inherit part2
「くっ……!」
ゼロは苦戦していた。手元に愛用の剣がないばかりか、魔法もロクに使えない。いや、正しくは―――最も恐れていた、無属性能力者だったのだ―――つまりそれは、魔法が使えないことを意味する―――。かつての自分とは違う環境に戸惑う。ここは戦場じゃない、ここは戦うべきところではない。
ギリッと両手を握った。そうか、そういうことだったのか。記憶よりも欲しいもの、それは―――。
「お前、どうやってここに来たんだ」
「まだそれを言うのか?」
頬に剣先が掠る。ツゥ……と血が伝った。ゼロは目の前の男を睨む。
「言え。何としてでも言わせてやる。俺はあの時代に戻りたいんだ!!」
『じゃあな、ゼロ』
全てを奴に託した。
『さよならはナシだぜ』
生まれ変わりの連鎖を知った後となっては、こうするしかなかった。
『また逢おう』
ニック。
子供たちを頼む。
「まったく、とんだ災難だな……」
サクラは順調にビル内を進んでいた。特に敵に襲われることもなく、だ。ここまで何もないとなると、クリスたちが大袈裟なことを言っているようにしか思えない。変わらぬ景色に疲れを覚え、サクラは視界に入った備え付けのソファに腰をかけた。
退屈な毎日。それを覆すような出来事。―――悪くない。サクラはニヤリと笑った。魔法だとか転生だとか、初めはくだらないと思っていたが。
「散々振り回してくれたんだ、楽しませてくれなきゃ割に合わない」
記憶の継承。前世だとか言う女がなぜそれを拒んだのか知らないが、どうせ知らなければならないのなら引き継いでくれれば良かったのにと思う。どうせ、引き継いだところで自分は変わらないのだから。
その時、ふいに空気が揺らいだ。
「―――何だ?」
だが、サクラは動かない。幸い背後は壁だ、後ろから襲われることもないだろう。
「あなたが、私?」
子供だった。金髪の、子供。そう―――ちょうど鈴と同じくらいの。サクラは一瞬押し黙った後、口角を上げた。冷や汗が流れた。
「そうか。お前が、前世の僕か」
一度、水晶を通して見たことがあるその姿にサクラは得体の知れない恐れを抱いた。確かに見た目はただの子供だ。だが、目が違う―――。
「あなたは何も知らなくていいのよ」
淡々とした言葉が紡がれる。
「私と戦わなくていい、ここにいなくていい、何も知らないでいい。それが私の望みなのだから」
「どういうことだ……?」
クリスたちとは違うそれらの言葉に、サクラは訝しんだ。
「人は、人を失いたくないものよ。誰であっても、それは同じ」
「何が言いたい」
「何も知らないまま戦いに臨むというのは無謀なことだと分かるかしら? 聡明なあなたなら、分かるでしょうね。それなら、どうしてここに来たの?」
あなたがしていることは無駄死によ。力がない者がする、愚かなこと。彼女はそう言った。
「戦いは戦いしか生み出さない。いつだったか、誰かに教えてもらったわ。まったくその通りよ。だから、私はあなたに戦ってほしくないの」
「まぁ、そういう願いが影響して、あなたは彼らに非協力的なのだけれど」女はくすりと笑った。
「僕は戦いに来たつもりなどないんだがな」
「巻き込まれれば同じよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなの」
「僕にどうしろって言うんだ」
僕は混乱していた。これ以上、過去の関係者に関わるなと言うなら喜んでその話を飲んでやろう。だが、この女の言っていることは矛盾している。
「僕は矛盾したことが大嫌いなんだ。お前の話は聞けないね」
「……何ですって?」
今まで無表情だった女の顔がピクリと怒りの色を浮かべた。
「人は、人を失いたくないものだとお前は言ったな」
「ええ、そうよ」
「それなら、戦いを避けることはできない。失いたくないと言うだけなら簡単だ。けれど、失いたくないものは自分の手で守らなければいけないだろう? お前は『仲間』がいなくなるのを見ているだけでいろって言うのか、この僕に」
それは僕の信条に反する。
「あいにく、そこまで腐った人間じゃないんでね」
手に意識を集中させる。するとそこに、エネルギーが集束されていく―――。




