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管狐さんとの出会い。

広い和式の部屋。

立派な畳が敷かれ、仄かなイグサの匂いが風流な部屋に、一人の少年がいた。……否、もう青年と言ってもいいぐらいの年頃の男性だ。

髪は黒だ。短く切られてはいるが、くせっけなのか後頭部の髪が一房はねており、どことなくバカっぽさを醸し出していた。目はたれ目がちで、やる気がないのか瞼が閉じかけていて、自分が何故ここにいるのか理解できていないかのようにきょろきょろと左右を見ていた。正座した膝の上に乗せた拳も落ち着かず、開閉を繰り返す。

足がしびれたのか男性は周囲を窺って誰もいないことを確認し、胡坐をかこうとして

空斗(くうと)、はしたないですよ。」

その女性の声に慌てて正座しなおし、

「す……すいません、叔母様……。」

恐る恐る、といった感じで右横の襖から入ってきた女性にそう返した。

時代小説から出てきたような女性だった。役柄的には将軍の母親だろうか?着ている豪奢(ごうしゃ)な着物は時代的にも、空斗のスーツ姿にも合わない。

けれど、女性はそんな事意にも介さない、と言わんばかりに空斗の前の座布団に座り、

「とりあえず、高校卒業おめでとうございます。」

偉そうにそう言った。空斗は苦笑を浮かべ、

「ありがとうございます……。」

儀礼的に返す。正座をし直し、きっちりしているつもりなのだろうが足が無意識に楽な姿勢を探して動いていた。女性はそれをため息交じりに冷ややかな目で見て、

「まぁ……我が舞宮(まいみや)家に続く(みや)家の長男ならばもう少し立派な大学に進んでいただきたかったんですけど。」

愚痴るようにそう言う。

女性はここら辺では有名な舞宮家の主の妻だ。舞宮家は華族の血を継いだ一族で、歴史も古く由緒正しい家柄で、そこから分家した空斗の家……宮家とは格が色々と違うのだが……だからこそ

(僕は何でこんなところに……?)

疑問に思う。この女性は舞宮家から派生したくせに平民の地位にある宮家を快く思っていないはずなのだが……

「そんなことは言ってもしょうがありませんわよね……。どうせ平民なのですから。さて……本題にまりりましょう。」

女性は厭味ったらしくそういって、着物の袂から一つの小さな竹筒を取り出し、偉そうに説明を始めた。

(説明というより……御高説って感じだなぁ……)

空斗はぼんやりとそう思いながらその説明を聞く。

「我が舞宮家では代々頭首に『式神』と呼ばれる妖怪がつきます。それは代々続いてきたことで、神より使わされた妖怪が主を自分で選ぶのですが、」

(何か……ファンタジー小説みたいな話になって来たなぁ……)

後が面倒なので言わないが。

女性の話が続く。

「この妖怪がうちの孫……祐一(ゆういち)ではなくあなたを選んだのです。」

(祐一ってーと……あれだよな?東大に首席で合格したっていう。)

何とも賢いことで、と空斗は内心でつけたし、

(あれ……?なんか変な方向に話が進んでる気が……)

疑問に首を傾げる。女性はその疑問を晴らすように、偉そうに

「故にこの『式神』……管狐をあなたに預けます。」

そう言った。空斗は恭しく|(空斗なりに)受け取りながら

(要らないなー……)

内心で本音を漏らした。


          ――――――――――


自室―――舞宮家とは違って一般的なごくありふれた大きさの部屋だ。そこに戻った空斗はベットに座り、今日もらった(押し付けられたとも言う)竹筒に手をかける。これに管狐とかいう妖怪が入っているという話だが、

(妖怪とかいるわけないよなー。)

空斗は信じていなかった。というより科学で大抵のものが解決する時代に生きていたら妖怪なんて信じれなくなる。

「まぁ、お試しっと。」

空斗は何気なくなんとなくのノリで竹筒を開け……

「ふぅ。人間界(ここ)に来てから呼び出されるまで長かったのー。」

「……へ?」

中から出てきた小さな女の子に目を丸くした。

それは恐らく六歳ほどの少女だ。薄い黄緑の着物をまとったこげ茶の髪の少女は丸い瞳で周囲を見渡し、空斗に気づいてにこやかにほほ笑む。

「こんにちは!」

(元気だなぁ……。)

筒の中から人が出てきた、とかいうあり得ない現実を忘れ、空斗は父性を刺激する少女にほのぼのと返事を返す。

けれど、現実はすぐ叩きつけられた。

「あなたが(みそぎ)のご主人様のくーと?」

ロリコンなら一発で虜にしそうな仕草で首を傾げ、少女―――禊はそんなことを聞いた。空斗は思わずしばらく考え込み、

「主人……?僕が?」

「うんっ!禊、ゆーいちじゃなくてくーとをご主人に選んだのー。聞いてないのー?」

「いやっ……聞いた……けどさ……。」

空斗は戸惑い視線を揺らし、禊の獣耳と尻尾をまじまじと見て、ため息交じりに

「……本当だとは思わなかった。」

「本当なのー。」

禊はそんな空斗の態度に不服そうに頬を膨らませそう言い、まぁいいのー。と切り替え、

「これからよろしくなのー。」

空斗の返事を待たず、そう笑って言った。

楽しそうな禊の様子を見ていやだとは言えず……

そして次の日から、空斗と管狐の日常が幕を開けた。

のんびり投稿していきたいと思います。

感想等よろしくお願いします。

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