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white snow  作者:
you were laughing up your sleeve at me.
56/60

a fragment part2


 「だーっ、つっまんねー!!」

 鈴はひたすらビルの中を駆けていた。そもそも、隠れ場所が多すぎるこのビルの中からたった七人の人間を探しだすことが困難なのだ。

 それにしても。

 「ったく、サクラの言う通りだぜ。ホント趣味悪いよなぁ……」

 真っ赤に染まった壁、床。数々の死体こそ無いが、引き倒された机や椅子が足場を悪くしている。

 何もかもがあの時と同じで。

 「大丈夫かな、あいつ」

 きっとこのビルは、彼にとって忘れてしまいたい場所の一つに違いない。頭の回転はおせじにも速いと言えないが、それくらいのことは分かる。

 何かが疼いた。ぎゅっと手を握り締める。

 「俺は、俺だ」

 声に出して言ってみる。

 「スズじゃない」

 すると、思いのほか自信を持てた。

 玲のことを思い出そうとすると、必ず自分ではない自分が出てくる。壊してしまえば手っ取り早いのに、なぜそうしないんだと闇の底から囁いてくる。

 それじゃ駄目なんだ。

 そんなことをしたところで何一つ結果は良くならないことをリンは知っていた。だから。

 次は守ってみせる。自分の力で―――。

 その時、物音がした。

 「やっと出てきたな!」

 鈴は嬉々として音がした方を振り返る。そこにいたのは―――。

 「何だよコレっ……! どうなってんだよ?!」

 『それ』はニヤリと笑った。

 「どうもこうもないだろ。俺はリンだ。さっさと始めよーぜ!」

 不敵に笑う『それ』は金糸の髪に、青い瞳。どう見ても今の鈴の背格好とは違う。あれは、前世かつての俺だ―――。









 「何の冗談だい? これは」

 冷ややかな笑みを浮かべるクリス。彼が対峙しているのは、彼自身クリスだ。

 「きみにしては、冴えないことを言うね」

 クリスよりも身長の高いその男は、同じく冷ややかな笑みを浮かべて蔑むように言った。

 忘れることを許さない、この場所で。

 「まさか僕自身に遭うはめになるとはね……」

 フローラが厄介だと言っていたのはこういうことだったのかと痛感させられる。確かに敵は幻術に長けているらしい。

 ―――だが。

 「あいにく、自虐的行動は飽きてきたんだよね。悪いけど一気にカタをつけさせてもらうよ」

 「その鎌で僕を倒そうって言うのかい? こう言っちゃあなんだけど、今の君と僕には大きな違いがあるってことに気づかない?」

 「僕と、お前に……?」

 クリスは訝しげに眉を顰める。男は余裕綽々の笑みを浮かべていた。

 「力、体力、スピード、魔力。全てにおいて君より僕の方が上だということ。……悪いけど、今の君に僕を倒せるとは思えないね」

 暗い輝きを見せる瞳。

 僕って、あんなんだったっけ?

 クリスは鎌を持ち直し、体勢を整えた。

 ただ動き回るだけでは無駄な体力を使うだけだ。考えなければならない。僕ならどう動くか。普段どうしていたか。

 「悠長に考えている場合かな?」

 背後に男の姿―――。

 「クソっ!」

 金属音が響く。二回、三回、四回……。だが、押されているのは常にクリスだ。攻撃を防ぐのに精一杯で、とてもじゃないが相手を倒せそうにない。

 力が弱い、体力が持たない、移動が遅すぎる!!!! 

 考えるんだ。僕はどうやって―――。

 「だから、考えるだけ無駄だって言ってるだろう?」

 振り上げた鎌が弾き返される。

 考えろ、考えれば……―――そうか!

 クリスはふいに立ち止まった。それにつられて男も動きを止める。

 「もう降参かい? あっけないね」

 男はやれやれと言ったように肩を竦めた。だが、クリスが不敵な笑みを浮かべたことによって、男の形の良い眉は顰められる。

 その瞬間、男の左肩に白刃が振り下ろされた。

 「なっ……?!」

 男は一歩退き、肩を押さえる。

 「まだだよ!」

 クリスは闇雲と言っても過言ではないほど攻撃を繰り返していた。

 「君、馬鹿じゃないの? そんな風に攻撃していたら……すぐに持たなくなるよっ!」

 だが、男の口調は切羽詰まったものに変わっている。やはり、思った通りだ。

 「馬鹿にするな。あんたは所詮、過去の僕だ」

 クリスは男の背後に回り込み、首を狩り取った。頭部を失った身体は重力に従って倒れ、切り離された頭部は地面にゴロゴロ転がった。男は驚愕の色を浮かべたまま絶命していた。

 「考えて行動するのが駄目なら、考えなければいい。あんたの敗因はそこにあるんだ―――」

 そして、この表情カオを忘れてはいけないと僕は思った―――。

 








 「大丈夫かなぁ、他の奴ら」

 ヒバリは服の汚れを払いながら仲間の安否を心配していた。目の前には、見知らぬ女の残骸。

 「こいつ、何が目的だったんだろーな。意味分かんねえことばっか喋ってたし、俺が何者かとか訊いてきてさ」

 だけどどこか懐かしい。分からないけど、俺はもしかしてこいつを知っていた……? 

 「まあ、どうでもいいか。そんなの」

 知っていようが知らなかろうが、そんなのどうでもいい。ヒバリは何よりも『今』を大切にしているのだから。

 その時、『声』が聞こえた。

 「あー、分かった分かった。悪かったって言ってるだろ? 俺も忙しいんだよ」

 虚空に向かって面倒くさそうに言うヒバリ。

 「……しょうがねぇな、そっちに行ってやるよ」

 苦笑と共に、ヒバリはその場から消えた―――。


 

 

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