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white snow  作者:
Kazuya Saiki (a preface)
9/60

although you killed God,I don't revenge you.

 「明日行くところは戦場だ。気を引き締めておけよ」

 陣内はそう言うと、宿に戻って行ってしまった。マイクは殴られた頭をさすりながら宿に消えた陣内を睨む。

 「昔っから変わらへんな、あいつ。人のこと何だと思っとるんや」

 マイクはそう言うと気を取り直すかのように、壁に立てかけていたギターを手に取った。古ぼけたギターケースがアスファルトの上に置かれている。彼は聞き覚えのある曲を奏でた。優しく、そしてどこか哀しい曲だった。孤独という言葉が一番当てはまるような気がした。

 「『星に願いを』?」

 僕は曲名を口にする。マイクは頷いた。「……今の日本にぴったりの曲だと思わへんか?」

 月が出ていない。外灯だけが唯一の明かりだった。

 孤独。マイクの言うように、今の日本は孤立しているのかもしれない。世界の中心からはじき出された日本。それはまるで鼻を折られたピノキオのようで。

 ピノキオはたった一人、どんな気持ちだったのだろう。

 「大丈夫か? サイキ」

 どれくらい経ったのだろうか。ふいに声をかけられた。

 「ああ、大丈夫だ。………?」

 心配される覚えはないが。そう言うと、マイクはハハっと笑った。

 「ちゃうちゃう、病気のことやないわ。そんなとこで寝とって大丈夫か言いたかったんや」

 ……気付かなかった。なるほど、僕は寝ていたのか。

 「ちなみにどれくらい―――?」

 「ざっと見積もって三十分くらいやな。あまりにも気持ち良さそうに寝とったもんで、起こしたるの可哀相でな、声かけづらかったわ」

 「悪いね。放っておいてくれても良かったのに」

 「放っておいたら、お前さん死んでまうがな。構わへんよ、それくらい」

 『構わへんよ』。その言葉を昔どこかで聞いたことがあるような気がした。僕がそう言うと、マイクは暫く考えて「それ、俺たちが初めて会った時のこととちゃう?」。

 そうだった。思い出した。あれは数年前の夏のことだ。

 数年前。僕はその日、ヤコブのレポートの手伝いをしていた。牢獄の謎かけをし、それをレポートにまとめてみれば? と提案したのだ。『実際に見聞きしたこと』を思い出して言ってみただけなのだが、ヤコブはすぐに飛びついた。

 簡単に説明すると、牢獄の謎とはこうだ。ある探険家が仲間と共に、過去に使用されていた牢獄を観光しに行った。探険家は一人で牢獄の中に入る。仲間は探したが、一向に見つからない。探険家は消えてしまった。―――けれど、これは何の謎でもない。考え方を変えれば分かる話だ。探険家は消えたのでなく、殺された。仲間によって。

 では、どうして僕がこの話を知っているのか。それは、僕がその時その場にいたからだ。もちろん、探険家の仲間ではない。彼を殺してなどいない。はっきり言おう、僕は被害者だった。怪我をする程度で済んだけれど、探険家の仲間は僕をも殺そうとしていたのだ。

 牢獄で起きた事件は、探険家が消える―――いや、殺されただけでは終わらなかった。ここから先は、ヤコブにも話していないことだ。

 ここから先の話は、レポートに記すにはあまりにも残酷過ぎた―――。


 

 

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