど、そこで立ち止まり辺りを探し、家の近くで耳を澄ませてみた。
が、生まれたときからずっと聞いていた声が聴こえない。
怪しまれるといけないので、足早に家から離れていった。
少し名残惜しいが、目的を見失わないように。
電話BOXがあった所には、近くに公園が有った。
だが、自分の記憶には無かった。 公園の近くに電話BOXなんて無い筈だった。
おかしいと思ったものの、記憶の入れ違いか、「空白の日」に電話BOXが無くなったのか。
公園も少しだけ変わっていた。気がする。
公園に入り、見渡したが、誰も居なかった。
公園の時計は12:30を指していた。
公園の近くには坂があった。
そして、その坂を登った先には学校があった。
久しぶりに学校を覗いてみたくなった。
少し急な坂を登り始めた瞬間、頭に何か語りかけてきたようだった。
目を閉じてみると、何かが見えた。
子供の頃の自分、周りには3人の子供。
何だこれは。
記憶には無い。
いや、これが「空白の日」の記憶なのか?
取り敢えず、急いで坂を登った。
自分が泣いていたからだ。
虐められていたのかもしれない。
知りたい、今日に一体何が起こったのかを全て。
そして、学校に着いた。
息を荒れげて周りを見渡す。
誰も居ない。
また、目を閉じてみる。
子供の自分が泣きながら坂を下っていた。
我慢できずにポロポロ涙をこぼしていた。
目を開け、再び周りを見渡す。
すると、学校の池の近くに何か箱が置いてあった。
無色透明の箱には、何かが沢山詰めこまれていた。
そして、その箱は池の手前ではなく、届かないほど奥にあった。
どうやら、自分の周りにいた3人が箱をあそこに置いたのであろう。
奥まで行くには、池の囲いを渡らなければならなかった。細い囲いを。
そして、情けない事に自分は、怖くて渡れなかったんだろう。
だが、確かに渡るには、勇気が居るだろう。
今の自分でも、少し怖いと思うほど、池の水は深く、そして、不気味に濁っていた。
中には魚や亀などが居るが、こいつらも中々の迫力があった。
だが、箱の中身を確認するためには、物怖じしてられない。
囲いの上に乗り、箱へと近づく。
近づく度に何か違和感を感じた。
あと半分くらいまできた時に違和感の正体に気づいた。
池の水かさが増えていた。
だが、半分まで行って引き返せない。
少しずつ進む。
箱にてが届きそうになった時、後ろから物音が聞こえた。
ボコボコボコ
振り返って見ると、池の水は既に溢れかえっていた。それどころか、何処からと水が湧き上がる音がする。中の水もより濁っている気もする。
おかしい、と学校を見た時には学校の方から水が雪崩れ込んできていた。
学校を覆うほどの巨大な津波がこちらに迫ってきた。
考える暇も無く、箱など無視して、囲いから飛び降り、急いで学校を抜け、坂を下って行った。
まだ水が迫ってくる音がする。
急ぎ、転びそうになるも走る。
そして、坂が段々と平地に近づいてきた辺りから、水の音は止んでいた。
後ろを振り返ると、ただただ何もなく普通の坂だった。
やはり過去には干渉出来ないのか…
安心し息を整えその場に立ち尽くしていると、にわか雨が降ってきた。
そして、段々と今日の記憶全てを思い出した。
そして、涙を流していた。
何も出来なかった事に。
その後、子供の自分は家に帰り、ベットにうずくまり、泣きじゃくっていたらしい。
一方今の自分は、何もすることが無くなってしまった。
恐らく、もう学校には、戻れないだろう。
振り返らず、ゆっくり坂を下る。
ちょうど雨があがっただろう。
公園の前に着いた。
瞬間、ある方向を目一杯に睨みつけた。
あの3人の子供達がいた。
どうしようという気は無かった。
が、頭では分かっていても、我慢できない事もある。
だんだんと怒りが湧き上がる。
そして、走りだした。
全力で子供の方に迫る男性。
どう見ても、警察を呼ばれてもおかしくないだろう。
だが、考えてるだけ、無駄だ。
この怒りを鎮める方が先だ。
子供達もこちらに気づき咄嗟に逃げ出す。
当然こちらが早い。しかし、向こうは3人。
しかも、パニックになり、バラバラに散らばっている。
クソっ
誰を狙うか、考えているうちに、どんどん離れて行く。
逃がすか!
2人居た方向に向かい走る。
1人は見当たらなくなったが、2人は公園を出ていた。
柵を飛び越え、道路に出た。
その時、エンジンがし、立ち止まった。
目の前まで、バイクが寄ってきた。
そんなことより、2人の子供は、既に視界から消えていた。
何処かに隠れたのか。息継ぎをする音がエンジン音にかき消されていく。
一体誰なんだ、こんな邪魔をする奴は。
すると、ヘルメットをとり、こちらを見る。
懐かしい顔があった。
それは、成長した、3人の内の1人だった。
今回は長くなりましあが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
まだ続きます。
ですが、次で最後になると思います。
良ければ、次も読んでください。
それでは。