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white snow  作者:
Kazuya Saiki (a preface)
6/60

war

 陣内は深いため息をついた。

 「分かった、お前の好きにしろよ」

 けどその前に、と話は続く。

 「まずは服くらい買って行け。本当に死ぬぞ」

 「―――確かに。ごもっともな意見をありがとう」

 斉木は服屋に入った。物価は変わっていないことを知り、少し安堵する。彼はポケットから金を出す。すると、周囲の目が異様な輝きを帯びながらこちらに向けられた。

 「金だ……! カネだぁ……」

 「おい、オレにもカネをくれぇ……!」

 斉木はそれらをなるべく見ないようにしながら店を出た。外で陣内が待っていた。彼はにやりと笑って「どうだ、お前が知っていた世界とは違うだろ。楽しかったか?」と言った。「まあね」と斉木もにやりと返す。

 「それじゃあ行こうか」

 そう言って、斉木は少女の手を取る。

 「おい、そいつも連れていくのか?」

 斉木は理解できないといった様子で「だって、可哀相じゃないか」。陣内は苦虫を潰したかのような顔をした。

 「知っているか? 一人に同情すると他の奴らも助けないといけないんだぜ」

 「分かっているよ。それも」

 鉛色の空。山にいた時よりも戦争の音ははっきりしていた。

 戦争は続く。今日も、明日も、きっと明後日も。









  「交代の時間だ、陣内」

 銃を担いで塹壕に戻ってきたのは鋳浚木いざらきだった。鋳浚木は深く溜息をついて座れそうな場所に腰をかける。彼は全身ぐしょ濡れだった。「普通、雨の日に戦争なんてやるか?」

 「仕方がない、政府の命令なんだ。―――戦争は何も生み出さない」

 「いきなり何を言い出すんだ。政府を嫌っている奴がよ」

 鋳浚木は怪訝な表情を陣内に向ける。

 「親友の口癖だよ。もっとも、奴も昔誰かにそれを教えてもらったそうだけどね」

 「はん、めでたい奴らだな。戦争は何も生み出さない、だって? 死んでいった仲間に聞かせてやりたいぜ。もし生き返ったとしたら、奴らきっとこう言うぜ。世の中はそんなに甘くないってな」

 陣内は彼の言葉を背中越しに受け止めながら、立てかけておいた銃を担ぐ。

 世の中はそんなに甘くない、まさにその通りだ。





 「お前本当に凄いな」





 後半地区兵に狙いを定めた陣内が、隣にいる斉木に声をかけた。

 この国はいくつもの地区で分けられている。地区番号は0から9999まである。0地区は政府の人間が住んでいる。彼らは戦うことをしない。これはあくまで噂だが、この戦争は政府が引き起こしたのではないかと言われている。色々言いたいことはあるだろうが、これは議論していても仕方がないことだ。

 1から5000地区までの兵士は前半地区兵と呼ばれ、5001から9999までの兵士が後半地区兵と呼ばれる。つまり、一国に住む僕らは前半地区と後半地区に分かれて戦争をしているわけだ。

 「凄いって、何が?」

 僕と陣内はほぼ同時に引き金を引いた。僕の弾丸は後半地区兵に当たったが、彼が放った弾はどこかへ流れていってしまった。

 「銃の腕前だよ。お前がどうして馬鹿な後半地区兵どもと銃剣を突き合わせているのか分からない。お前なら少佐にも中佐にも何だってなれたはずだ。病人ということが惜しいところだな」

 病院を抜け出した僕にはもちろん、赤紙が届いた。

 「いいんだよ。僕は責任が大きい仕事はしたくない」 

 「そう思えるお前が羨ましいよ」陣内は吐き捨てるように言った。

 「ああ、早く帰りたい。そうしたら、残してきた妻と子供にクリスマスプレゼントをやれるのにな」

 「妻? 子供? ―――結婚してたの?」

 驚く僕に、陣内はにやりと笑って「比喩表現だよ。妻ってのは、俺の恋人。子供はあそこに残してきたガキのことさ」。

 陣内は叶わない夢を語る。

 僕は唐突にあることを思い出した。

 「知っているかい。十二月二十五日はイエス・キリストの本当の誕生日じゃないんだぜ。十二月二十五日ってのは、人間が勝手に決めた休日さ」

 「え? 何だって?」

 機関銃の音が鳴り響く。味方が放ったものか、敵が放ったものかは分からない。

 人間の都合なんて関係ないと言わんばかりに雨は降り続いていた―――。


 

 

 

 

 


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