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2話


そろそろ寝苦しさに悩み始める夏。

クーラーが苦手な私は、夜クーラーをつけっぱなしで寝るとすぐさま喉が痛くなる。

おかしな声で『おはよう』と言う私に驚いた可偉は、大慌てで病院に連れて行こうとした。

本当、すぐに病院に行こうとするの、やめてほしい。


「クーラーがだめだから、夏場の方が体調崩しやすいんだ」


そう言って笑う私を不憫に思ったのか、


「じゃ、今晩から我が家はクーラーなしで睡眠だ」


「は?そんなことしたら、可偉が眠れないよ。

涼しさが睡眠導入剤だってあれほど言ってるのに」


可偉は、気温が上がるとなかなか寝付けないようで、夏場の夜の冷房は欠かせない人なのに、クーラーなしなんて、ありえない。


「睡眠不足で可偉が倒れてしまうよ。……なんなら、別々に……」

「だめだっ」

「何も言ってないじゃない……」


私の言葉にかぶせるように、大きな声が部屋に響いた。

冷たい瞳で私をにらむと



「別々の部屋で寝るなんて、無理だ。絶対に許さない」

「許さないって言っても、お互い体の事を考えたら夏の間は別々で……」

「絶対に、無理。俺が紫の側じゃなきゃ寝られないの知ってるだろ?どんなに暑くても、俺は紫と一緒に寝るから」


もうこれ以上の反論は許さないとでもいうように、可偉はふんっと顔を背けた。

子供かい……。

そんな姿に呆れながら、そこまで私を求めてくれることにほんの少し嬉しさも。

私だって、本当は可偉と離れて寝るのは嫌なんだけど、体調崩す事のほうが心配だもん。

寂しい気持ちくらい、夏の間は我慢する。


「じゃ、こうしよう」


はっとひらめいたのか、可偉はにやりと笑って私を見た。

その意地悪な笑顔に、慣れているけれど一抹の不安は隠せないまま、とりあえず笑顔を返すと。


「ま、一緒に寝るから、これだけは譲らないから」


そう言って、私の腰に手を回して引き寄せて。


「行ってくる」


決して軽くはないキスを私に落とした。






仕事に出かけた可偉の背中を見ながら、結局今晩から私たちの寝床はどうなるんだ?

私は首を傾げるしかできなかった。

結局、簡単な事だった。

その晩意気揚々と帰ってきた可偉は、どこかで買ってきたかわいいピンクの紙袋を私に手渡すと


「今晩からそれ着て寝ろ」


ふふんと自信ありげ。

何が入ってるんだろうと中を見ると。


「うわっパジャマ?」


取り出すと、タオル地のパジャマだった。

ピンク地の生地に、白いハートがちりばめられた模様は『女の子』って主張が激しいかわいらしいもので、いい大人だと自認している私でさえ恥ずかしさも感じるくらいにキュートなパジャマ。

7分丈のワンピースの裾にはレースまであしらってある。

これって……。


「可偉が買ったの?」


恐る恐る聞いてみると、


「は?当たり前だろ?紫に着せるもの、ま、それは脱がせるものだけどな。


俺が買わずして誰が買うんだ?」


と、当たり前のように答えた。

私の着るものはほとんど可偉の趣味によるものだけど、まさかこんなに可愛いものまで可偉は平気で買っちゃうんだ……。

なんだか、あっぱれかも。


「で、これを着て私は寝るの?」

「そうだ」

「クーラーは?」


それが一番の問題点なのに。パジャマ変えたくらいじゃ解決にはならないよ。


「クーラーは、設定温度をほんの少し上げるけど、一緒に寝る」

「でも……」


それじゃ、私ののどは相変わらず痛いままだと思うんだけどな。

クーラーじゃなくて、扇風機くらいでちょうどいいのに。


「やっぱり別々の……」


別の部屋で寝ると言おうとしたら、すぐさま可偉に止められた。


「まあ待て。まだ続きはあるんだ」

「続き?」

「そうだ。いい考えだ」


くすくすと笑う可偉の言葉に、何も言えずに黙ったまま、とりあえず頷いた。

とりあえずは、今晩は可偉の言うようにしてみるか、と小さく笑って見せた。

けれど。

これが間違いだった。

可偉は、自分が買ってきたパジャマを着ている私をぎゅっと抱きしめながら眠りについた。

たとえクーラーで部屋をひんやりとした空気で覆っても、自分が私を包み込んで寝れば、私の体は可偉の体温で寒くないと考えたみたいで、普段よりも強い力で抱きしめながら寝たんだけど。

とりあえず、可偉の体温で温かくなって眠りに入ろうとした私の体を這い出した可偉の手によって安眠は妨げられた。


「悪い、やっぱり脱がせたくなった」

「はあっ?」

「抱かせろ」


私が着ているパジャマはワンピースで、すぐに脱がせられる。

それを見越して用意したのかと思うくらいに手早く私の体からそれを抜き取ると。


「愛してる」


いつもと同じように、目いっぱいの気持ちを注ぎ込むように私を抱きつぶした。

いつもよりかわいらしいパジャマ、それも自分の趣味に沿ったパジャマを着る私の姿に我慢ができなかったらしい。

おかげで私の体は、クーラーの冷風に対抗できるくらいに熱く高められたけれど。

結局、何度も抱かれて、喘ぐ声も我慢できず。

翌朝の私の声はかれていた。


「どうしてくれるのよー」


と必死で出ない声を絞り出す私に、


『でも、体は熱かっただろ?』


可偉は私に無敵の笑顔を向けた。

もう二度と、あのパジャマは着ないっ。

私はのどの痛みをこらえて、そう固く誓った。



【二話 完】


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