although you killed God,I don't revenge you.
「明日行くところは戦場だ。気を引き締めておけよ」
陣内はそう言うと、宿に戻って行ってしまった。マイクは殴られた頭をさすりながら宿に消えた陣内を睨む。
「昔っから変わらへんな、あいつ。人のこと何だと思っとるんや」
マイクはそう言うと気を取り直すかのように、壁に立てかけていたギターを手に取った。古ぼけたギターケースがアスファルトの上に置かれている。彼は聞き覚えのある曲を奏でた。優しく、そしてどこか哀しい曲だった。孤独という言葉が一番当てはまるような気がした。
「『星に願いを』?」
僕は曲名を口にする。マイクは頷いた。「……今の日本にぴったりの曲だと思わへんか?」
月が出ていない。外灯だけが唯一の明かりだった。
孤独。マイクの言うように、今の日本は孤立しているのかもしれない。世界の中心からはじき出された日本。それはまるで鼻を折られたピノキオのようで。
ピノキオはたった一人、どんな気持ちだったのだろう。
「大丈夫か? サイキ」
どれくらい経ったのだろうか。ふいに声をかけられた。
「ああ、大丈夫だ。………?」
心配される覚えはないが。そう言うと、マイクはハハっと笑った。
「ちゃうちゃう、病気のことやないわ。そんなとこで寝とって大丈夫か言いたかったんや」
……気付かなかった。なるほど、僕は寝ていたのか。
「ちなみにどれくらい―――?」
「ざっと見積もって三十分くらいやな。あまりにも気持ち良さそうに寝とったもんで、起こしたるの可哀相でな、声かけづらかったわ」
「悪いね。放っておいてくれても良かったのに」
「放っておいたら、お前さん死んでまうがな。構わへんよ、それくらい」
『構わへんよ』。その言葉を昔どこかで聞いたことがあるような気がした。僕がそう言うと、マイクは暫く考えて「それ、俺たちが初めて会った時のこととちゃう?」。
そうだった。思い出した。あれは数年前の夏のことだ。
数年前。僕はその日、ヤコブのレポートの手伝いをしていた。牢獄の謎かけをし、それをレポートにまとめてみれば? と提案したのだ。『実際に見聞きしたこと』を思い出して言ってみただけなのだが、ヤコブはすぐに飛びついた。
簡単に説明すると、牢獄の謎とはこうだ。ある探険家が仲間と共に、過去に使用されていた牢獄を観光しに行った。探険家は一人で牢獄の中に入る。仲間は探したが、一向に見つからない。探険家は消えてしまった。―――けれど、これは何の謎でもない。考え方を変えれば分かる話だ。探険家は消えたのでなく、殺された。仲間によって。
では、どうして僕がこの話を知っているのか。それは、僕がその時その場にいたからだ。もちろん、探険家の仲間ではない。彼を殺してなどいない。はっきり言おう、僕は被害者だった。怪我をする程度で済んだけれど、探険家の仲間は僕をも殺そうとしていたのだ。
牢獄で起きた事件は、探険家が消える―――いや、殺されただけでは終わらなかった。ここから先は、ヤコブにも話していないことだ。
ここから先の話は、レポートに記すにはあまりにも残酷過ぎた―――。




